2011-01-19 (Wed)
「ずっとお前が欲しかった」
静雄×臨也/小説/18禁/A5/76P/700円
静雄の誕生日に臨也がプレゼントを贈る短編2本収録
【凍らせて欲しい今のこの気持ち決して溶けないように】
臨也から別れようと言われた静雄が高校の時に嫌がらせで貰ったプレゼントの小瓶を開けてしまう
しかしそこから聞こえてきたのは『好き』という告白の言葉で瓶の中には臨也の恋心が詰まっていた
【ずっとお前が欲しかった】
何年も誕生日にプレゼントだけを贈り想い続けていた臨也が静雄に告白される
しかしこれは体の関係なだけだと勘違いして結局誕生日前日に喧嘩をしてしまう
そうして臨也に恨みを持った者に襲われ監禁されて犯されたはずなのだが実は…?
二人がすれ違い勘違いで切ない系 強がってるようで乙女な臨也の話
表紙イラスト 静岡おでん様
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【凍らせて欲しい今のこの気持ち決して溶けないように】
「はぁ……っ、くそイライラする」
ようやく自分の部屋まで帰って来ても苛立ちは抑えきれなくて、拳を振りあげて手近にあった本棚を軽く蹴った。当然自分の持ち物なので手加減はしているが、派手な音を立てて中身がほとんど床にこぼれ、真夜中だというのに下の階の住人に迷惑を掛けたことだけは申し訳なく思った。
散乱した部屋の中を呆然と眺めながら肩で息をしていると、ふと足元に転がっていた物に見覚えがあると同時に奇妙な違和感を感じた。
「あっ……そういや、これすっかり忘れてたな。一年の俺の誕生日に貰ったんだよな」
何も考えずにコロコロと転がっていたその小瓶を拾いあげて、目の前でまじまじと見つめた。長い間放置していたが、嫌がらせか何か知らないが臨也が誕生日プレゼントだと俺に宅配でわざわざ送りつけてきた代物だった。見たところ瓶の中身は何もなくて、どんなやばいもんが入っているのかと次の日に問い詰めたが、知らないとの一点張りだった。
よくよく思い返してみれば、あいつとの喧嘩が激化したのもあの一件からだった。それまでは普通に会話もできていたし、妙に胸がざわざわするような感情豊かな表情をしていた気がする。
「そうだよな、今考えれば結構かわいいことも言ってたよな。子供っぽい理由で口喧嘩もしてたし、なんかそれが心地よくて……」
口にしてようやく、俺が臨也のことを気にし始めたのもその頃だったなと思い出した。さっきまでまるっきり忘れていたというのに、あの時の事が鮮明に頭の中に浮かんでいた。
「じゃあもしかして、なんかこれがきっかけだったのか?マジか?開けてみるか……?」
どう見ても中身なんて何も入ってないようにしか見えないし、もうあれから何年も過ぎているのだから例えば毒ガスとやらが入っていても効き目が切れているのでは、と考えられた。俺だってあれから成長もしているし、大抵の事では死なない自信がある。
別に何も得られなくてもいいから、とりあえず開けてすっきりさせるかと、コルクに手を当てて思いっきり引っ張った。ポンッという間抜けな音が響いた直後、あまりに衝撃的すぎることが起こってしまった。
「シ、ズ、ち、ゃ、ん、す、き」
「は……ああああッ!?」
慌てて蓋を閉めて呼吸を整えながら、今聞こえてきた声を頭の中で何度も何度も反芻した。
か細くて今にも消えてしまいそうなぐらい小さな声だったが、聞き間違える筈がなかった。
「おい待てよ……なんで臨也の声が……?しかもなんであんな言葉……っ」
恥ずかしさと照れくささのあまりに片手で頭をガシガシと掻きながら、その場にうずくまっていた。とても信じられないが、何の変哲もない瓶の中から声が聞こえたのだ。昔から厄介ごとには九割以上臨也が絡んでいるのは間違いなかったが、今回はまさに事の中心にあいつが関わっているのだ。珍しいと言えば珍しい話だ。
「っていうか、やべえ……勃ちそうになってんじゃねえか。おいおいどんだけ破壊力あんだよ、こりゃ」
さっきの声を思い返していると、急に下半身のあたりがズキッと痛んだので慌てて前かがみになったまま股間を押さえて気持ちを落ち着けた。こんな状態ではとてももう一度開ける気にはならなかった。また同じ言葉が聞こえれば、さっきまでの別れ話なんか全部忘れて今すぐ臨也の家に乗り込みたくなるだろう。
不思議な出来事なんてこれまで山ほど見ているし、大抵なことでは驚かない自信があったのにあっさりと崩されてしまった。あの声がまやかしとか幻だとしても、俺にとってのダメージはでかかった。
* * *
「おい何を笑ってんだよ臨也くんよお」
「ん?別に、ただシズちゃんが今日もバカで楽しいなあって」
「そんなに殺されてえのか、そうかよくわかった」
「……っ、やだなぁ……苦しいっ……!」
ちょうど胸の辺りのシャツを掴まれていたので、息苦しさに顔を顰めながら必死にポケットからナイフを取り出そうとしたがうまく探し当てることができなかった。この状況はどうにも逃げられそうになかったので、顔を顰めながらどうしようか迷っているうちにどんどん呼吸が激しくなっていく。
だから言うつもりもない言葉を、口にしてしまったのだ。
「ねえ、っ……ちょっと、聞いてよ?」
「なんだよ、死ぬ前に言い残したことがあんのか?しょうがねえから聞いてやるか」
必死に喉の奥から声を絞り出して聞いてとお願いすると、少しだけ手の力を緩めてきたので懸命に酸素を吸いこんで息を整えた。シズちゃんの前で苦しげにしてるなんてこと自体がもう嫌だったので、あくまで平静を装いながら言おうとした。
「……っ、う」
「あ?なんだよ急に顔真っ赤にしてなんだ?」
しかしいつも通りを装う前に、あまりに近すぎる距離に眩暈がして、かあっと耳まで一気に熱くなっていくのが自分でもわかった。こんなのは俺じゃない、落ち着け落ち着けと言うのに、ちっとも元には戻ってくれなかった。
だから結局そのまま、言う羽目になってしまったのだ。
「俺がシズちゃんのこと、好きだって言ったら……どうする?」
「は……?」
言った瞬間、自分自身で後悔した。やっぱり言うんじゃなかったと、鼻の奥がツーンと痛くなっているのは苦しいからなんだと。
恥ずかしくて死にそうになりながら、少しだけ緩んだ手の束縛から逃れようとシズちゃんの体を両手で押し返した。するとあっさりとそのまま後ろに倒れて、傍にあった机をガタガタと何個かなぎ倒していった。
その隙に俺は返事も聞かずに一目散に走り出した。教室内から叫び声が聞こえたが、無視をした。聞きたくなんてなかった。
なんてことを言ってるんだバカ野郎、と言われることでさえも嫌だった。ズキズキとこれまでで最高潮に胸が痛んで、瞳をぎゅっと閉じたら足がもつれてしまいそのまま廊下で派手に転んでしまった。
背後から追い掛けてくる気配がないのが救いだったが、ある意味不気味でもあった。ゆっくりと手をついて立ちあがろうとしたところで、コロコロと目の前を何かが転がっていってそれが空の瓶であることに気がついた。
まさしく絶妙のタイミングとはこのことだろう。
「あはっ、そうだよね。そういえばシズちゃんの誕生日って明日だったよね。誕生日プレゼントだよって添えて送れば、粉々にしてくれるよね。うんそうだね、そうしよう」
震える手でその小瓶を拾い、コルクを抜いた時には瞳から涙がぼろぼろと零れていて、みっともなかった。
けれどもそんな些細なことには構わず、短く息を吸いこんでそれからゆっくりと想いを告げた。
「シズちゃん、好き……」
* * *
【ずっとお前が欲しかった】
「さっきの脅迫状だって、俺が手前宛に出したんだよ。今日ここに呼びよせて、手前を殺す為にな」
「シズちゃんが?信じられないなあ、君がそんな手の込んだことするなんてよっぽどじゃないか。そんなに……」
そんなに俺が殺したかったのか、という言葉は喉の奥で飲み込んだ。
嫌な予感がしたからだ。無表情を装ってはいるが、その仮面がいつ剥がれてもおかしくないぐらい脆くなっていることに気がついたからだ。
普段は本能的にしか行動しない相手が、予想外に計画的に外堀を埋めてきているのだ。よりにもよって、一番読めない相手に。
「あぁそうだ、俺はずっと手前を殺したかった。だから今日ここで死ぬんだ……死ねよ臨也」
「なるほどね。俺が死ぬことで君は最高のプレゼントを手に入れるってわけか。それは確かにどんなプレゼントよりも嬉しいよね」
喉の奥でククッと笑いながら、自分自身の言葉にズキズキと心が痛んでいた。結局俺は、シズちゃんに殺されることでしか喜ばれることはないんだと、気がついたからだ。
好きな相手の為に死ねるなら本望かもしれない、と納得しかけている自分にも驚きを隠せなかった。
こんなところで死ぬわけにはいかないのに、ここまで何もかも暴かれていてどうしようもない状況で逃げられなければ、そっちに惹かれるのは無理もないと。シズちゃんの為に死ぬしか、選択肢が残されていないように思えてしょうがなかった。
「わかったよ、じゃあ君の為に死んであげるよ。どうせ俺が黙っててもこのまま殺されるんだろうし、もう……」
疲れたとはさすがに口にはしなかった。
罵られていちいち傷つく自分自身にも嫌気がさしていたし、こんなにも長く片思いでい続けることに限界を感じていたのだ。本望なのではないかと。
「でもそうだね、最後に一つだけ心残りがあるとしたら君の好きな相手とやらをどうしても見つけられなかったことかな。よく巧妙に隠していたよね?ボロを出さないなんてシズちゃんらしくない」
「あぁ、そりゃ絶対に知られたくなかったからな。言っただろ手前にだけは死んでも言わねえって。安心しろ、最後に教えてやるからよお。そんで、死ね」
「それはありがたいね。これですっきりとする」
自嘲気味に笑いながら、全身の力を抜くとすっと腕が伸びてきて俺の首元に添えられようとしていたので、そっと目を閉じた。瞼の裏に姿を焼きつけながら、最後まで眺め続ける勇気すらない自分自身に呆れてしまった。
こんな俺だから、殺されてしまうのだ。殺されることを、受け入れてしまうのだ。
自分の気持ちを伝える強い心が少しでもあれば、と思ったところで耳元に息を吹きかけられながら、これまで生きてきた中で一番の衝撃の言葉が届いた。
「好きだ、臨也」
「……えっ?」
「ずっとお前が好きだった、欲しかった。だから今までの意地はってる手前とか全部捨てて……俺が殺してやるから、俺の為に生まれ変われ」
* * *
「もう一度言うよ、俺はやめておいたほうがいい。考えてもみろ、こんなバイブやローターを何本も突っこまれてるのにあそこが気持ちいいわけがないだろう。ガバガバで使いこまれてるものより、その辺の処女の女の子にする方がよっぽど楽しい……っ、あ!」
わざと自分の体を貶めるようなことを言ってやる気をなくそうとしたのに、まるで聞く耳を持ってくれない。俺のハッタリが通じないとなると、本当に厄介だった。唇を軽く噛んでいると、唐突に後孔に突っ込まれていたバイブのリモコンにふれてきて、勝手に強さを最大まで引き上げてきた。それだけはやめてくれ、とずっと考えていたというのに、拒絶の言葉を吐く時間もなく一瞬だった。
「ふあっ!あ、やらぁ……うぅ、あ、もうやっ……やめれ、っ、う、おねがいだからぁ……あ、ぁ」
ビクンビクンと勝手に腰から下が揺れ始めて、じんわりと布にも涙が滲んで、与えられた快楽に逆らえない自分自身を何度も悔やんだ。一人になっても不意に沸きあがる悦楽に耐えられなくて、何度も何度も自己嫌悪に陥りながら達したのだ。充分だったのに、こうして玩具で弄ばれるとそれらすべて全部を忘れて、次の波を求めてしまうのだ。
シズちゃんとの関係の為とはいえ、浅ましい体だった。こんなのでは、見限られて当然だったのかもしれない。それこそさっき男に俺が言ったように、淫乱に近いような男と初々しい女では比べようがないぐらいに違うのだ。話にならない。
「やだぁ、なかこすられてぇ、まら、ひもちよくなるっ……やら、やらっていってるのに、うぅ」
極太のバイブの動きプラス、隙間を埋めるように詰め込まれたローターの直接的な刺激があっという間に俺自身を勃起させ、とろとろと生あたたかい汁をこぼし始めた。もうほとんど声が出ないだろうと思っていたのに、いつもよりは掠れているが艶っぽいため息のような喘ぎと、舌ったらずな口が子供っぽさを現していた。
シズちゃんとしている時も、気持ちよくて気持ちよくてしょうがない時はこんな風になっていた。それを可愛いなどと喜んでくれていたが、今の相手からは何の感情も読めなかった。
「イきたくないっ、うぅ……ん、ぁ、あ……し、し、っうぅ、あ、やだぁ……たすけれっぇ、ねえ、ぇ……っ、ふ」
幸せだった時のことを考えていたからか、また名前を口走ってしまいそうになって、慌ててそれだけは留めた。いくら助けを呼びたくても、もし目の前に居るのが本人だとしても、それだけは口にはできなかった。
だって彼はもう俺のものではなくて、見知らぬ女のものなのだから、引き留めてはいけないのだ。
あんな一方的に逃げておきながら、助けを請うだなんて虫のいい話はない。
「はっ、ははっ、あ、ぁ……いい、かな……もう、弱音吐いても、いいかなぁ、ぁ……辛くて、苦しくて、嫌だって、ねえ」
すぐ傍でただ見つめているだけの男の方を向いて、本心を吐露し始めていた。シズちゃんの前でだってあまり晒したことのない、弱気な自分がマイナスな感情を吐き出していく。
玩具で弄ばれているのが辛いのではなくて、体の関係を続けながらいつ終わるか恐れ続けていたこと、そうして結果そうなってしまったことについて、苦しかったのだと。見知らぬ男に対してそう涙ながらに訴えた。
「もっと、きもちよくして……忘れたい、全部、ぜんぶ、わすれてらくに、なりたい……っ、あ、はぁあ」
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「はぁ……っ、くそイライラする」
ようやく自分の部屋まで帰って来ても苛立ちは抑えきれなくて、拳を振りあげて手近にあった本棚を軽く蹴った。当然自分の持ち物なので手加減はしているが、派手な音を立てて中身がほとんど床にこぼれ、真夜中だというのに下の階の住人に迷惑を掛けたことだけは申し訳なく思った。
散乱した部屋の中を呆然と眺めながら肩で息をしていると、ふと足元に転がっていた物に見覚えがあると同時に奇妙な違和感を感じた。
「あっ……そういや、これすっかり忘れてたな。一年の俺の誕生日に貰ったんだよな」
何も考えずにコロコロと転がっていたその小瓶を拾いあげて、目の前でまじまじと見つめた。長い間放置していたが、嫌がらせか何か知らないが臨也が誕生日プレゼントだと俺に宅配でわざわざ送りつけてきた代物だった。見たところ瓶の中身は何もなくて、どんなやばいもんが入っているのかと次の日に問い詰めたが、知らないとの一点張りだった。
よくよく思い返してみれば、あいつとの喧嘩が激化したのもあの一件からだった。それまでは普通に会話もできていたし、妙に胸がざわざわするような感情豊かな表情をしていた気がする。
「そうだよな、今考えれば結構かわいいことも言ってたよな。子供っぽい理由で口喧嘩もしてたし、なんかそれが心地よくて……」
口にしてようやく、俺が臨也のことを気にし始めたのもその頃だったなと思い出した。さっきまでまるっきり忘れていたというのに、あの時の事が鮮明に頭の中に浮かんでいた。
「じゃあもしかして、なんかこれがきっかけだったのか?マジか?開けてみるか……?」
どう見ても中身なんて何も入ってないようにしか見えないし、もうあれから何年も過ぎているのだから例えば毒ガスとやらが入っていても効き目が切れているのでは、と考えられた。俺だってあれから成長もしているし、大抵の事では死なない自信がある。
別に何も得られなくてもいいから、とりあえず開けてすっきりさせるかと、コルクに手を当てて思いっきり引っ張った。ポンッという間抜けな音が響いた直後、あまりに衝撃的すぎることが起こってしまった。
「シ、ズ、ち、ゃ、ん、す、き」
「は……ああああッ!?」
慌てて蓋を閉めて呼吸を整えながら、今聞こえてきた声を頭の中で何度も何度も反芻した。
か細くて今にも消えてしまいそうなぐらい小さな声だったが、聞き間違える筈がなかった。
「おい待てよ……なんで臨也の声が……?しかもなんであんな言葉……っ」
恥ずかしさと照れくささのあまりに片手で頭をガシガシと掻きながら、その場にうずくまっていた。とても信じられないが、何の変哲もない瓶の中から声が聞こえたのだ。昔から厄介ごとには九割以上臨也が絡んでいるのは間違いなかったが、今回はまさに事の中心にあいつが関わっているのだ。珍しいと言えば珍しい話だ。
「っていうか、やべえ……勃ちそうになってんじゃねえか。おいおいどんだけ破壊力あんだよ、こりゃ」
さっきの声を思い返していると、急に下半身のあたりがズキッと痛んだので慌てて前かがみになったまま股間を押さえて気持ちを落ち着けた。こんな状態ではとてももう一度開ける気にはならなかった。また同じ言葉が聞こえれば、さっきまでの別れ話なんか全部忘れて今すぐ臨也の家に乗り込みたくなるだろう。
不思議な出来事なんてこれまで山ほど見ているし、大抵なことでは驚かない自信があったのにあっさりと崩されてしまった。あの声がまやかしとか幻だとしても、俺にとってのダメージはでかかった。
* * *
「おい何を笑ってんだよ臨也くんよお」
「ん?別に、ただシズちゃんが今日もバカで楽しいなあって」
「そんなに殺されてえのか、そうかよくわかった」
「……っ、やだなぁ……苦しいっ……!」
ちょうど胸の辺りのシャツを掴まれていたので、息苦しさに顔を顰めながら必死にポケットからナイフを取り出そうとしたがうまく探し当てることができなかった。この状況はどうにも逃げられそうになかったので、顔を顰めながらどうしようか迷っているうちにどんどん呼吸が激しくなっていく。
だから言うつもりもない言葉を、口にしてしまったのだ。
「ねえ、っ……ちょっと、聞いてよ?」
「なんだよ、死ぬ前に言い残したことがあんのか?しょうがねえから聞いてやるか」
必死に喉の奥から声を絞り出して聞いてとお願いすると、少しだけ手の力を緩めてきたので懸命に酸素を吸いこんで息を整えた。シズちゃんの前で苦しげにしてるなんてこと自体がもう嫌だったので、あくまで平静を装いながら言おうとした。
「……っ、う」
「あ?なんだよ急に顔真っ赤にしてなんだ?」
しかしいつも通りを装う前に、あまりに近すぎる距離に眩暈がして、かあっと耳まで一気に熱くなっていくのが自分でもわかった。こんなのは俺じゃない、落ち着け落ち着けと言うのに、ちっとも元には戻ってくれなかった。
だから結局そのまま、言う羽目になってしまったのだ。
「俺がシズちゃんのこと、好きだって言ったら……どうする?」
「は……?」
言った瞬間、自分自身で後悔した。やっぱり言うんじゃなかったと、鼻の奥がツーンと痛くなっているのは苦しいからなんだと。
恥ずかしくて死にそうになりながら、少しだけ緩んだ手の束縛から逃れようとシズちゃんの体を両手で押し返した。するとあっさりとそのまま後ろに倒れて、傍にあった机をガタガタと何個かなぎ倒していった。
その隙に俺は返事も聞かずに一目散に走り出した。教室内から叫び声が聞こえたが、無視をした。聞きたくなんてなかった。
なんてことを言ってるんだバカ野郎、と言われることでさえも嫌だった。ズキズキとこれまでで最高潮に胸が痛んで、瞳をぎゅっと閉じたら足がもつれてしまいそのまま廊下で派手に転んでしまった。
背後から追い掛けてくる気配がないのが救いだったが、ある意味不気味でもあった。ゆっくりと手をついて立ちあがろうとしたところで、コロコロと目の前を何かが転がっていってそれが空の瓶であることに気がついた。
まさしく絶妙のタイミングとはこのことだろう。
「あはっ、そうだよね。そういえばシズちゃんの誕生日って明日だったよね。誕生日プレゼントだよって添えて送れば、粉々にしてくれるよね。うんそうだね、そうしよう」
震える手でその小瓶を拾い、コルクを抜いた時には瞳から涙がぼろぼろと零れていて、みっともなかった。
けれどもそんな些細なことには構わず、短く息を吸いこんでそれからゆっくりと想いを告げた。
「シズちゃん、好き……」
* * *
【ずっとお前が欲しかった】
「さっきの脅迫状だって、俺が手前宛に出したんだよ。今日ここに呼びよせて、手前を殺す為にな」
「シズちゃんが?信じられないなあ、君がそんな手の込んだことするなんてよっぽどじゃないか。そんなに……」
そんなに俺が殺したかったのか、という言葉は喉の奥で飲み込んだ。
嫌な予感がしたからだ。無表情を装ってはいるが、その仮面がいつ剥がれてもおかしくないぐらい脆くなっていることに気がついたからだ。
普段は本能的にしか行動しない相手が、予想外に計画的に外堀を埋めてきているのだ。よりにもよって、一番読めない相手に。
「あぁそうだ、俺はずっと手前を殺したかった。だから今日ここで死ぬんだ……死ねよ臨也」
「なるほどね。俺が死ぬことで君は最高のプレゼントを手に入れるってわけか。それは確かにどんなプレゼントよりも嬉しいよね」
喉の奥でククッと笑いながら、自分自身の言葉にズキズキと心が痛んでいた。結局俺は、シズちゃんに殺されることでしか喜ばれることはないんだと、気がついたからだ。
好きな相手の為に死ねるなら本望かもしれない、と納得しかけている自分にも驚きを隠せなかった。
こんなところで死ぬわけにはいかないのに、ここまで何もかも暴かれていてどうしようもない状況で逃げられなければ、そっちに惹かれるのは無理もないと。シズちゃんの為に死ぬしか、選択肢が残されていないように思えてしょうがなかった。
「わかったよ、じゃあ君の為に死んであげるよ。どうせ俺が黙っててもこのまま殺されるんだろうし、もう……」
疲れたとはさすがに口にはしなかった。
罵られていちいち傷つく自分自身にも嫌気がさしていたし、こんなにも長く片思いでい続けることに限界を感じていたのだ。本望なのではないかと。
「でもそうだね、最後に一つだけ心残りがあるとしたら君の好きな相手とやらをどうしても見つけられなかったことかな。よく巧妙に隠していたよね?ボロを出さないなんてシズちゃんらしくない」
「あぁ、そりゃ絶対に知られたくなかったからな。言っただろ手前にだけは死んでも言わねえって。安心しろ、最後に教えてやるからよお。そんで、死ね」
「それはありがたいね。これですっきりとする」
自嘲気味に笑いながら、全身の力を抜くとすっと腕が伸びてきて俺の首元に添えられようとしていたので、そっと目を閉じた。瞼の裏に姿を焼きつけながら、最後まで眺め続ける勇気すらない自分自身に呆れてしまった。
こんな俺だから、殺されてしまうのだ。殺されることを、受け入れてしまうのだ。
自分の気持ちを伝える強い心が少しでもあれば、と思ったところで耳元に息を吹きかけられながら、これまで生きてきた中で一番の衝撃の言葉が届いた。
「好きだ、臨也」
「……えっ?」
「ずっとお前が好きだった、欲しかった。だから今までの意地はってる手前とか全部捨てて……俺が殺してやるから、俺の為に生まれ変われ」
* * *
「もう一度言うよ、俺はやめておいたほうがいい。考えてもみろ、こんなバイブやローターを何本も突っこまれてるのにあそこが気持ちいいわけがないだろう。ガバガバで使いこまれてるものより、その辺の処女の女の子にする方がよっぽど楽しい……っ、あ!」
わざと自分の体を貶めるようなことを言ってやる気をなくそうとしたのに、まるで聞く耳を持ってくれない。俺のハッタリが通じないとなると、本当に厄介だった。唇を軽く噛んでいると、唐突に後孔に突っ込まれていたバイブのリモコンにふれてきて、勝手に強さを最大まで引き上げてきた。それだけはやめてくれ、とずっと考えていたというのに、拒絶の言葉を吐く時間もなく一瞬だった。
「ふあっ!あ、やらぁ……うぅ、あ、もうやっ……やめれ、っ、う、おねがいだからぁ……あ、ぁ」
ビクンビクンと勝手に腰から下が揺れ始めて、じんわりと布にも涙が滲んで、与えられた快楽に逆らえない自分自身を何度も悔やんだ。一人になっても不意に沸きあがる悦楽に耐えられなくて、何度も何度も自己嫌悪に陥りながら達したのだ。充分だったのに、こうして玩具で弄ばれるとそれらすべて全部を忘れて、次の波を求めてしまうのだ。
シズちゃんとの関係の為とはいえ、浅ましい体だった。こんなのでは、見限られて当然だったのかもしれない。それこそさっき男に俺が言ったように、淫乱に近いような男と初々しい女では比べようがないぐらいに違うのだ。話にならない。
「やだぁ、なかこすられてぇ、まら、ひもちよくなるっ……やら、やらっていってるのに、うぅ」
極太のバイブの動きプラス、隙間を埋めるように詰め込まれたローターの直接的な刺激があっという間に俺自身を勃起させ、とろとろと生あたたかい汁をこぼし始めた。もうほとんど声が出ないだろうと思っていたのに、いつもよりは掠れているが艶っぽいため息のような喘ぎと、舌ったらずな口が子供っぽさを現していた。
シズちゃんとしている時も、気持ちよくて気持ちよくてしょうがない時はこんな風になっていた。それを可愛いなどと喜んでくれていたが、今の相手からは何の感情も読めなかった。
「イきたくないっ、うぅ……ん、ぁ、あ……し、し、っうぅ、あ、やだぁ……たすけれっぇ、ねえ、ぇ……っ、ふ」
幸せだった時のことを考えていたからか、また名前を口走ってしまいそうになって、慌ててそれだけは留めた。いくら助けを呼びたくても、もし目の前に居るのが本人だとしても、それだけは口にはできなかった。
だって彼はもう俺のものではなくて、見知らぬ女のものなのだから、引き留めてはいけないのだ。
あんな一方的に逃げておきながら、助けを請うだなんて虫のいい話はない。
「はっ、ははっ、あ、ぁ……いい、かな……もう、弱音吐いても、いいかなぁ、ぁ……辛くて、苦しくて、嫌だって、ねえ」
すぐ傍でただ見つめているだけの男の方を向いて、本心を吐露し始めていた。シズちゃんの前でだってあまり晒したことのない、弱気な自分がマイナスな感情を吐き出していく。
玩具で弄ばれているのが辛いのではなくて、体の関係を続けながらいつ終わるか恐れ続けていたこと、そうして結果そうなってしまったことについて、苦しかったのだと。見知らぬ男に対してそう涙ながらに訴えた。
「もっと、きもちよくして……忘れたい、全部、ぜんぶ、わすれてらくに、なりたい……っ、あ、はぁあ」
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