ウサギのバイク リセット 14
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2011-04-28 (Thu)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の静雄視点の話 切ない系

* * *
「仕事休んじまってすみません」

「あーいや、別にその話じゃねえんだわ。あのな、落ち着いて聞けよ静雄。実は俺、折原から預かってたもんがあってよ。ほら、これだ」

「え……?」

差し出されたのは何の変哲もない封筒で、思わず受け取ったがその時に中からカチャリと音がして少しだけ重みを感じた。中身を見なくても、これが何かの鍵のようなものだと判断できた。
慌ててトムさんの瞳を少し強く見返すと、躊躇いも無くあっさりと話してくれた。

「会ったのはいつだっけ、二三日前か?突然呼び出されてどうしたのかと思ったら、日付指定で今日静雄にこの封筒を手渡ししてくれって頼まれたんだよ。そん時にお前らが一緒に住んでる事情とか聞いて、というかあいつが全部しゃべってきたんだが。なんか作ってくれたオムライスがおいしかったとかすごい自慢してきて、すげえびっくりしたんだよな」
「またあいつ…いつの間に」

話を聞いて思わず受け取った封筒を握りつぶすところだった。どうしてそんなことを、と思ったがとりあえずこれの中身を見てみないと始まらない。一応トムさんに開けていいか断った後に、破いた。
中から出てきたのはどこかの鍵と、手紙が一枚だけだった。そこには。


『トムさんと一緒に開けてみてよ。これ本棚の鍵だから』


「俺と一緒に開けろってこりゃ…なんか、あんのかもしんねえな。本棚ってあれだろ?開けてみよう」

「そうすね」

覗きこんできたトムさんと一緒に部屋の端に何個かあるうちの鍵がついている本棚の扉を開けてみた。すると一面書類だらけで、俺には何のことやらさっぱりだった。
首を傾げていると、横から手を伸ばし一枚書類の中身を確認しているようで俺も慌てて見た。しかし何のことやらやっぱりわからなくて、顔を顰めていると読み終わったらしく突然叫んだ。

「し、静雄これ…権利書じゃねえか!おい、もしかして、これも、これも全部そうか!?」
「はあ……」

急に顔色を変えて書類を他にも数枚掴んでは確認してそ繰り返して、最終的には呆然としながらため息をついた。俺には全く意味がわからなかったが、なにやらすごいものらしいとだけは伝わった。
とりあえず恐る恐る、どういう類のものだったのか尋ねた。すると、あり得ないことを告げられた。

「これは折原臨也が所有していたらしい家とか、土地とか、株とかそういう金に関する書類だよ。しかも、全部昨日の日付でお前に譲渡するって書いてあるんだよ。ほらここ見てみろ、名前書いてあるだろ」
「確かに…俺の名前っすけど、家ってなんであいつ…」
「すげえ量だ。こんなの数日で簡単にできるもんじゃねえ。つまりだ、折原はもしかして殺されるとか狙われてるとか何か気づいてたんじゃねえか?しかも全部お前に渡すつもりだった、ってことはもう逃げられないとかそういうことを悟ってて、一番確実に静雄に手渡せる俺に頼んできたとか…ありえるんじゃねえか?」

「殺される、って気づいて…た?」

書類で指差された箇所には、俺の名前がはっきりと書いてあってご丁寧に印鑑まで押してある。あいつならいくらでも操作できるだろうが、まるでわからなかった。
さっきの幽と選んだというプレゼントといい、俺にはこんなものをあいつから譲られる義理も何もない。例え殺されると気がついていたとして、どうしてこれを俺に渡すのだろうか。

必死に臨也とのやりとりを思い出そうとしたのだが、酷く曖昧で靄が掛かったようにはっきりと思い出せない。なにか、あげるとかあげないとかそんな話をした覚えはあるのだが。

「なあ…折原が俺に最後に言ったのは、静雄をよろしくお願いしますってことだったんだよ。そん時は別に言われなくても当たり前だとは思ったんだが、もし自分が死んだ後のことを俺に託そうとしてたのだったら、話が通じる気がすんだよ。なんつーか、嬉しそうにお前の話を俺にしてきたこととか、一緒に暮らしてることをわざわざ言ってきたり…」

「そう、っすか…」

俺は黙って聞いていた。ただでさえ頭の中でまだはっきりと整理がついていないし、臨也が過去に言っていたことですら思い出せなくて困っていたのだ。
本当に死ぬのだとわかっていていろいろこんな面倒くさいことまでしていたというのなら、ヒントみたいなものを残さないわけがない。あいつはずっと、おかしかった。
一緒に過ごしていても、態度はころころと変わるし恥ずかしげもなく俺を褒めたかと思えば突き放してきて、でもそれがもし死ぬことへの不安を抱えていたというのなら。

どうしてそれを、俺は気がついてやれなかったのかと。



唇を噛みしめて苦い表情をしていると、今日三度目になる来訪者を告げる音が聞こえてきた。もう俺はほとんど確信しながら誰が来たかを確認する為に、画面を覗きこんだ。

『やあ静雄!大事な話があるんだけど、ここを開けてくれないかな』
「あぁ、わかった」

あいつと俺とで共通の友人である岸谷新羅と、ここまで運んできたであろうセルティが立っていたのですぐにロックを外してやった。
トムさんは、どうやら仕事前に寄ってくれたらしくまた相談に乗るからと入れ違いで帰って行った。きっと俺達の事について気を遣ってくれたのだろう。感謝しなければいけなかった。

「あれ?塞ぎこんでるかもしれないって思ったんだけど、そうじゃなかったんだよかった」
『静雄、平気か』
「あぁ二人ともありがとう」

とりあえず中に通してさっきの話もついでに聞いて貰おうかと思ったのだが、新羅に届け物があるだけだからいいよとやんわり断られた。届け物、という言葉にまたかという気持ちになった。
一体次はどんな物なのだろうかとそわそわした気持ちで待っていると、新羅が封筒を手渡してきた。しかしそれはさっきのものよりも軽く、多分中身は手紙なのではと予想できた。

「これが今朝届いたんだよね。しかも僕とセルティの家なのに静雄宛てなんだよ?全く臨也らしいというか、素直じゃないんだよね。最近はよく会いに来てたのに、その時は一切この話をしないんだもん。ほんとに…」
「会ってたって、あいつは何を言ってたんだ!」
「いやあ、もう迷惑でしょうがなかったんだよね。静雄、静雄って、うるさくてさあ。昔からたまにそんな話をしてたけど、君達が一緒に暮らすようになってからはもうそりゃあ頻繁に来て、どんだけ好きなのか話しては帰って行ったよ。だからまさかこんなことになるなんて、ちょっとショックだったけどね」

また同じような話だった。一体どれだけの人間に俺のことを、本人には全く言わなかった癖に言いふらして回っていたのだろうか。半分はそうやって面白がって楽しんでいたのかもしれないが。
どうしてわざわざ俺に近しい人間を相手に、そんなことをしたのだろう。ますますわからなくなっていく。でも答えは、この中身が教えてくれるのだろうか。

『実は私のところにも臨也が来て、静雄は優しいとかそういう話をしたんだ。私もあいつは気に入らなかったが、あまりにも静雄のことばかりを言ってくるから、変わったのかと思ったんだ。静雄に影響されて臨也もいい方向に変わったんだと思っていたんだ』
「変わったって、別に俺はなんもしてねえ。むしろ先にお節介かけてきたのも、何もかもあいつからだ。それなのに、なんで嘘つきやがんだ」
「嘘じゃないよ、臨也は静雄と暮らし始めてからすごく幸せそうだったよ。昔からのつきあいの俺が言うんだから、間違いないよ」

セルティと新羅に同時に語りかけられて、さっきまで混乱していた頭の中が少しだけ落ち着きを取り戻した。ため息をつきながら、手の中にある封筒をもう一度眺めた。
俺の知りたいことが書かれているかは不明だが、何かはわかるのだろうと。見たい、と思った。

「とりあえず中身を確認してみなよ。こっちでも臨也をあんな目に遭わせた奴らを探してるし、何かあったらすぐ教える。相談があったら、すぐに飛んでくるから言ってくれ。もうなんか、散々臨也には何かあったら静雄のことをよろしくって言われ続けてたから、放っておけないしね。あと、友人だから」
『私もだ、臨也なんかに頼まれなくても静雄のことは最後まで助ける。だから落ち着いたら連絡をくれ』
「…わかった」

二人があまりにも真剣に言うものだから少し面食らったが、やっぱりとも思った。新羅にもセルティ言っていたのだ、俺の事を頼むと。
ここまできたらもう、間違いなくあいつは死ぬ気だったのだと認めざるをえなかった。そうでなければ、ここまで大がかりなことをできない。その為だけに動いていたとしたら。



挨拶もそこそこに二人が帰って行って、暫くは扉をじっと見つめていた。覚悟を決めたのはいいが、本当の事を知るのが少しだけ怖かった。
何が書いてあっても受け入れるとはわかっているが、少しだけ読むのを躊躇われた。でも読んで欲しくないのなら、わざわざこんな手の込んだことはしないだろう。
それにもしこの手紙が、あいつが何度も言っていた全部話すということに関係しているのなら、知らなければいけなかった。それがあいつとの約束だったからだ。

「しょうがねえな、読んでやるよ」

封を開けながら事務所の方に戻り、いつものソファに座った。二人並んでテレビを見ていた時のことが、鮮明に思い出される。少しだけ浸りたかったが、横を向いてもあいつはいない。
だから、手紙を取り出して何枚かに渡って書かれている内容を読み始めた。しかし数行で既に俺はショックを受けた。握っている手が震えて、わけのわからない気持ちがこみ上げてきた。


『俺のプレゼント全部受け取ってくれたかな?でも一番のプレゼントは何だったかわかる?それはね、シズちゃんの仇敵としての折原臨也の死亡だよ。やっと、やっとこれを教えることができて少し今すっきりしてるなあ。だって何年も君は俺に言い続けてきたじゃないか、死ね、殺すって。やっとそれが叶ったんだよ、おめでとう!』


「おめでとうって、俺はそんなプレゼントなんて…望んでねえぞ、くそっ!」

確かに過去何度も俺はあいつに向かって死ねとか殺すとか言ってきた。でもそれは挨拶のようなもので、いや本当にそう思っていたこともあったけど、今はそんなことないというかむしろ。


「そんなくらだねえことの為に、手前は死んだのか!ふざけんじゃねえッ!!」


手紙を破りそうなぐらい沸いている怒りを堪えながら、続きに目を通した。


『でもね、これを読んでくれているのなら長年いがみ合ってきた折原臨也は死んだけど、きっと数日一緒に暮らして情が沸いて最後にたくさんのプレゼントをくれた友人としての折原臨也が生きてると思うんだ。シズちゃんの心の中だけでね。それは一生なくならなくて、俺が欲しかったのは、願ったのはそれだよ』


「なんだ、こりゃ……」


『一緒に過ごした最初で最後の友人として、永遠に君の心の中に残るなら、無駄な人生を生きるより俺はよっぽど幸せだった』



※続きの15話目は拍手に載ってます PCだと右側の拍手の方です
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