ウサギのバイク LOVE ELECTRON DRUG ②
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2011-02-04 (Fri)
*リクエスト企画 アッシュ 様
静雄×臨也+サイケ ※今後18禁の展開があります

静臨前提でブラックでヤンデレなサイケが電子ドラッグを使って臨也を襲い静雄が助けに来る話
サイケは臨也が大好きで静雄が嫌い 臨也が割と酷い目に遭います

* * *


「はぁ?消えたってどういうことだ?」
「俺にもよくわからないんだけど、危険なファイルが届いたから解析していてそれで臨也くんとの電話を切った直後に目の前で跡形もなく消えたんだよ。さわってもいないし、何の操作もしてないんだけど勝手になくなって、それでその…それっきり」
「跡形もなくねえ…まぁファイルが届いた証拠すらないんじゃ俺にもどうしようもないしね。そんなに怒ってないから、怯えなくていいよサイケ」

あれからすぐ事務所に戻り出迎えてくれたサイケは、目に涙を浮かべながらオロオロと困った表情をしていた。俺が怒ると思ったのだろうが、それを見て怒鳴り散らすほど無神経ではない。
なによりも、シズちゃんに酷い言葉を投げかけられ、ちっぽけな心がナイフで切り刻まれたかのように痛んだ直後だったので、同じことをするはずがなかった。

「ごめん、なさい……」
「だからもう謝らなくていいって。それより今日は疲れたから、もう休むよ。引き続き警戒してくれればいい」

諭すように優しく声を掛けたつもりだったが、サイケの表情は変わらず曇ったままだった。きっと与えられた仕事がきちんとできなかったのが、悔しいのだろう。
そういう意地っ張りなところは、俺なんかとよく似ているのかもしれないとふと思った。
さっき最初にシズちゃんに声を掛けられた時に、疑わずに頷いていたとしたら今頃どうなっていただろうかと考えてため息をついた。ほとんと無意識だったが、それをどうやら見られたらしい。

「臨也くん…どうしたの?なんか元気ない?もしかして、池袋でシズちゃんに会ったの?」
「まあ君に嘘ついてもしょうがないし、データを確認したらわかるから正直に言うけど、そうだよ会ったんだよ。相変わらずだったさ」

さすがに変なことを言われた件については、黙っておいた。俺にだってあの言葉の意味がわからないというのに、サイケに詰め寄られたらたまったものではないと思ったからだ。
いくら高性能なアンドロイドであっても、恋愛相談をしたいだなんて思ってはいない。確かに人間と同じように感情は存在していたが、すべてはデータ化されたものだ。
あんな本能だけでしか行動しない奴のことを言ったとして、どんなすごいコンピュータでも答えは出せないだろう。それぐらい規格外の存在だ。
サイケはいつもデータでしかシズちゃんのことを知らないので会ってみたいと言っているが、実際会わせたとして相容れないだろうことは間違いない。
そういう意味で、俺とサイケは似ているのかもしれない。性格は全く違うけれど、根本は俺のデータを使っているので兄弟のようなものだと捉えていた。

「また何か言われたの?シズちゃんに苛められた?臨也くんかわいそう?」
「あー…不本意だけどそうかもしれないね。少しだけ落ち込んでるよ。慰めてくれるかな?」
「いいよ!いつもの子守唄でしょ?」

所轄は睡眠誘導BGMみたいなものだったが、得意だと豪語するだけあって、同じ声質であってもサイケと俺のものはまるっきり違った。
眠れなくて困っている時に気まぐれに頼んでみたら、これがもう驚くぐらい効果があって、仕事の疲れも恋の悩みも忘れそうになるぐらい深く眠りについた。
だから難しいことをあれこれ考えるのはやめて、今日もお願いしようと思ったのだ。少しでも傷ついた心を回復させて、再びシズちゃんに会った時に平気な顔ができるように。
シズちゃんの大嫌いな折原臨也を、演じる為に。

「あ、そうだ。新しい曲をダウンロードしたんだけど、それを歌ってみてもいいかな?」
「いつの間にそんなことしてたんだ?まぁいいか、聞かせてよ」

来客用のソファの上に寝そべって、今にも眠れますというリラックスした体勢をとると、ニコッと柔らかく微笑んでから聞かせて欲しいとお願いした。


「じゃあ俺の歌を聞いてね」


言った直後にサイケの体が淡くピンク色に光り、ヘッドフォンの周辺から聞こえてきたメロディに、ゆっくりと歌が乗せられていく。
初めて聞く曲だったが、ワンフレーズ聞いただけで覚えるぐらい単純なメロディだった。けれども奥が深くて、なかなかおもしろい曲だった。
段々と心と体の中に染みこんでいって、すぐにうとうとと眠りの世界に誘われた。夢の中に意識が落ちていく寸前に、穏やかな声が聞こえた。

「何もかも忘れて、全部忘れて、おやすみ」



ポケットに仕舞っていた携帯のバイブの振動で目が覚めた。慌てて届いたメールを確認すると、仕事のもので慌てて起きあがり事務所のパソコンを起動した。
まだ少し頭が寝ぼけたままキョロキョロと部屋の中を見渡すが、サイケの気配が無くて不思議に思った。しかしいちいち気にすることもなかったので、画面に向かって急ぎの仕事を始めた。
とりあえず一段落したところでふとソファの方を見ると、いつのまにかそこに座っていて俺は驚いてしまった。

「あれっ、サイケ居たんだ?」
「やだなあさっきから居たけど?そうだコーヒーでも入れようか」
「いや…もう一度寝なおそうかな。なんか、眠く…て」

ついさっきまで誰も居なかったはずなのに、ニコニコと上機嫌に笑いながら元気に返事をするサイケが居て一瞬戸惑った。
けれど勘違いかとすぐ思い直し、ふと眺め直した瞬間にどうしてか眠気が襲ってきた。まるで強制的に薬でも嗅がされたみたいで、どうしたんだろうと思いながらもう一度ソファの方に歩いて行った。
するとすぐにサイケが俺の手を取り、どうぞと言いながら場所を譲ってくれた。いつの間にか毛布が用意されていた。まるでこうなることが、わかっていたかのようで。
何かが致命的におかしいような錯覚に囚われたが、その思考を中断するかのように強制的に瞼が薄らと閉じていった。

「ごめん…仕事の時間になったら起こしてくれるかな?」
「いいよ俺ができるようだったらこっちで処理しておくから、臨也くんはゆっくりと眠っていてよ」
「じゃあそうさせて貰おうか、最近疲れてたし…」

飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら話をしていたが、徐々に自分と全く同じその声がどんどんと遠くなっていく。このままじゃダメだとなぜか自分の内側から警報が鳴っていたが、抗えなかった。
ほとんど夢うつつの状態だったが、唇を動かしてさっきから気になっていたことを尋ねてみた。

「そういえば、どうして…俺は…寝ようと思ったんだ、っけ…?寝る前にどうしてた、かが…思い出せ、なくて…」

たどたどしい口調だったが、声を喉から絞り出して問いかけた。ほとんどその意味さえわかっていなかったが、仕事をしながらずっと疑問に思っていたので自然と口から出た。
何度思い返しても、寝入る前の数時間の記憶が靄がかかったかのように曖昧になっていて、怪訝に思っていた。人間よりも、誰よりも信頼できるアンドロイドに答えを求めたのだ。けれど。


「思い出さなくていいよ?また歌ってあげるから、暫く…おやすみ」


その言葉の意味がまるで理解できないまま、聞き覚えのあるメロディが耳に届いてきて、確かにこの曲には覚えがあることを自覚した。
あたたかくて、心地が良くて、安らいで、気持ちがいいと幸せな気分に変わった時には、それまで考えていたことがすべて吹き飛んでいた。悩んでいたことさえも忘れたのだ。

「大丈夫苦しいことは何も考えなくてもいいように、してあげるからね臨也くん。大好きな、大好きな臨也くん」
「サ…イケ…?」

優しく頭を撫でられるような気配がして、その行為がまるで誘うように眠りの世界へと堕ちていった。
けれども俺は、ソファに入った時からズボンのポケットが震えていることには気がつかなかった。携帯のバイブの振動が全く伝わらず、鳴っていることも教えてはくれなかった。

「これはもう必要ないから」

寝入った相手の髪をゆっくりとさわると、さらさらと流れてとても綺麗だった。そうして反対側の手でポケットの中を探り、未だに振動を続ける携帯を取り出した。
画面に表示された名前を確かめてから電源ボタンに手を伸ばした。そうしてすべてを落とすと、部屋の中は完全に静かになった。


「楽しいなあ、楽しいなあ、これで臨也くんはもう俺のもの。もう誰にも邪魔されない、俺のもの」


謳うように楽しげに言葉を紡ぎながら、さっきまでついていた机の上のパソコンを一瞬で起動した。当然のことながら、彼に変わって仕事をする為だった。
常に傍に居て後ろで見守っていたから、同じようにこなすのは簡単だった。


「これからは俺と楽しいことしよう?もうシズちゃんのことで悩まなくても、苦しまなくてもいいから、もっと楽しいこととか……気持ちいいことを、しよう?」


主に声が届かないのをわかっていながら、話し掛けるのはやめられなかった。これから二人ですることを想像して、顔が自然と綻ぶのを感じていた。
パソコンのディスプレイに映った瞳は、いつものピンク色ではなくぼんやりと淡く真っ赤に光っていて、警告するかのように暗闇でも存在を主張しているようだった。


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