2011-03-15 (Tue)
*拍手連載
静雄×臨也
臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らす話 切ない系
* * *
「ん……?」
部屋の中で誰かの気配を感じたので目元を擦りながら上半身を起こしてそっちを見て、そこでドキッとしてうろたえてしまった。
「うわっ、し、シズちゃん……!」
「なんだ手前寝ぼけてんのか」
「あ、あぁそうだったね。一緒に住むことにしたんだよね、すっかり忘れてた、はは」
本当は忘れてなんていなかった。こんな大事なこと忘れるわけがない。でもこれまでの俺の心が、一瞬この現実を受け入れるのを拒否してしまって、嘘だこれは夢だと勝手に解釈したのだ。
体に染みついた習慣で、シズちゃんは敵だという警戒心とあまりにも普通に存在していたことに戸惑ったのだ。始めからこれではダメだと内心毒づいていた。
浮かれているのは、俺だけだ。向こうは多分何も考えていない。とりあえず警戒心はないけれど、完全に心を許したわけでもないのだ。ただの同居人でしかない。
「なんだ、こんなところで寝てたのか?」
「まぁ仕事してたしほんとは徹夜でもするつもりだったんだけど、ちょっと仮眠するぐらいならここでいいかなって」
「ああ?仕事って辞めたんじゃねえのか」
「だから、辞めるための色々な手続きとかそういうのをしていたの。こういうのは早いほうがいいだろ?」
ソファからゆっくりと立ちあがって話をしながら、とりあえずコーヒーでも入れようかと台所へ向かおうかと思ったのだが背後から声を掛けられた。
「おい、言ってたよな手前。人の役に立つような仕事とかなんとか。ありゃ、本気か?」
「本気だよ?まぁ仕事と言っても情報屋を辞めても他にまともに金を稼ぐ方法はいくらでもあるからさ。まぁでも人の役に立つような仕事をお金を取ってするのかと言われたら困るからさ、とりあえず情報屋は辞める。それで俺の知り合い限定で彼らの役に立つような相談ごととか、乗ってあげればいいかなって思ってるんだけど」
「そうか、それができるっつうんならやってみろ」
俺が一通り話をしている間も、眉一つ動かさずに静かに聞いていて最後には他人事のようにそう言われた。そうかこれは、まだ全く俺の事は信じていない、信じる気なんてないのだなと悟った。
だいたい俺のことを好きになってもらう、という願いが叶うわけないと思ったのは、随分とシズちゃんが遠いところにいるからだ。
信頼関係どころか敵対関係から始まって、どうやって最終的に俺のことを好きになるのだろうかと。今の時点でそんな要素はまるっきり無い。
それを作りあげていくのが俺の残された時間でやらなければいけないことなのだが、これでは前途多難だと感じた。
人の気持ちを変えるのは、難しい。きっとこのまま俺が直接何かをしても、きっとシズちゃんを変えることはできない。他人の力を借りないと、できないのだ。
今まで俺は一人でいることに何の不自由も無かったし、そういう風に生きていくと決めた。でも今回ばかりは、駒ではなく俺の願いを叶える為に他人と関わらなければいけなかった。
だって俺は何でもすると決めたのだから。
シズちゃんがきっかけで、他人と交流するというのも悪くは無いのかもしれない。もっともそれは、最初から俺の力では無いのだが。
「まあなるべく早く終わらせるからさ、待っててよ。それにいつまでもこんな生活してるの嫌でしょ?俺と一緒なんて」
「手前の考えてることにつきあうって話だから、別に嫌じゃねえ。どっちでもいい」
俺と一緒にいるのは嫌じゃない、と言われた時は少し胸が弾んだが、その後にどっちでもいいと言われてがっくりとした。嫌われてるよりマシだが、その反応は微妙によろしくない。
「でもさあ…その、す、好きって言った相手と毎日生活するなんてさあ、微妙な気分じゃない?」
「そりゃ最初は驚いたけどよお、好かれるのは悪くねえよ。むしろずっと嫌いなんて言ってたのは手前じゃねえか。全部をすぐ水に流すことはできねえけど、俺も努力する。しっかし急に好きって言って、そんなに俺と友達にでもなりたかったのか?」
「あー……あぁ、そう、そうなんだ。シズちゃんと友達になりたかったんだ。俺って友達少ないからね」
まさか、とは思っていたが完全に当たっていた。
俺がシズちゃんに対して言った好きという言葉は、通じていなかった。これでは、今まで”嫌い”と言ってた感情が”好き”だったというぐらいにしか考えていないだろう。予想が当たって涙が出そうだ。
二日目にして、俺は完膚なきまでに振られたのだ。同姓として好きなんだ、とは今更言えない。やっぱりどんなに俺が頑張っても、友達として好きになってもらうことが限界なのだ。
頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けたが、気が抜けてしまった。妙に緊張していた気持ちが、全部なくなった。
こうなったら、シズちゃんに友達として好かれようと、すぐに気持ちを切り替えた。やることは変わらないし、時間は無いのだから。
「俺だって友達なんていねえよ」
「はあ?何言ってるのさ?君はあんなに人に囲まれて好かれてるのに、ほんとに気がついてないの?でもすっごい鈍感だってわかったし、ありえる話だよね」
「ちげえよ。こうやって一緒に住むほどの友達なんていねえって意味だ。まだ臨也のことは認めてねえけど」
「うんそうだね。認めてもらえるように、頑張らないとね」
鈍感だとは思っていたけれど、正直ここまでとは予想していなかった。途中で無理矢理話題を擦り変えたけど、あの様子だと好かれていることも友達だと思われていることも気づいていないだろう。
それを聞いて、あることが閃いた。最後に友達として最高のプレゼントをあげるつもりでいたけれど、付け加える必要があるなと考えた。
「なんだよ、ニヤニヤして気持ち悪い」
「もう失礼だなあ。あのさ、友達だって認めてくれた時には俺からプレゼントをあげるよ。これまでずっと一緒だったんだから、何が欲しいかなんて知ってる。だからできれば、受け取ってね」
「よくわかんねえけど、変なもんじゃなけりゃあな」
「ありがと」
話をしながら、自然と笑いがとまらなかった。きっとシズちゃんは、そのプレゼントを貰ったらびっくりする。でも絶対に拒否しないことぐらいは、知っていた。優しいから。
きっとシズちゃんは仇敵だった俺に対しても、優しくしてくれるはずだから。それがわかってて贈るなんて卑怯な話なのだが、それぐらいは許してくれるだろう。
「よし、なんかやる気出てきたなあ。頑張ろうっと」
「頑張れよ。じゃあ俺そろそろ仕事行ってくるわ」
「え?シズちゃんって朝ご飯食べないの?あんだけ動き回ってるのにお腹空かないの?」
「いやコンビニでパンでも買って事務所で食べるわ。夜も外で食べてくるし、飯ぐらいは自分でなんとかする」
シズちゃんに頑張れよ、なんて言われて一瞬動揺したのだが、もう仕事に行くと言い出して慌ててしまった。しかも晩御飯もいらないなんて、そんなに気を遣わなくてもいいのにと思ったが黙っておいた。
まあ俺も忙しいといえば忙しいし、この調子だと今すぐは無理でもそのうちご飯に誘ったら一緒に食べてくれるようになるかもしれない。
だって友達になるのだから、それぐらいは普通のはずだ。
「あ、そうだ待ってよ!これ鍵だから、なくさないでね」
玄関に向かって歩き出した後ろ姿を呼び止めて、ポケットから事務所の鍵を取り出して渡した。スペアではない、本物の方だ。こっちを渡すべきだと思ったから、そうしただけだった。
だって俺が死んでしまったら、ここはもうシズちゃんのものになるよう手配はしてあるから。他にも山ほどしなければいけないことがあるのだが、一つ一つやっていこうとため息をついた。
「じゃあ気をつけて、いってらっしゃい」
「あぁ」
そう軽く声を掛けると、ぶっきらぼうな返事があって俺は嬉しかった。扉がパタンと閉まるのを見送った後も、暫くその場に立ち尽くして余韻に浸っていた。
ばっさりと振られはしたけれど、まさかいってらっしゃいなんて言って普通に返される仲になろうとは思わなかったのだ。人生何があるかなんてわからない。それが嬉しかった。
「頑張れって、言ってくれたしね。ほんとに優しいなあ、大好きだよ」
俺がシズちゃんのことを同姓として好きなことには変わりはないが、友達として接すると考えると随分と楽に思えた。そこまで意識する必要もない。
胸が高鳴ったり、些細なことで傷ついたりするけれど、今回の事がなければ味わうことができなかった感情だ。だから俺は幸せだと思った。
何年も殺伐とした関係を続けるなんて、もう嫌だ。だからこっちを選んでよかったと納得させて自分のパソコンの前に戻った。
死ぬのと同じぐらい、心を痛める出来事があるなんて、その時の俺は考えてもいなかった。目の前のわずかな幸せに縋るのが、精一杯だった。
※続きの4話目は拍手に載ってます PCだと右側の拍手の方です
静雄×臨也
臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らす話 切ない系
* * *
「ん……?」
部屋の中で誰かの気配を感じたので目元を擦りながら上半身を起こしてそっちを見て、そこでドキッとしてうろたえてしまった。
「うわっ、し、シズちゃん……!」
「なんだ手前寝ぼけてんのか」
「あ、あぁそうだったね。一緒に住むことにしたんだよね、すっかり忘れてた、はは」
本当は忘れてなんていなかった。こんな大事なこと忘れるわけがない。でもこれまでの俺の心が、一瞬この現実を受け入れるのを拒否してしまって、嘘だこれは夢だと勝手に解釈したのだ。
体に染みついた習慣で、シズちゃんは敵だという警戒心とあまりにも普通に存在していたことに戸惑ったのだ。始めからこれではダメだと内心毒づいていた。
浮かれているのは、俺だけだ。向こうは多分何も考えていない。とりあえず警戒心はないけれど、完全に心を許したわけでもないのだ。ただの同居人でしかない。
「なんだ、こんなところで寝てたのか?」
「まぁ仕事してたしほんとは徹夜でもするつもりだったんだけど、ちょっと仮眠するぐらいならここでいいかなって」
「ああ?仕事って辞めたんじゃねえのか」
「だから、辞めるための色々な手続きとかそういうのをしていたの。こういうのは早いほうがいいだろ?」
ソファからゆっくりと立ちあがって話をしながら、とりあえずコーヒーでも入れようかと台所へ向かおうかと思ったのだが背後から声を掛けられた。
「おい、言ってたよな手前。人の役に立つような仕事とかなんとか。ありゃ、本気か?」
「本気だよ?まぁ仕事と言っても情報屋を辞めても他にまともに金を稼ぐ方法はいくらでもあるからさ。まぁでも人の役に立つような仕事をお金を取ってするのかと言われたら困るからさ、とりあえず情報屋は辞める。それで俺の知り合い限定で彼らの役に立つような相談ごととか、乗ってあげればいいかなって思ってるんだけど」
「そうか、それができるっつうんならやってみろ」
俺が一通り話をしている間も、眉一つ動かさずに静かに聞いていて最後には他人事のようにそう言われた。そうかこれは、まだ全く俺の事は信じていない、信じる気なんてないのだなと悟った。
だいたい俺のことを好きになってもらう、という願いが叶うわけないと思ったのは、随分とシズちゃんが遠いところにいるからだ。
信頼関係どころか敵対関係から始まって、どうやって最終的に俺のことを好きになるのだろうかと。今の時点でそんな要素はまるっきり無い。
それを作りあげていくのが俺の残された時間でやらなければいけないことなのだが、これでは前途多難だと感じた。
人の気持ちを変えるのは、難しい。きっとこのまま俺が直接何かをしても、きっとシズちゃんを変えることはできない。他人の力を借りないと、できないのだ。
今まで俺は一人でいることに何の不自由も無かったし、そういう風に生きていくと決めた。でも今回ばかりは、駒ではなく俺の願いを叶える為に他人と関わらなければいけなかった。
だって俺は何でもすると決めたのだから。
シズちゃんがきっかけで、他人と交流するというのも悪くは無いのかもしれない。もっともそれは、最初から俺の力では無いのだが。
「まあなるべく早く終わらせるからさ、待っててよ。それにいつまでもこんな生活してるの嫌でしょ?俺と一緒なんて」
「手前の考えてることにつきあうって話だから、別に嫌じゃねえ。どっちでもいい」
俺と一緒にいるのは嫌じゃない、と言われた時は少し胸が弾んだが、その後にどっちでもいいと言われてがっくりとした。嫌われてるよりマシだが、その反応は微妙によろしくない。
「でもさあ…その、す、好きって言った相手と毎日生活するなんてさあ、微妙な気分じゃない?」
「そりゃ最初は驚いたけどよお、好かれるのは悪くねえよ。むしろずっと嫌いなんて言ってたのは手前じゃねえか。全部をすぐ水に流すことはできねえけど、俺も努力する。しっかし急に好きって言って、そんなに俺と友達にでもなりたかったのか?」
「あー……あぁ、そう、そうなんだ。シズちゃんと友達になりたかったんだ。俺って友達少ないからね」
まさか、とは思っていたが完全に当たっていた。
俺がシズちゃんに対して言った好きという言葉は、通じていなかった。これでは、今まで”嫌い”と言ってた感情が”好き”だったというぐらいにしか考えていないだろう。予想が当たって涙が出そうだ。
二日目にして、俺は完膚なきまでに振られたのだ。同姓として好きなんだ、とは今更言えない。やっぱりどんなに俺が頑張っても、友達として好きになってもらうことが限界なのだ。
頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けたが、気が抜けてしまった。妙に緊張していた気持ちが、全部なくなった。
こうなったら、シズちゃんに友達として好かれようと、すぐに気持ちを切り替えた。やることは変わらないし、時間は無いのだから。
「俺だって友達なんていねえよ」
「はあ?何言ってるのさ?君はあんなに人に囲まれて好かれてるのに、ほんとに気がついてないの?でもすっごい鈍感だってわかったし、ありえる話だよね」
「ちげえよ。こうやって一緒に住むほどの友達なんていねえって意味だ。まだ臨也のことは認めてねえけど」
「うんそうだね。認めてもらえるように、頑張らないとね」
鈍感だとは思っていたけれど、正直ここまでとは予想していなかった。途中で無理矢理話題を擦り変えたけど、あの様子だと好かれていることも友達だと思われていることも気づいていないだろう。
それを聞いて、あることが閃いた。最後に友達として最高のプレゼントをあげるつもりでいたけれど、付け加える必要があるなと考えた。
「なんだよ、ニヤニヤして気持ち悪い」
「もう失礼だなあ。あのさ、友達だって認めてくれた時には俺からプレゼントをあげるよ。これまでずっと一緒だったんだから、何が欲しいかなんて知ってる。だからできれば、受け取ってね」
「よくわかんねえけど、変なもんじゃなけりゃあな」
「ありがと」
話をしながら、自然と笑いがとまらなかった。きっとシズちゃんは、そのプレゼントを貰ったらびっくりする。でも絶対に拒否しないことぐらいは、知っていた。優しいから。
きっとシズちゃんは仇敵だった俺に対しても、優しくしてくれるはずだから。それがわかってて贈るなんて卑怯な話なのだが、それぐらいは許してくれるだろう。
「よし、なんかやる気出てきたなあ。頑張ろうっと」
「頑張れよ。じゃあ俺そろそろ仕事行ってくるわ」
「え?シズちゃんって朝ご飯食べないの?あんだけ動き回ってるのにお腹空かないの?」
「いやコンビニでパンでも買って事務所で食べるわ。夜も外で食べてくるし、飯ぐらいは自分でなんとかする」
シズちゃんに頑張れよ、なんて言われて一瞬動揺したのだが、もう仕事に行くと言い出して慌ててしまった。しかも晩御飯もいらないなんて、そんなに気を遣わなくてもいいのにと思ったが黙っておいた。
まあ俺も忙しいといえば忙しいし、この調子だと今すぐは無理でもそのうちご飯に誘ったら一緒に食べてくれるようになるかもしれない。
だって友達になるのだから、それぐらいは普通のはずだ。
「あ、そうだ待ってよ!これ鍵だから、なくさないでね」
玄関に向かって歩き出した後ろ姿を呼び止めて、ポケットから事務所の鍵を取り出して渡した。スペアではない、本物の方だ。こっちを渡すべきだと思ったから、そうしただけだった。
だって俺が死んでしまったら、ここはもうシズちゃんのものになるよう手配はしてあるから。他にも山ほどしなければいけないことがあるのだが、一つ一つやっていこうとため息をついた。
「じゃあ気をつけて、いってらっしゃい」
「あぁ」
そう軽く声を掛けると、ぶっきらぼうな返事があって俺は嬉しかった。扉がパタンと閉まるのを見送った後も、暫くその場に立ち尽くして余韻に浸っていた。
ばっさりと振られはしたけれど、まさかいってらっしゃいなんて言って普通に返される仲になろうとは思わなかったのだ。人生何があるかなんてわからない。それが嬉しかった。
「頑張れって、言ってくれたしね。ほんとに優しいなあ、大好きだよ」
俺がシズちゃんのことを同姓として好きなことには変わりはないが、友達として接すると考えると随分と楽に思えた。そこまで意識する必要もない。
胸が高鳴ったり、些細なことで傷ついたりするけれど、今回の事がなければ味わうことができなかった感情だ。だから俺は幸せだと思った。
何年も殺伐とした関係を続けるなんて、もう嫌だ。だからこっちを選んでよかったと納得させて自分のパソコンの前に戻った。
死ぬのと同じぐらい、心を痛める出来事があるなんて、その時の俺は考えてもいなかった。目の前のわずかな幸せに縋るのが、精一杯だった。
※続きの4話目は拍手に載ってます PCだと右側の拍手の方です