ウサギのバイク リセット 11
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2011-04-16 (Sat)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らす話 切ない系

* * *

「なあ、この間手前言ったよな?俺の事がす……」

「言ってないっ!言ってないって、嫌いだよ!俺はシズちゃんのことなんて大嫌いだッ!!」

「おい落ち着けよ。それじゃあ俺には嫌いって言ってるようには見えねえぞ」

こういう時に勘の鋭いシズちゃんが嫌いだ。
鈍感な癖にこっちの望まない時に気づくシズちゃんが嫌いだ。
嫌いだ。嫌いだ。最後までこんなこと言わなければよかったのに、言ってしまったシズちゃんが大嫌いだ。

「勘違いしてない?いいかい、俺達は今まで憎み合ってきたんだ。俺は何度もシズちゃんのことを嵌めて、からかって、楽しんできただろ?思い出してごらんよ、数えきれないほど弄んできたんだよ?そんな俺のことを、ちょっと弱みを見せたぐらいで絆されるなんて随分と簡単なんだね。逆に興ざめしたよ。ずっと最後まで憎んでくれると思っていたのにさあ」
「先に…先に優しくしてきたのはそっちじゃねえか!コロコロ態度変えやがって、なんなんだ!」

必死にしゃべって取り繕うと、さすがに過去の事を思い出したのか鋭く睨んで怒鳴りつけてきた。とりあえず話が長くなりそうだったので火を止めて、真正面から立ち向かった。後ろに隠した腕は、少し震えていた。
どう考えても、このままでは俺の最後のプレゼントの意味がないことになってしまう。ここまできてそれは嫌だった。
もう頭の中はぐちゃぐちゃだったが、必死に考えた。確かにこのままではシズちゃんは俺の事を好きになるかもしれない。それは本当に俺が望んでいたものだが、そんなイレギュラーは認められない。
俺の事なんか最後まで憎んで、嫌いでいてくれないと、困るのだ。そうして最後に気がついてもらうのが、理想だった。今ではない。

だから、一番言ってはいけない嘘を最後にしてしまうのを許して欲しかった。


「ねえ、本当に俺が情報屋を辞めたと思った?人の役に立つ仕事なんて、そんなものあるわけないだろ」


静かに傍にあった包丁を手に取って、構えた。それはシズちゃんに牙を剥くという合図だ。わざとらしく笑いながら挑発するように手をひらひらと翳すと、おもしろいぐらいに乗ってきた。
と、思ったのだがなぜか俺の持っていた包丁だけを狙って手を伸ばしてきて、それをそのまま掴んで折った。目の前で真っ二つに折れて、あっさりとぼろぼろと崩れていった。
当然のことながら、手のひらは血まみれだった。

「危ねえもん振り回すんじゃねえよ。これで満足したか?」
「シズちゃん……」

赤い血がだらだらと流れるのを見ながら、体が竦んで動けなくなってしまった。それはシズちゃんの手を心配して動けないわけではない。別の映像が頭の中に浮かんだからだ。

俺は自分から見たい、と言って自分が死ぬ時の、死んだ後の姿を見たのだ。赤黒い血と、それに混ざっている別の粘液と、真っ赤に染まった自分の手と。
だから一瞬呆けてしまって、反応ができなかった。そうして気がついた時には、俺の体は床の上を転がっていた。

「な……ッ!?うわっ…ちょ、っとなにしてるんだよッ!!」
「また逃げようとするだろ?やっぱりさっきみてえに縛ってる方がよかったか?」
「…っ、わかったから。あぁもう逃げないからそれ以上動かないでよ。血が服につくだろ」

俺の両手首をシズちゃんが押さえて、体の上に馬乗りになって逃げられないように固定されてしまった。そこでやっと我に返って、少しだけ冷静さを取り戻した。
全身の力を抜いて、まだ鮮血が流れ続ける手だけを取って笑いかけた。もう半ばやけくそだった。でも何かが通じたのか、それ以上は暴力を振るわれることなく動きが止まった。
そうしてお互いに数秒見つめ合った後、向こうがポツリと呟いた。

「明日なら、本当にいいのか?」
「え……?あぁ、うん明日が終わったら、いいよ。だってこっちだっていろいろ準備してるんだから、こんなところで計画を変更するのも困るんだって。ちょっと必死になって、悪かったよ」

素直に謝るとすぐに腕は解放された。体も離れていったので俺は上半身を起こして、ため息をついた。まさかこんなことが起こるなんて予想すらできなくて混乱したけれど、すぐに立ちあがった。。
そうして本棚の近くの引き出しを開けて、中から救急セットを取り出した。前から何度も怪我はしていたので、割と種類がそろっている。だから俺はその中から包帯と消毒液を取り出した。

「手当してあげるよ。まあ、俺のせいだし」
「こんなの放っておいたらすぐ止まる。んなことしなくていい」
「見てるこっちが迷惑なんだって。いいから黙ってとりあえず包帯ぐらい巻かせてよ」

手早く消毒液を手のひらにぶっかけて、血を少し拭き取った後に大き目の絆創膏で押さえて包帯をぐるぐると巻きつけた。どうせシズちゃんだし、血さえ垂れてなければ問題ないと思ったからだ。
変に丁寧にしてもまた不振がられるし、少しぐらい大雑把な方がいいだろうという気持ちでそうした。

「マジで適当すぎるな手前は…」
「文句言うならもう一回刺すけど?まだ包丁残ってるんだよね。まあいつまでも揉めてるとご飯食べるの遅くなるんだけどさ」

すかさずツッコミを入れられたので有無を言わさず、低い声でそう告げた。するともう無言になったので、やっぱりこういうのには弱いんだなと確信した。
そうして包帯を巻き終わるとテキパキと道具を救急箱に仕舞い、何事も無かったかのように棚に戻してボロボロになっている包丁を避けて落ちていたフライ返しを拾った。
洗剤で洗っているとこっちをじっと見ていたシズちゃんが離れて行って、大人しくソファに戻って行った。きっと言いたいことは山のようにあるのだろうが、それはこっちだって同じだった。

晩御飯の支度をきっちり終えてテーブルに並べて、俺が席についてからどうぞと言うと、待ちきれない子供のようにがっつくようにしながら食べ始めた。
そんなに食べたかったのかと思うとなんだかおかしかったが、笑うことはせずにこっちも無言で食べ始めた。こんなことにはなってしまったけれど、一緒に食べれたことだけは嬉しかった。
二人共最後まで無言で食べ続け、先に終わったシズちゃんは律儀に皿を下げてくれた。置いてていいからと声を掛けると、それ以上は手出しをせずにまたテレビの続きを見始めた。

自分の分を下げながら後ろ姿をチラ見して、さっきまでと何も変わらない背中にちょっとだけ目頭が熱くなった。
シズちゃんが、ちゃんと俺の話を聞いてくれた上で問い詰めることを止めたのだ。従って、くれているのだ。それなのにこっちは、と思うとやり切れない気持ちだった。
いくら先延ばしをしたからといっても、気持ちが変わるものではないと知っている。だから一度気づいてしまったものを取り下げることは、不可能だった。
つまりもう、俺のプレゼントは最初の頃より効力を失ってしまっている。むしろ今更こんなものが欲しいわけじゃないと怒鳴られることだって考えられる。でも今更止めることはできない。

だって俺が死ななければ、変わりにシズちゃんが死ぬんだと言われたからだ。願いが叶えられたことで死にたくないと言い出さないように、そういう決まりになっているらしい。

そういう意味での代償なのだ。だから俺の中では、始めから俺が死ぬ以外の選択肢は無い。
自分が死ぬと選択した時点で、何があってもそれは変わらないという強い決意はあった。ただ途中で何度も迷ったり悩んだりしただけで。



洗い物が終わりすることも無くなったのでどうしようかと考えて、やっぱりここは下手に逃げずに大人しくしていようと決めた。だからまた、シズちゃんの隣に腰を下ろした。
テレビではもう次のドラマが始まっていて、さっきまでのものとは違い、刑事モノのようで犯人は誰なのかと顔を顰めて考えているようだった。
さっきまでの恋愛モノよりはマシかと思い画面に目を向けたところで、尋ねられた。

「明日も俺は休み取ってんだよ。だから、何かあったら言え。全部話せるようになったら、連絡しろ」
「待ってて、くれるんだ?っていうか俺はシズちゃんの連絡先なんて知らないけど」
「どうせ俺の携帯番号ぐらい知ってんだろうが。手前なら簡単なんだろ?新宿の情報屋さんよお」

その言い方に目をパチパチと瞬かせて驚いたのは俺の方だった。どう反応したらいいんだろうと困っていると、こっちの方は一切見ることなくしゃべり始めた。

「別に手前がまだ完全に情報屋を辞めてなかろうが、嘘をつかれてたとか、もうそんなのどうでもいい、面倒だ。確かにまだ昔のことを持ち出されたら苛つくし、正直俺は手前に振り回されっぱなしなんだよ。適当なことばっかり言うし、変に優しくしてきたと思ったら突き放して、嬉しそうにしてると思ったら今日は大人しいし、正直よくわかんねえ。でもそれが明日で一段落つくってんなら、それから考えても遅くねえよな」
「ほんと、変わったよね」
「先に変わったのはそっちだろうが。人を持ち上げたり褒めたりして妙な気分にさせやがって、全部嘘だったっていうのが本気なら、確かに俺は完全に騙されてたよ」

話を聞きながら、やっぱりシズちゃんはどこまでも優しいんだなと安堵した。それにつけこんでいるのは俺で、本当に自分のことながら最低だった。
嘘はついてはいない、けれど騙しているのだ。気持ちを振り回して、勝手に掻き回して、あげくに突き放すのだ。悪いのはこっちだ。

でもまさか最後の最後でこんな奇跡が起こるなんて知らなかったし、知っていたとして、でもどうしようもなかった。だってすべては俺自身が死ぬと決めて動いていたからこうなったのだ。
もし俺が死なない選択肢を選んで得られるようなものではない。つまりは勇気を出して告白をして、二人でこうして過ごしているうちに向こうが変わっていったのだ。
だから一から同じことをしようとしても、きっとうまくいかないだろうなと思った。二度目は無いし、そんな告白を二度もする勇気は俺には無い。

「ははっ、じゃあもう一度だけ言っておくよ。俺はシズちゃんが好きだ、愛してる!どういう意味かは、言わないけどね」
「くそっ人の事をからかいやがって絶対覚えておけよな…」

やっぱり肝心なところで鈍感でいてくれてよかったと思いながら、胸が酷く痛んで息が苦しいと心臓の辺りを無意識に握っていた。

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