ウサギのバイク リセット6
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2011-03-27 (Sun)
*拍手連載
静雄×臨也

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らす話 切ない系

* * * 俺が次に事務所に帰ったのは、二日後の昼頃だった。フラフラになった体を引きずりながら、コートを脱ぐこともなくむしろいつもよりきっちりと着込んで、本棚の一番下の扉から毛布を引っ張り出した。
最近はもう自分のベッドはシズちゃんが使っているので、夜中に仮眠を取る時の為に置いているのだ。結局なんだかんだで理由をつけて、あれから一度も自分のベッドで寝てはいない。
元々上にあがるのが面倒でソファで寝ることも多かったので、特に気にしてはいなかった。だから今日も、少し仮眠のつもりでソファまで運び靴を脱いですっぽり被って目を瞑った。
昨晩はホテルに泊まったが、熟睡できなかったので、やっぱり知った場所が一番だなと思いながら意識を飛ばした。



「おい、起きろ!」
「んっ…え?」

肩を揺さぶられたのでゆっくりと瞳を開けると、鮮やかな金色の髪が目に飛び込んできて心の底から驚いた。かろうじて変な声が出るのだけは免れたが、目の前に顔のドアップがあったのだ。
寝起きでこんなのを見せられて、動揺しないわけがない。バクバクと煩く鼓動し続ける心臓のあたりを無意識に右手で掴みながら、言葉を絞り出した。

「ちょっと、近いって…な、なに?どうしたの、っていうかまだ夕方だよねえ?あれ?」
「急に回収相手が夜逃げしやがって、俺らの仕事が無くなって早めにあがりだったんだよ。つーか顔すげえ白いぞ、大丈夫か?」
「えっ、え?ごめん、ちょっと意味がわからないんだけど…なんでシズちゃんが俺のことを心配してるの?」

近いと言ったらすぐに顔をどかしてくれたが、ソファの真横に座り込んで視線を合わせながら話をしてくる。しかも信じられないことに、大丈夫かと問われたのだ。あの、シズちゃんに。
いつも無神経に自販機投げてきたり、怪我を負わせても平気な顔をしていた、シズちゃんが。混乱しないわけがなかった。

「あのな、病人心配して何が悪いんだよ。そんなに声掛けられたくなけりゃ、真っ青な顔して寝るなよ。びっくりしたじゃねえか」
「あぁ、いや俺もまさかもうシズちゃんが帰ってくるなんて思わなかったから…」
「おいまだ寝てろ。別に起きろって言ったんじゃねえよ。だから顔色悪くなって無理するほど仕事すんじゃねえって言ってんだよ、わかんねえか?」
「…うん」

あまりのことに目をパチパチ瞬かせながら、これは夢じゃないよなと何度も言い聞かせた。慌てて上半身を起こそうとして手で遮られて、またそこで思考がフリーズした。
意味が解らなくて軽く返事をすることしかできなくて、どこか頭でも打ってしまったのかと真剣に悩んだ。じっと見つめていると、居心地悪そうに眉を潜めた。

「先に俺に言ってきたのは手前だろうが!酔っぱらった俺を介抱したり、こっちがどういう気分だったかやっとわかったかよ!!」
「切れられても困るんだけど…そうか、そうだったたよね。びっくりしたよ、シズちゃんが頭おかしくなったのかと本気で心配しちゃった」
「聞き捨てならねえ言葉だけどよお、とりあえず今日のところは殴るのはやめてやるよ。くそっ、慣れねえことはするんじゃねえな」

酔っぱらって介抱した時のお礼で心配してくれるというのなら、納得がいった。だってそういう理由がないと、シズちゃんが俺に声掛けるなんてありえない。案外律儀だなと思うと楽しくなった。
体は疲れていて、正直話すのもだるいぐらいだったけど、気分は高揚していた。だから勢いにまかせてしゃべり始めた。

「えーでもシズちゃん仕事の後輩にもそれぐらい声掛けてるし、先輩にだって気遣いしてるでしょ?弟くんにもテレビ見た後には小まめに心配メール送ってあげてたり、運び屋にだってよく会ってて、意外と世話焼きタイプだと思うんだよね。あぁ、当然俺以外にだけど」
「手前は…調子乗りやがって。つーか、なんだその嫌味は!褒めてるようにしか聞こえてねえぞ」
「素直に受け取っていいんだって。褒めてるんだよ?だって俺、シズちゃんのこと好きだし」

自分でもこれはちょっと言いすぎだ、やめろと頭の中では声がするのに、止められなかった。昨日あった嫌なことをすべて忘れようと必死で、取り繕う口はベラベラと動いた。
挙句に臆面もなく好きだと口にして、その後一人で照れてしまった。バカだな、恥ずかしいなと。シズちゃんが受け取る好きという意味と、俺が言う意味は全く違うのに。

「あのなあ、それ門田にもよく言ってんだろ。ちょっと優しくされただけで、好きとか言うのかよ」
「なんで急にドタチン?あぁそうか、確かにドタチンはすごく優しから大好きだよ。俺のこととか全部わかってて甘やかしてくれるからね。でも安心してよ、友達って意味だし。シズちゃんはまだ俺の事を認めてないから、早くスタートラインに立たないと…」


「なあ、なんか焦ってねえか臨也」


そこでいきなり、確信を突いてくるような一言を放った。しかもなぜか不機嫌そうな顔をしていて、表情は真剣だった。まぁいつかはバレるだろうと思っていたけど、あまりにも早すぎてびっくりした。
焦ってしまうのはしょうがない。時間は刻一刻と迫ってきているし、計画だって順調なのだ。俺が死ぬ為のお膳立てだって、もうできているのだ。

長いようで短い、俺に残された時間はあと十日だった。

時間的には俺がシズちゃんに信頼されて友達だと認められるのは死んだ後なので、そこは問題ない。たった十日で信頼されるような出来事なんて残せないだろうし、大丈夫だと思っていた。
でもこういう俺にとって都合の悪い勘というのは、本当によく働くらしい。さすがというべきなのか、もうここまできたら何も言えなかった。

「そりゃあ、だって早く認めてもらいたいじゃない?」
「ちげえよ。手前それだけじゃねえだろ。急に仕事止めるなんて言いだして、好きだって、一緒に暮らすって普通に考えたらおかしいだろ。何かあるとしか思えねえ、本当はどんなことを隠してやがんだ」

そこでハッと我に返った。どうして俺が一緒に暮らすなんて言ってあっさり頷いたのか、朝と夜に顔を合わせるだけなのに律儀に家に帰って来るか。それはつまり、俺を監視していたのだ。
何かを隠しているのに感ずいて、自分の目の届くところで見守り阻止しようとさえ考えているのかもしれない。認めるとか認めないとか、友達とか、そんなものはただの後付けの理由でしかない。
本当はきっと、それらはどうでもいいのだ。


「すげえ嫌な予感がすんだよ。だから俺はその妙な胸騒ぎつうか、それを知りたいんだよ」


最初に告白した時から、俺の計画の一端を感じ取っていたというのだ。だからその本当の意味が知りたくて、それでこうして向こうだって優しくしたり、近づいてきたりしたのだ。
さっきまでの浮かれた気分がさあっと引いていって、急に胸が締め付けられるほど痛くなった。さっきはいい意味でドキドキしたのに、今は全く逆だった。

「わかったよ。じゃあ約束しよう、十日後に俺のしていた事とか全部白状するよ。だからそれで、許してくれないかな?」
「十日後に何か起こるって言ってるようなもんじゃねえか。阻止しろってことか?」
「違うよ、だから俺は何もしないって。ただ純粋に、シズちゃんに認められればいいなっていうだけ。嘘はつかないって言っただろ」

少しだけ冷静になった頭で、期限を指定した。言わなければ、きっと引き下がらないと思ったからだ。明確な条件を提示しないと、納得するまで問い詰めてくるのだ。
じっと見つめながら、気持ちは悟られないようになんでもない振りをした。そうして数秒睨み合っていたのだが、先に向こうが折れた。

「まあ病人相手にする話じゃねえな。いいからまだ寝てろ。飯とか食ってねえならなんか作ってやるぞ」
「ねえ、そんなに俺顔色悪い?まあ正直なんか食べたい気分じゃないから気づかいはいいよ、ありがと」

さっきまでだったら、大喜びで食べれなくても頑張る勢いだったかもしれないが、とてもそんな気分にはなれなかった。がっかりしながらそう告げると、今度は向こうが怪訝な表情をした。
何か変なことでも言っただろうかと見あげれば、またじっと見つめられた。そうして、俺にとってはとんでもないことを言いだした。

「明日休みなんだよ。だからよお、一日つきあえ。仕事とやらは休みにして、どこにも行くな」
「は、俺?なんで?」
「いいからそうしろってんだよ!どうせそんな状態で無理しても相手に迷惑掛けるだけだろうが。いいから休みだ。早く起こすからな!」

突然怒鳴り始めたシズちゃんに驚きながら、俺は頷くしかなかった。まあ確かに一日ぐらいなら体調悪いと言って休んでも問題は無い。本当はあまり一緒に居るべきではなかったが、しょうがなかった。
確かに言っていることも間違っていないし、ここ数日徹夜ばかりだったし食事もまともにしていなかったから、ちょうどいいかもしれない。
いくらこれから死ぬとは言っても、十日は残ってるのだ。こんなところでダウンしている場合ではない。

「病人に早く起こすって、それはないと思うけどね」
「うるせえな。つーかさっきから思ってたんだけどよお、部屋の中でコート着込むぐらい寒いなら暖房入れりゃいいだろ。それ脱げよ」

唐突に告げられた言葉に、思わず過敏に反応してしまった。そんなつもりはないのに、どこまで見られているのかと思うと冷や汗が垂れたからだ。
必死に取り繕いながら、面倒だからいいとだけ告げた。そうして寝るからと頭から布団を被ろうとしたのだが。


「おい、待てよ!」


突然右の手首を掴まれて、ハッとした。慌てて布団の中に隠そうとしたのだが、びくともせずにそのまま問い詰められた。

「ここに跡あるじゃねえか。これどうしたんだ?」
「昨日の仕事で揉めたんだよ。その時にちょっと、ね。相手に危害は加えてないし、これぐらいシズちゃんに強く掴まれてもできるだろ?だから」
「でも今までは無かったじゃねえか」
「ああそれはね、今までだったらナイフでグサリで一発だったからね」

わざとシズちゃんの大嫌いな凶悪な笑みを浮かべて、喉の奥から笑い声を漏らすと一瞬で気配が怒りのものへと変わった。このまま殴られでもしたらマズイとは思っていたがそうはならなかった。
呆れたようにため息をつきながら、乱暴に手を離してくれたのだ。だから俺は慌てて布団の中に戻して、隠した。だってこれ以上問い詰められたら、体中にある跡のことを知られてしまうからだ。

「勝手にしろ。とにかく明日は、逃げんなよ」
「はいはい、逃げないから」

明日は首元まで隠れる服を着ようと決めて、それから今度こそ布団を被って目を閉じた。すぐに睡魔がおとずれてきて、意識がなくなった。


※続きの7話目は拍手に載ってます PCだと右側の拍手の方です
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