ウサギのバイク リセット16
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2011-05-06 (Fri)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の静雄視点の話 切ない系

* * *

『真実はいつでも残酷だ。だからシズちゃんが俺に期待していたものは、何一つない。最初の時点で、自ら手放したのだから』


そこで一枚目の文章は終わっていた。破り捨てたい衝動が起こったが、それはしなかった。怒っていたのは、臨也がついた嘘ではなくこんなことをさせていた、書かせてしまった俺自身へだ。

つまりあいつが俺に告白してきた、あの日に応えていたらこうはならなかったと言っているのだ。あの時の俺は知らないし、そんな気持ちは全くなかったから無理な話だったのだが。
どうして今の俺があの場所に居ないのかと。今なら、好きだつきあってくれという臨也の言葉に手を取って抱きしめ返すことができるのに。どうして、こんなに遅いのかと言われてもしょうがなかった。

「本当に、もう遅いのか…?」

困惑しながら、二枚目をめくった。さっきまでよりも荒く、走り書きのような文字で切実な想いが書かれてあった。


『シズちゃんに嫌われるのは怖い。好きだと言われたから余計に怖いけど、でも俺の事を嫌いになって欲しい。そうしてお願いだから全部忘れて、好きなんて思ってたことも全部。俺のことは忘れて』


「俺から逃げようとしてみたり、今度は忘れてくれってどんだけ手前はわがままなんだ」

言いながら、視界が歪んで文字が読み取れなくなった。けれどもすぐに袖で拭って、しっかりと読もうとした。でも涙はどんどんこぼれてくる。


『もう俺は居ない、捕まえることなんてできないから、だからいくらでも嫌ってくれ。俺はもう充分嬉しかった、生きているうちにシズちゃんの気持ちがわかって、それで嬉しかったから。大丈夫だよ、最後は一人で酷い死に方をするけれど、ずっとシズちゃんのことを考えてるから。さっき目を覚ました時に抱きしめたぬくもりを思い出すから、だから、でも』


そこで文字は途切れていた。けれども続きの三文字があった。
なのに、ぐちゃぐちゃと黒く塗りつぶされていて読めないようになっていた。

でも俺は止まることのない涙をこぼしながら、必死に目を開けてそこを凝視した。
乱暴に殴り書きされているので、よく見れば文字が浮かんでくる。

それが、本当の、心からのあいつの言葉なのだと思った。



『こわい』



「……ッ、あいつ…バカだ!こんなの、俺に言われても何もできないのに、最後まで…クソッ!!」


怖いという言葉は、当然死に対するものだ。そんなの、人間だったら誰もがそう思うに違いない。じゃあどうして、自ら死ぬように仕向けて逃げなかったのか、あんなに逃げるのは得意なのにと。



その場に膝を突いて、手紙を握りしめながら暫く泣いた。
でも、途中で封筒だけが床にヒラヒラと舞って落ちていった。でも床に当たった瞬間に、ありえない無機質な別の音がした。

「なんだ……?」

目元をぬぐいながら封筒を逆さにして、左手の上に中身を出した。すると、何かのコインが転がり出てきて勢いのままそのまま手のひらを転がり、宙に浮いた。
慌ててそれに手を伸ばそうとして、次の瞬間信じられないことが起こった。

「えっ…!?浮いて、るのか…?」

急に自分の周りが真っ暗になったかと思うと、コインの動きが止まり明らかに空中で止まっているように見えた。それに慌てて手を伸ばして掴んだところで、声が聞こえてきた。


「それは未来を指し示すコインですよ、平和島静雄さん」

「だ、誰だッ!」


慌てて振り返ると、そこには知らない男が立っていた。年齢は俺よりも随分と上で、黒いスーツを着て髪も真っ白になっていて髭も同じ色をしていた。
声は柔らかく表情も穏やかだったので、そこまで警戒する相手ではないと直感で悟った。でも一体いつの間に現れたのかと、それだけが納得いかなかった。

「あなたの願いは何ですか?」

「俺の願い…?そりゃあ、臨也を助けることに決まってる」

唐突に告げられた言葉に、反射的に答えた。まるで意味は解らなかったが、願いは何かと問われればそれしかなかった。じっと相手を観察しながら、返事を待った。
どうしてかはわからないが、心臓がドキドキと高鳴り次の言葉に対して期待していた。すると。

「あなたの未来は、二つあり。でも、そのどちらも幸せなものしかない。折原臨也さんとは違って」
「は……?なんでそこであいつの名前が出てくるんだ?」

「折原臨也さんに示された二つの選択肢は、一つは平凡に過ごす人生で、もう一つは最後には死んでしまうけれど願いが成就するというものだった」

「死んで……って、本当か、それは…?」

男が言ったことに、俺は驚いた。もうこいつが誰とか、願いだとか未来だとかそういうのはどうでもよくなった。死んでしまうという言葉に過剰に反応したのだ。
あいつの願いとやらが何かはわからなかったが、それを叶える為にどうしても死ななければならなかったとしたら、納得できる。必死になっていたことにも、説明がついた。

「そうして願いは叶えられ、彼は死んでしまった。だから、あなたの選択肢に不幸になるものはない」
「よくわかんねえけど、臨也を助けられるってことだよな?」
「そのコインで未来を指し示せば、それで選択できる。よく考えて欲しい、どちらがいいのか」

言いながら男が近づいてきたので、俺は慌てて手の中のコインを掴んで表裏眺めると、そこには何も掘られてはいなかった。無地のコインで、金色に輝いていた。
どちらが表か裏なんてこれではわからないと思いながら、そいつがしゃべるのを待った。

「あなたの二つの選択肢は、一つは折原臨也さんに起こったことすべてを知り、死ぬ寸前に間に合うもの」
「起こったことすべてって、そりゃあんたが教えてくれるのか?」
「あぁそうだ。彼が何を思い、こんなことになったのか全部を見せる。ただし戻れる時間は、最後の日の彼が出て行った後の時間。それ以外へは戻れない。途中で助けることはできない」
「そうか…」

その男の言葉に、少しだけ残念に思った。助けられるのなら構わないが、何があったのか全部知っているのに、臨也が出て行くまで止めることはできないのだ。
死ぬことだけは阻止できるけれど、それ以外のことは無理なのだ。つまりあいつが恨みを持っていた奴らに痣をつけられるのを、やめさせることができない。
唇を噛みしめて必死に考えていると、もう一つの選ぶべきことを教えてくれた。

「もう一つは、すべてをリセットするもの」

「リセット?」
「二人共今までの記憶は引き継いだまま、彼があなたに告白して一緒に住む決断をする前に、願いを叶える選択をする前に戻る」
「じゃあ臨也は死んだときの事も全部覚えてて、俺もあいつが好きなことを覚えてるということか」

二つ目の選択肢は確かに、臨也にとって幸せなものと言えるかもしれない。でも、それが果たしていいことなのか俺にはわからなかった。
辛くて苦しかった最後の記憶を持ったままで、やり直せるのかどうか。あんな酷い目にあって、それで最後まで俺が好きだと恨まずにいられたかはわからない。

つまり体は五体満足でいられるかもしれないが、心の中には最低な思い出が残っている。
すべてを夢だと片づけるには、あまりにも衝撃的なものに違いないのだ。

「でもそれをあなたの口から言ってはいけない。折原臨也さんから夢ではなく、本当に起こったことだと打ち明けられるまで話してはいけない」
「話すとどうなんだ」

「絶対に話せない。それに関する言葉は、届かない、聞こえない」

なんだそれは、と苛つく気持ちを堪えながらもう一度考えた。つまりあいつが、俺と過ごしたことも全部夢だと決めつけて黙っていればその間のことは俺は言えないらしい。

「あいつに俺から好きだって、言えないってことか?」

「本来のあなたは、彼の事を好きではないのだから当然そうなる」
「そうか、そういうことか。何が幸せな選択肢だ、どっちも俺が動いてあいつを助けることができねえってことだろ」

さっきまでの期待が、打ち破られたような気がして顔を歪ませた。まだ目の端に残っていた涙を拭うと、あたたかった。どっちがいいのか、俺は悩んだ。

最終的にはどちらも臨也は助かるが、そこには俺があいつと一緒になれる保証はどこにもなかった。どうしてこんなに制限があるのかと悔しかったのだが、本来ならこんな機会ですら与えられないのだ。

臨也はもう現実として、死んでいる。

追い掛けても捕まえられない場所に居るのだから、どんな理不尽な方法だとしても、そこから引きずりおろして捕まえなければいけない。まだ包帯の巻かれた右手をぎゅっと握り締め決意した。
一度目を閉じて、それからコインを指先で弾くと宙を舞いくるくると回転しながら落ちてきた。そうして表か裏か確認する前に、目の前の相手に告げた。


「俺はどっちでも、受け入れる」


※続きの話で選択肢をリセットに選んだ場合の話「リセット17」は拍手連載で更新しています
※続きの話でもう1つの選択肢の話は今後拍手連載としてでなくサイトで連載します

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