ウサギのバイク リセット 4
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2011-03-19 (Sat)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らす話 切ない系

* * *

「おかえり、今日はもう帰って来ないかと思ったけど」
「んなわけねえだろ。急に飯に誘われたんだから、しょうがねえだろ。あぁだりい」
「ははっシズちゃんお酒弱いっていうかビール一口でも辛いなんて可哀そうだよね。待ってて水持ってくるから」

時刻はもう日付が変わる一時間も前で、本当に今日はここには来ないのではないかと思っていたので驚きながら出迎えた。インターフォンが鳴った時は、心臓に悪いと思うほど驚いた。
正直に、シズちゃんの仕事場からこの新宿の事務所は離れているし、わざわざ来る義理なんてなかった。それでも、約束は守るだろうしと考えながら待ち続けてこんな時間だった。

少しだけほっとして、嬉しかった。

見るからに体調が悪そうなのに、律儀にここに帰って来るなんて本当にシズちゃんらしい。そんなことを考えながら台所から水を持って戻ると、大きなソファに横になり呻っていた。
なんだか不思議だなと一瞬だけ見とれたが、すぐにコップを手渡して飲むように促した。上半身だけ起こしてそれを受け取り、焦点の定まらない瞳でチラッとこっちを眺めた後に一気に煽って飲み干した。
どうして俺の事を見たのだろうかと考えたが、昨日まで喧嘩をしていた相手からこんなことをされたら確かにびっくりするかもしれない。まだ警戒はされているし、そういうことだ。
友達への道もまだまだ遠いなと、思った。

「とりあえずソファで寝るんじゃなくて上で寝なよ。俺もまだ仕事あるし、パソコンの音だってうるさいからさ。ほら肩貸してあげるから」
「ここでいい。つーか仕事ってまだやってんのか。手前も寝りゃいいだろうが」
「いや、昼間も結構問い合わせとかすごくてまだ事務処理も終わってないし一人でするのは大変なんだって。それに今すごい面白いことになってんだよね」

このままの勢いだと寝てしまいそうだったので、とりあえず左腕を取ってソファから起こそうとした。俺よりもシズちゃんの方が背も高いし、体も大きいので大変そうだったが二階に連れて行こうと思ったのだ。
いざという時に聞かれたく内容もあったから、というのが本音だったが、ここまで帰れたのだから上にあがるぐらい問題ないだろうと思ったのだ。
とにかく立たせようと肩を掴みかけて、逆にこっちの肩が少しだけ力を入れて掴まれて驚いた。

「面白いことってなんだ。手前がすることはロクでもねえからな」
「心外だなあ大したことじゃないよ。ただ情報屋を突然辞める理由が思いあたらなくてさ、しょうがなくてそのまま言ったんだよね」
「そのまま?なんだそりゃ」
「多少脚色させて貰ったけど、平和島静雄に事務所を壊滅的なぐらい壊されてしかも軟禁状態だから、今後仕事はできません。辞めます、探さないで下さい、危険ですってね」
「ああっ!?なんだそりゃ!!」

そのままを話すと、急に眉間に皺を寄せて怒鳴った。みるみる顔が怒りに変わっていって、まあ想定の範囲内だったので特に焦りもせずに冷静に眺めた。
本当はもっと別の理由だっていくらでもあったのだが、これが世間的にもちょうどよかったのでそうした。平和島静雄と折原臨也が一緒に居るということを世間的にも知っておきたかった。
仕事相手からの反応は様々だったが、ネットでの噂を見るとこの選択がいかによかったのか、理解できた。
俺の噂もシズちゃんの噂も元々いいものはなかったが、二人がいがみ合っていたことを知っている者が多かったので、概ね平和島静雄が折原臨也を倒したことを喜ぶ者の方が多かった。
池袋の喧嘩人形は怖いが、あんな悪者を退治してくれたのなら称賛すると。人間というのは善悪はっきりさせたがるし、そういうヒーロ的存在や偽善行為に感動しやすいのだ。
だからこっちが操作しなくてもあっという間に噂は広まり、同時に事務所に駆け込んで来る者も全くいなかった。わざわざ危険に飛び込んでくる馬鹿者なんて、そうそういる筈がない。

「すごくいい手だったんだけどね。これでシズちゃんは悪者を倒した正義の味方だよ。人気出ちゃうかもしれないね」
「んな嘘ついてどうすんだよ!」
「いや、ある意味嘘はついてないよ。二人で一緒に居るわけだし、俺も仕事は辞めるっていったんだから事務所を壊されたようなものだろ?言い方が大事なのさ」

一応宥めてはみたものの、殴られるぐらいなら覚悟しようと思っていたのでそのままの姿勢で待った。
こんな時でも、顔一つ分ぐらいの距離にシズちゃんが居て、そのことに内心ドキドキしていたなんて言えはしなかったけれど。どう反応をするのだろうと見つめていると、急に目の前で盛大なため息を吐いた。

「くそっ、なんか丸め込まれてる気がするけどそれならもういい。悪さをしてるようじゃなけりゃどうでもいい」
「じゃあいいの?俺とシズちゃんの変な噂が流れるかもしれないけどいいの?」
「あぁ?別に俺と手前がどんな関係だって他人から思われても俺達は変わらねえだろ。俺は手前を全部まだ信用できねえし、そっちだってそう思ってるだろ」

口の端に薄く笑いを浮かべながら意地悪く言ってしまうのは、もう性分だった。だから怒られると思ったのに、それ以上声を荒げることも手をだすこともなかった。
もう興味がないみたいに告げてきたことに、少しだけ心の中がもやっとしたのでわざと挑発するようなことを言ってみた。でもそれが、自分の首を絞めた。
全部まだ信用できていないとはっきり言葉にされて、それ以上はさすがに言わなかったけれど今後も信じる気はないみたいな雰囲気を感じ取った。
そんなことは感づいていたけれど、わざわざ教えてくれなくったってよかったのに。気分が落ち込みそうだったが、俺の今の気持ちを包み隠さず口にした。

「俺はシズちゃんを信じてるよ。昔からずっと、今だって」

好きだから、好きだったからとはさすがに言葉にださなかったけれど。

「その割には嘘ばっか言ってたじゃねえか。何度も俺を怒らせて、嵌めて、いがみ合ってた癖に何が信じてるだ」
「うん、だから俺は、シズちゃんが俺を信じないって信じてた。今まで絶対に許さないだろうし、きっと最後までわかりあえることなんてできないだろうって信じてる。そういう意味の信じてるだよ」
「なんだそりゃ」

俺の事を信じないことを、信じてるなんて悲しい話だ。でもそれが、これまで俺がシズちゃんに対してしたことの正当な考えだとわかっていた。

だから俺は、叶うはずのない願いを求めたのだ。

いつか、それは俺が生きている時には絶対に叶えられないかもしれないけど、信じて欲しい、少しでも好きになってくれたらという気持ちで。
必死に心の中でそう願いながら見つめていると、何かを感じてくれたのか肩の力を緩めて少しだけ脱力して床を見つめてボソリと呟いてきた。

「手前の言うことは、俺には全然わからねえ。だからわかりやすく、嘘をつかねえと約束しろ。だったらこっちだって、多少は信じてやってもいい」
「偉そうだねえ、でもいいよわかった。俺はもうシズちゃんに嘘はつかない。これでいいだろ?」
「いいか、一度自分で言ったことは責任もって守れよ。破った時は手前をぶちのめすし、どうなってもしらねえからな。もう嘘をつかない奴だって、証明してみせろ」
「うん、守るよ」

全く動揺せずに、それまでの表情を保ちながら、早速俺は嘘をついた。

いや、本当はもう嘘なんてつく気もなかったし、さっきみたいに言い方さえ変えればいくらでも大丈夫なのだが。俺はきっと、最後に嘘をつく。それだけは確定していたから、悟られないようにした。
もし俺が嘘をついていたとしても、それに気がついた時にはきっともうどうしようもなくて、だからこっそりと心の中でごめんね、とだけ呟いた。

「嘘をつかないし、誰かの為に役に立つ仕事だってちゃんとする。だからいつかは、俺の事を信じてね。まあ俺は強要したりはしないけど」
「そうだな、早くそうなりゃいいなって思ってる。俺だって、喧嘩なんてせずに穏やかに暮らしたいってこれまでもずっと願ってたからな」
「何言ってるのさ、今だって充分俺と喧嘩さえしなければ穏やかじゃないか。もう願いなんて叶ってるだろ」
「そうか、喧嘩もしてねえな。まあ俺だって丸腰の相手に本気で暴力振るったりはしねえ。仕事以外はな」

俺の願いに比べたら、穏やかに暮らしたいという願いなんてとても簡単に叶うのに、と思っていたが確かにああいう仕事をしていればなかなかそれが達成できない。
納得しながら、今度こそ心からの笑みを浮かべて言った。

「じゃあいつか、その願いが叶うといいね」

シズちゃんが喧嘩もせずに、取り立て屋なんていう辛気臭い仕事も辞めて、どこかの田舎で一人過ごす姿を思い浮かべた。
前にいろいろ調べた時に、将来は静かな田舎で過ごしたいなんていう話を耳にしたので、本当にそうなったらいいなと心から願った。俺は見ることはできないかもしれないが。

「…なんか手前がそういう事を素直に言うのが、すげえむず痒いな。でも悪くねえ」
「そう?じゃあよかった。本当に」

なんだか居心地悪そうに目線を逸らしながら、それでもはっきりと言ってくれて俺は嬉しかった。
信じないとは言っていたけれど、悪くないと思ってくれているのならそれだけで満足だった。大嫌いな奴から、まだちょっと嫌いだがそうでもないかもしれない奴に変化したことは大きかった。

そんな些細な心境の変化が、俺にとってどれだけ希望なのかシズちゃんは知らないだろうけど。

鼻の奥が痛くなるのを必死に堪えながら、もう一度腕を掴み直して起きあがらせようとした。するとあっさりと従ってくれて、俺の体に少しだけ体重を掛けてきた。
ふらふらとした足取りであらぬ方向を見ながら歩き始めて、今顔を見られたらヤバイなと苦笑しながら二階の俺の部屋まで連れて行った。


※続きの5話目は拍手に載ってます PCだと右側の拍手の方です
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