ウサギのバイク 狂気の檻 ①
2ntブログ
04≪ 2024/05 ≫06
12345678910111213141516171819202122232425262728293031
-------- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
| スポンサー広告 |
2011-01-27 (Thu)
*リクエスト企画 虹飛様
静雄×臨也 ※今後の展開で18禁注意

静臨(恋人)でケンカをした後臨也がモブに拉致監禁され静雄が助けに行く話

* * *

「そんなに文句があるなら、自分で作ればいいだろ!あれこれ注文つけてきて何様のつもりだよ!!」
「うるせえッ!手前は黙って俺の言う通りしてりゃいいんだよ!味付けが嫌なら自分の分と別で作りゃいいだろうが!」
「なんでそんな面倒くさいことしないといけないの!ほんとシズちゃんってわがままだよね!自分勝手、横暴、馬鹿力!!」
「何気にひでえこと言ってくれるじゃねえか、ああッ!?」

会話だけを聞けば対等に喧嘩をしているように聞こえるが、実際は俺の体が壁に押しつけられて胸倉を掴まれている状態で、どちらかというと劣勢だった。
この時点でもう怒りは頂点を超えていて、今までだったらナイフを振りかざして応戦しているところだが、今はポケットにナイフすら忍ばせてはいない。
それどころか、場違いなピンクのエプロンを身につけて右手にはフライ返しを握っている始末だ。多分俺達の関係を知っている者が見たら、卒倒するだろう光景だった。

「だいたい卵焼き一つでそんなに怒るなんて、沸点が低すぎるんだよ。さすが喧嘩人形だよね」
「あのよお、俺にとって卵焼きがどれだけ大事か手前にはわかんねえかもしれねえが、これだけは譲れねえんだよ。わかったらベラベラ言ってねえでさっさと作れよ。じゃねえと殴るぞ」
「思い通りにいかなかったら暴力に逃げるなんて、人間として最低だよね。まあいいよ、これ以上シズちゃんにはつきあってられない。帰る」

目の前の相手を改めて鋭く睨みつけると、それまで掴んでいた両手を離してあっさりと解放してくれた。
少しだけ拍子抜けする反応に驚いたが、無駄口は叩かずにフライ返しをシンクに放って、エプロンを脱いでそのままゴミ箱に叩きつけた。
なるべく平静を装ってそうしたつもりだが、ガサッという音だけが響いてそれが酷く虚しく思えた。その時点でもう、やってしまったと後悔していたが後には引けなかった。
自分の言ったことを覆すだなんて、俺のプライドが許さない。罪悪感はあったが、絶対に謝らないぞと心に決めていた。
無言のままシズちゃんの傍を通ろうとして、唐突に右腕を掴まれた。そのことにドキッとしながら横を振り向くと、冷静に言われた。


「帰るんなら手前のもん全部持って行け。二度とここに来るんじゃねえ」


低い声でそう言われて、期待していた反応と違うことに心臓がズキッと痛んだ。
違う、違う、ここはごめんと言いながら抱きしめてくれればいいんだよ、それだけで俺はあっさり許すんだから、とは口に出して言わなかった。

確かに最近の俺は調子に乗っていた。両想いだったとか、恋人同士になったとか、それで浮かれていた。だから久々にこんなに冷たい言葉を聞いて、少し驚いているだけだ。
こんなのもほとぼりが醒めたら戻るだろうと、勝手に思った。
だから無言のまま、俺が持ってきた物、例えば歯ブラシとかシャンプーリンスに、下着やシャツに靴下ハンカチ、とにかく全部を引っ掴んでその辺に落ちていたビニール袋に入れた。

ここまできたらただの意地だった。

ビニール袋に入れながら、いつ謝ってくれるのかと待っていた。でもいつまで経ってもそんな気配は無くて、自分だけがズキズキと傷ついていった。
そうしてあらかた片付いたことを確認すると立ちあがり、最後にコートを引っ掴んでそのまま玄関に向かった。けれど後ろをついてくる気配はない。
いつもだったら、もう帰るのかと言われて後ろ髪を引かれながら軽くキスをして扉を開けるのに、当たり前だが今日はそれもない。本当に怒っているのだ。
なぜだか無性に悔しくて、何か言ってやろうとしたのだが結局言葉はみつからなかった。いつもはよく動く頭が、まるっきり鈍くなっている。
靴を履いて帰る準備が整ったが、一瞬だけ迷った。このまま暫く会えないのではないかとふと思ってしまったのだ。
けれどもそれを振り切るように一歩踏み出してドアに手を掛けると、素早く開いて乱暴にわざと音を立てながら閉めた。
そうしてそのまま階段を駆け下りて、シズちゃんのアパートから必死に離れた。離れて、離れて、そうして息が苦しくなった時には自分の自宅兼事務所に辿り着いていた。

「はぁ、はぁ…くだらない」

冷静になってみると、内容が内容だけに全身から力が抜けていた。あれだけ苛ついていたはずなのに、今は不安の方が強かった。
些細な喧嘩は多かったが、ここまで決裂したのは結ばれてからは初めてだったのだ。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせてみるものの、まるで説得力がなかった。どうしてあんなことを言ってしまったのか、今ではその気持ちすら思い出せない。
ちょっと俺が譲ってあげればいい話だった。そうしたら今頃、いつも通りに朝食を食べていたのかもしれないのだ。

「バカだよね、俺も」

盛大にため息をつきながら、忘れようと足を踏み出した。けれどもそれから二週間過ぎても、お互いに連絡はおろか、池袋に行っても会えず仕舞いだった。



「ちょっと出掛けてくる。後はよろしく波江」
「わかったわ。今日こそは会えるといいわね、仕事のミスが続いてこっちもそろそろうんざりしてきているから」
「会えるかどうかは俺にはどうしようもできないんだって。まぁいいや、何かあったら連絡してくれよ」

扉を閉めながらそう言ったが、きっと何の連絡も無いだろうとわかっていた。最近の俺にとっての重要事項は、完全にシズちゃんだった。
だから波江が外出している俺に緊急連絡してくるとしたら、事務所に押し掛けられた時だけだった。それ以外は教えなくていいとまで言ってある。それぐらい頭の中は占めていた。
たった二週間だったが、やはりもう何百回もあの日の事を後悔しているし、思うように情報屋としての仕事さえできなくなっていた。
そのこともあったので暫くは量も控えて、俺はシズちゃんを探すことに専念していた。何度も池袋に行って情報のあった場所を歩き回るだけなのだが、未だ姿さえ見つけられずにいた。
それはつまり、明らかに避けられているのだ。

(もしかして試されてたのかな?卵焼きの話はきっかけに過ぎなくて、ずっと別れるきっかけを探ってたとか…もう俺のことは好きじゃないというか、始めから嫌いだったとか、そんな…)

信号が青になるのを待っている間に、そんな考えが頭をよぎったがすぐに変わってしまったので、振り切るように歩き出した。

考えてもきりがないのだ。俺を嫌いになる要素なんて山ほどあるし、逆に未だに好かれているという確信は何一つ持てなかった。
言葉という記憶しか残っていない。だって俺がシズちゃんとつきあっていた痕跡の物ですら、持って出ていけと言われたのだ。
プレゼントを贈り合ったこともなかったのだ、何もないのだ。
好きと数回言われた思い出しか、今の俺にはなかった。

(こんなんでよくつきあってたなんて言えたよな。本当に浮かれてるっていうか、何も見えてなかったんだな俺は)

何度目かになるため息を止めて、小走りになった。
とりあえず今日向かった場所は新羅の自宅だった。これに関しては、本人からこっそりと連絡があったから間違いない。シズちゃんが来ていると新羅からメールが入ったのだ。
会ったら当然こっちから謝るつもりだった。ごめん、と一言謝罪すれば機嫌を直してくれるのではないかとまだ希望を抱いていたのだ。
シンプルな言葉こそが、シズちゃんに届く。

しかし息を切らせながらマンションに辿り着いたというのに、悲しそうな顔をした新羅が出迎えただけだった。中にも気配は無いようだった。

「なんとか引き止めようとしたんだけど、用事を思い出したって言って慌てて飛び出して行ったよ。きっと静雄は何か気がついたんだろうね。ごめん」
「いや…新羅が謝ることじゃないからいいさ」
「とりあえず、せっかく来たんだから中に入るかい。話だけでも聞いてあげるから」

お互いに気まずい雰囲気だったが、無言でうなずくとそのまま中に入っていった。玄関に入った瞬間に、ふわっと嗅ぎ慣れた煙草の香りがして胸が締め付けられそうなぐらい痛かった。
どうしてあと少し待ってくれなかったのか、慌てて飛び出すほど会いたくないのか、と眉を潜めながら部屋に入っていった。
これで完全に、シズちゃんに避けられているということがわかった。もう謝っただけでは許して貰えないのではないかという不安で、心が押しつぶされそうだった。

| 小説 |