ウサギのバイク 流れる涙も 凍てついた胸も 30
2ntブログ
04≪ 2024/05 ≫06
12345678910111213141516171819202122232425262728293031
-------- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
| スポンサー広告 |
2010-06-04 (Fri)
静雄×臨也前提話

続き こんなことしたかったわけじゃねえんだよ

* * *

昨日までの出来事を振り返っている間にずっと臨也を抱いてなだめていたのだが、いつの間にか眠っていたようだった。とりあえずソファまで運んでそこに横たわらせた。
この数日の間に少しだけやつれたように見えて、疲れきって寝ている姿も痛々しいものだった。
起こすのも申し訳ない気がしたので、とりあえず風呂から洗面器に湯だけを張ってタオルを濡らして体を拭いてやった。
が、散々に弄くった部分をどうするかでかなり悩んだ。臨也の想像通りにセックスという行為自体がはじめてだった俺は、馬鹿みたいにそこに吐き出してしまったのだ。
怒りとか信じていたものに裏切られたような気分に勝手に陥っていて、歯止めがきかなかった。本当に最低最悪だった。
とりあえず出来る範囲でタオルで拭ってやったが、まだ中にはたっぷり残っている。しかし指で掻き出せば起こしてしまうことにもなりかねないしと思い、結局やめた。

「ったく、やっと会えたってのにしょうがねえな俺も……」

やっと衣服を着なおして一息つこうと煙草に火をつけながら、ぼんやりと呟いた。臨也が寝ているのとは反対側のソファに体を預けながら、疲れた体を休めることにした。
いつも喧嘩ばかりしている為か体力には自信があったが、微妙な眠気が疲労感を強めているようだった。
実は仕事が終わって毎日深夜に臨也の家に通い、そのまま外で待ち続け朝に自宅に帰ってから出勤するというのを繰り返していたのだ。
新羅に話を聞いたあの晩からなのだが、何処に行ったかの情報や足取りすら掴めていなかった。だからもうただひたすら待ち続けるしかなかったのだ。
それなのに。

「こんなことしたかったわけじゃねえんだよ」

ただ俺は真実を確かめて、違うよという言葉が欲しかった。それだけだったのに、願ったのとは逆の事を淡々と告げられて、更に神経を逆撫でされた気分に陥ったのだ。
臨也だっていつもは自分勝手で、人の感情を弄ぶような仕事をしているが、だからといって同じようなことをしていいわけがない。
いくら向こうに誘われたとはいえ人間として最低なことをしてしまったのだ、俺は。


「許してもらえるわけ、ねえよな?ただ話がしたかっただけなのによお…」


目が眠気で半分閉じかけながら、必死にこのまま寝入ってしまわないように煙草を味わっていた。
本人の口から直接聞いたが、臨也が自らすすんで性行為をしたとはどうしても考えずらかった。少なくとも俺に気持ちを告げて来た時のあいつは、そんなことはなかった。
誰にでも見境無く体を差し出すような、半端な考えなど微塵も無い瞳をしていた。
だから俺は、気になってしまったのに。
淫らな光景を目のあたりにしても、こんなのはあいつの本心なんかじゃないと、直感で感じ取っていた。


「だってあんなに…俺の名前呼んでたじゃねえか」


体を繋げていたら途中から気が触れたかのように、ただ俺の名前と淫らな言葉しか口にしなくなって正直焦った。
けれど名前を呼ぶということは、誰としている行為なのかわかっているのだと、だからおかしくなったとしていても大丈夫なんだと思っていた。
必死に離れようとせずにしがみつきながらねだってくる姿に、胸が苦しくなった。瞳では求めていなくても、心が訴えているような錯覚をおぼえた。
ただの都合のいい想像にすぎない話だったが、そうであって欲しいと願った。

「しかし問題はヤクザの愛人とやらの件だよな。流石に俺でもあんなのを敵に回すわけにはいかねえし」

新羅は噂になっている相手を知っているようだったし、同時にかなり危険だと釘も指された。すぐに殴りこみに行かなかったのはそのせいだ。
臨也とそいつがどういう経緯で愛人とやらになったが知らないが、自分の体の中に玩具を入れられても顔色を変えてなかったところをみると、了承はしているのだろう。
いくらなんでもあいつがあっさり許容するようには見えなかったが。ということはそれ自体が異常な関係であることを示していたが、証拠が何も無い。

「けど相手が悪すぎるってことで片付けられる問題でもねえしよ」

俺が人の恋愛に口出しするなんて有り得ない話だったが、臨也は俺が好きだと告白してきて、泣きそうな顔で助けを求めてきて、さっきは離れようとしなかったのだ。
あのひねくれ者が言葉にして言ってくるわけがない、だからこそこんなことになっているように思えた。

「クソッ、やっぱ俺だけが考えててもしょうがねえ」

体を起こしてポケットから携帯灰皿を取り出すと、残り少なくなって短くなった煙草の火を消して仕舞った。どうも頭で考えることは苦手だ。
だが何の考え無しではさっきみたいなことになる。それだけは避けたいなと思いながら、ソファに寝そべるとあっという間に意識がなくなってしまった。






「って、やべっ!」


寝入ってしまったのはほんの一瞬のことだと思っていた。けれど慌てて体を起こして臨也の寝ていた場所を見ると、姿がなかった。後悔するより先に動いていた。
臨也の家なんか入ったことが無いから手間取ったが、すべての部屋の扉を開けて姿が無いことを確認した。

「くそっ、マジかよ…」

探している間にだんだんと怒りが増してきて、当り散らしたい気分だった。もう一度臨也の寝ていたソファに近づいて、そこをさわるとまだ少しあたたかい気がした。
追いかけたらまだ間に合うかどうか考えかけたところで、ふとテーブルの上に目線がいった。

「あ?これ家の鍵か?」

そこには以前臨也が玄関を開ける時に使っていたカードキーと全く同じものが置かれていた。
どうしてこれがここに置き去りにされているかは、謎だ。スペアなのか本人が持っていたものなのかもわからない。
もしこれに意味があるのだとすれば、二度と自宅には戻らないということなのだろうか。
それとも助けて欲しいという意思表示なのだろうか。
とりあえずカードキーをポケットに入れて、チラリと窓の方を見ると完全に夜が明けていた。
暫くは迷ってはいたが、腹をくくるとズボンのポケットに入れていた携帯を取り出してある番号に掛けていた。数コールして相手が出た。


「あ、トムさんおはようございます。すいません、実はお願いしたいことがあるんですけど」


新羅にも連絡を取って協力して貰うようにしなければ、と思いながら耳を傾けていた。
でも実は俺に黙って勝手に出て行った臨也のことが、とにかく心配だった。

部屋の中を探し出す時に、どこかにあのバイブが落ちていないか確認しながら回っていたが見つからなかったのだ。
手で持って帰ったのならまだいいが、もしそれを体の中に入れたのだとしたら。しかも俺の精液が残ったままだとしたら。
それをあいつがわざと知っていて、やっていたら。
ヤクザの愛人とやらに見せ付ける為にそんな事をしていたら、臨也の身が危険すぎると思った。

ただの勘であって欲しいと、祈るしかなかった。



NEXT
| 小説 |