ウサギのバイク リセット 15
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2011-05-01 (Sun)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の静雄視点の話 切ない系

* * * こんなのくだらない、と切り捨てるのは簡単だった。でも俺には、できなかった。
好きだから、愛してたから。
それに気がついてしまったから、最後まで読まなければいけないと思った。
でもそれが苦しくて、涙がこぼれそうだった。

「幸せって、あれでか?ただちょっと一緒に生活しただけじゃねえか。それでいいのか?本当に手前はそれでよかったのかよッ!!」

一緒に過ごしている間、あいつが俺に対して面倒なことを言ってきたことはない。偉そうにしていたり、感情がコロコロ変わって掴めない奴とは思っていたが、想像していたよりも普通の日々だった。

俺が酔っぱらってるのを介抱してくれたり、あいつが弱っているところを見たり、幽のことで喧嘩したり、一つのベッドで寝たり。何も変わったことなんてしていない。
友人と言えば確かにそうだったかもしれないけれど、本当にそれが目的だったのだろうか。好きだからつきあってくれ、と告げた最初の気持ちはどこへやったのだろうか。

「納得できねえ、俺はこんなんじゃ納得できねえよ!心の中だけって、なんでそんな悲しいこと言ってんだ。いつから手前はそんな臆病な奴になったんだよ、そんなの知らねえぞ」

抑えきれない気持ちを口にするが、当然誰にも届かない。
いや、一番言いたい奴には届かない。何もかもが遅いだなんて、未だに信じられない。

続きを読めばわかることもあるかもしれないが、この胸にくすぶっているもやもやは絶対に晴れない。唇を噛みしめながら、その先に目を通した。


『だから、次はシズちゃんが幸せになる番だと思うんだ。前に言ってたじゃないか、穏やかな生活を送りたいって。今ならそれが叶うよ、俺のプレゼントしたお金はたくさんあるからどこか静かな場所で暮らしてもいいし、池袋にもいくつか土地を持っているからそこに引っ越して幽くんと住んでもいい。仕事を辞めてもいいけど、先輩や後輩とのつながりもあった方がいいかもしれないし、新羅や運び屋だって居る。ここ数日でシズちゃんの噂も、池袋の喧嘩人形から新宿の悪い情報屋を押さえつけたヒーロー扱いだよ。俺ってかなり恨まれてたから、シズちゃんの株はうなぎのぼりだったよ。死んだ今ならもっとすごい噂が広まってるんじゃないかな』


「あーそういやあ言ったなあ穏やかに暮らしたいとか。そうか、覚えてたのか。あんなの適当に言っただけなのに、本気にしやがって…」

土地とか金が俺名義になっていたのはそういうことかと、少しだけ納得した。でもそんなもの欲しかったわけじゃない。
むしろいらない。でもいらないからと言って簡単に手放せないのは、あいつがもう居ないからだ。

好きな奴からのプレゼントを捨てるほど俺はバカじゃない。多分それをわかっていて、友人からのプレゼントを捨てたりはしないだろうという考えで臨也もくれたのだろう。
そういう意味では、成功していた。突き返すことなんて、二度とできないから。本当に用意周到だ。


『ねえ、もう誰もシズちゃんのことを化け物なんて言わないよ。だからきっと、これからはシズちゃんも人並みに生きていける。普通に恋をして、結婚して、子供ができて、年をとって。俺は普通に生活しているシズちゃんを見たくなかったから邪魔をしていたけど、もう居なくなったから好きにできるよ。変な揉め事にだって巻き込まれないし、平凡な望んだ毎日が過ごせる。まあ俺はそんなもの見たくはなかったし、普通の人間じゃない化け物のシズちゃんが好きだったから、悔しくなんてないから』

「悔しがってるじゃねえか、ほんと素直じゃねえな」


『死んでも言わないって思ったけど、死んだから言うよ。今までシズちゃんの幸せを邪魔して悪かった』


そこで便箋の一枚目は終わっていた。それから下は空白で、最後の一文がいかに大事なものか示しているようだった。
俺だって、それがわからないほどバカじゃない。

きっと今までの、あいつと喧嘩ばかりをしていた頃の俺だったらこの言葉を喜んでいたかもしれないが、もう喜べなかった。こんな一方的に与えられた幸せなんて、どうでもいいのだ。

一番居て欲しい相手が、居ないのだから。

苛つきを隠せないまま、次の手紙を手に取って、そこで固まった。一枚目と同じように長々と書いてあるものだと予想していたのに、数行しか本文がなかったからだ。


『全部書こうと思ってたんだけど、やっぱりシズちゃんに対しては綺麗なままでいたい。だから一つだけ言うとしたら、俺は自分が死ぬことを知っていてそれで全部納得して死ぬから、君のせいじゃない。選んだのは、俺だから。ごめん』


「はあっ!?なんだそりゃ!全部話すって言ってたじゃねえか、くそっやっぱりこうなんのかよ!そうやって逃げるのかよッ!!」

もうわけがわからなかった。
あの臨也が自分が死ぬのを知っていて、それを回避しようと画策することなく死んだなんて、信じられなかった。情報屋を辞めたとしても、人を騙して逃げることぐらい簡単なのに。
でも、死ぬことを本当に自分で知っていたのなら、ここ数日の不審な態度とか行動とかすべてに理由があるように思えた。
俺に対して優しくしてきたり、褒めたり、傍に寄ってきたり、怒らせたり、わざと拒絶したり。全部全部、死ぬことへの不安を抱えていたのだとしたら。

逃げようとしていたあいつを見つけた時に泣いていたのが、そのせいだとしたら。

『ははっ、もし見つけられない場所に行ったらどうするのさ』
『それでも探してやるよ。いいか、だから俺から逃げられるなんて簡単に思うなよノミ蟲が』
『カッコイイこと言うじゃないか。じゃあ、見つけてみなよ。俺は逃げ切るつもりだけどね』

思い出したのは、何気ない会話だった。でも今の俺には、それが何でも無いことのようには思えなかった。
あいつは、見つけてみろと言ったのだ。だから今ここに居なくても、死んだとしても、探さなければいけないと。まともじゃないことぐらいわかっているけれど、絶対に見つけなければいけないと。

手紙はそこで終わっていた。
さよならとも、またねとも書いていない。あまりにもあっさりしすぎてると思った。


「まだどっかに何か隠してんじゃねえか?これだけ、とかぜってえありえねえだろ」


とりあえず封筒に仕舞いながら部屋の中をキョロキョロ見回す。なんとなく、これが最後ではないと感じたからだ。
俺が好きだと言い掛けたあの日、必死に嫌いだと何度も口にして、答えを先延ばしにしたのだからその返事がどこかにあるはずだと。だってこの封筒の消印は、臨也が死ぬ前日になっていたから。
二人で過ごした最後の日に、何があったかをこの時のあいつは知らないのだ。



その時、また再びチャイムが鳴った。だから慌てて駆け寄り、相手を見ずに扉の開錠ボタンを押した。そうしてすぐに玄関まで行き、ちょうどドアを開いたところでそいつは立っていた。

「門田…」
「来るのが遅くなっちまって悪い。臨也から預かってたものを、持って来た。今日の昼前までに届けてくれって言われてたんだ」

そうして差し出されたのは、やっぱりというべきかさっきまで読んでいたものと同じ封筒だった。門田からそれを受け取りながら、尋ねた。

「いつだ、これを受け取ったのは」
「急に呼び出されて会ったのは、臨也が死んだ日の朝だ。あいつにしては珍しく焦ってたみたいで、ロクに話をせずにこれだけを静雄に渡してくれって頼まれた。多分その時には、追われてたんだろうな。こっちも気になって仕事が終わったら調べて見ようかと思ってたら、もう遅かった」
「そうか」

門田は悔しそうに顔を歪めていて、俺だって同じ気持ちだと言いたかった。でもその前に向こうが、俺の事を心配そうに大丈夫かと声を掛けてきた。
前に臨也も言っていたが、確かに誰にでも優しいのだ。
俺と違って、既に臨也に対して何度も甘やかすようなことをして、笑顔で好きだとか言われていた。
もし俺もこいつと同じようにすれば、笑いかけてくれたのだろうかとふと思った。あまりにもハードルが高いことだが。

「これを受け取る数日前にも、話をした。お前と一緒に住んでるなんて嬉しそうに言ってたが、その時にはもう巻き込まれてたのかもしれないな。自分に何かがあったら、お前の事を臨也に接したように気にかけてくれって頼まれた。何かおかしいなと思ったが、その時に聞いてやればよかった」
「…そうか」
「その手紙、大事にしてやってくれ。俺ももう少し臨也の事を調べてみる。それで静雄にも連絡する、だからそれまで待っててくれ。絶対に一人で行動するな、それは多分あいつも望んじゃいねえよ」

こっちを鋭く睨みつけながら、そう言うと踵を返して歩き始めた。俺もすぐに扉を閉めたが、相変わらず門田は勘がいいなと思った。
多分今の俺は、あいつを殺した相手がみつかれば我を忘れて乗りこんでいく。どんな野郎だろうが、ヤバイ奴らだろうが、絶対に逃がさないという気持ちはある。
だからあえて俺には、何かがわかっても教えないかもしれないとも。そんなのは、許せなかったが。

とりあえず気を取り直して、その場で最後の手紙を開けた。
そうしてそこに書かれていた言葉に、胸がひどく締めつけられた。



『シズちゃんごめん、本当にごめん。俺だってこんなことになるなんて、死ぬ前にシズちゃんが俺のことを好きになってくれるなんて思わなかったんだ』



「やっぱり、やっぱり俺のこと気づいてやがったじゃねえか!じゃあなんで、どうして死んだんだよ!俺が喜ばねえこと知ってて、なんでッ!!」

叫びながら、これまで抑えてきた悔しさや、悲しさや、無念な思いとか全部あふれてきて止められなかった。やりきれない怒りで、今すぐにでも何かにあたりたいぐらいだった。
けれども、そこに書かれていた臨也の字は急いでいるようで荒れていた。だからギリギリのところで留めながら、続きに目を通す。


『どうして好きになったの?今頃になってどうして?だって最初に俺の事を拒絶したじゃないか。持っていたナイフを全部壊して、それってどこで死のうがどんな目に遭おうが関係ないってことじゃなかったの?だから諦めたのに、なんで?』


「ナイフって……?俺は、そんなつもりでしたわけじゃねえ…のに…な、んで…」

さっきまでの怒りはあっという間におさまり、急に心臓の音がバクバクと早くなって嫌な汗が浮かんだ。

確かに俺は、あいつが持っていた全部のナイフを、凶器を壊した。
それは俺に対して振るうな、という意味だった。でもよく考えれば、そうすることであいつには抵抗する手段が一切なくなった。俺だけではなくて、その他の人間に対してもだ。

ぞっとした。あの何気ない行動が、とんでもないことになっていただなんて、知らなかった。
思い出すのは、いつか見た臨也の手首の痣だ。仕事柄あいつには敵が多かったらしいが、詳しくはわからない。俺だけにナイフを振るっていたと思っていたが、本当はそんなことはなかった。

「体調を崩してたのは、俺のせいか?俺があいつから抵抗手段を取りあげたから、それで酷い目に遭ってたんじゃねえのか?でもなんで、俺の知らないところでナイフを手に入れて立ち向かうぐらい簡単だったのに、それをしなかったんだよ。なんで、だ。拒んだわけじゃねえのに、なんで…」

紙を握る手は、震えていた。俺の知らない所で起こっていたことに、恐怖を感じたからだ。何が臨也に起きていたのか、知りたいと思った。
でもタイミングよく、そこに記されていた。


『綺麗なままで死にたかったのに、もうそれができなくなったじゃないか。本当の事を言って、嫌われなければシズちゃんがかわいそうだ。だから言う。俺は最低な人間なんだって、言うよ。俺はね、シズちゃんの知らない所で何十人もの男相手に性行為をしていたんだ。そいつらは全員俺を恨んでいた奴らで、情報屋を辞めるならそれ相応の落とし前をつけて貰わないといけないって言われて捕まったから。だから俺が死んだのは、俺のせいなんだ。抵抗する手段だってあったし、逃げることもできた。けれどそれをしなかったのは、セックスに嵌ったからだ。気持ちよくて、最高で、自分の欲望を全部吐き出すにはちょうどよかったんだ。そんな最低な奴なんだよ俺は』


「な……っ、セックスって、嘘だろそんな…」



『本当はシズちゃんにも、犯されたかったんだ。でもそんなどうしようもない気持ちを曝け出すことができなかったから、そいつらで発散していた。ねえ最低でしょ?』



まるで目の前で臨也に言われているようだった。クスクスと笑いながら怪しく微笑む顔が浮かんで、でもきっと瞳は笑っていないと思った。

ただの文章でそこには感情なんて現れていないのに、これは嘘だと。
俺に嫌われる為に嘘をついているのだと。
でもそれを証明するものは、何一つなかった。


※続きの16話目は拍手に載ってます PCだと右側の拍手の方です

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