ウサギのバイク 流れる涙も 凍てついた胸も 23
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2010-05-28 (Fri)
静雄×臨也前提話 ※18禁注意

続き 全部計算で、誘ってんだろ?

* * *


「…それ聞いてどうするの?」

逆にこちらからすかさず質問すると、息をのんではっとした後バツが悪そうな表情をして目線を逸らした。
俺は平静を装ってはいたが、内心シズちゃんがしたいことが全く読めなくて軽くパニックに陥ってしまっていた。ただでさえ爆弾を抱えているというのに、これ以上関わり合いになりたくはなかった。
さっさと帰るようになんとか仕向けるしかなかった。

「まぁ別に隠すほどのことじゃないし、いいんだけどさ。そうだよ粟楠会の四木さんの愛人になったんだ、俺」

さらりと言ってのけると、向こうは目を見開いて驚きの顔を歪めていた。どうしてそんな顔をされるのか意味がわからなかったが、元々心なんて読めないんだしどうでもいいと思った。
確かになるべくならそんなこと知られたくはなかったのだが、俺が強姦された挙句に脅されている事実よりは随分マシだった。

「聞きたいことってそれだけ?こっちだって忙しいんだからさ、もう帰って…」

心底迷惑だという素振りをして、手で追い払うような仕草をしていたらありえないぐらいムカツクことを言ってきた。


「俺に振られたあてつけかなんかか?ヤケになってんのか?」


一瞬で怒りがこみあげてきて、もうおさえられなかった。ポケットからナイフを取り出して、至近距離でわき腹目がけて切っ先を突き刺した。
が、いつものことながら数センチしか刺さらない。だったらと今度は反対側の手でナイフを掴み、もう一本取り出して同じ場所に押し付けて、引き抜いて左右交互に刺したり抜いたりを繰り返した。

(誰が、誰のせいで、こんなことになってると、思ってんだ!ムカツク、ムカツク!!)

もう完全にヤケになっていて、傍から見たら随分と痛々しい光景なのだろうとぼんやり考えていたが、相手が相手だし気にも留めなかった。

「おい手前そろそろやめろ!」

暫くして両手首を同時に掴まれて、そのまま玄関の扉に体ごと体当たりさせられて全身を衝撃が襲った。

「ぐ、うぅっ…ぁ…」

たった一撃だったが充分効いたらしく、ずるずると壁にもたれ掛かりながらその場に座り込んだ。
正直ここに来る前から全身が疲労していたし、熱くて疼いてどうしようもなかったから、すぐに力が抜けるのはしょうがなかった。手加減ぐらいしてくれればいいのだが、それはなかった。


「クソッ、こっちはわけのわからない言い分に真剣に悩んでたってのにすぐに乗り換えるような奴なんだな!最低だ!!」
「へ、え?無い頭で珍しく俺の告白のこと考えてくれたんだ?それは予想外っていうか嬉しいな」


激昂しながら怒鳴りつけてくるので、逆にこっちは笑ってみせた。内心はまだ怒りは続いているし、最低だと吐き捨てられてもやもやとした気持ちが渦巻いていたのだが、絶対に素振りはみせない。

とにかく落ち着かなければいけなかった。

このままでは本格的に快楽に火がついてしまう。ただでさえ勝手にこっちが告げただけの一方的な言葉に対して、それなりにシズちゃんも考えてみたという奇跡のような状態が起こっているのだ。
もう少し話がしたかった。
それにもし今の状況が四木さんが意図して作り出したというのなら、何かがあるはずなのだ。四木さんにそれが読めて、俺に読めないなんてありえない。

これまで一番近くで見つめ続けてきた俺が、わからないなんてはずがない。

必死に頭で考えてた。体の中に埋め込まれているモノと、この間シズちゃんの目の前で晒してしまった醜態のことを思い出して、なにかが閃いた気がしたまさにその時。



「なあ、この間は体調悪くて苦しそうなんだと俺は思いこんでたんだが…その愛人とやらとヤッた後だったんだろ?」

「…っ!」

「いや、愛人かどうかもわかんねえがな。男だったら見境無く誘って食い尽くすような淫乱な奴だっていう噂があるらしいじゃねえか」

あぁそういうことなんだなと、理解した。


「本当はここで俺が待ってたことなんかも全部計算で、誘ってんだろ?なあ?」


胸が酷く締め付けられるぐらいに、痛んだ。

誤解だとは言い難かった。シズちゃんが知ってしまったことは半分合っていて、半分ぐらいは違うのだが、どうせ真実を告げたところで些細なことだとあしらわれそうだった。
だいたい俺の言い分なんて、信じてさえもらえるか怪しいところだっていうのに。


四木さんは俺がまだずっとシズちゃんのことを引きずっているのを知っていたから、ここまでお膳立てしてくれたのだ。あの人なら笑いながらご褒美とでも言いそうだ。

どう見たって、後は乗るか反るかの状態だ。
むしろこのままなにもしなくても、向こうさえその気だったら事に及べるかもしれない。
誘うような言葉を掛ければより行為に確実性が増して、勢いのまま襲いかかってくるだろう。

すべて、わかってしまった。

けれど俺はどうしたらいいか、自分がどうしたいのか迷っていて動けなかった。
体は欲しているのか鼓動が早くなり疼きが酷くなってきたが、胸はぎゅっと締めつけられていて心は痛みを訴えていて、それぞれが全く噛みあっていない。
そして最終的に自分では到底決められそうになかったから、聞いてみることにしたのだ。


「シズちゃんは、どうしたい?」


期待と不安で押しつぶされそうなのは数秒だけだったが、それがやけに長く感じた。



「やっぱり誘ってんじゃねえか、そんな顔しやがって!!」

言い終わらないうちに俺の胸倉を掴み、締めあげながら顔を寄せてきた。それを見ながら、はじめてシズちゃんが自分の予想通りに動いたことに喜びを感じていた。

「バレ、た?」

掴まれたところが苦しかったが、平静を装いながらクスクスと小さく笑い声をあげた。
さっきの質問を投げかけた時点で、これまでシズちゃんには全く見せた事の無い、妖艶な笑みを作りあげてから尋ねたから、答えは決まっていた。

恋心だとか、辛いとか、悲しいとかそういう感情より、目の前にある淫らな行為を取った。間違っていたとしても、きっと熱がすべてを忘れさせてくれると思っていた。


震えそうになる手を握り締めて、指先を見せないようにしてから首筋に添えた。ぴたりと皮膚に当てると、やけに冷たく感じられたので俺のほうが火照っているのだろうと感じた。
ゆっくりと首元から顎にかけて人差し指一本でなぞりながら、これだけでいいのになと、ふれあっているだけで満足で幸せな気分に浸れるのにとため息を漏らした。
しかしそこに生暖かい息遣いが掛けられる、ということは誘惑してる証だった。

そのままの体勢でゆっくりと視線をあげて、しっかりと目が合った瞬間、唇を塞がれていた。

「ん、ふぅ…っ」

意識しなくても熱を帯びた声が唇の隙間からこぼれた。あっという間に舌が口内まで侵入してきたので、目を閉じてそれに応えた。

この間のふれるだけの子供じみたキスではなく、互いを求めるキスだった。



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