ウサギのバイク 遅れてきたクリスマス ④
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2011-02-08 (Tue)
静雄×臨也 

クリスマスに静雄とデートの約束して静雄が仕事で0時すぎてもこなくて泣く臨也の話
遅れすぎてすみませんでした…!

* * *


「本当は怪我をした手前を新羅に診せるのも嫌だった。あの場所で待っていてくれた間に襲い掛かってきた奴らも殴りてえし、仕事相手だろうと俺は嫉妬するんだ。お前はねえのか?」

次に俺はどうかと聞かれて、一瞬答えに詰まってしまった。あからさまに固まって気難しい表情を浮かべながら、言うべきか迷っていたのだ。
ドタチンから聞いたんだ、実は女の人と抱き合っているのを見たって。
堂々と女の人とのことを尋ねればよかったのだが、俺にはそんな勇気が全くなかった。怖かったのだ、そうだと頷かれるのが。

「あるなら別に言ったって怒らねえし、逆に嬉しい」
「嬉しいって、嫉妬されるのが?それまたどうして、おかしいでしょ?」
「それだけ相手の事を本気で愛してるから嫉妬するんだろうが。だからどんどん嫉妬すりゃいいと思ってんだよ俺は」

その言い分には本当に驚かされてしまった。確かに嫉妬するのは愛している証拠でしかなかったのだが、本当に本心を言っていいのかどうか迷ってしまった。
嫉妬なんてみっともないという考えがどうしても離れなかったからだ。しかし耳元に口を近づけてきて、低い声で全部教えてくれと言われればそれまでだった。

「じゃあ言うけど…その、今日池袋で女の人と抱き合ってるのを見たって知り合いがネットの掲示板で言ってたんだけど、本当かなって、その…」

さすがにそのままを言うわけにはいかなかったので、その知り合いがドタチンであることと直接見たとまで言われたことだけは黙っておいた。
お互い数秒黙り込んで、静かな時間が流れたがそれを破ったのは向こうの方だった。

「多分そりゃ本当だ。最後の取り立て相手で手こずって、その時に助けてやった女が急に抱きついてきたと思ったら倒れやがったんだよ。そのまま救急車で病院まで運んだというか、付き添ったんだ」
「なるほど、じゃあ病院内では電話もできなかったし、その女の人が目を覚ますまで待ってたんでしょ。優しいねやっぱり」

勇気を出してよかったと思えるほど、シンプルな理由だった。辻褄もあっているし、なによりシズちゃんが嘘なんてつけるわけがないのだ。だから丸ごと全部受け入れることにしたのだ。
頬を緩ませて、今度こそ本当に心の底から微笑むと、向こうは驚いていたようだった。

「なんで笑ってんだよ手前は」
「え?だってやっぱり俺の思った通りだったから嬉しかったんだって。シズちゃんをちょっと見直した」
「おい嘘を言うなって。怒っていいって言ってんだろうが、怒れよ」
「怒られないから不満なの?あ、ははっ…ほんとおもしろいねえ!」

なぜか俺が褒めれば褒めるほど不機嫌になっていって、最後には怒れよと迫ってきたのだ。その様子が心底おかしくて、笑い声をあげてしまった。
二人の意見が合わないことぐらい昔から知っていたけれど、ここまできっぱりと違うなんて思わなかった。
俺はシズちゃんに捨てられるかもしれないのが怖くて何も言えなかったけど、鬱陶しいぐらい問い詰められて嫉妬された方が向こうにとっては嬉しくて。
シズちゃんは俺に怒られるのを覚悟で恋人を後回しにしたことを言ってきたけど、こっちは逆にその行動が嬉しくて見直した。

これではお互いに、すれ違って当然だった。

「何を笑ってやがんだよ。どこがおかしいのかさっぱりわかんねえ」
「いやあ、ある意味仲がいいのかもしれないね。これだけ真逆だったらさ。ところでさあ、シズちゃんちょっと俺のコート取ってくれない?」
「血だらけになってたから洗濯してやろうと思ってたのに、なんだよ?」

渡すなら今のタイミングだと悟った俺は、着ていたコートを取って貰いそれを受け取りながら、勝手に中身を探られなかったことに安堵した。
そうしてゴソゴソとポケットを探り、昨日渡す筈だったそれを差し出した。


「ちょっと遅れちゃったけど、はいこれクリスマスのプレゼントだよ」

「は……?」


しかしシズちゃんは呆然とそれを見つめたまま、固まっていた。きっとこういう反応をするだろうとは思っていたが、まさに予定通りだった。
もし順調にいけば景色のいいホテルでシャンパンを片手に乾杯して、ケーキを食べようかというところで渡したかったのだが。それはもう来年にでも取っておけばいい。

「おい待てよ。お、俺はなんも用意してねえ……」
「うん、そうだと思ったから俺は用意したんだよ。別にお返しを貰おうとかそういうのじゃなくて、ただシズちゃんのびっくりする顔が見たかっただけ」

そうは言ったが、内心は心臓がバクバクと高鳴っていて少しだけ緊張していた。幸いにも綺麗にラッピングされた箱には汚れはついていなくて、包帯の巻かれた手で少しだけ強引に渡した。
突き返されるとは思っていなかったが、気にいってくれるかどうか心配でもあった。しかし俺の考えていることなんかまるっきり吹き飛ばすように、大きな腕が伸びてきてそのまま抱きこまれた。

「えっ…うわっ!な、なに!?」


「くっそ、ふざけんな勝手にこんなの用意しやがって……嬉しいじゃねえか。おら、これ受け取れよ」


「は…?」

突然眼前に突き出された赤と緑のリボンが施された小箱に、度肝を抜かれた。一瞬思考が停止して、何のことか全くわからなかった。するとすぐ傍から、ククッと笑い声が聞こえてきて我に返った。
まさに今俺がシズちゃんにしたことと、同じことをされたらしい。

「用意してねえわけがないだろ?」
「どうして?シズちゃんらしくない」
「んなのどうでもいいじゃねえか。俺も手前のびっくりした顔がみたかった、それだけだ」

まるっきりさっきの俺の言葉を言い返されて、絶句した。自分がしたことを、同じようにされるとは考えられなかったので心底驚いたのは事実だった。
でも嬉しい。本当に嬉しかった。こんな風に嬉しい不意打ちを食らうなんて、俺は幸せだと思った。
ほんの数時間前まで絶望的な気持ちで、惨めったらしく待ち続けて一人きりな上に怪我までしてしまった自分が大嫌いだったが、そんなことは小さいことだったと実感した。
あんなにも悩み続けたことが嘘のように、あたたかい時間だった。
朝から随分と長く待っていたが、そんなことはもう気にならないぐらい感動していた。すると。


「悪かったなずっと待たせて。朝から……待ってたんだろ?」


「えっ、え、ええっ?な、んでそれ知ってる…の?あれ?」

唐突に耳元で囁かれて、かあっと頬が熱くなった。やけに焦ってしまって、口調が変になってしまった。慌てる頭でそのことを知っている一人の人物の顔が思いついてしまった。
今日俺が何度も会った相手は、彼だけだった。

「門田から何回かメールが入ってたんだよ。だから仕事も今日は朝から急いで全部終わらせて、夕方前には行くつもりだったんだよ。それこそ昨日は早く終わったのに、ほんとついてねえ」
「まあ確かにドタチンなら優しいからそうしてくれるだろうね。しまったな、顔なんて合わせるんじゃなかった恥ずかしい…」
「恥ずかしくねえよ。すげえかわいいって思ったし、そんな手前を一日に何度も見たっていう門田にすげえ嫉妬したぞ俺は。病院で待ってる間もイライラしてて、自分で決めたこととはいえ何度後悔したかわかんねえ。ずっとこうやって抱いて喜ばした時のことばっかり考えてた」

そこでもう一度ぎゅうっと腰を抱かれて、おもわず肩がピクンと跳ねた。その拍子に持っていた箱が手から離れてしまってベッドの上にポトリと落ちた。
慌ててそれを拾おうとしたが、不意に顎の辺りに手が伸びてきて何事かと戸惑った瞬間には唇を塞がれていた。

「ふ……っ、うぅ、んはぁ……あ、シズちゃん?」
「中身は後にしろ。先に俺の一番欲しいプレゼントをくれよ。俺もお前にやるから」
「プレゼント交換ね。いいよ、あげるよ。だから俺にもちょうだい?」

お互いに何が、とは言わなかったが伝わったことだけは確実だった。ふわりと笑いかけると、くしゃりと手で頭を撫でられてそれがくすぐったくて目を細めた。
そうして目を瞑ると、再びあたたかい感触が唇に与えられて気持ちが昂ぶってきた。

少し遅れたけれど、俺は一番欲しかったプレゼントを手に入れることができた。それが、シズちゃんとの最初のクリスマスの思い出だった。


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