2012-10-16 (Tue)
*リクエスト企画 lean様
静雄×臨也
静雄が臨也を監禁する話 切なめ→甘め和姦 微ヤンデレな二人
ラストです
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「おい顔あげろ」
「ん?え…っ…んぅ!?ふっ、ぁ…っ、シズ、ちゃ…んぅ!」
言われた通りに顔をあげた途端に激しく口づけられて、さっきのキスは手加減されていたことを知る。荒々しく舌を突き入れて口内を蹂躙し始めたので、自分から舌を絡めた。
互いの息がかかりくすぐったくて目を細める。背中に腕を回して首の後ろを掴むと、さっきまでより密着してローションで濡れたそこに性器が押しつけられた。
怖い、と思う気持ちはもうない。監禁された直後に性行為を拒んで、どうしてもっと早くシズちゃんの気持ちに気づけなかったのだろうかと後悔した。だから恐れたりはしないと息を吐いて力を抜く。
「…ざ、や」
「っ、あ…ぁ、きて…入れていい、から…んっ、うぅ、ふぁあぁあ!?」
掠れた声が耳元で聞こえた直後に熱い塊が強引に捻じ込まれる。先端から少しずつ挿入されて、目の端に涙が浮かんだ。震えそうになる唇を噛み、しっかりと縋りつく。
じわじわと性器が奥に押し込まれていって、体の反射で腰が引かれて逃げてしまいそうになる。だけどシズちゃんは俺の腰を掴んで固定させると、勢いをつけて一気に押し込んだ。
「あっ、あぁあ!っ、ぁ…は……はぁ、っん」
「どうだ?大丈夫か?」
「は…だいじょ、ぶ…だから…奥まで、ね?」
「おう」
様子を窺うように顔が近づいてきたので、しっかりと呼吸をした後に途切れ途切れに告げた。こんなものじゃない、もっと最奥まで来て欲しいと。するとすぐさま頷いて、行為を続ける。
ぎゅっと目を瞑って耐えていると、ローションのぬめりを借りてどんどん飲みこまれていった。不意に下を向くと、自身が硬くなり小刻みに震えていたのだ。興奮している、と思うと胸が熱くなった。
「んっ、うぅ、あ!はぁ、あっ…・は…全部入った、の?」
「ああ、俺のがしっかり臨也の中に入ってるぞ。わかるだろ?」
「んふぁあっ!?やだぁ、揺らさない、でぇ…なんか、変な感じが、するから」
暫くしてシズちゃんのがすべておさまって、ほっと安堵した。痛みは思ったよりもないし、ゆっくりしてくれたからはじめての恐怖も薄れている。
だけど本番はこれからだと緊張していると、突然そこを擦られて悲鳴があがった。口に言い表せない衝動が体の奥底から一気に湧きあがってきて、一瞬だけ意識が朦朧とした。
これはヤバイかもしれない、と思っているとシズちゃんが寄ってきて、また唇を塞がれた。舌を伸ばし絡め吸い取っていると、急に視界がブレる。
「ふっ、あ!んぅう、っ…ぁ、うぅ…はぁ、あっ、あ、動い、て…っ!?」
「もう我慢できねえ。中に出して、今すぐぐちゃぐちゃにして気持ちよくしてやりてえんだよ。なあ…ッ」
「シズちゃ、ぁ、あ…んあっ、あ…ひっ、う!」
切羽詰まった声が聞こえてきて、ドキンと心臓が跳ねた。俺だってシズちゃんと二人で気持ちよくなりたかったので首を盾に振ると、激しい律動が始まる。
しっかりと抱きかかえられたままガンガンと突かれて、唇が大きく開き喘ぎがひっきりなしに漏れてしまう。羞恥心はあったけれど、そんなのを気にしていられないぐらい揺さぶられた。
「あったけえ、っ…すげえ手前の締めつけてきて、なんか嬉しいな」
「はぁ、あっ…だってえ、っ、なんか、勝手に震えるか、らぁ…あっ、あ!」
「もっとエロいところ見せろ。全部」
はっきりとシズちゃんの口から嬉しい、と言われたので目を見開いて驚いた。面と向かって言われると照れ臭いし、なによりそんなエッチなことを言わなくていいのにと睨みつける。
嬉しくてしょうがないから体だって反応してるんだ、と口で説明しなければわからないのだろうか。なにより責められている側は思考がまとまらない。
もっとマシな言い訳も、咎める言葉も、あえぎ声に飲みこまれていく。先端から透明な粘液を滴らせていて、もう充分だった。
「もう、っ、ぁ…んぁあ、あ、無理ぃ…っは、くるし、っ」
「苦しいって、もしかして出そうなのか?早えな」
「あぁ、あっ、うぅ…しょうがない、っ、だろ!擦れて、ぇ…ふぁ、も…」
抱きかかえられた状態のまま性行為をしているので、俺の性器がシズちゃんの腹に当たり動かれる度に擦れていた。まるで前も後ろも責められているみたいで、達してしまいそうになるのは仕方ないと思う。
早いと言われようが、性欲衝動には勝てない。だからもういいだろ、と視線だけで訴えて。
「ダメだ」
「っ、え!?」
瞬間根元を片手で握られて、あまりのことに目を見張る。酷い、酷すぎる。こんなところで焦らすなんて、と怒りのまま叫んだ。
「や、っ、嫌だ!やだ、やあっ、ねえシズちゃん!」
「落ち着けよ」
「こんなの無理だってえ、っ、あ…やだあっ!!」
「イきてえのか?」
「当たり前だろ、っ…イきたい、出したい、から、手、離して…!」
子供が駄々をこねるみたいに頭を左右に振って、出したいからと訴えた途端にシズちゃんの口元が歪んだ。それに驚いて、言葉に詰まる。
「ああ悪い。イきたい、ってねだる手前が見たかっただけだ」
「……ッ!?」
一瞬で耳までかあっと熱くなり、わなわなと唇が震えた。だけどそんな動揺を既に察知していたのか、下からの突きあげが早くなる。
これまでは手加減していたんだとわかるぐらい、ガツガツと抉られてとうとう瞳から涙がこぼれた。おもわず背中にしがみついて、勢いよく爪を立てる。そうしなければ耐えられそうになかったから。
「あっ、あぁあ!?んぁ、あっ…ひっ、う、あ…シズちゃ、ぁ、あんぁあ!」
「イきたい、って言われただけなのによお、すげえ興奮したぜ」
「ひ、どいっ!はぁ、あっ…んぁあ、っ、うぅ、く…い、っ、ぁ、ああ、はな、しれ、ぇ!」
性器の出し入れが早くなり、腰から下が別の生き物みたいにくねる。だけど相変わらず根元は握られたままだったので、懸命に懇願した。うまく発音できなくて舌を噛みそうになりながら。
するとシズちゃんが不適に笑い、額をコツンとぶつけてきた。互いの息がかかる。
「しょうがねえな、じゃあ一緒にイくぞ、臨也」
「…っ!?」
驚いてビクンと震えた瞬間に、指がゆっくりと離れてすごい勢いで快感が背筋をかけあがる。ぞくぞくと震える感触に口を大きく開き、おもいっきり息を吐きだした。
「ふっ、あ、ぁああぁ!で、るっ…ひっ、ぁ、あああっ、んぁ、はっ、あ、んぁああっ!!」
はじめてとは思えない程背中を後ろに仰け反らせ、激しく射精した。熱い迸りが飛び散るのを感じながら、同時に中にも何かが注がれる。目の端からボロボロ涙を流して、身を任せた。
すると数秒麻痺するような震えは続き、暫く放心状態で息を整える。自分でする時だって、こんなに乱れたことはない。汗で髪が額にはりついていたが、突然シズちゃんの唇が近づいてきてそこに口づけを落とされてしまう。
「はぁ、っ…え?」
「なあ、本当の恋人っていいな」
「なッ…!?」
すぐに離れたのでぼんやりと瞳だけで追っていると、唐突に恥ずかしいことを言われてしまう。心底嬉しそうだったけれど、性行為の直後の言葉ではなかった。
「もう鎖で繋いだりしねえから…このまま一緒に居てくれねえか?」
「ちょ、っと…シズちゃん…っ!」
すぐには意味が解らなくて、まだ朦朧とした頭をフルに動かして理解する。すごいことを告白されたんだと。
「毎日こうやって抱き合いてえ」
「な、なにそれ!そんなにセッ…」
「ば、バカか!違えって、そりゃあエロいこともしてえけど、帰したくねえんだよ。寂しかった、からよお…その」
「なんだよ、はじめからそう言ってくれたらいいのに」
明らかに勘違いするようなことしか言わないので、呆れながらも目だけで睨む。だから誤解とかすれ違いが起こったのだ。もう過ぎたことだけれど。
多分監禁したのだって、何かに影響されて暴走しただけに違いない。結局酷いことをされたわけじゃないので、今更蒸し返して雰囲気がおかしくなるのは嫌だった。
「じゃあはっきり言う」
「うん」
「もう一回していいか?」
「…ッ!最低!!」
シズちゃんの部屋で過ごしていた間に随分と絆されたな、と頭を抱えそうになりながら結果的に頷く。腕はまだ背中に回したままで、頬を肩に擦りつけて照れている顔を隠した。
-------------------------------------------------------------------------
lean様
静雄がケンカ中にアクシデントで気を失った臨也を監禁する話
・エロありの場合は和姦切なめ→甘め
・ふたりとも微ヤンデレ最初から静→←臨
・臨也は逃げようとするけど静雄に阻止され、逃げようとしなければ献身的に尽くしてくれる静雄に心を許してしまう
・一度足枷を外して静雄が逃げてもいいと言うが臨也は逃げずにそこに留まりそこから二人の雰囲気が変わり始めて最終的には想いが通じ合って甘め
リクエスト頂きありがとうございました!
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静雄×臨也
静雄が臨也を監禁する話 切なめ→甘め和姦 微ヤンデレな二人
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「おい顔あげろ」
「ん?え…っ…んぅ!?ふっ、ぁ…っ、シズ、ちゃ…んぅ!」
言われた通りに顔をあげた途端に激しく口づけられて、さっきのキスは手加減されていたことを知る。荒々しく舌を突き入れて口内を蹂躙し始めたので、自分から舌を絡めた。
互いの息がかかりくすぐったくて目を細める。背中に腕を回して首の後ろを掴むと、さっきまでより密着してローションで濡れたそこに性器が押しつけられた。
怖い、と思う気持ちはもうない。監禁された直後に性行為を拒んで、どうしてもっと早くシズちゃんの気持ちに気づけなかったのだろうかと後悔した。だから恐れたりはしないと息を吐いて力を抜く。
「…ざ、や」
「っ、あ…ぁ、きて…入れていい、から…んっ、うぅ、ふぁあぁあ!?」
掠れた声が耳元で聞こえた直後に熱い塊が強引に捻じ込まれる。先端から少しずつ挿入されて、目の端に涙が浮かんだ。震えそうになる唇を噛み、しっかりと縋りつく。
じわじわと性器が奥に押し込まれていって、体の反射で腰が引かれて逃げてしまいそうになる。だけどシズちゃんは俺の腰を掴んで固定させると、勢いをつけて一気に押し込んだ。
「あっ、あぁあ!っ、ぁ…は……はぁ、っん」
「どうだ?大丈夫か?」
「は…だいじょ、ぶ…だから…奥まで、ね?」
「おう」
様子を窺うように顔が近づいてきたので、しっかりと呼吸をした後に途切れ途切れに告げた。こんなものじゃない、もっと最奥まで来て欲しいと。するとすぐさま頷いて、行為を続ける。
ぎゅっと目を瞑って耐えていると、ローションのぬめりを借りてどんどん飲みこまれていった。不意に下を向くと、自身が硬くなり小刻みに震えていたのだ。興奮している、と思うと胸が熱くなった。
「んっ、うぅ、あ!はぁ、あっ…・は…全部入った、の?」
「ああ、俺のがしっかり臨也の中に入ってるぞ。わかるだろ?」
「んふぁあっ!?やだぁ、揺らさない、でぇ…なんか、変な感じが、するから」
暫くしてシズちゃんのがすべておさまって、ほっと安堵した。痛みは思ったよりもないし、ゆっくりしてくれたからはじめての恐怖も薄れている。
だけど本番はこれからだと緊張していると、突然そこを擦られて悲鳴があがった。口に言い表せない衝動が体の奥底から一気に湧きあがってきて、一瞬だけ意識が朦朧とした。
これはヤバイかもしれない、と思っているとシズちゃんが寄ってきて、また唇を塞がれた。舌を伸ばし絡め吸い取っていると、急に視界がブレる。
「ふっ、あ!んぅう、っ…ぁ、うぅ…はぁ、あっ、あ、動い、て…っ!?」
「もう我慢できねえ。中に出して、今すぐぐちゃぐちゃにして気持ちよくしてやりてえんだよ。なあ…ッ」
「シズちゃ、ぁ、あ…んあっ、あ…ひっ、う!」
切羽詰まった声が聞こえてきて、ドキンと心臓が跳ねた。俺だってシズちゃんと二人で気持ちよくなりたかったので首を盾に振ると、激しい律動が始まる。
しっかりと抱きかかえられたままガンガンと突かれて、唇が大きく開き喘ぎがひっきりなしに漏れてしまう。羞恥心はあったけれど、そんなのを気にしていられないぐらい揺さぶられた。
「あったけえ、っ…すげえ手前の締めつけてきて、なんか嬉しいな」
「はぁ、あっ…だってえ、っ、なんか、勝手に震えるか、らぁ…あっ、あ!」
「もっとエロいところ見せろ。全部」
はっきりとシズちゃんの口から嬉しい、と言われたので目を見開いて驚いた。面と向かって言われると照れ臭いし、なによりそんなエッチなことを言わなくていいのにと睨みつける。
嬉しくてしょうがないから体だって反応してるんだ、と口で説明しなければわからないのだろうか。なにより責められている側は思考がまとまらない。
もっとマシな言い訳も、咎める言葉も、あえぎ声に飲みこまれていく。先端から透明な粘液を滴らせていて、もう充分だった。
「もう、っ、ぁ…んぁあ、あ、無理ぃ…っは、くるし、っ」
「苦しいって、もしかして出そうなのか?早えな」
「あぁ、あっ、うぅ…しょうがない、っ、だろ!擦れて、ぇ…ふぁ、も…」
抱きかかえられた状態のまま性行為をしているので、俺の性器がシズちゃんの腹に当たり動かれる度に擦れていた。まるで前も後ろも責められているみたいで、達してしまいそうになるのは仕方ないと思う。
早いと言われようが、性欲衝動には勝てない。だからもういいだろ、と視線だけで訴えて。
「ダメだ」
「っ、え!?」
瞬間根元を片手で握られて、あまりのことに目を見張る。酷い、酷すぎる。こんなところで焦らすなんて、と怒りのまま叫んだ。
「や、っ、嫌だ!やだ、やあっ、ねえシズちゃん!」
「落ち着けよ」
「こんなの無理だってえ、っ、あ…やだあっ!!」
「イきてえのか?」
「当たり前だろ、っ…イきたい、出したい、から、手、離して…!」
子供が駄々をこねるみたいに頭を左右に振って、出したいからと訴えた途端にシズちゃんの口元が歪んだ。それに驚いて、言葉に詰まる。
「ああ悪い。イきたい、ってねだる手前が見たかっただけだ」
「……ッ!?」
一瞬で耳までかあっと熱くなり、わなわなと唇が震えた。だけどそんな動揺を既に察知していたのか、下からの突きあげが早くなる。
これまでは手加減していたんだとわかるぐらい、ガツガツと抉られてとうとう瞳から涙がこぼれた。おもわず背中にしがみついて、勢いよく爪を立てる。そうしなければ耐えられそうになかったから。
「あっ、あぁあ!?んぁ、あっ…ひっ、う、あ…シズちゃ、ぁ、あんぁあ!」
「イきたい、って言われただけなのによお、すげえ興奮したぜ」
「ひ、どいっ!はぁ、あっ…んぁあ、っ、うぅ、く…い、っ、ぁ、ああ、はな、しれ、ぇ!」
性器の出し入れが早くなり、腰から下が別の生き物みたいにくねる。だけど相変わらず根元は握られたままだったので、懸命に懇願した。うまく発音できなくて舌を噛みそうになりながら。
するとシズちゃんが不適に笑い、額をコツンとぶつけてきた。互いの息がかかる。
「しょうがねえな、じゃあ一緒にイくぞ、臨也」
「…っ!?」
驚いてビクンと震えた瞬間に、指がゆっくりと離れてすごい勢いで快感が背筋をかけあがる。ぞくぞくと震える感触に口を大きく開き、おもいっきり息を吐きだした。
「ふっ、あ、ぁああぁ!で、るっ…ひっ、ぁ、あああっ、んぁ、はっ、あ、んぁああっ!!」
はじめてとは思えない程背中を後ろに仰け反らせ、激しく射精した。熱い迸りが飛び散るのを感じながら、同時に中にも何かが注がれる。目の端からボロボロ涙を流して、身を任せた。
すると数秒麻痺するような震えは続き、暫く放心状態で息を整える。自分でする時だって、こんなに乱れたことはない。汗で髪が額にはりついていたが、突然シズちゃんの唇が近づいてきてそこに口づけを落とされてしまう。
「はぁ、っ…え?」
「なあ、本当の恋人っていいな」
「なッ…!?」
すぐに離れたのでぼんやりと瞳だけで追っていると、唐突に恥ずかしいことを言われてしまう。心底嬉しそうだったけれど、性行為の直後の言葉ではなかった。
「もう鎖で繋いだりしねえから…このまま一緒に居てくれねえか?」
「ちょ、っと…シズちゃん…っ!」
すぐには意味が解らなくて、まだ朦朧とした頭をフルに動かして理解する。すごいことを告白されたんだと。
「毎日こうやって抱き合いてえ」
「な、なにそれ!そんなにセッ…」
「ば、バカか!違えって、そりゃあエロいこともしてえけど、帰したくねえんだよ。寂しかった、からよお…その」
「なんだよ、はじめからそう言ってくれたらいいのに」
明らかに勘違いするようなことしか言わないので、呆れながらも目だけで睨む。だから誤解とかすれ違いが起こったのだ。もう過ぎたことだけれど。
多分監禁したのだって、何かに影響されて暴走しただけに違いない。結局酷いことをされたわけじゃないので、今更蒸し返して雰囲気がおかしくなるのは嫌だった。
「じゃあはっきり言う」
「うん」
「もう一回していいか?」
「…ッ!最低!!」
シズちゃんの部屋で過ごしていた間に随分と絆されたな、と頭を抱えそうになりながら結果的に頷く。腕はまだ背中に回したままで、頬を肩に擦りつけて照れている顔を隠した。
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静雄がケンカ中にアクシデントで気を失った臨也を監禁する話
・エロありの場合は和姦切なめ→甘め
・ふたりとも微ヤンデレ最初から静→←臨
・臨也は逃げようとするけど静雄に阻止され、逃げようとしなければ献身的に尽くしてくれる静雄に心を許してしまう
・一度足枷を外して静雄が逃げてもいいと言うが臨也は逃げずにそこに留まりそこから二人の雰囲気が変わり始めて最終的には想いが通じ合って甘め
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2012-09-21 (Fri)
静雄×臨也
恋人同士だった二人が告白前に戻り友達としてやり直す話
※途中で臨也が死んでしまう描写がありますがハッピーエンドです
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「またこんな形で来るとはね…」
次の日俺はシズちゃんの家にやって来た。それは前に忘れていった携帯とコートを取りに来る為だ。一月二十八日で誕生日当日だったけれど、今晩はここに誰も帰ってくることはない。
思い出すのは前にシズちゃんが居なくなってこの世界に来る直前に訪れたことだ。あの時は絶望した気持ちでいたけれど、今も似たようなものだろう。
せっかく俺も追いかけてやって来たというのに、また一人きりの場所に戻りたいと思っているのだから。二人で過ごした時間が長いので辛さは大きく感じてしまう。
「俺がいなくなったら、どんな顔するのかな。少しは心配してくれたり…」
呟いてみたけれど虚しいだけだった。きっと優しいから心配したり俺の事を探してくれるかもしれない。だけど一番ではない。
しかもただの友達としてだから、望んだものとは異なっている。強引にキスされて襲われそうになって悲しい気持ちになるぐらいなら、そんな関係いらなかった。
「どうしようかな」
ポケットから取り出したのは簡単に包装された箱だ。中身はライターでシズちゃんへの誕生日プレゼントとしてここに来る前に用意した。でも置いていくかどうか迷っている。
こんなもの残していても未練がましいだけだが、二人で楽しく過ごしたことに感謝していないわけではない。確かに嬉しいと感じることだってたくさんあった。
「まあいいか」
結局ポケットの中に戻してしまう。きっと彼女に見られたら誰からの贈り物だと指摘されるかもしれない。不用意なことはしない方がいいだろうと。
プレゼントなんて柄じゃないし、自分を変えようと努力してきたけどやっぱり違うと思う。無理をしていたことだけは間違いない。
「じゃあね、シズちゃん」
コートと携帯を抱えると部屋の中を一度見まわして、それから外に出る。きちんと鍵を閉めてこれで本当に終わりだ、とため息をついた。
しかし感慨深く考えている暇は無かった。次の瞬間鋭い殺気を階段の下から感じたのだ。ハッとして眺めるとそこには知らない男が立っていた。
「お前が平和島静雄だな?」
「えっ…?」
すぐには何を言われているのかわからなくて首を傾げたが、すぐにコートのポケットを探る。しかし本調子を取り戻していなかった俺はあろうことかナイフを忘れていたのだ。
慌てて手に持っている方のコートを探ろうとしたが、それよりも先に相手がナイフを取り出して構えた。
「答えろよ、平和島」
「そうだよ…俺が平和島静雄だ」
なるべく刺激しないように淡々と言葉を吐いて、近くの手すりを勢いよく飛び越える。そのまま一階まで飛び降りて逃げようと思ったのだ。しかし着地点には予想外にも何台か自転車が止めてあり、勢いよく足から突っ込んでしまう。
「…っ、痛」
体の至る所を打ちつけて痛みが走るがそんなことには構っていられない。こんなことならナイフなんて恐れずに真正面から飛び越した方がよかったと思いながら立ちあがり顔を顰める。
どうやら変に足首を捻って捻挫してしまったらしい。ついていないと舌打ちをしながら平気な顔をして歩き出す。激痛が走るが構ってなんていられないし、こんなのは慣れている。
「待ちやがれ!ぶっ殺してやる!!」
「あははっ、そう…じゃあ捕まえてみれば?」
こんな奴に捕まる気なんてないし、これぐらいの相手躱せると信じていた。足早にアパートの前を通り過ぎてすぐ横の細い路地に入ろうとする。しかしその男の何が癇に障ったのか知らないが、いきなり全速力で追いかけてきたのだ。
一般人でもいざという時に自分の器以上に力を発揮して切れることぐらいよく知っている。背後を窺いながら勢いよく角を曲がって痛む足を前へと進ませる。
「死ねッ!平和島!!」
怒鳴り声が聞こえた瞬間も、俺はそんなつもりなんて全くなかった。だけどここで男から完全に逃げ切ったら次に狙われるのはシズちゃんだろうか、と勝手に頭で考えてしまって次の行動に移すのが遅れてしまう。
その僅かな隙を相手が見逃す筈もなく、勢いのままに突進するように近づいてきてヤバイと察する。避けようと思えばできたし、痛みを伴うけど反撃だって可能だった。
でも体は思ったように動かなかった。心の中に暗い感情が浮かんで、今までのことが走馬灯に駆け巡って最後には。
なにもかも面倒だな、と思ってしまったのだ。
「…っ!?」
「ははっ…やった、やったぞ!」
すぐ傍で男の喜ぶ声が聞こえて左わき腹に激痛が走る。慌てて手で遮ろうとしたが、相手はナイフを引き抜いて狂気じみた表情で笑っていた。そしてあろうことか、もう一度勢いよく大袈裟に突き刺したのだ。
逆らう間もなく少しずれた箇所を貫かれて、ぶわっと汗が噴き出す。痛みに全身の力が抜けて前のめりに倒れそうになったが、そんな俺を支えてまたナイフを抜き刺し、という同じ動作を何度か繰り返した。
「ぐっ、あ!あ…っ、う…!!」
声は出さないようにと堪えていたのに、みっともなく漏れてしまって悔しくなる。お腹の辺りに熱い痛みが広がっていたが目の前が痛みの涙で歪んで見えなくなった。
そして勢いよく背中を傍の壁に叩きつけらるように刺された後に、男はゆっくりとナイフを引き抜いたのでそのままずるずると座りこむ。すぐさま男は凶器を自分の持っていた袋に隠して叫んだ。
「あんた体すげえ強いんだろ?でもこれだけ刺されればもう大丈夫だよな!あばよ」
「…ぅ、く」
なるほどそういうことかと理解した時にはそいつの足は遠ざかっていた。シズちゃんと間違われたせいで、執拗に何度も刺されたらしい。一般人に見えたのに手袋をして目立たないような黒い服装をしていたことから、実は装っていただけなのかもしれないと思った。
普通は人を刺して、その後も同じように繰り返す度胸はないのだから。相手を見くびりすぎていた、と後悔したがすぐに違うなと頭を振る。
避けれるのに避けなかったのは、俺自身の判断だ。
諦めたのだ。生きることを。
一度刺されるぐらいならまあいいか、とよくわからないことを考えたのが原因で。だから全部自業自得だった。
「は…っ、ぅ」
左半身は痛みで動けなかったけど必死に右手でポケットを探り携帯を取り出す。アドレス帳からある相手を押そうとしたが、すぐにメール画面に切り替える。そして震える手で文字を打ち始めた。
助けを呼んでも無理だろうことはわかっていたし、動くうちに残しておかなければいけない大事なことがあったから。きっと気づいてくれるだろうと俺は信じていた。
画面が霞んでよく見えなかったけれど時間をかければ文字を打ちこむのは可能だ。肩で息をしながら懸命に指を動かす。たった数十文字の言葉だったが入力し終わり送信ボタンを押すまでに随分と時間を要した。
送り終わると力が抜けて携帯が地面に転がる。もうその時には目の前が暗くなっていた。
「はぁ、は…」
不思議と死ぬという実感はあまりなかった。怖くないのは多分今の俺には何もないからだと思う。やり残した未練も、会いたい相手も浮かばない。
すごく大事な相手は一人だけいたけれど、絶対に会いたくなんてなかった。惨めだから。
そういえば天使がもう一度人生をやり直すかどうか尋ねに来る、なんて言っていたけれど死にかけているというのに目の前に現れることはなかった。あれは嘘だったのかと笑う。
その時携帯のメールの着信音が聞こえた。出ることはできないので放置するが、さっき送った相手からのものだろう。多分この言葉の意味はどういうことかと尋ねる内容だ。見る必要はなかった。
息苦しさと痛みでぼろぼろと滝のように涙を流していたが、何の感情も沸いていない。名前を叫びながら苦しくて泣いたこともあったのに、まるで遠い昔のように思えた。
いつかはこんな風に危険に晒されることはあるだろうと覚悟していたけれど、多分今日じゃなくても近いうちに似たようなことが起きていたかもしれない。ナイフを持った相手に対峙してシズちゃんのことを考えるぐらい集中していなかったのだから。
もうどうでもいいし目の前から居なくなると決めても、本当に割り切ることなんてできなかったのだ。人間とはそういう弱い生き物で自分もそれにあてはまる。
「っ、はは…」
こんな時にくだらないことを考えるのはやめようと声を出して笑った。でもすぐに激しく咳き込んで喉の奥から掠れた息しか出なくなる。だからゆっくりと瞳を閉じて考えた。
俺が一番幸せだと感じた時の事だ。
『俺はシズちゃんが好きだ!友達なんかじゃなくて、今すぐつきあって欲しい!!』
思い出したのはみっともない告白の瞬間で、でも確かに直前まではその先のことをあれこれ考えて心躍らせていた。だからそこに、起こることのなかった続きを考えて。
『なあよく聞けよ。俺は手前のことが好きだ』
それは始まりの時にシズちゃんから告白された言葉だった。一度も忘れたことはないし、あの時だって同じものが返ってくると信じていたのだ。
本当は違ったけれど、最後なんだから自分の中で嘘の思い出を作りあげても咎められることはないだろう。頭の中でその一言を反芻していると閉じた目の端からこぼれる涙の量が増えたような気がした。
耳元で今度は携帯の電話の方の着信音が響き渡っていたが、徐々に遠くなっていく。思考もうまく働かなくなり必死にシズちゃんの姿だけを考えた。すると痛みが消えるような気がしたから。
だけど最後の最後で俺は一番思い浮かべてはいけない場面を思い出して、体ではなく胸が痛んでしまう。それは、女と会っていた時の後姿だ。俺にとっては本当の最後の姿でもあった。
自然と浮かんだのはどうして好きになってしまったのだろう、という根本的な気持ちだ。好きにならなければ苦しむこともなかった。
シズちゃんに関わってからは俺の人生は劇的に変わっていったけれど、それは本当によかったのだろうかと疑問が沸く。ここまでする必要があったのか、とか余計なことしか考えられなくなる。
結局は綺麗な感情を抱いたまま死ぬなんて俺にはできなかったのだ。人間だから誰かを憎むことはあるし、嫉妬して悔やむ。そして今更になってプレゼントを置いてこなかったことを悲しく思ってしまう。
何かを残せればよかったのに、俺のコートも携帯もプレゼントもここにある。全部届かないんだろうなと自分がやったことなのに寂しく思った。
そこから急速に思考能力が低下して、シズちゃんの姿だけを想像した。優しく笑いかけてくれたのを思い出しながら最後の時を過ごして。
満足しながらこと切れた。
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恋人同士だった二人が告白前に戻り友達としてやり直す話
※途中で臨也が死んでしまう描写がありますがハッピーエンドです
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「またこんな形で来るとはね…」
次の日俺はシズちゃんの家にやって来た。それは前に忘れていった携帯とコートを取りに来る為だ。一月二十八日で誕生日当日だったけれど、今晩はここに誰も帰ってくることはない。
思い出すのは前にシズちゃんが居なくなってこの世界に来る直前に訪れたことだ。あの時は絶望した気持ちでいたけれど、今も似たようなものだろう。
せっかく俺も追いかけてやって来たというのに、また一人きりの場所に戻りたいと思っているのだから。二人で過ごした時間が長いので辛さは大きく感じてしまう。
「俺がいなくなったら、どんな顔するのかな。少しは心配してくれたり…」
呟いてみたけれど虚しいだけだった。きっと優しいから心配したり俺の事を探してくれるかもしれない。だけど一番ではない。
しかもただの友達としてだから、望んだものとは異なっている。強引にキスされて襲われそうになって悲しい気持ちになるぐらいなら、そんな関係いらなかった。
「どうしようかな」
ポケットから取り出したのは簡単に包装された箱だ。中身はライターでシズちゃんへの誕生日プレゼントとしてここに来る前に用意した。でも置いていくかどうか迷っている。
こんなもの残していても未練がましいだけだが、二人で楽しく過ごしたことに感謝していないわけではない。確かに嬉しいと感じることだってたくさんあった。
「まあいいか」
結局ポケットの中に戻してしまう。きっと彼女に見られたら誰からの贈り物だと指摘されるかもしれない。不用意なことはしない方がいいだろうと。
プレゼントなんて柄じゃないし、自分を変えようと努力してきたけどやっぱり違うと思う。無理をしていたことだけは間違いない。
「じゃあね、シズちゃん」
コートと携帯を抱えると部屋の中を一度見まわして、それから外に出る。きちんと鍵を閉めてこれで本当に終わりだ、とため息をついた。
しかし感慨深く考えている暇は無かった。次の瞬間鋭い殺気を階段の下から感じたのだ。ハッとして眺めるとそこには知らない男が立っていた。
「お前が平和島静雄だな?」
「えっ…?」
すぐには何を言われているのかわからなくて首を傾げたが、すぐにコートのポケットを探る。しかし本調子を取り戻していなかった俺はあろうことかナイフを忘れていたのだ。
慌てて手に持っている方のコートを探ろうとしたが、それよりも先に相手がナイフを取り出して構えた。
「答えろよ、平和島」
「そうだよ…俺が平和島静雄だ」
なるべく刺激しないように淡々と言葉を吐いて、近くの手すりを勢いよく飛び越える。そのまま一階まで飛び降りて逃げようと思ったのだ。しかし着地点には予想外にも何台か自転車が止めてあり、勢いよく足から突っ込んでしまう。
「…っ、痛」
体の至る所を打ちつけて痛みが走るがそんなことには構っていられない。こんなことならナイフなんて恐れずに真正面から飛び越した方がよかったと思いながら立ちあがり顔を顰める。
どうやら変に足首を捻って捻挫してしまったらしい。ついていないと舌打ちをしながら平気な顔をして歩き出す。激痛が走るが構ってなんていられないし、こんなのは慣れている。
「待ちやがれ!ぶっ殺してやる!!」
「あははっ、そう…じゃあ捕まえてみれば?」
こんな奴に捕まる気なんてないし、これぐらいの相手躱せると信じていた。足早にアパートの前を通り過ぎてすぐ横の細い路地に入ろうとする。しかしその男の何が癇に障ったのか知らないが、いきなり全速力で追いかけてきたのだ。
一般人でもいざという時に自分の器以上に力を発揮して切れることぐらいよく知っている。背後を窺いながら勢いよく角を曲がって痛む足を前へと進ませる。
「死ねッ!平和島!!」
怒鳴り声が聞こえた瞬間も、俺はそんなつもりなんて全くなかった。だけどここで男から完全に逃げ切ったら次に狙われるのはシズちゃんだろうか、と勝手に頭で考えてしまって次の行動に移すのが遅れてしまう。
その僅かな隙を相手が見逃す筈もなく、勢いのままに突進するように近づいてきてヤバイと察する。避けようと思えばできたし、痛みを伴うけど反撃だって可能だった。
でも体は思ったように動かなかった。心の中に暗い感情が浮かんで、今までのことが走馬灯に駆け巡って最後には。
なにもかも面倒だな、と思ってしまったのだ。
「…っ!?」
「ははっ…やった、やったぞ!」
すぐ傍で男の喜ぶ声が聞こえて左わき腹に激痛が走る。慌てて手で遮ろうとしたが、相手はナイフを引き抜いて狂気じみた表情で笑っていた。そしてあろうことか、もう一度勢いよく大袈裟に突き刺したのだ。
逆らう間もなく少しずれた箇所を貫かれて、ぶわっと汗が噴き出す。痛みに全身の力が抜けて前のめりに倒れそうになったが、そんな俺を支えてまたナイフを抜き刺し、という同じ動作を何度か繰り返した。
「ぐっ、あ!あ…っ、う…!!」
声は出さないようにと堪えていたのに、みっともなく漏れてしまって悔しくなる。お腹の辺りに熱い痛みが広がっていたが目の前が痛みの涙で歪んで見えなくなった。
そして勢いよく背中を傍の壁に叩きつけらるように刺された後に、男はゆっくりとナイフを引き抜いたのでそのままずるずると座りこむ。すぐさま男は凶器を自分の持っていた袋に隠して叫んだ。
「あんた体すげえ強いんだろ?でもこれだけ刺されればもう大丈夫だよな!あばよ」
「…ぅ、く」
なるほどそういうことかと理解した時にはそいつの足は遠ざかっていた。シズちゃんと間違われたせいで、執拗に何度も刺されたらしい。一般人に見えたのに手袋をして目立たないような黒い服装をしていたことから、実は装っていただけなのかもしれないと思った。
普通は人を刺して、その後も同じように繰り返す度胸はないのだから。相手を見くびりすぎていた、と後悔したがすぐに違うなと頭を振る。
避けれるのに避けなかったのは、俺自身の判断だ。
諦めたのだ。生きることを。
一度刺されるぐらいならまあいいか、とよくわからないことを考えたのが原因で。だから全部自業自得だった。
「は…っ、ぅ」
左半身は痛みで動けなかったけど必死に右手でポケットを探り携帯を取り出す。アドレス帳からある相手を押そうとしたが、すぐにメール画面に切り替える。そして震える手で文字を打ち始めた。
助けを呼んでも無理だろうことはわかっていたし、動くうちに残しておかなければいけない大事なことがあったから。きっと気づいてくれるだろうと俺は信じていた。
画面が霞んでよく見えなかったけれど時間をかければ文字を打ちこむのは可能だ。肩で息をしながら懸命に指を動かす。たった数十文字の言葉だったが入力し終わり送信ボタンを押すまでに随分と時間を要した。
送り終わると力が抜けて携帯が地面に転がる。もうその時には目の前が暗くなっていた。
「はぁ、は…」
不思議と死ぬという実感はあまりなかった。怖くないのは多分今の俺には何もないからだと思う。やり残した未練も、会いたい相手も浮かばない。
すごく大事な相手は一人だけいたけれど、絶対に会いたくなんてなかった。惨めだから。
そういえば天使がもう一度人生をやり直すかどうか尋ねに来る、なんて言っていたけれど死にかけているというのに目の前に現れることはなかった。あれは嘘だったのかと笑う。
その時携帯のメールの着信音が聞こえた。出ることはできないので放置するが、さっき送った相手からのものだろう。多分この言葉の意味はどういうことかと尋ねる内容だ。見る必要はなかった。
息苦しさと痛みでぼろぼろと滝のように涙を流していたが、何の感情も沸いていない。名前を叫びながら苦しくて泣いたこともあったのに、まるで遠い昔のように思えた。
いつかはこんな風に危険に晒されることはあるだろうと覚悟していたけれど、多分今日じゃなくても近いうちに似たようなことが起きていたかもしれない。ナイフを持った相手に対峙してシズちゃんのことを考えるぐらい集中していなかったのだから。
もうどうでもいいし目の前から居なくなると決めても、本当に割り切ることなんてできなかったのだ。人間とはそういう弱い生き物で自分もそれにあてはまる。
「っ、はは…」
こんな時にくだらないことを考えるのはやめようと声を出して笑った。でもすぐに激しく咳き込んで喉の奥から掠れた息しか出なくなる。だからゆっくりと瞳を閉じて考えた。
俺が一番幸せだと感じた時の事だ。
『俺はシズちゃんが好きだ!友達なんかじゃなくて、今すぐつきあって欲しい!!』
思い出したのはみっともない告白の瞬間で、でも確かに直前まではその先のことをあれこれ考えて心躍らせていた。だからそこに、起こることのなかった続きを考えて。
『なあよく聞けよ。俺は手前のことが好きだ』
それは始まりの時にシズちゃんから告白された言葉だった。一度も忘れたことはないし、あの時だって同じものが返ってくると信じていたのだ。
本当は違ったけれど、最後なんだから自分の中で嘘の思い出を作りあげても咎められることはないだろう。頭の中でその一言を反芻していると閉じた目の端からこぼれる涙の量が増えたような気がした。
耳元で今度は携帯の電話の方の着信音が響き渡っていたが、徐々に遠くなっていく。思考もうまく働かなくなり必死にシズちゃんの姿だけを考えた。すると痛みが消えるような気がしたから。
だけど最後の最後で俺は一番思い浮かべてはいけない場面を思い出して、体ではなく胸が痛んでしまう。それは、女と会っていた時の後姿だ。俺にとっては本当の最後の姿でもあった。
自然と浮かんだのはどうして好きになってしまったのだろう、という根本的な気持ちだ。好きにならなければ苦しむこともなかった。
シズちゃんに関わってからは俺の人生は劇的に変わっていったけれど、それは本当によかったのだろうかと疑問が沸く。ここまでする必要があったのか、とか余計なことしか考えられなくなる。
結局は綺麗な感情を抱いたまま死ぬなんて俺にはできなかったのだ。人間だから誰かを憎むことはあるし、嫉妬して悔やむ。そして今更になってプレゼントを置いてこなかったことを悲しく思ってしまう。
何かを残せればよかったのに、俺のコートも携帯もプレゼントもここにある。全部届かないんだろうなと自分がやったことなのに寂しく思った。
そこから急速に思考能力が低下して、シズちゃんの姿だけを想像した。優しく笑いかけてくれたのを思い出しながら最後の時を過ごして。
満足しながらこと切れた。
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2012-09-07 (Fri)
*リクエスト企画 lean様
静雄×臨也
静雄が臨也を監禁する話 切なめ→甘め和姦 微ヤンデレな二人
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「ん、っ……」
口づけは一瞬で、瞼を開くと既にシズちゃんの姿は目の前に無かった。そのことに驚いたが、行為をやめたわけではなくエッチな玩具の入った籠を掴んで中身を探っていただけだ。
ローションを手にして振り返ったのを見て、胸が高鳴る。鋭く射抜くように見つめる視線が、早くしたいと興奮しているように感じられたからだ。
「脱がしてやろうか?」
「いやいいよ。それよりも、シズちゃんも脱いで。早く…その……したいから」
「え?」
欲情しているのはシズちゃんだけじゃなかった。俺だって、好きな相手としたいと気持ちが昂ぶるのは当たり前だ。男なのだから、顕著に反応が出てしまう。
手早くズボンだけを下ろしていると、シズちゃんも同じように脱いでいく。焦っているのか、ズボンの生地が裏返り乱雑に投げ捨てられる。
「手前がそんなこと言うとは思わなかったな」
「だってしょうがないだろ。前の時は途中でやめて、俺にだけエッチなことしたの忘れたの?」
「忘れてねえ。よく我慢したなって自分に褒めてやりてえぐらいだ」
ボトルを上下に振り中身を手のひらに乗せてあっため始めて、ようやく俺も腰から下を晒した。照れ臭さや恥ずかしさは当然あるが、目を細めてうつぶせになる。尻を高く掲げて、言った。
「後ろ慣らしてよ。恥ずかしいから、このままで」
「あ…?なに言ってんだ。こっち向いて足開けよ」
「嫌だ、っ…どうせすぐ終わるだろ?」
「……そうかよ」
最後は不満げに言葉を吐き出されたが、俺の言う通りに後孔にローションを塗り始めた。ひやり、としたがすぐに手のひらで広げられてむず痒い感触に襲われる。
二度目だったけれど、やはり慣れない。両手で拳を作り刺激に耐えるが、自身は既に勃ちあがり先走りが床に落ちている。
「…ん、っ…う」
「どうだ、痛くないか?」
「うん、っ」
指の腹で入口付近を数回往復し、時折ぐりぐりと先を押しつけてくる。すると徐々にそこから緊張が解けていって、中にローションを入れる動作を繰り返した。これなら大丈夫そうだと返事をして。
「じゃあどんな体位でしても、いいだろ?」
「えっ?ちょ、っと…うわっ!?」
「顔隠すんじゃねえ、見せろよ」
「な、っ…」
その時突然腰を掴まれて、なぜか勢いよくベッドの上に仰向けで寝転がされる。驚いているうちに足の間に割り入られて、左右に広げられた。素早い動きに対処できず、困惑する。
しかし顔を隠すな、と言われて頬が熱くなった。やっぱり気に入らなかったんだ、と。シズちゃんの視線はしっかりと俺の顔をまじまじと見つめていた。
「だから恥ずかしい、って言って…っ、あ!ねえ待って!」
「別に恥ずかしくてもいいだろ。俺は顔見ねえなんて、許さねえからな」
「そりゃあシズちゃんはいいだろうけど、こっちは…」
「早くしたくねえのか?」
「…っ…クソッ」
あまりにもストレートなことを言われて赤面する。早くしたいと言ったのは確かに俺だったし、我慢してきた分だけお互い辛いのは同じだった。せめて後ろを慣らす間だけは顔を隠して痛い、という願いは却下される。
「もう指入れるぞ」
「…わかったよ…っ…んっ、あ!」
低い声でボソリと言われたので頷こうとしたのだが、後ろに添えられた指はそれよりも早く挿入される。だけど動きはゆっくりで、早く性行為をしたくて焦っている割には気を遣ってくれているのがわかった。
「前よりすんなり入ったな。もしかして自分で弄ってたか?」
「そんなことするわけないだろッ!…ぁ、はぁっ…前は無理矢理だったけど、今日は違うから…だろ」
かなり失礼なことを言われたので怒鳴ったが、確かに一度目よりは指をきちんと受け入れている。気持ちがいいとすら思った。それは多分、今日は互いの気持ちを伝えたった後だからだろう。
意図がわからずに襲われるのと、繋がるという目的でするのとでは全然違った。だから拒絶することなく、前よりは簡単に挿入されたのではと思う。
「そうか。嬉しいから、ってことか?」
「…っ、いちいち聞かなくてもいい…んぁ、っ、は…んぅう、く」
「俺はすげえ嬉しいぞ。手前が、その…ちゃんと喜んでくれてるってわかるのは」
「シズちゃ…ふぁ、あ!やだぁ、っ、そこ…前にも弄って、ぇ…んぁ、っ、あ!!」
本当に嬉しいのか、声が弾んでいて指も合わせて早くなる。そしてかなり奥まで受け入れたところで、ある箇所を中心にぐいぐいと突き始めた。おもわず腰がくねって、喘ぎ声が漏れる。
目の端に涙がじんわりと浮かび、先走りの量も増えていく。指はもう全て挿入されていて、前後に擦り始め振動が伝わってくる。
「ああ、ここ弄ってたらイったよな?覚えてるぜ」
「言わなくて、っ…いいからぁ、あ、もう…んぁっ、あ、は…やめ」
「今度はちゃんと俺ので、ここ弄ってやるからよ」
「へ、っ?んあぁ、あ…っ!?」
当然シズちゃんも覚えていたみたいで、速度があがっていく。ローションのせいでぐちゅぐちゅと淫猥な音をし始めて、恥ずかしいのも忘れてシーツを掴んで耐えた。
背筋を仰け反らせてビクビクと震わせていると、一気に指が引き抜かれる。もう充分だと思ったのかもしれない。
「シズ、ちゃ…?えっ、っと…もうするの?」
「だって手前ここ、すげえじゃねえか。また一人でイかせるわけにはいかねえよ」
「そうだ、けど…あのさ」
「痛かったらすぐやめるし、セックスの仕方だって調べたんだ。どうやって臨也とするとか、どんな顔するんだろうって、ずっと考えてた」
「え?」
「無理矢理連れ込んだのは悪かったと思うが、本当に俺はそればっかり…考えてた」
突然シズちゃんが真剣な表情をして話し始めたので、目を見開いて驚く。多分俺が気を失ってしまい、この部屋に連れて来られて起きるまでの間にあれこれ考えていたのだろう。
今目の前に居る相手とは別人なぐらい強引で、まともに話しができなかったのも頷ける。本当に俺のことが好きで、それしか考えていなかったのだろう。
「俺だって…」
「どうした?」
「卒業アルバムのメッセージを見てから、まだシズちゃんが俺のことを好きでいてくれたら…したいなって思ってたよ。君だけじゃない」
「臨也…」
「大丈夫だ、って言ってくれたら…全部任せるよ。信じる」
シズちゃんの気持ちは痛い程伝わってきたので、俺も言った。思い悩んでいたのは一人じゃないんだよ、と。
すると突然背中の下に手を入れて、強引に上半身を起こされる。そして少し大袈裟なぐらいぎゅっと抱きしめられた。
「わかった。俺に任せろ」
「…うん」
監禁した直後は強引なぐらい迫ってきたのに、それ以降全く無理強いしなくなったのは我に返ったからなのかもしれない。衝動的に俺を閉じこめ襲ったことを、後悔していたのだろう。
だからこそ恋人ごっこをしようという誘いに乗ったり、枷を外し逃げてもいいと言ったのだ。俺も追いつめられていたけれど、無意識にシズちゃんも追いつめていた。
互いに臆病になって、簡単なことを見失っていた。
「先に俺が出ちゃったら、ごめんね。でも何回でもするからさ」
「いや…無理させるつもりは…」
「怖いのは始めだけだと思うから。ねえしたいだろ?」
「手前は…」
自分から体重をかけるように胸に顔を埋めて、言った。照れ臭すぎて俯きながらじゃなければ口にできなかったけれど。
「そんなこと言われたら、我慢できなくなるじゃねえか」
「知ってるよ。君が我慢できない性格ぐらいね」
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静雄×臨也
静雄が臨也を監禁する話 切なめ→甘め和姦 微ヤンデレな二人
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「ん、っ……」
口づけは一瞬で、瞼を開くと既にシズちゃんの姿は目の前に無かった。そのことに驚いたが、行為をやめたわけではなくエッチな玩具の入った籠を掴んで中身を探っていただけだ。
ローションを手にして振り返ったのを見て、胸が高鳴る。鋭く射抜くように見つめる視線が、早くしたいと興奮しているように感じられたからだ。
「脱がしてやろうか?」
「いやいいよ。それよりも、シズちゃんも脱いで。早く…その……したいから」
「え?」
欲情しているのはシズちゃんだけじゃなかった。俺だって、好きな相手としたいと気持ちが昂ぶるのは当たり前だ。男なのだから、顕著に反応が出てしまう。
手早くズボンだけを下ろしていると、シズちゃんも同じように脱いでいく。焦っているのか、ズボンの生地が裏返り乱雑に投げ捨てられる。
「手前がそんなこと言うとは思わなかったな」
「だってしょうがないだろ。前の時は途中でやめて、俺にだけエッチなことしたの忘れたの?」
「忘れてねえ。よく我慢したなって自分に褒めてやりてえぐらいだ」
ボトルを上下に振り中身を手のひらに乗せてあっため始めて、ようやく俺も腰から下を晒した。照れ臭さや恥ずかしさは当然あるが、目を細めてうつぶせになる。尻を高く掲げて、言った。
「後ろ慣らしてよ。恥ずかしいから、このままで」
「あ…?なに言ってんだ。こっち向いて足開けよ」
「嫌だ、っ…どうせすぐ終わるだろ?」
「……そうかよ」
最後は不満げに言葉を吐き出されたが、俺の言う通りに後孔にローションを塗り始めた。ひやり、としたがすぐに手のひらで広げられてむず痒い感触に襲われる。
二度目だったけれど、やはり慣れない。両手で拳を作り刺激に耐えるが、自身は既に勃ちあがり先走りが床に落ちている。
「…ん、っ…う」
「どうだ、痛くないか?」
「うん、っ」
指の腹で入口付近を数回往復し、時折ぐりぐりと先を押しつけてくる。すると徐々にそこから緊張が解けていって、中にローションを入れる動作を繰り返した。これなら大丈夫そうだと返事をして。
「じゃあどんな体位でしても、いいだろ?」
「えっ?ちょ、っと…うわっ!?」
「顔隠すんじゃねえ、見せろよ」
「な、っ…」
その時突然腰を掴まれて、なぜか勢いよくベッドの上に仰向けで寝転がされる。驚いているうちに足の間に割り入られて、左右に広げられた。素早い動きに対処できず、困惑する。
しかし顔を隠すな、と言われて頬が熱くなった。やっぱり気に入らなかったんだ、と。シズちゃんの視線はしっかりと俺の顔をまじまじと見つめていた。
「だから恥ずかしい、って言って…っ、あ!ねえ待って!」
「別に恥ずかしくてもいいだろ。俺は顔見ねえなんて、許さねえからな」
「そりゃあシズちゃんはいいだろうけど、こっちは…」
「早くしたくねえのか?」
「…っ…クソッ」
あまりにもストレートなことを言われて赤面する。早くしたいと言ったのは確かに俺だったし、我慢してきた分だけお互い辛いのは同じだった。せめて後ろを慣らす間だけは顔を隠して痛い、という願いは却下される。
「もう指入れるぞ」
「…わかったよ…っ…んっ、あ!」
低い声でボソリと言われたので頷こうとしたのだが、後ろに添えられた指はそれよりも早く挿入される。だけど動きはゆっくりで、早く性行為をしたくて焦っている割には気を遣ってくれているのがわかった。
「前よりすんなり入ったな。もしかして自分で弄ってたか?」
「そんなことするわけないだろッ!…ぁ、はぁっ…前は無理矢理だったけど、今日は違うから…だろ」
かなり失礼なことを言われたので怒鳴ったが、確かに一度目よりは指をきちんと受け入れている。気持ちがいいとすら思った。それは多分、今日は互いの気持ちを伝えたった後だからだろう。
意図がわからずに襲われるのと、繋がるという目的でするのとでは全然違った。だから拒絶することなく、前よりは簡単に挿入されたのではと思う。
「そうか。嬉しいから、ってことか?」
「…っ、いちいち聞かなくてもいい…んぁ、っ、は…んぅう、く」
「俺はすげえ嬉しいぞ。手前が、その…ちゃんと喜んでくれてるってわかるのは」
「シズちゃ…ふぁ、あ!やだぁ、っ、そこ…前にも弄って、ぇ…んぁ、っ、あ!!」
本当に嬉しいのか、声が弾んでいて指も合わせて早くなる。そしてかなり奥まで受け入れたところで、ある箇所を中心にぐいぐいと突き始めた。おもわず腰がくねって、喘ぎ声が漏れる。
目の端に涙がじんわりと浮かび、先走りの量も増えていく。指はもう全て挿入されていて、前後に擦り始め振動が伝わってくる。
「ああ、ここ弄ってたらイったよな?覚えてるぜ」
「言わなくて、っ…いいからぁ、あ、もう…んぁっ、あ、は…やめ」
「今度はちゃんと俺ので、ここ弄ってやるからよ」
「へ、っ?んあぁ、あ…っ!?」
当然シズちゃんも覚えていたみたいで、速度があがっていく。ローションのせいでぐちゅぐちゅと淫猥な音をし始めて、恥ずかしいのも忘れてシーツを掴んで耐えた。
背筋を仰け反らせてビクビクと震わせていると、一気に指が引き抜かれる。もう充分だと思ったのかもしれない。
「シズ、ちゃ…?えっ、っと…もうするの?」
「だって手前ここ、すげえじゃねえか。また一人でイかせるわけにはいかねえよ」
「そうだ、けど…あのさ」
「痛かったらすぐやめるし、セックスの仕方だって調べたんだ。どうやって臨也とするとか、どんな顔するんだろうって、ずっと考えてた」
「え?」
「無理矢理連れ込んだのは悪かったと思うが、本当に俺はそればっかり…考えてた」
突然シズちゃんが真剣な表情をして話し始めたので、目を見開いて驚く。多分俺が気を失ってしまい、この部屋に連れて来られて起きるまでの間にあれこれ考えていたのだろう。
今目の前に居る相手とは別人なぐらい強引で、まともに話しができなかったのも頷ける。本当に俺のことが好きで、それしか考えていなかったのだろう。
「俺だって…」
「どうした?」
「卒業アルバムのメッセージを見てから、まだシズちゃんが俺のことを好きでいてくれたら…したいなって思ってたよ。君だけじゃない」
「臨也…」
「大丈夫だ、って言ってくれたら…全部任せるよ。信じる」
シズちゃんの気持ちは痛い程伝わってきたので、俺も言った。思い悩んでいたのは一人じゃないんだよ、と。
すると突然背中の下に手を入れて、強引に上半身を起こされる。そして少し大袈裟なぐらいぎゅっと抱きしめられた。
「わかった。俺に任せろ」
「…うん」
監禁した直後は強引なぐらい迫ってきたのに、それ以降全く無理強いしなくなったのは我に返ったからなのかもしれない。衝動的に俺を閉じこめ襲ったことを、後悔していたのだろう。
だからこそ恋人ごっこをしようという誘いに乗ったり、枷を外し逃げてもいいと言ったのだ。俺も追いつめられていたけれど、無意識にシズちゃんも追いつめていた。
互いに臆病になって、簡単なことを見失っていた。
「先に俺が出ちゃったら、ごめんね。でも何回でもするからさ」
「いや…無理させるつもりは…」
「怖いのは始めだけだと思うから。ねえしたいだろ?」
「手前は…」
自分から体重をかけるように胸に顔を埋めて、言った。照れ臭すぎて俯きながらじゃなければ口にできなかったけれど。
「そんなこと言われたら、我慢できなくなるじゃねえか」
「知ってるよ。君が我慢できない性格ぐらいね」
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2012-08-06 (Mon)
幽霊臨也と静雄の話 切ない系
冷たい頬の続き 臨也視点
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名前を呼ばれたらすべて思い出した。だけど俺の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
自分で言っていることも、シズちゃんが俺にしたことも、なにもかもわからない。こんなにも感情を乱すのははじめてだった。
だけど記憶を取り戻したら、言わなければいけないことがあった。そしてそれが未練をすべて断ち切り終わらせることだとわかったから、さっきされたみたいに俺も顔を近づけて。
「臨也」
「…っ、好きだよ俺はシズちゃんのこと、好き…」
ようやく告げる。自分の気持ちを。
言った直後にキスをしてやろう、と思っていた。だけどそこで予想外のことが起きてしまう。
「えっ…んぅ!?」
こっちが動く前にシズちゃんから噛みつくようなキスをされてしまう。しまったと気づいた時には既に遅くて、口内に舌が入れられて慌てて肩を掴んで腕から逃れる。
予想外のことをされたから、じゃない。いきなり体の感触がなくなっていき、全身が薄く透けて見えたからだ。
どうして突然こんなことになったのか。そんなの簡単だ。
もう一度シズちゃんに会って、好きと言う。
死ぬ寸前の未練が叶えられたからだ。とっくにそれ以上のものを貰っていたので、俺は充分に満足していたけれど。
「おい手前!なにし…て…?」
「こっから先はお預けにしておくよ」
苛ついた表情で俺を睨みつけたシズちゃんの顔が、一瞬で変わる。こんなに動揺している姿は見たことが無い、と思うぐらい焦っていた。それも当然だろう。
口ではまた次に会った時の為に、と言ったけれどそんなことはないだろうとわかっている。これは残されたシズちゃんに対する、意地悪だ。
銃で撃たれて間違いなく俺は死んでいる。戻らない。
消えたら体に戻って生き返るなんて、そんな都合のいい事が起きるわけがないのだ。
「どういうことだ?なんでだ…っ」
「俺の未練が叶っちゃったからかな。もう一度シズちゃんに好きって言いたかった…から」
一度は離れたのにシズちゃんはまた俺にしがみつき、詰め寄られた。だから仕方なく、本音を告げる。
これまで長いこと一人きりで片想いをしていたけれど、最後に残った淡い願いを。それはもう叶ったから、いいんだと。
「待てよ、おいまだ話終わってねえだろ…」
「幽霊にまで襲っちゃうなんてびっくりしたけど、楽しかった」
こっちだってまだ伝えきれてないことは多い。だけど無情にも姿は薄れていく。これでいいのかもしれない。
わかっていた。シズちゃんが本気で俺のことなんて好きじゃないことぐらい。
いくら今まで恋心に気づかなかったから、と言われても信じれるわけがないのだ。そんな簡単に頷けるほど、バカじゃない。
もうとっくに心は壊れていた。はじめに嘘をつかれた時から。バカみたいに半年以上も待ち続けて自分を見失うぐらい、俺自身もおかしくなっている。
これ以上一緒に過ごしても、こっちが傷つくだけだ。わかっていたから、嘘をついた。
嘘をつくのが得意でよかったと心から思う。
「だから、なんで消えようとしてんだよ!」
「あれ?俺は生き返るって言ったのはシズちゃんだけど、信じないの?」
本当は何も、誰も、信じていなくて心の中で絶望したまま消えようとしているのを黙っていた。言ったところで、間に合うわけもない。諦めるしかなかった。
目の前のシズちゃんは今にも泣きそうな表情をしていて、目の端に涙を溜めている。そうやって感情を揺さぶって悲しんでくれている姿が見れただけでも、幽霊になった甲斐があったなと思った。
もう少しこんな姿を早く見られたら何かが変わったかもしれないが、遅い。現実は残酷なんだと、俺が居なくなってから後悔するだろう。
そしていつか忘れる。
シズちゃんは俺のことを忘れる。
だから俺も忘れる。
幽霊になった時に記憶がなかったのは、将来の事がわかっていたからかもしれない。
本気で好かれていないのだから、すぐに忘れられる。俺が死んで幽霊になったのを知って好きだと言うなんて、同情以外のなにものでもない。
これはただの、茶番だ。俺にとっては最高の思い出だったけれど、シズちゃんはいつか悔やむ日が来る。そして最低の記憶として、折原臨也を忘れようとするだろう。
そうしてくれると、嬉しい。
「臨也っ…」
「シズちゃん泣いてる」
最後くらいは、と思い笑いながら、瞳から涙をこぼすシズちゃんに指先を伸ばした。
生きているのが感じられる、あたたかい雫だ。それを拭いたかったのに、その前に目の前が真っ白になって意識も何もかも吹き飛んだ。
『臨也が目を覚ましたよ』
そうメールを貰ったので、トムさんに言って仕事を早退して新羅の自宅に向かった。最後に言葉を交わしてから、一週間が過ぎていた。その間随分と悩んだし、不安になったり期待をしたり、色んな感情に独りで振り回されていたのだがそれもようやく終わる。
何もかもぶちまけて、もう一度やり直せると思った。どんなことが起きても、そのつもりだったのだが。
「記憶喪失?」
「そうなんだよ、だから刺激しないで欲しい。それができないなら…って、静雄!?」
玄関先で事情を聞いて、慌てて新羅を押しのけて臨也が眠っている部屋へと向かう。そんなバカなこと、あるわけがないだろうと。
あいつと約束したのだ。二度と俺のことは忘れない、と。ちゃんと戻って来ると。
「臨也ッ!!」
名前を叫びながら扉を開くすると、柔らかい声がした。
「シズちゃん?」
「え…?」
あっさりと俺自身の名前が呼ばれて、驚いてしまうが慌ててベッドの傍に駆け寄った。まだ怪我のせいで動けないみたいだが、血色も良くなっていて安堵する。
記憶喪失なんて嘘だった。もしかして新羅が俺をびっくりさせてやろうよう、と臨也と作戦を立てたのかもしれない。覚えていたじゃないかと喜びながら声を掛ける。
「大丈夫か?」
「良かった、シズちゃん会いたかった」
「お、おう…そうか。俺もだ」
すると弾んだ嬉しそうな声と共に臨也が笑う。前にこいつが幽霊で、消えた時と同じ笑顔だ。
なんだか正直に言われると恥ずかしいな、と照れていると突然衝撃的なことを告げられる。本当にショックだった。
「ごめんね、怪我が治ったらまたデートしようね」
「……あ?」
「ほら、シズちゃんの大好きなイチゴパフェまた食べに連れて行ってよ。楽しみにしてるから」
背筋がぞくりと震えて、嫌な予感がした。臨也の言うことが何一つ理解できない。
『俺はシズちゃんになにかをしてもらうつもりなんてなかった。一人で勝手に君が来るのを想いながら待つのが楽しかったんだ。起こりもしないことを期待しながら死ねて幸せだったのに』
その時浮かんだのは、あいつが前に言っていたことだ。もしかして、と。
ただでさえ動揺していたのに、もっと驚くことをさらっと臨也は告げた。
「あー良かった。俺さあ、実は起きてからシズちゃんのことしか覚えてないみたいなんだよね。まあ自分のことよりも大事だったから、他のことは忘れてもシズちゃんだけは絶対忘れたりしないけどね」
記憶喪失だ、という意味がようやく理解できた。
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名前を呼ばれたらすべて思い出した。だけど俺の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
自分で言っていることも、シズちゃんが俺にしたことも、なにもかもわからない。こんなにも感情を乱すのははじめてだった。
だけど記憶を取り戻したら、言わなければいけないことがあった。そしてそれが未練をすべて断ち切り終わらせることだとわかったから、さっきされたみたいに俺も顔を近づけて。
「臨也」
「…っ、好きだよ俺はシズちゃんのこと、好き…」
ようやく告げる。自分の気持ちを。
言った直後にキスをしてやろう、と思っていた。だけどそこで予想外のことが起きてしまう。
「えっ…んぅ!?」
こっちが動く前にシズちゃんから噛みつくようなキスをされてしまう。しまったと気づいた時には既に遅くて、口内に舌が入れられて慌てて肩を掴んで腕から逃れる。
予想外のことをされたから、じゃない。いきなり体の感触がなくなっていき、全身が薄く透けて見えたからだ。
どうして突然こんなことになったのか。そんなの簡単だ。
もう一度シズちゃんに会って、好きと言う。
死ぬ寸前の未練が叶えられたからだ。とっくにそれ以上のものを貰っていたので、俺は充分に満足していたけれど。
「おい手前!なにし…て…?」
「こっから先はお預けにしておくよ」
苛ついた表情で俺を睨みつけたシズちゃんの顔が、一瞬で変わる。こんなに動揺している姿は見たことが無い、と思うぐらい焦っていた。それも当然だろう。
口ではまた次に会った時の為に、と言ったけれどそんなことはないだろうとわかっている。これは残されたシズちゃんに対する、意地悪だ。
銃で撃たれて間違いなく俺は死んでいる。戻らない。
消えたら体に戻って生き返るなんて、そんな都合のいい事が起きるわけがないのだ。
「どういうことだ?なんでだ…っ」
「俺の未練が叶っちゃったからかな。もう一度シズちゃんに好きって言いたかった…から」
一度は離れたのにシズちゃんはまた俺にしがみつき、詰め寄られた。だから仕方なく、本音を告げる。
これまで長いこと一人きりで片想いをしていたけれど、最後に残った淡い願いを。それはもう叶ったから、いいんだと。
「待てよ、おいまだ話終わってねえだろ…」
「幽霊にまで襲っちゃうなんてびっくりしたけど、楽しかった」
こっちだってまだ伝えきれてないことは多い。だけど無情にも姿は薄れていく。これでいいのかもしれない。
わかっていた。シズちゃんが本気で俺のことなんて好きじゃないことぐらい。
いくら今まで恋心に気づかなかったから、と言われても信じれるわけがないのだ。そんな簡単に頷けるほど、バカじゃない。
もうとっくに心は壊れていた。はじめに嘘をつかれた時から。バカみたいに半年以上も待ち続けて自分を見失うぐらい、俺自身もおかしくなっている。
これ以上一緒に過ごしても、こっちが傷つくだけだ。わかっていたから、嘘をついた。
嘘をつくのが得意でよかったと心から思う。
「だから、なんで消えようとしてんだよ!」
「あれ?俺は生き返るって言ったのはシズちゃんだけど、信じないの?」
本当は何も、誰も、信じていなくて心の中で絶望したまま消えようとしているのを黙っていた。言ったところで、間に合うわけもない。諦めるしかなかった。
目の前のシズちゃんは今にも泣きそうな表情をしていて、目の端に涙を溜めている。そうやって感情を揺さぶって悲しんでくれている姿が見れただけでも、幽霊になった甲斐があったなと思った。
もう少しこんな姿を早く見られたら何かが変わったかもしれないが、遅い。現実は残酷なんだと、俺が居なくなってから後悔するだろう。
そしていつか忘れる。
シズちゃんは俺のことを忘れる。
だから俺も忘れる。
幽霊になった時に記憶がなかったのは、将来の事がわかっていたからかもしれない。
本気で好かれていないのだから、すぐに忘れられる。俺が死んで幽霊になったのを知って好きだと言うなんて、同情以外のなにものでもない。
これはただの、茶番だ。俺にとっては最高の思い出だったけれど、シズちゃんはいつか悔やむ日が来る。そして最低の記憶として、折原臨也を忘れようとするだろう。
そうしてくれると、嬉しい。
「臨也っ…」
「シズちゃん泣いてる」
最後くらいは、と思い笑いながら、瞳から涙をこぼすシズちゃんに指先を伸ばした。
生きているのが感じられる、あたたかい雫だ。それを拭いたかったのに、その前に目の前が真っ白になって意識も何もかも吹き飛んだ。
『臨也が目を覚ましたよ』
そうメールを貰ったので、トムさんに言って仕事を早退して新羅の自宅に向かった。最後に言葉を交わしてから、一週間が過ぎていた。その間随分と悩んだし、不安になったり期待をしたり、色んな感情に独りで振り回されていたのだがそれもようやく終わる。
何もかもぶちまけて、もう一度やり直せると思った。どんなことが起きても、そのつもりだったのだが。
「記憶喪失?」
「そうなんだよ、だから刺激しないで欲しい。それができないなら…って、静雄!?」
玄関先で事情を聞いて、慌てて新羅を押しのけて臨也が眠っている部屋へと向かう。そんなバカなこと、あるわけがないだろうと。
あいつと約束したのだ。二度と俺のことは忘れない、と。ちゃんと戻って来ると。
「臨也ッ!!」
名前を叫びながら扉を開くすると、柔らかい声がした。
「シズちゃん?」
「え…?」
あっさりと俺自身の名前が呼ばれて、驚いてしまうが慌ててベッドの傍に駆け寄った。まだ怪我のせいで動けないみたいだが、血色も良くなっていて安堵する。
記憶喪失なんて嘘だった。もしかして新羅が俺をびっくりさせてやろうよう、と臨也と作戦を立てたのかもしれない。覚えていたじゃないかと喜びながら声を掛ける。
「大丈夫か?」
「良かった、シズちゃん会いたかった」
「お、おう…そうか。俺もだ」
すると弾んだ嬉しそうな声と共に臨也が笑う。前にこいつが幽霊で、消えた時と同じ笑顔だ。
なんだか正直に言われると恥ずかしいな、と照れていると突然衝撃的なことを告げられる。本当にショックだった。
「ごめんね、怪我が治ったらまたデートしようね」
「……あ?」
「ほら、シズちゃんの大好きなイチゴパフェまた食べに連れて行ってよ。楽しみにしてるから」
背筋がぞくりと震えて、嫌な予感がした。臨也の言うことが何一つ理解できない。
『俺はシズちゃんになにかをしてもらうつもりなんてなかった。一人で勝手に君が来るのを想いながら待つのが楽しかったんだ。起こりもしないことを期待しながら死ねて幸せだったのに』
その時浮かんだのは、あいつが前に言っていたことだ。もしかして、と。
ただでさえ動揺していたのに、もっと驚くことをさらっと臨也は告げた。
「あー良かった。俺さあ、実は起きてからシズちゃんのことしか覚えてないみたいなんだよね。まあ自分のことよりも大事だったから、他のことは忘れてもシズちゃんだけは絶対忘れたりしないけどね」
記憶喪失だ、という意味がようやく理解できた。
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2012-08-06 (Mon)
幽霊臨也と静雄の話 切ない系
冷たい頬の続き 臨也視点
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「幽霊でも体痛くなるんだ…?」
やっぱり相当適当なんだな、と思いながら体を起こそうとしたが腹の辺りに絡みつく腕が邪魔だった。しかし眠っているので力を入れて引っ張ると、あっけなく離れてしまう。
上半身を起こしすぐ隣で眠っている男の寝顔を見ると、口を大きく開けていてだらしない。でも幸せそうな表情だ。なんだかむず痒くなって視線を逸らす。
「早く思い出したいな」
生きていた時はどんな関係だったのか。この男に対して何を思っていたのか。それが知りたい。
一体どうやって失った記憶を思い出せばいいのか、と考えながらベッドから降りようとして。とあることに気づいて目を見張った。
「え、っ…?」
まじまじと眺めるけれど、何度見ても変わらない。足首から先の部分が、無い。透けていたのだ。
あまりのことにパニックに陥ってしまう。これで焦らないわけがない。このままで立つことができるのか、と試してみるが足先は無いのに存在しているみたいに歩くことだってできた。
しかしそこに手を伸ばしてみてもさわることはできないので、やっぱりおかしいのだ。ふざけるな、と唇を噛む。どうしてこうなったのか、わからない。
でも間違いなく平和島静雄とセックスしたことに問題があるだろう。そんなの許せるわけがなかった。
「…っ、とにかく見られないようにしないと」
もし足が消えているのを知られてしまったら、また面倒なことが起こると思ったのだ。だからコートを引っ掴んで外に出る。向かう場所は、決まっていた。
自力で思い出すことができれば、きっとどうにかなる。まだ間に合うから。心の中でそう言い聞かせてみたけれど、見覚えのある公園まで辿り着いて暫くしてもやはり何もわからなかった。
早く、早くと地面を見つめながら考えるのにさっぱりだ。結局一人ではどうにもできないのかもしれない、と諦めかけた時にタイミング良く声を掛けられた。
「手前ッ!なんでまたこんなとこ来てんだよ!!」
俺の前まで走って来て怒鳴りつけた相手は息を切らしていたので、目を覚ましてすぐにここまで来たのだろう。こんな時なのに、嬉しいと思ってしまう。
「君の傍に居るのは楽しいけど、やっぱり俺はここで待つべきだと思うんだ」
「なんだと?」
「待ち合わせの相手が来なくてもいいんだ。だけどこうしていないと、自分の存在意義を失ってしまいそうで…っ、ねえ、やっぱり俺は幽霊なんだよ」
俯きながらしゃべっていたが、声は震えていた。それは恐れていたからだ。
このまま何も思い出さずにいて、消えてしまう可能性を。もしそうなってしまったら、多分俺は別の未練が残る。だけど消えかかっているということは、本来の目的を忘れて恋をしてしまったことへの罰ではないかと考えた。
もしかしたら、生きていた俺が怒っているのかもしれない。本当は待ち合わせの相手が迷惑していることだって知っていたのかもしれない。それでももう一度会うことを望みながら死んだのだから、きちんと役目を果たせと。
幽霊なのに幸せになれると思うな、と。
「ほら見てよ、朝起きたら足が透けてたんだ」
「な…っ!?」
とうとう堪えきれなくなって、自分から告げる。知られたくなかったから逃げた筈なのに、教えてしまったのは朝よりも症状が悪化していたからだ。
もう膝から下は透けている。悔しくて、情けなくて目の端に薄らと涙が浮かんだ。自力で思い出そうと努力したかったのに、もう無理だと。彼の願いに応えることはできないと。
「ま、待てよなんで急にこんなこと…」
「せめて何か思い出せたら、わかるかもしれないけど…」
「思い出せねえのか」
「うん…靄が掛かったみたいになにもわからない」
弱音を吐きたいわけじゃなかった。だけど本当に自分一人の力では限界を感じたのだ。それをどう伝えたらいいのか困っていると、静かな声が聞こえた。
「じゃあ手前の名前、教えてやるよ」
「え…?」
聞き違いかと思い慌てて顔をあげると、穏やかな表情で平和島静雄はこっちを見ていた。昨日は激怒していたというのにもう怒ってはいないようで、安堵してしまう。そしてやっぱり、好きだと。
こんなところで消えたくない。もう少し彼と一緒にいさせて欲しいと心から願う。
記憶が戻っても俺は俺だから、思い出せたら一番に名前を呼ぼうと決める。きっと彼が俺に変なあだ名をつけていたように、俺も彼だけのあだ名があったはずだ。
そして好きだと言えばいい。昨日は先に言われたけど、次こそはきちんと伝えるのだ。
「じゃあこっち向いて目閉じろ」
「は?なんで?」
「いいからさっさとしろ」
「しょうがないな」
なぜか目を閉じろと言われて怪訝な表情をしたけど従った。ゆっくりと瞼を閉じて、胸を高鳴らせながら待つ。きっと自分の名前さえ思い出せれば、すべて大丈夫だと信じて。
しかしその時急に肩を掴まれたと思ったら、唇にあたたかい何かがふれた。不意打ち過ぎて驚いたが、間違いなくキスだ。全身がかあっと熱くなり、目を開けようとして。
「手前の名前は、臨也だ…折原臨也」
「えっ、あ…」
きちんと声は耳に届いて、頭がズキンと痛くなった直後に膨大な記憶が流れこんできた。
嘘だって、始めから気づいていた。
「あのさあ、俺シズちゃんのことが好きなんだけど」
「あ……?」
路地裏でシズちゃんに捕まってしまい、手を引いて殴られる寸前に静かに告げた。多分聞こえない、聞いてはもらえないだろうと思っていたが、真っ直ぐな瞳がこっちを見る。
少し予想外だったけど、しゃべり始めた唇は止まらない。気持ちを吐き出さないとどうにかなってしまいそうなぐらい、追いつめられていたから。
「別につきあってくれとかそういう贅沢は言わないし、君が俺のことを嫌いなのは充分知ってる。でもなんていうかちょっと我慢できなくなってさあ、返事とかはいらないから話を聞いてくれないかな?一生のお願い」
「嘘臭え…」
一気に捲し立てて、少し安堵する。誰にも言えなくて悩んでいたことをようやく告げられたからだ。その時点で満足していた。
同姓に好きだと告白するなんて、もっと本気で怒られると思っていたのだがシズちゃんは怪訝な表情を向けた後に押し黙ってしまう。何を考えているのだろう、と待っているととんでもないことを言った。
「俺が手前とつきあう、って言ったら嬉しいのか?」
「えっ!?えっと、まあそりゃあ…うん嬉しいけど…なんでそんなこと聞くの?」
一瞬聞き間違いかと驚いたが、視線は変わらない。声が震えてしまいそうなぐらい期待しかけたのだが、すぐにひっくり返されてしまう。
「振ったら落ち込んだりすんのか」
「あ、ああ…うん、普通に落ちこむけど…」
返事を聞いてもいないのに、喜んでしまった自分を心の中で叱咤した。バカじゃないかと。シズちゃんなんかに期待してはダメじゃないかと。
喜んだらこうやってどん底に突き落とされる。平和島静雄という男はそういう奴なんだ、今まで何度繰り返してきたんだと胸が苦しくなる。だからもうまともに言うことを信じてはいけない、信じないと決心して。
「つきあうっても手前に合わせる気なんかねえぞ俺は」
「へ…?どういう、こと?」
「だからよお、俺の好きな時になんとなく気が向いたら…っつう条件ならつきあってやっていい」
「つ、きあっていいって…ほ、んとそれ?」
もう騙されない、と思った。たった今勝手に期待して裏切られたばかりなのに、じゃあ信じるからなんて言えるわけがない。きっと裏があるんだろうなとすぐにわかる。
表面上は嬉しがってみせたけれど、ちっとも喜んでいなかった。それどころか、悲しい。
嘘をつかれたことが。
つきあうつもりなんて全く無いのに、どうして嘘をついたんだと。でも今まで俺がしてきたことを考えると、当然なのかもしれない。
嫌がらせ、復讐、という言葉が頭の中に浮かぶ。嘘をつくなんて最低だと過去に何度か言われたけれど、それを俺に対して実践しているのだから相当の理由と覚悟があるのだろう。
これは俺を嵌める為の嘘だ。
「手前も知ってるだろうが、女とつきあったことねえし誰かを好きになったこともない。だから普通っていうのがわかんねえ。嫌になったらいつでも言え」
「うんわかったよ。そうだねシズちゃんに普通の恋愛がわかるわけないよね、知らなくていい。こっちが合わせるからさ」
「じゃあ俺は仕事戻る」
「…え?」
勝手に別れを告げると、あっさりと背を向け歩き出したことに驚いた。この態度のどこに、俺とつきあっていいと了承した優しさが含まれているのだろうかと。まだ心底嫌っている。
そして嘘をついていることを隠そうもしないことに、笑いが漏れてしまう。おかしい。これが笑わずにいられるだろうか。
「あ、はははっ、俺を騙そうなんて十年早いよ!」
早足で去って行き、完全に姿が見えなくなったところでそう叫んだ。誰も聞いていない。それでも口にしたのは、興奮していたからだ。
最低な告白をした。結果、最低な返事以上の仕打ちを受けてしまったのだ。笑わずにはいられない。
俺の気持ちは否定されたわけでもなく、無視をされたわけでもない。ゴミだからと捨てられたわけではなく、紙切れみたいにぐしゃぐしゃに丸められてそのまま自分に返された。そんな心境だ。
紙に書かれていただろう愛の告白は読んでもいない。そんなの関係なく、倍返しにしてやるよと宣戦布告されたようなものだ。
「まあでもあの様子なら…何もしないだろうね」
シズちゃんのことはよく知っている。基本は面倒くさがりで、すぐに忘れてしまう。だからさっきまでは俺にどう復讐するか、この場合はどうやって振ろうか考えていただろうけどもう忘れているだろう。
策を練ることなんてできない。だからきっと、何をしたとしてもまともに返ってくることすらないだろうなとその時思った。普通だったら激怒するか、落ちこむところだ。
でも俺は利用する手を考えついたのだ。
「これは、楽しいかもね」
上機嫌にシズちゃんの歩いて行った方向とは逆の道を歩き始める。そしてその日から、約束上ではつきあい始めた。
「今日のシズちゃんは…っと、ああまた前に誘われた人達と飲みに行ってるのか」
携帯を弄りながら所在地を確かめると、ため息をついて閉じる。俺はとても機嫌が良かった。
朝メールした待ち合わせ場所に辿り着いて二時間は経っていたけれど、ちっとも嫌じゃなかったのだ。いつも通り、シズちゃんは待ち合わせに来ない。それが嬉しい。
「少し会わないうちに、随分と職場の人達とも仲良くなったんだ」
独り言を呟いてはいたが、別に怒っているからではない。俺自身も喜んでいた。あの人付き合いの苦手なシズちゃんが、俺とつきあいはじめてから変わったのだ。
直接的には関わっていないけれど、間違いなく変えたといっていいだろう。堪えきれない気持ちを吐き出しただけで黒歴史として終わるはずだったのに、影響を与えるまで変化していたのだ。嬉しいなんてものではない。
「俺のおかげだよね」
そう呟いた直後にさっきから一度も人が途切れることなく行き来する道をじっと眺める。今日の待ち合わせ場所は、昔から人気の高い軽食やデザートを中心としたお店の目の前だった。
シズちゃんが過去ここに上司と二人で訪れて、パフェがおいしかったと言っていたらしいという情報があったのだ。実際に見てはいないが、写真だって残っている。からかう材料として集めてたけれど、今は役に立っている。
傍から見たら趣味の人間観察をしているように見えるが、頭の中ではしっかりと自分の計画したデート内容が思い浮かんでいた。今日は仕事も順調に終わったみたいだったし、すぐ待ち合わせ場所に来たら閉店までに間に合う。
俺なんかとこんな場所に来るなんて、と言いながらもメニューを選ぶのに必死で出てきたパフェに顔を綻ばせてスプーンをせわしなく動かす。そういう、架空のデートを頭の中で描くのが楽しみになっていた。
告白してしまったあの日から、どこか壊れてしまったらしい心をなんとか繋ぎ止めているのはまだメールを拒否されていないからだ。
設定の仕方がわからないだけで、きっと中身なんて見てもいないだろう。だけど俺にはこれしかなかった。
起こりもしないことを想像して、抑えられない気持ちを満たすという虚しい行為が必要だった。それも一時的に。
ぼんやりと行きかう人々を見つめていると、店の前の電気が消える。店内には従業員が残っているみたいだが、清掃や後片付けをしている。もう閉店時間だったから。
来ないとわかっていて、待つ。そして裏切られる。もう何度繰り返したかわからない。
間違いなく待ち合わせに現れない、という証拠まで確認するというのに期待してしまう。人間とはそういうものなのだ。待つ間はひたすら起こることのないデートのことを想像して、日付が変わり終電がなくなる頃まで動かない。
僅かな望みは打ち砕かれて、落ちこみながら帰る。そして次の日にはまた、メールを送るのだ。その無駄な行為の繰り返し。
だけど同じことをし続ければいつかは慣れる。きっとそのうち、シズちゃんに告白し裏切られたことまで慣れるだろうと信じていた。壊れた気持ちを修復したくてもう三ヶ月も続けている。
まだ全く慣れはしないけれど。それどころか悪化しているような気さえする。
情報屋としての仕事の量は急激に減らした。あれ以降何をしていても集中できなくなったし、首の力を使って戦争を起こす必要もなくなってしまったのだ。別の場所に逃げたところで、シズちゃんとの関係も変わらないと気づいたから。
たまに路地裏で顔を合わすけれど、互いにつきあい始めたことについては一言も話さない。つまりは、どうでもいいのだ。
きっと首の力を使い俺が居なくなっても、同じだろう。折原臨也のことは、どうでもいい。
それに気づくとなんて無駄なことをしていたんだと、何もかもがどうでもよくなったのだ。目標を見失ってしまった。生きる気力さえも沸かない。これまで築きあげてきたものが、ガラクタだと知った時のショックはまだ抜けなく深く突き刺さっている。
つきあうという話をした次の日にメールを送り待ち合わせたの約束をした時は、そんなつもりなんてなかった。ただ本当に待ち合わせに来たら、と思うと勝手に足が向かっていたのだ。
そして来なかった。
でもやめられなかった。やめてしまって、自分から別れようだなんて言うのも惨めだった。つきあってすらいないのに、別れようと言うのもおかしな話だった。
もし本当に待ち合わせに現れて、デートができたらと不意に考え始めた時からおかしくなったのかもしれない。
想像したら楽しかったし、少しの間だけでも胸があたたかくなったような気がした。人に話さえしなければ、たった独りでも穏やかな気持ちになれるのだと知ったのだ。やめられるわけがない。
「もう少しで、慣れるかな」
人通りも少なくなり、とうとう周りの店もすべてシャッターを下ろして誰も居なくなってしまう。日付が変わる前には、昼間の喧騒なんか全く感じさせないほど静かになる。この少し寂しさの残る時間が、最近では気に入っている。
携帯を取り出して時間を確認すると、そろそろ終電が近かった。だから帰る決意をする。
つまりは、今日も裏切られたと自分に言い聞かせる。淡い期待をまた一つ自分の手で握り潰す。
「これで、いいんだ」
そう呟くと池袋駅を目指す。帰り道ではもう、日付の変わった今日はどこで約束しようかと考え始めていた。
もう少し、あと少しだとずるずる続けてあっという間に半年が過ぎてしまった。そろそろ慣れると思っていたのに、先にタイムリミットが訪れてしまう。
俺はその日呼び出されて、ある話を持ちかけられた。なんとなく予想はしていたので、驚かなかったけれど。
「情報屋として動かなくなったのは、何か秘密を知ってしまい口止めをされているからだろ?わかっている」
「違いますよ。そろそろこんな商売はやめようと思っただけです」
最近のことは全く調べていなかったので久しぶりに相手の素性を確認したら、この半年で勢力が強くなってきた組織のトップだった。まだ年齢も随分と若いが、勢いだけで粟楠会や池袋の他の組織と同等にまで成りあがった連中だ。
俺とはほぼ面識だってない。どんな要求をされるのかと思っていたが、単純だった。
「金はいくらでも払う。だから俺の組に来い」
「今日はじめて会ったばかりですよ」
「あんたの噂は聞いている。それに本人に会って、想像以上に好みだとわかったから逃したくなくてな」
「そう、ですか」
そういう趣味の人間だということは、知っていた。だから半分ぐらいは口説かれるだろうと思っていたが、当たっていたらしい。こんな風に言い寄られたことなんて、過去にいくらでもある。
でも今回ばかりは、相手が悪い。きっと今までの俺だったら、誘いは受けることができないけれど専属の情報屋としてなら動きますよとあしらっただろう。だけど。
「すみません、お断りします」
「お前…わかってるのか?」
「わかってますよ。でも俺は誰のものにもならない、って決めてるので」
「断るってことは、相応の処分を受けることになるぞ。他の組にも目をつけられているんだろ。くだらないことで、将来を失ってもいいのか?」
男は淡々と話をしていたが、俺は立ちあがる。その覚悟があると、見せつける為だ。何もかも失ってもいいと。
扉から出て行く時に鋭い視線をいくつも感じたが、振り返らなかった。そういう時期がきたのなら、しょうがないかと建物の外に出てため息をついて力なく笑う。
シズちゃん以外の、好きでもない男の元に行く気もない。仕事を再開する気もない。他に興味を魅かれることもない。
半年が過ぎたけれど、一年、十年経ってもきっと変わらないだろう。メールの返事は絶対に無いだろうし、待ち合わせに来ることもあり得ない。壊れた心も戻らない。
だけど好きだという気持ちだけは譲れないという、小さなプライドがあった。もう自分に嘘をつきたくはない。
「あーあ……もう終わりか」
すぐに携帯を取り出して、メールをする。きっと見られもしないだろうが、会いに行く理由が必要だった。そして最終的には終わらせる為の。
待ち合わせの時間の前にはシズちゃんの仕事場に到着していたので、隠れて様子を窺う。そして出てくるまでひたすら息を潜めていて、姿が見えたと同時にゆっくりと姿を現した。
「手前なんでこんなとこいんだよ」
「あれ?もしかしてメール見てなかったかな?」
顔を合わせた瞬間凄い形相で睨まれて、心臓がバクバク跳ねる。そしてこれまで一度もふれてこなかったメールの事を、ようやく口にした。どんな反応をするのだろう、といくつかパターンを考えたけれど一番最悪なものだった。
「トムさん、すみません。俺昼間に行ったラーメン屋に忘れ物したみてえで、取りに行きたいんすけど連れてって貰えませんか?」
「あ、ああ、そうだったよな!静雄忘れ物したって言ってたよな。じゃあ行くか」
隣に居た上司に声を掛けて、すぐさま俺の立っていた方向とは逆へと歩き出す。チラチラと振り返っては様子を窺っていたが、こっちに声を掛けたりはしない。
完全に無視をした。俺なんて居ない、メールなんて受け取っていない、と態度で示されたのだ。
わかっていたけれど、直接見てしまったので相当のダメージを受けてしまう。必死に表情には出さなかったけれど、傷は深い。何度も独りで期待して裏切られたような気持ちになっていたけれど、本人から受ける行為の方が強かった。
だからもう、何もかも本当に終わらせようと決意する。逃げるわけではない。すべての報いを受ける日がきたんだと言い聞かせた。
『今日で最後にするよ。俺が君に告白した場所を覚えているかな?あのすぐ近くに公園があるんだけど、そこのベンチで待ってるから』
そうメールをした。今日のシズちゃんの取り立て先の予定を全部調べた上で、一番最後の場所がたまたま告白した路地裏から近くてちょうどいいと思ったのだ。
昨日はっきりと断った男はすぐに動いて、既に始末する為の人間が動いていた。今時拳銃を使うなんて、相当本気で殺す覚悟がないとできないのだが手段を選ばないらしい。元々情報屋という不安定な裏の仕事をしているのだから、警察も下手に調べたりはしないのが都合いいのだろう。
確実な方法で素早く始末する。きっと俺があの男の立場でも同じことをするに違いない。自分で追いつめたけれど、こんなことになってちょうどいいと思っている人間は多いはずだ。
「最後、か…」
待ち合わせ場所の公園へと辿り着くと周りを見回して、ちょうど入口からよく見えるベンチに腰掛ける。時間はギリギリで、何か奇跡が起こってシズちゃんが現れるのならもう数分もかからない。
新宿の事務所から様子を窺っている男は建物の影に隠れていて、射程範囲内に俺は居る。一体いつ銃を発砲するかはわからないが、待ち合わせよりも早い方が嬉しい。最後の結果を知らずに、死ぬことができるから。
「もしシズちゃんが来たら、どうしようか」
もう幾度となく繰り返してきた、もしもの場合を考える。その時は影から見守っている男にシズちゃんを狙わせればいい。きっと勘が鋭いから簡単に避けるだろうけど、俺のせいだと切れてまた追いかけっこすればいい。
そしていつものように逃げ続けて、捕まったところで言えばいいのだ。もう別れようと。
きっと目を丸くして言うはずだ。
『俺は手前とつきあった覚えなんてない』
言われた俺は傷ついて、でもようやく吹っ切れるのかもしれない。半年も続いてきた茶番も終わる。その時苦し紛れに教えてやればいい。
実は待ち合わせに来なかったら死ぬつもりだったとか、たった独りで待っていたけれどそれなりに楽しかったとか。とにかくなんでもいいから驚かせてやりたい。
もう一度、好きだと告白するのもいいかもしれない。嫌われようが、酷いことをされようが、まだ好きだと。きっと一生忘れられないと。
「好き…か」
そういえば最初の告白は相当酷かったよな、と思い返す。本気で言うつもりなんてなかったのに、もう黙っていられなくて苦しくて吐き出してしまったのだから。折角ならもっと本気で言えばよかったのかもしれない。
懸命に訴えれば伝わったのだろうか。あんなあからさまな嘘をつかれないで済んだのかもしれない。
「見抜いてたのかな」
好きだけど本気ではない。それが見透かされていたのだとしたら。そんなわけがないのだが、変なところで勘が働いて重大なことを回避できる能力を持っている。
もっと例えば殴られるのを覚悟して抱きついてみるとか、泣いてみるとか。こんな風に大人しく殺されるぐらいなら、なりふり構わず縋った場合どうなったんだろうか、とできもしなかったことを思う。
「間に合うかな、もしかして」
まだきっと仕事が終わっていないか、ちょうど終わったかぐらいかもしれない。そんなに遠くない場所に居るのだから、間に合うはずだ。待ち合わせすっぽかしたのか、と言われて責められてもいい。
どうせ来ないつもりだったんだろう、と逆に言い返してやればいい。昨日みたいに黙っていないで、不満全てをぶちまけてやればいい。
そろそろ時間だ。きっともう過ぎている。
「好きって言えれば、満足するかな」
半年も続いた不毛な待ちぼうけは、ただの逃避だった。確かに逃げれたのは楽だったし、起こりもしないことを想像できたのは幸せだったのかもしれない。でも違う。
そんな消極的な態度だったから、見破られたのだ。手前のところなんて、行ってやらないと。
「じゃあ今から、俺が行けばいいのか」
もう一度好きだって告白し直しに行けばいい。すごく簡単なことだったんだ、と気づくと立ちあがり足を踏み出そうとした。だけどできなかった。
腹の辺りに痛みを覚えて顔を顰めたと同時に銃声が耳に届いて、自分のやろうとしていたことをはっきり思い出す。そうだったんだ、と納得しながらその場に前のめりに倒れこむ。
視界が急激に霞み、濃い血の香りを感じながら後悔した。
シズちゃんに、もう一度好きだと伝えられなかったことを。
ずっと待ってばかりで動こうとしなかったからだと自嘲気味に笑おうとしたけれどそんな気力は無くて、意識が沈んでいった。
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冷たい頬の続き 臨也視点
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「幽霊でも体痛くなるんだ…?」
やっぱり相当適当なんだな、と思いながら体を起こそうとしたが腹の辺りに絡みつく腕が邪魔だった。しかし眠っているので力を入れて引っ張ると、あっけなく離れてしまう。
上半身を起こしすぐ隣で眠っている男の寝顔を見ると、口を大きく開けていてだらしない。でも幸せそうな表情だ。なんだかむず痒くなって視線を逸らす。
「早く思い出したいな」
生きていた時はどんな関係だったのか。この男に対して何を思っていたのか。それが知りたい。
一体どうやって失った記憶を思い出せばいいのか、と考えながらベッドから降りようとして。とあることに気づいて目を見張った。
「え、っ…?」
まじまじと眺めるけれど、何度見ても変わらない。足首から先の部分が、無い。透けていたのだ。
あまりのことにパニックに陥ってしまう。これで焦らないわけがない。このままで立つことができるのか、と試してみるが足先は無いのに存在しているみたいに歩くことだってできた。
しかしそこに手を伸ばしてみてもさわることはできないので、やっぱりおかしいのだ。ふざけるな、と唇を噛む。どうしてこうなったのか、わからない。
でも間違いなく平和島静雄とセックスしたことに問題があるだろう。そんなの許せるわけがなかった。
「…っ、とにかく見られないようにしないと」
もし足が消えているのを知られてしまったら、また面倒なことが起こると思ったのだ。だからコートを引っ掴んで外に出る。向かう場所は、決まっていた。
自力で思い出すことができれば、きっとどうにかなる。まだ間に合うから。心の中でそう言い聞かせてみたけれど、見覚えのある公園まで辿り着いて暫くしてもやはり何もわからなかった。
早く、早くと地面を見つめながら考えるのにさっぱりだ。結局一人ではどうにもできないのかもしれない、と諦めかけた時にタイミング良く声を掛けられた。
「手前ッ!なんでまたこんなとこ来てんだよ!!」
俺の前まで走って来て怒鳴りつけた相手は息を切らしていたので、目を覚ましてすぐにここまで来たのだろう。こんな時なのに、嬉しいと思ってしまう。
「君の傍に居るのは楽しいけど、やっぱり俺はここで待つべきだと思うんだ」
「なんだと?」
「待ち合わせの相手が来なくてもいいんだ。だけどこうしていないと、自分の存在意義を失ってしまいそうで…っ、ねえ、やっぱり俺は幽霊なんだよ」
俯きながらしゃべっていたが、声は震えていた。それは恐れていたからだ。
このまま何も思い出さずにいて、消えてしまう可能性を。もしそうなってしまったら、多分俺は別の未練が残る。だけど消えかかっているということは、本来の目的を忘れて恋をしてしまったことへの罰ではないかと考えた。
もしかしたら、生きていた俺が怒っているのかもしれない。本当は待ち合わせの相手が迷惑していることだって知っていたのかもしれない。それでももう一度会うことを望みながら死んだのだから、きちんと役目を果たせと。
幽霊なのに幸せになれると思うな、と。
「ほら見てよ、朝起きたら足が透けてたんだ」
「な…っ!?」
とうとう堪えきれなくなって、自分から告げる。知られたくなかったから逃げた筈なのに、教えてしまったのは朝よりも症状が悪化していたからだ。
もう膝から下は透けている。悔しくて、情けなくて目の端に薄らと涙が浮かんだ。自力で思い出そうと努力したかったのに、もう無理だと。彼の願いに応えることはできないと。
「ま、待てよなんで急にこんなこと…」
「せめて何か思い出せたら、わかるかもしれないけど…」
「思い出せねえのか」
「うん…靄が掛かったみたいになにもわからない」
弱音を吐きたいわけじゃなかった。だけど本当に自分一人の力では限界を感じたのだ。それをどう伝えたらいいのか困っていると、静かな声が聞こえた。
「じゃあ手前の名前、教えてやるよ」
「え…?」
聞き違いかと思い慌てて顔をあげると、穏やかな表情で平和島静雄はこっちを見ていた。昨日は激怒していたというのにもう怒ってはいないようで、安堵してしまう。そしてやっぱり、好きだと。
こんなところで消えたくない。もう少し彼と一緒にいさせて欲しいと心から願う。
記憶が戻っても俺は俺だから、思い出せたら一番に名前を呼ぼうと決める。きっと彼が俺に変なあだ名をつけていたように、俺も彼だけのあだ名があったはずだ。
そして好きだと言えばいい。昨日は先に言われたけど、次こそはきちんと伝えるのだ。
「じゃあこっち向いて目閉じろ」
「は?なんで?」
「いいからさっさとしろ」
「しょうがないな」
なぜか目を閉じろと言われて怪訝な表情をしたけど従った。ゆっくりと瞼を閉じて、胸を高鳴らせながら待つ。きっと自分の名前さえ思い出せれば、すべて大丈夫だと信じて。
しかしその時急に肩を掴まれたと思ったら、唇にあたたかい何かがふれた。不意打ち過ぎて驚いたが、間違いなくキスだ。全身がかあっと熱くなり、目を開けようとして。
「手前の名前は、臨也だ…折原臨也」
「えっ、あ…」
きちんと声は耳に届いて、頭がズキンと痛くなった直後に膨大な記憶が流れこんできた。
嘘だって、始めから気づいていた。
「あのさあ、俺シズちゃんのことが好きなんだけど」
「あ……?」
路地裏でシズちゃんに捕まってしまい、手を引いて殴られる寸前に静かに告げた。多分聞こえない、聞いてはもらえないだろうと思っていたが、真っ直ぐな瞳がこっちを見る。
少し予想外だったけど、しゃべり始めた唇は止まらない。気持ちを吐き出さないとどうにかなってしまいそうなぐらい、追いつめられていたから。
「別につきあってくれとかそういう贅沢は言わないし、君が俺のことを嫌いなのは充分知ってる。でもなんていうかちょっと我慢できなくなってさあ、返事とかはいらないから話を聞いてくれないかな?一生のお願い」
「嘘臭え…」
一気に捲し立てて、少し安堵する。誰にも言えなくて悩んでいたことをようやく告げられたからだ。その時点で満足していた。
同姓に好きだと告白するなんて、もっと本気で怒られると思っていたのだがシズちゃんは怪訝な表情を向けた後に押し黙ってしまう。何を考えているのだろう、と待っているととんでもないことを言った。
「俺が手前とつきあう、って言ったら嬉しいのか?」
「えっ!?えっと、まあそりゃあ…うん嬉しいけど…なんでそんなこと聞くの?」
一瞬聞き間違いかと驚いたが、視線は変わらない。声が震えてしまいそうなぐらい期待しかけたのだが、すぐにひっくり返されてしまう。
「振ったら落ち込んだりすんのか」
「あ、ああ…うん、普通に落ちこむけど…」
返事を聞いてもいないのに、喜んでしまった自分を心の中で叱咤した。バカじゃないかと。シズちゃんなんかに期待してはダメじゃないかと。
喜んだらこうやってどん底に突き落とされる。平和島静雄という男はそういう奴なんだ、今まで何度繰り返してきたんだと胸が苦しくなる。だからもうまともに言うことを信じてはいけない、信じないと決心して。
「つきあうっても手前に合わせる気なんかねえぞ俺は」
「へ…?どういう、こと?」
「だからよお、俺の好きな時になんとなく気が向いたら…っつう条件ならつきあってやっていい」
「つ、きあっていいって…ほ、んとそれ?」
もう騙されない、と思った。たった今勝手に期待して裏切られたばかりなのに、じゃあ信じるからなんて言えるわけがない。きっと裏があるんだろうなとすぐにわかる。
表面上は嬉しがってみせたけれど、ちっとも喜んでいなかった。それどころか、悲しい。
嘘をつかれたことが。
つきあうつもりなんて全く無いのに、どうして嘘をついたんだと。でも今まで俺がしてきたことを考えると、当然なのかもしれない。
嫌がらせ、復讐、という言葉が頭の中に浮かぶ。嘘をつくなんて最低だと過去に何度か言われたけれど、それを俺に対して実践しているのだから相当の理由と覚悟があるのだろう。
これは俺を嵌める為の嘘だ。
「手前も知ってるだろうが、女とつきあったことねえし誰かを好きになったこともない。だから普通っていうのがわかんねえ。嫌になったらいつでも言え」
「うんわかったよ。そうだねシズちゃんに普通の恋愛がわかるわけないよね、知らなくていい。こっちが合わせるからさ」
「じゃあ俺は仕事戻る」
「…え?」
勝手に別れを告げると、あっさりと背を向け歩き出したことに驚いた。この態度のどこに、俺とつきあっていいと了承した優しさが含まれているのだろうかと。まだ心底嫌っている。
そして嘘をついていることを隠そうもしないことに、笑いが漏れてしまう。おかしい。これが笑わずにいられるだろうか。
「あ、はははっ、俺を騙そうなんて十年早いよ!」
早足で去って行き、完全に姿が見えなくなったところでそう叫んだ。誰も聞いていない。それでも口にしたのは、興奮していたからだ。
最低な告白をした。結果、最低な返事以上の仕打ちを受けてしまったのだ。笑わずにはいられない。
俺の気持ちは否定されたわけでもなく、無視をされたわけでもない。ゴミだからと捨てられたわけではなく、紙切れみたいにぐしゃぐしゃに丸められてそのまま自分に返された。そんな心境だ。
紙に書かれていただろう愛の告白は読んでもいない。そんなの関係なく、倍返しにしてやるよと宣戦布告されたようなものだ。
「まあでもあの様子なら…何もしないだろうね」
シズちゃんのことはよく知っている。基本は面倒くさがりで、すぐに忘れてしまう。だからさっきまでは俺にどう復讐するか、この場合はどうやって振ろうか考えていただろうけどもう忘れているだろう。
策を練ることなんてできない。だからきっと、何をしたとしてもまともに返ってくることすらないだろうなとその時思った。普通だったら激怒するか、落ちこむところだ。
でも俺は利用する手を考えついたのだ。
「これは、楽しいかもね」
上機嫌にシズちゃんの歩いて行った方向とは逆の道を歩き始める。そしてその日から、約束上ではつきあい始めた。
「今日のシズちゃんは…っと、ああまた前に誘われた人達と飲みに行ってるのか」
携帯を弄りながら所在地を確かめると、ため息をついて閉じる。俺はとても機嫌が良かった。
朝メールした待ち合わせ場所に辿り着いて二時間は経っていたけれど、ちっとも嫌じゃなかったのだ。いつも通り、シズちゃんは待ち合わせに来ない。それが嬉しい。
「少し会わないうちに、随分と職場の人達とも仲良くなったんだ」
独り言を呟いてはいたが、別に怒っているからではない。俺自身も喜んでいた。あの人付き合いの苦手なシズちゃんが、俺とつきあいはじめてから変わったのだ。
直接的には関わっていないけれど、間違いなく変えたといっていいだろう。堪えきれない気持ちを吐き出しただけで黒歴史として終わるはずだったのに、影響を与えるまで変化していたのだ。嬉しいなんてものではない。
「俺のおかげだよね」
そう呟いた直後にさっきから一度も人が途切れることなく行き来する道をじっと眺める。今日の待ち合わせ場所は、昔から人気の高い軽食やデザートを中心としたお店の目の前だった。
シズちゃんが過去ここに上司と二人で訪れて、パフェがおいしかったと言っていたらしいという情報があったのだ。実際に見てはいないが、写真だって残っている。からかう材料として集めてたけれど、今は役に立っている。
傍から見たら趣味の人間観察をしているように見えるが、頭の中ではしっかりと自分の計画したデート内容が思い浮かんでいた。今日は仕事も順調に終わったみたいだったし、すぐ待ち合わせ場所に来たら閉店までに間に合う。
俺なんかとこんな場所に来るなんて、と言いながらもメニューを選ぶのに必死で出てきたパフェに顔を綻ばせてスプーンをせわしなく動かす。そういう、架空のデートを頭の中で描くのが楽しみになっていた。
告白してしまったあの日から、どこか壊れてしまったらしい心をなんとか繋ぎ止めているのはまだメールを拒否されていないからだ。
設定の仕方がわからないだけで、きっと中身なんて見てもいないだろう。だけど俺にはこれしかなかった。
起こりもしないことを想像して、抑えられない気持ちを満たすという虚しい行為が必要だった。それも一時的に。
ぼんやりと行きかう人々を見つめていると、店の前の電気が消える。店内には従業員が残っているみたいだが、清掃や後片付けをしている。もう閉店時間だったから。
来ないとわかっていて、待つ。そして裏切られる。もう何度繰り返したかわからない。
間違いなく待ち合わせに現れない、という証拠まで確認するというのに期待してしまう。人間とはそういうものなのだ。待つ間はひたすら起こることのないデートのことを想像して、日付が変わり終電がなくなる頃まで動かない。
僅かな望みは打ち砕かれて、落ちこみながら帰る。そして次の日にはまた、メールを送るのだ。その無駄な行為の繰り返し。
だけど同じことをし続ければいつかは慣れる。きっとそのうち、シズちゃんに告白し裏切られたことまで慣れるだろうと信じていた。壊れた気持ちを修復したくてもう三ヶ月も続けている。
まだ全く慣れはしないけれど。それどころか悪化しているような気さえする。
情報屋としての仕事の量は急激に減らした。あれ以降何をしていても集中できなくなったし、首の力を使って戦争を起こす必要もなくなってしまったのだ。別の場所に逃げたところで、シズちゃんとの関係も変わらないと気づいたから。
たまに路地裏で顔を合わすけれど、互いにつきあい始めたことについては一言も話さない。つまりは、どうでもいいのだ。
きっと首の力を使い俺が居なくなっても、同じだろう。折原臨也のことは、どうでもいい。
それに気づくとなんて無駄なことをしていたんだと、何もかもがどうでもよくなったのだ。目標を見失ってしまった。生きる気力さえも沸かない。これまで築きあげてきたものが、ガラクタだと知った時のショックはまだ抜けなく深く突き刺さっている。
つきあうという話をした次の日にメールを送り待ち合わせたの約束をした時は、そんなつもりなんてなかった。ただ本当に待ち合わせに来たら、と思うと勝手に足が向かっていたのだ。
そして来なかった。
でもやめられなかった。やめてしまって、自分から別れようだなんて言うのも惨めだった。つきあってすらいないのに、別れようと言うのもおかしな話だった。
もし本当に待ち合わせに現れて、デートができたらと不意に考え始めた時からおかしくなったのかもしれない。
想像したら楽しかったし、少しの間だけでも胸があたたかくなったような気がした。人に話さえしなければ、たった独りでも穏やかな気持ちになれるのだと知ったのだ。やめられるわけがない。
「もう少しで、慣れるかな」
人通りも少なくなり、とうとう周りの店もすべてシャッターを下ろして誰も居なくなってしまう。日付が変わる前には、昼間の喧騒なんか全く感じさせないほど静かになる。この少し寂しさの残る時間が、最近では気に入っている。
携帯を取り出して時間を確認すると、そろそろ終電が近かった。だから帰る決意をする。
つまりは、今日も裏切られたと自分に言い聞かせる。淡い期待をまた一つ自分の手で握り潰す。
「これで、いいんだ」
そう呟くと池袋駅を目指す。帰り道ではもう、日付の変わった今日はどこで約束しようかと考え始めていた。
もう少し、あと少しだとずるずる続けてあっという間に半年が過ぎてしまった。そろそろ慣れると思っていたのに、先にタイムリミットが訪れてしまう。
俺はその日呼び出されて、ある話を持ちかけられた。なんとなく予想はしていたので、驚かなかったけれど。
「情報屋として動かなくなったのは、何か秘密を知ってしまい口止めをされているからだろ?わかっている」
「違いますよ。そろそろこんな商売はやめようと思っただけです」
最近のことは全く調べていなかったので久しぶりに相手の素性を確認したら、この半年で勢力が強くなってきた組織のトップだった。まだ年齢も随分と若いが、勢いだけで粟楠会や池袋の他の組織と同等にまで成りあがった連中だ。
俺とはほぼ面識だってない。どんな要求をされるのかと思っていたが、単純だった。
「金はいくらでも払う。だから俺の組に来い」
「今日はじめて会ったばかりですよ」
「あんたの噂は聞いている。それに本人に会って、想像以上に好みだとわかったから逃したくなくてな」
「そう、ですか」
そういう趣味の人間だということは、知っていた。だから半分ぐらいは口説かれるだろうと思っていたが、当たっていたらしい。こんな風に言い寄られたことなんて、過去にいくらでもある。
でも今回ばかりは、相手が悪い。きっと今までの俺だったら、誘いは受けることができないけれど専属の情報屋としてなら動きますよとあしらっただろう。だけど。
「すみません、お断りします」
「お前…わかってるのか?」
「わかってますよ。でも俺は誰のものにもならない、って決めてるので」
「断るってことは、相応の処分を受けることになるぞ。他の組にも目をつけられているんだろ。くだらないことで、将来を失ってもいいのか?」
男は淡々と話をしていたが、俺は立ちあがる。その覚悟があると、見せつける為だ。何もかも失ってもいいと。
扉から出て行く時に鋭い視線をいくつも感じたが、振り返らなかった。そういう時期がきたのなら、しょうがないかと建物の外に出てため息をついて力なく笑う。
シズちゃん以外の、好きでもない男の元に行く気もない。仕事を再開する気もない。他に興味を魅かれることもない。
半年が過ぎたけれど、一年、十年経ってもきっと変わらないだろう。メールの返事は絶対に無いだろうし、待ち合わせに来ることもあり得ない。壊れた心も戻らない。
だけど好きだという気持ちだけは譲れないという、小さなプライドがあった。もう自分に嘘をつきたくはない。
「あーあ……もう終わりか」
すぐに携帯を取り出して、メールをする。きっと見られもしないだろうが、会いに行く理由が必要だった。そして最終的には終わらせる為の。
待ち合わせの時間の前にはシズちゃんの仕事場に到着していたので、隠れて様子を窺う。そして出てくるまでひたすら息を潜めていて、姿が見えたと同時にゆっくりと姿を現した。
「手前なんでこんなとこいんだよ」
「あれ?もしかしてメール見てなかったかな?」
顔を合わせた瞬間凄い形相で睨まれて、心臓がバクバク跳ねる。そしてこれまで一度もふれてこなかったメールの事を、ようやく口にした。どんな反応をするのだろう、といくつかパターンを考えたけれど一番最悪なものだった。
「トムさん、すみません。俺昼間に行ったラーメン屋に忘れ物したみてえで、取りに行きたいんすけど連れてって貰えませんか?」
「あ、ああ、そうだったよな!静雄忘れ物したって言ってたよな。じゃあ行くか」
隣に居た上司に声を掛けて、すぐさま俺の立っていた方向とは逆へと歩き出す。チラチラと振り返っては様子を窺っていたが、こっちに声を掛けたりはしない。
完全に無視をした。俺なんて居ない、メールなんて受け取っていない、と態度で示されたのだ。
わかっていたけれど、直接見てしまったので相当のダメージを受けてしまう。必死に表情には出さなかったけれど、傷は深い。何度も独りで期待して裏切られたような気持ちになっていたけれど、本人から受ける行為の方が強かった。
だからもう、何もかも本当に終わらせようと決意する。逃げるわけではない。すべての報いを受ける日がきたんだと言い聞かせた。
『今日で最後にするよ。俺が君に告白した場所を覚えているかな?あのすぐ近くに公園があるんだけど、そこのベンチで待ってるから』
そうメールをした。今日のシズちゃんの取り立て先の予定を全部調べた上で、一番最後の場所がたまたま告白した路地裏から近くてちょうどいいと思ったのだ。
昨日はっきりと断った男はすぐに動いて、既に始末する為の人間が動いていた。今時拳銃を使うなんて、相当本気で殺す覚悟がないとできないのだが手段を選ばないらしい。元々情報屋という不安定な裏の仕事をしているのだから、警察も下手に調べたりはしないのが都合いいのだろう。
確実な方法で素早く始末する。きっと俺があの男の立場でも同じことをするに違いない。自分で追いつめたけれど、こんなことになってちょうどいいと思っている人間は多いはずだ。
「最後、か…」
待ち合わせ場所の公園へと辿り着くと周りを見回して、ちょうど入口からよく見えるベンチに腰掛ける。時間はギリギリで、何か奇跡が起こってシズちゃんが現れるのならもう数分もかからない。
新宿の事務所から様子を窺っている男は建物の影に隠れていて、射程範囲内に俺は居る。一体いつ銃を発砲するかはわからないが、待ち合わせよりも早い方が嬉しい。最後の結果を知らずに、死ぬことができるから。
「もしシズちゃんが来たら、どうしようか」
もう幾度となく繰り返してきた、もしもの場合を考える。その時は影から見守っている男にシズちゃんを狙わせればいい。きっと勘が鋭いから簡単に避けるだろうけど、俺のせいだと切れてまた追いかけっこすればいい。
そしていつものように逃げ続けて、捕まったところで言えばいいのだ。もう別れようと。
きっと目を丸くして言うはずだ。
『俺は手前とつきあった覚えなんてない』
言われた俺は傷ついて、でもようやく吹っ切れるのかもしれない。半年も続いてきた茶番も終わる。その時苦し紛れに教えてやればいい。
実は待ち合わせに来なかったら死ぬつもりだったとか、たった独りで待っていたけれどそれなりに楽しかったとか。とにかくなんでもいいから驚かせてやりたい。
もう一度、好きだと告白するのもいいかもしれない。嫌われようが、酷いことをされようが、まだ好きだと。きっと一生忘れられないと。
「好き…か」
そういえば最初の告白は相当酷かったよな、と思い返す。本気で言うつもりなんてなかったのに、もう黙っていられなくて苦しくて吐き出してしまったのだから。折角ならもっと本気で言えばよかったのかもしれない。
懸命に訴えれば伝わったのだろうか。あんなあからさまな嘘をつかれないで済んだのかもしれない。
「見抜いてたのかな」
好きだけど本気ではない。それが見透かされていたのだとしたら。そんなわけがないのだが、変なところで勘が働いて重大なことを回避できる能力を持っている。
もっと例えば殴られるのを覚悟して抱きついてみるとか、泣いてみるとか。こんな風に大人しく殺されるぐらいなら、なりふり構わず縋った場合どうなったんだろうか、とできもしなかったことを思う。
「間に合うかな、もしかして」
まだきっと仕事が終わっていないか、ちょうど終わったかぐらいかもしれない。そんなに遠くない場所に居るのだから、間に合うはずだ。待ち合わせすっぽかしたのか、と言われて責められてもいい。
どうせ来ないつもりだったんだろう、と逆に言い返してやればいい。昨日みたいに黙っていないで、不満全てをぶちまけてやればいい。
そろそろ時間だ。きっともう過ぎている。
「好きって言えれば、満足するかな」
半年も続いた不毛な待ちぼうけは、ただの逃避だった。確かに逃げれたのは楽だったし、起こりもしないことを想像できたのは幸せだったのかもしれない。でも違う。
そんな消極的な態度だったから、見破られたのだ。手前のところなんて、行ってやらないと。
「じゃあ今から、俺が行けばいいのか」
もう一度好きだって告白し直しに行けばいい。すごく簡単なことだったんだ、と気づくと立ちあがり足を踏み出そうとした。だけどできなかった。
腹の辺りに痛みを覚えて顔を顰めたと同時に銃声が耳に届いて、自分のやろうとしていたことをはっきり思い出す。そうだったんだ、と納得しながらその場に前のめりに倒れこむ。
視界が急激に霞み、濃い血の香りを感じながら後悔した。
シズちゃんに、もう一度好きだと伝えられなかったことを。
ずっと待ってばかりで動こうとしなかったからだと自嘲気味に笑おうとしたけれどそんな気力は無くて、意識が沈んでいった。
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