ウサギのバイク リセット10
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2011-04-12 (Tue)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らす話 切ない系

* * *

喧嘩をしている二人が一緒に過ごしていて、楽しいわけがない。かろうじてあれから言い合いにはなっていないが、空気は重いものだった。こんな筈ではなかった、というのが正直な感想だ。
前のようにソファの上に並んで座っていて、テレビ画面には幽くんが出演している人気ドラマが映っていて。内容は全くわからなかったが、ちょうどラブシーンなことだけは確かだった。
男女が抱き合っているというありがちな場面で、面白くもなんともなかったが暇だったので見る振りをしている。でも話している言葉などは一切頭には残らなかった。
チラリと横目でシズちゃんを見ると、心なしか涙ぐんでいるように見えて俺は驚いてしまった。確か話は女性の方が重い病気で、余命は…というありきたりなものだったのだがどうやらそれに感動しているらしい。

「ジロジロ見んじゃねえ」
「あぁいや、ごめん…うん」

そう言った声が少しだけ震えているように聞こえて、俺はドキッとした。泣いているわけではないが、目の端に涙がたまっているようにキラキラ光っていた。
やっぱりシズちゃんはこういうのに弱いんだな、と思いながら急に落ち着かない気分になった。なんとなく想像してはいけないと思っていた、俺の死んだ後の姿が浮かんだ気がしたからだ。
それを夢想するのは、正直に楽しい。俺の事を想って泣いてくれるのか、とかそれとも平気な顔をしているのかとか。
あまりにも卓越しすぎてしまって自分の死をネタにしてあれこれ考えられるほど、俺はここ数日で図太くなっていた。ジタバタしてもしょうがないし、後には引けないからなのだが。
この調子だったら、俺のことで泣いてくれるんじゃないかな、と自分に都合のいい事を考えながら真横が気になってしょうがなかった。
やがて引っ張った挙句にエンディングに入ったドラマに対して、シズちゃんが深く呼吸をしてほっとしている様子が伝わってきた。死ぬ展開を少しだけ先延ばしにされたのだから。
半分以上ドラマの展開が読めていた俺は、早送りのボタンを押そうと手を伸ばし掛けて、しかしリモコンを取り落してしまった。

「なあ、手前だったら…もし自分があと数日の命だって知ってたら、どうする?」

「え……っ?」

派手な音がしてリモコンが叩きつけられたが、俺は何も考えられなかった。ただ心に浮かんだのは、どうしてそんなことを聞いてくるのかという気持ちだけだった。

「こいつは好きな相手に言って二人で乗り越えることにしたけど、手前は…」
「な、んでそれを俺に聞くの?シズちゃんだったら逆にどうするのさ?」

喧嘩していたことなんかまるっきり忘れて、真剣な表情で尋ねてくるのが、酷く残酷だと思った。どうして、なんで、今それを、俺に聞くのかと。まともに答えられるわけがないのに。
だから逆手に取って聞き返してやった。言いたくないことは逆に相手に聞いてはぐらかすのが、俺の常套手段だったからだ。

「俺は言うな。こいつと同じことをする。でもなんつーか、手前だったら逆だろうなって勝手に考えちまって」
「えっと…なんでそこで俺のことが出てくるの?っていうかどっちだっていいじゃないか」

動揺が悟られないようにするのが精一杯だった。向こうは何も気がついてはいない。俺の計画も知らないし、完璧なのだ。だから動揺するなと必死に言い聞かせた。
そうしてどっちだっていいと曖昧に答えたのだが、それに対する返事はなかった。それは画面が切り替わり、さっきの続きが始まったからだ。

大した意味なんてない。ただの数秒の時間の繋ぎの、ちょっとした疑問だ。でも俺とは反対の意見のシズちゃんの言葉が、俺がしていることは間違っていると言っているようで、胸が苦しくなった。

「だいたいシズちゃんが誰かを好きになるなんて、そんなこと今の俺には想像できないな」
「うるせえな、もう黙ってろ」
「はいはい」

正直な気持ちだったのだが、軽くあしらわれてしまう。テレビに集中したいということだろう。俺にはシズちゃんが誰かを好きになるところは想像できないが、それでよかったとも思った。
これから先の人生で、きっとそういうことは必ず起こる。俺はシズちゃんしか愛せなかったけど、シズちゃんはきっと誰かを愛せる。俺なんかを忘れて、愛することがきっとできる。
でもそれを見ることなく、逝けるのは俺にとって嬉しいことだ。俺の中ではずっと、シズちゃんは俺だけのもので、誰のものでもなくて。

もう一つの選択肢を選んでいればきっと、見届けなければいけなかった。それは、死ぬよりも辛いことかもしれないとも。
テレビの中ではクライマックスで、病気で死にかけている女性が相手の男性に向かって必死に手を伸ばし大丈夫だと気丈に振る舞っているところだった。
もし、何らかの確率で俺とシズちゃんが恋人同士になっていたとしたら、これと同じことが起きたのだろうかと。ふと思った。好きな相手と離れ離れにならなければいけないのは、悔しいだろう。
それが幸せであれば、幸せなほどだ。だから俺達はただの友達でもなくて、一方的に俺だけが想っている状態でよかったなとも。好きな相手に死なれるなんて、残して逝くなんて辛いだろう。
だからこれでいいのだ。俺は、これでよかったのだ。タイミングの悪いドラマを見てしまったけれど、なんだか落ち込んでいた気分が少し晴れてきた。俺のしてきたことは間違っていないと。

例え、シズちゃんにとっては間違っていようとも、俺が満足していればそれでいいのだと。
さすがにこの場面で横を見て泣いているところを見るのは悪い気がしたので、それ以上は気にしないように画面に見入った。鼻を啜る音がやけに耳の奥に残った。



既に俺の起きた時間が昼前だったので、寝ている間に買っていたというパンを軽く摘まんで、隣でシズちゃんは勝手に自分でラーメンを作り食べた。
一応どうかと聞かれたが、インスタント食品はちょっとと言ったらそれ以上は返ってこなかったのだ。けれども晩御飯のハンバーグの材料は買っておいたから、それは作れとだけ告げられた。
そんなことを覚えていたのかと俺は言いたかったが、きっとその為だけに休みなんてわざわざ取って、喧嘩相手と過ごしているのだと察した。だいたい、シズちゃんの考えることは単純なのだ。
まだ少し怒っている様子だったが、ドラマを見て泣いた後あたりからはもうそんなことは忘れてしまったかのように普通に振る舞われた。きっと思い出せば怒るのだろうが。
結局前と同じように特別なことをするわけでもなく、幽くんが出演したバラエティまでだいたい見終わったところで、そろそろ夕飯という時間帯だった。
そろそろ作るからとだけ声を掛けて、それから冷蔵庫の中を開けた。チーズまでわざわざ買ってあるのが見えたので、どうやらこれを乗せて欲しいのだろうなと思った。

卵もたくさん買っていたので、こんなのあっても明日から食べきれるのだろうかといらぬ心配をしながら、一切口にはしなかった。
最後に好きな相手に料理を振るうという機会が偶然にも訪れたが、それを嬉しいとはあまり思わなかった。だって、結局友達というポジションまでは自力で至れていないからだ。
もしさっきのドラマのように、恋人同士の最後の一夜だったら、もっとわくわくするような何かがあったのかもしれない。一瞬だけそのことを考えて、全身がかっと熱くなった。
でもそれは、俺にとって禁忌だった。いくら体を使うことを最近覚えたからと言って、シズちゃんに結び付けるのはよくないと。考えれば考えるだけ虚しくなるのだ。

「はぁ……」

指は黙々と動かして玉ねぎをまな板の上で切ってはいたが、目に染みるというお約束なことにはならなかった。手際よくみじん切りにしていく。涙はもうとっくの昔に枯れ果てていた。
何度も男に貫かれて、散々泣いた。この間はうっかりシズちゃんの前で泣くという失態を侵したがもうそんなことはするつもりもない。
作業に没頭している振りをして、実はぼんやりとしているとたまたま横を向いてフライパンを持ったところで、シズちゃんが傍に立っていることに気がついてしまった。
でも、前ほど動揺はもうしない。慣れた。疲れた。あと少しなのだから、これ以上何も起こらないで欲しい、起こさない、という防御でもあった。

「手際いいな。料理できたのか」
「まあそれなりにね。もうできるから座って待ってればいいよ」
「なんか今日手前おかしいな。やけに大人しいし、いつもあんなに突っかかってくんのに、全く乗ってこねえし。明日話すっつうのがどこまで本当か知らねえが、緊張でもしてんのか?」

全部当たっていると頭の中で思いながら、そのままコンロの上にフライパンを乗せて、火をつけた。そうして温まったところで油を流して全体に広げる。暫くして、ハンバーグのたねをそこに四つほど乗せた。
質問には、答えるつもりもないという意思表示だった。
それに対して、どうやら向こうも引く様子はないらしい。どんどんと一方的に言葉を投げかけてくる。

「あれから幽にちゃんと聞き直して、別に手前が悪いことしてるとかそういう話は一切なかったと言われたんだよ。俺はあいつが嘘をついてねえのはわかるから、信じることにした。相変わらず何の話かは教えてくれなかったけど、そういうことしてんじゃねえなら言えばよかったじゃねえか。勝手に出て行って…」
「仕事で忙しくて、戻らなかっただけだよ。それだけ」

俺なんかの事を心配してくれたんだ、ありがとうという言葉は素直に口から出ることはなかった。だってもう今更何を言っても遅いし、辛いのはこっちだけだ。
ここで何か話をして、それがいい思い出になるか、辛い思い出になるかは俺だけの問題だった。シズちゃんにとっては、何の関係もない話だ。だから、余計なことは言わずに黙っていた。

「なあ、今日じゃダメなのかよ。話すのは明日じゃないと…」
「そうだよ。明日になったら全部ね。悪いことなんてならないし、言っただろ?俺はシズちゃんにプレゼントしたいものあるって、だから秘密。ちょっと驚かせたいだけだから」
「でもどうしてそんなに気にするの?いいじゃないか、大嫌いな俺のことなんて、放っておけばさ」

その一言が出てしまったのは、はずみだった。どうせ俺の事なんて大嫌いでしょ?という嫌味のつもりだったのだが、けれどあらぬ方向に、望まない答えが返ってきてしまった。


「別に今はそんなに嫌いじゃねえよ。むかつくけど、もう切れたりしねえし。手前がナイフを捨てた日から、俺は少しは臨也の事考えて、それで…」


「ちょ、ちょっとストップ!待って!」


しかし静止の言葉は届かなかった。


「友達ともなんかちげえんだよ。セルティとか新羅とか、あいつらとはなんか違う。なんか別次元で、手前のことが気になってしょうがねえつうか、よくわかんねえけど一緒に居て悪くねえって思ってる。だからなんか明日変なことが起こるとか、なんか危険な目に遭うのなら俺も手伝うし教えて欲しいって……」


その言葉に、何もかもが崩れたような気がした。まだそれは早いというか、気づくにしては遅すぎるというか。複雑の心境のまま、持っていたフライ返しを床に落としてしまった。


※続きの11話目は拍手に載ってます PCだと右側の拍手の方です
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