ウサギのバイク 遅れてきたクリスマス ②
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2010-12-25 (Sat)
静雄×臨也 

クリスマスに静雄とデートの約束して静雄が仕事で0時すぎてもこなくて泣く臨也の話 中編
前後編だったのにおかしいな終わらなかった…

* * * 今年のクリスマスイブは平日だから人も少ないだろうと思っていたのに、昼間から休日のように人で溢れ、そこら中がクリスマスムード一色だった。
赤や緑を基調とした紙袋を片手に、ニコニコと笑いながら歩く人々の中に俺も混じっているのだ。しかしまだ待ち人は現れない。
それでも同じように待ち合わせをしているだろう人が大勢いるので、別に苦痛ではなかった。こういう一見なんでもない時間が好きなので、悪くは無かった。
期待に胸を弾ませながら待つなんて、最高に楽しいとすら思っていた。
しかしそれも約束の時刻から1時間も過ぎたあたりから、期待から心配へと変わっていった。

(どうしたんだろう…携帯にも連絡ないし仕事が長引いてるのかな?)

シズちゃんの仕事は借金の取り立てなので、その日の状況によって仕事が終わる時間が変わることは多かった。だから約束に遅れることがあるのはある程度予想済ではあった。
それでもやっぱり時間通りに来て欲しかったのは確かで、期待が大きかっただけにガッカリ感は否めなかった。
まぁ俺にとって今の状況こそが奇跡みたいなものだから、これぐらいでは落ち込まないと、気を取り直して携帯を弄りながら待ち続けた。

そうして時刻が夜の11時を過ぎたあたりから、その待ち合わせ場所に立っている人々もまばらになり、逆に今度は一晩を共にするようなカップルだけしかいなかった。
さっきまでのワイワイと賑わっていた雰囲気から、照明も落ち綺麗なイルミネーション代わり大人のしっとりした雰囲気が街に漂っていた。

だから余計に一人で居ることが寂しく感じられたその時、まばらな人々の中で見知った相手を見つけて、その表情にこっちが驚いてしまった。

「いや、今日はよく会うね。どうしたの?」
「臨也」
「もしかしてクリスマスパーティはもう終わったの?随分と早い……」
「違うんだ。さっき一度買い出しの為に外に出て歩いてたら、見たんだ。その、勘違いかもしれねえんだけど、その……静雄を見掛けて」

ドタチンの口から出てきた言葉に、肩がビクッと震えた。直感的に嫌な予感しかしなくて、呆然としていると想像を上回ることを告げられた。


「俺の位置からだとはっきり見えなかったから静雄じゃないかもしれないんだが、金髪のバーテン服の男が…人気のない道で誰かと抱き合ってるのを見たんだ」


「へえ、そう…なんだ」
「それで慌ててすぐにここに来たんだ。だってお前の約束相手は静雄なんだろ?おかしいと思って……」

そのまま数秒沈黙が流れた。俺の心臓はバクバクと高鳴っていて、急激に沸いた不安に押しつぶされそうになっていたが、これ以上ドタチンを心配させたくなかったので笑って言った。

「大丈夫だよ。俺シズちゃんのこと信じてるし、仕事先でトラブルにあった女の子に抱きつかれてやむなくってことかもしれないし」

「そうか。お前がそこまで言うんならいいんだ。そうだよな、好きになった相手を信じてやらないとダメだよな」

俺がそう言うと少しだけ顔を綻ばせて、混乱させて悪かったとドタチンが謝ってきた。それに対して俺も、教えてくれてありがとうとだけ答えた。

「ほら、まだパーティの最中なんでしょ?きっとみんなドタチンがいなくなって驚いてるだろうから早く戻ってあげなよ」
「あぁそうだな。じゃあ行くな。その、あんまり無理はするなよ」
「はいはい。ほら早く」

ポケットに手を突っこんでにっこりと笑って急かすと、一度頷いてから慌てて元来た道を戻って行った。消えていく後ろ姿を見ながらもうこっちを振り返らなかったので、よかったと思った。


だって俺の顔は今、不安と悲しみと嫉妬でぐちゃぐちゃになっていて酷いことになっていたからだ。

信じてるだなんて、嘘だ。

シズちゃんのことを信じたいと思うのに、心の中は負の感情でいっぱいになっていた。
なんで俺との約束をすっぽかして女の人と抱き合っているのか、そっちから誘って期待させたくせに連絡の一つもしないのはそのせいなのかと。
ポケットの中で握っていたプレゼントの包みを、ぎゅっと握りしめて必死にやめろ、やめろと頭の中で叫ぶ。
こんな嫉妬心むき出しの自分は嫌だと、さっきまでのただ純粋にシズちゃんのことだけを考えている自分に戻りたいと思った。
このままじゃダメだ落ち着こうと一度反対側を向き、たまたま立っていた店の前のガラスに映る顔を眺めた。今にも泣いてしまいそうなぐらいに、酷く歪んでいた。

「だめだよ、これじゃあシズちゃんが今もしここに来ても俺顔合わせらせないよ」

もうとても笑えそうにはなかった。
結局予約していた店はすっぽかしたことになったし、泊まろうと思っていたホテルだってすっかりチェックインの時刻は過ぎている。

それでもまだ、手元には用意したプレゼントがあった。でもそれを持って一途に待ち続ける自分がバカみたいに思えてしまった。
なにが恋人同士なんだ、浮かれてたのは、そう思っていたのは俺だけだったんだと。
だってシズちゃんは一度も俺に好きだなんて言っていないし、誘いもしないし、何もしてこない。それはきっと俺に求めていることが、ないからなのだ。

「嫌ならそうだって言ってくれればよかったのに…別にやっぱり女のほうがいいならそれで、別れてあげたのに」

そう口にしたが、別れようと直接告げられるのも辛いだろうなと思った。どちらにしろ俺はもう傷つくしかなくて、それが悔しくてどうしようもなかった。
握っていたプレゼントの箱を取り出し、こんな意味のないものなんて、と手の中で握り潰そうとした。

「……っ、う」

でも寸でのところでそれができなくて、ぶるぶると震えてしまった。
ナイフで切り刻むか、地面に落として踏み潰すかしてしまえばすっきりするのに、頭の中では何度もそうしているのに実際には離せなかった。
まだわずかに残っている希望に縋ろうとしている自分も嫌なのに、迷ったまま動けないでいた。



「あのーすいません」


すると突然後ろから声を掛けられたので慌てて振り返った。そうして目に飛び込んできた光景に、息を飲んだ。
すっかり自分の世界に入っていて気がつかなかったが、いつの間にか俺の前に男が5人立っていた。しかもそいつらは一様に武器と呼べるような鉄の棒やナイフを持っていた。

「情報屋の折原臨也さんですよね?」

「あぁそうだけど、何かな?こんなクリスマスイブの夜に物騒なもの持って、悲しいと思わないの?こんな日ぐらい女の子の一人でも捕まえてデートしたほうがマシだよ」

そう挑発するように言いながら、内心俺自身にも言えることだけどと考えていた。もし俺が一人でなければ、こいつらにも会わずに済んだのだ。

「別にそんなことに興味はないんだよな。あんたを殴って金を貰う仕事をするほうが、ずっと有益なんだよッ!!」

突然大声をあげながら、そいつが手に持っていた棒を振り下ろしてきたので、すぐ右に飛んで軽々と避けた。するとそいつはそのまま店のガラスを破壊して、あたりにガラスの破片が飛び散った。
しかしそんなことには目もくれず、愛用のナイフを取り出して男達に切りつけようとして、できなかった。右手にはプレゼントの箱を握っていたからだ。
慌てて舌打ちをして、左側からナイフを出そうとしていると耳元でぶんっという風が空気を割いて近づいてきたので反射的に体を捩った。
するとそこに狙ったかのように他の男がナイフを振り回してきたので、素早く自分もナイフを取り出して応戦した。

「邪魔なんだよね、あんたら」

低い声でそう一言告げると、乱暴にポケットに箱を入れてナイフを持ち替えた。そうしてまず目の前にいた男のベルトを切り裂いた。するとそいつのズボンがストンと下に落ちて下着が顕になっていた。

「な、なんだとおおおおッ!!」
「ふざけんな、こいつ……!」

そうして次の男が二人同時に襲い掛かってきたのでそいつらにも同じことをしてやった。そんなに喧嘩自体は弱そうではなかったが、チンピラ風情には一番効果のある牽制だった。
最後に残り二人がバラバラに棒を持って殴りかかってきたので、口元をニヤけさせると振り上げられた棒が下ろされる寸前で一歩後ろに引いた。

「痛えええええッ!」
「うわああっ!」

お互いが殴り合うことになって、その場で二人がのたうち回り始めた。それからパンツ状態で呆然としている男へと言ってやった。

「連れて帰って手当してあげたほうがいいんじゃない?」

すると相手が悔しそうにしながらそれでも地面に転がっている男達に手を貸して、ズボンを必死に片手で押さえながら歩いて行った。戦力差を感じて引き下がるのは賢明な判断だった。
やれやれと息をつきながらナイフを仕舞って、そうしてポケットに入っていた箱を再度握りしめて一瞬顔を歪めた。

「覚えてろ折原ああああッ!」

その声が聞こえてハッとした時には、男が持っていた棒がこっちに向かって飛んでくるところだった。
しまったと思いながら体を捻ってギリギリのところで避けたが、変に避けたので足がもつれて、そうしてそのまま倒れてしまった。


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