ウサギのバイク 4月20日のはじまり
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2011-04-20 (Wed)
静雄×臨也

パラレル設定 自動車学校の教官静雄×生徒臨也
※あくまでパラレル設定でオチの為に実際の自動車学校等の制度とは全く異なる描写がありますのでご注意下さい

* * *

「ねえシズちゃんって彼女とか居るの?」
「手前なあ…そんなこと言ってねえで集中しやがれ。殴るぞ」
「暴力?やだなあ、怖い怖い。暴力教官だなんて今時流行らないよ?まあ君にはいつものことかもしれないけど、こんなに優等生な俺に手をあげたら噂されちゃうよ」

俺は上機嫌のまま大袈裟に左右を見渡して、それから再び車を発進させた。車体は線路の上を通り抜けてゆっくりと進んでいく。
そうして目の前は赤信号だったのですぐさま停止して、ニッコリと左を向いて微笑みながら先生、と呟いた。
大学が春休みなのをいいことに通い始めた自動車教習所で、とっくに春休みは終わっているのにまだ俺は通い続けていた。それも全部計算してのことだったが。
とっくに仮免は取得して、実技も残すところ今日の一回だけで後は最後の試験を待つばかりだった。車の運転なんて、人生の大半を無難に過ごしてきた俺にとっては簡単だった。簡単すぎた。
担当の教官と仲が悪くて、車内でいつも喧嘩していようが関係なく乗りこなすことができた。横からあれこれと口うるさく言う前に三倍は嫌味を言いながら、楽しくドライブという気分だった。
最初はすべての授業を春休み中には終わらせて、とっくに卒業しているはずだったのだが、この教官に合ってそれを変更することになった。


平和島静雄という名前だったので勝手にシズちゃん、とあだ名をつけてからかいながらおもしろおかしく授業を受けた。受けたと言っても大したことは教わっていない。
何でも言われれば一発でこなし、車庫入れも縦列駐車も簡単で坂道発進は説明を受ける前にやってみせた。
そんな生意気な態度を取り続けていたのでいつも横に座っている彼は苛々しているようだったが、きちんとすれば小声でボソリとやるじゃねえかと褒めてくれる。
口汚いが根は優しくてそれなりに女子生徒に人気なのは知っていた。俺の担当の教官であったがそれは絶対ではなく、基本はこっちの予定とその日に担当教官が居るか居ないかで決まる。
卒業することを優先させるのなら、担当でない教官に授業を受けることも可能だったが、一度もそれはしなかった。
人気のあるシズちゃんの予約をうまく取るのは大変で、だから春休みを過ぎてしまったのだが最初から最後まで彼の授業を受けた。そのことに、満足していた。

「彼女なんていねえ」
「えっそうなの?あんなに女の子にモテるのに、勿体ないなあ」
「あのなあ、普通に考えて教官と生徒がつきあえるわけねえだろうが!それにモテるなら手前だって控室で女に囲まれてるじゃねえか」
「うん、まあでも俺は興味ないしそういうの」

彼女はいないという意外な発言に、ドキドキと胸が高鳴っていた。この一言を聞く為に、結構時間が掛かったなと内心思いながら。

つまり俺は、教官と生徒としてはじめて出会った時から、彼の事が好きだった。一目惚れだ。

自動車学校の先生なのに金髪で、でも見た目に反して生徒には優しく慕われている。でも散々バカにしたり、先生だと思わない態度で接していた為に俺にだけは乱暴な口調で話し掛ける。
それがたまらなく嬉しかった。似合わない敬語も取り払って、こうして二人きりの車内でどうでもいいことで罵り合うのた楽しかった。

でもそれも今日で終わりで、だから彼女が居るのかと聞いたのだ。
教官と生徒がつきあえないことぐらいわかっていたから、これまでは特にその話題を出さなかった。でももう卒業するのだ。そうしたら、互いの関係は変わる。
もう俺はこの自動車学校の生徒ではないので、ここでシズちゃんを独占することはできない。でも今度は外で会うこともできるのだ。やり方さえ間違えなければ。

「あー今日でシズちゃんと一緒なのも最後かあ、本当に残念だね。俺が優秀じゃなかったら、追試を何度か受けに来てあげてもよかったのに」
「手前はマジでアホだな。まともに運転できるのにわざと金かけて俺をからかいにくるってことか?冗談じゃねえ」

その時目の前の信号が青くなったのでサイドブレーキを引き、アクセルを踏み込んだ。すると前の車に続いて発進して、そのまま一般車の動きに乗るように走り始めた。
もう学校は間近で、だからこうして過ごせる時間もあと数分だった。名残惜しく思ったが、まだ俺の気持ちを打ち明けるわけにはいかなかった。
だから見慣れた場所を走りながら、適当な話題を切り出す。

「なんか雨降りそうな天気だよね…やだなあ明日試験なのに雨って視界悪いし最悪じゃない?」
「天気予報じゃ降るのは今晩だけだって言ってたぞ。安心しろ手前なら雨も楽しいって言いながら走るだろ。初めて高速に乗った時も大雨ですげえ飛ばすし迷惑な生徒だったよなあ!」
「よく覚えてるねえ。あの時シズちゃんの顔が真っ青でほんと最高だったよ!!」

思い出を懐かしむように走りながら、車は校内へと入っていき所定の位置できっちりと停止した。シートベルトを外して左を見ると、じっと俺の事を見つめていて数秒沈黙が訪れた。
何を言われるのか期待しながら待っていると、告げてきた。

「まあ教え甲斐がねえぐらい手前は運転うめえし、明日は心配しなくてもなんとかなるだろ。頑張れよ」
「ははっ、ありがとシズちゃん」
「ったく最後まで変なあだ名で呼びやがって…」

せっかくはじめて素直に頷いたというのに、台無しだった。でもそんな鈍感なところも嫌いじゃない。鈍感だから、これまで独り身で居られたのかもしれないし。
お互い一度見つめ合って笑いあったところで、他の車も校内に入ってきて次々と駐車していく。もう終わりの時間なのだ。本当に名残惜しい気持ちでいっぱいだったが、迷うことなく扉に手を掛け外に出る。
いつもだったらここで次回の予約を取る為に事務所内に入るのだが、もう今日はそれが必要ない。軽く手を振ると、渋々振りかえしてきたので嬉しく思いながら踵を返した。
これで先生と生徒という関係も終わりで、それこそ接点もなくなった。背後では次の授業を待っていた生徒が俺と入れ違いに駆け寄っていて、黄色い声をあげながら話し掛けていた。


でもそれをわざと耳に入れないようにしながら、控室に戻った。そうして明日の試験の話を事務員から聞いた後に、誰も知り合いの顔がないことを確認すると、すぐに校舎の外に向かった。
ちょうどお昼時だったので、このすぐ近くの店にご飯を食べに行こうと思ったのだ。その場所からこの教習所は丸見えだったので、いつもそこから眺めていた。
車の外に塗装されている番号は42番で、シズちゃんの名前の由来からほとんどそれを使っていた。だから今日も、例外なくその番号を探しながら窓際の席で昼ご飯を食べた。



『そろそろ俺も授業が終わるから、待合室で待ってろ。どうせ傘が無くて帰れないんだろ』
「ほんと持つべきものは友達だよね。ドタチンって優しい」

昼食をだらだらと食べて、食後のコーヒーまで優雅に飲んでいる時に急に雨が降り出したのだ。それはもうどしゃ降りで、近くにコンビニもなかったので今授業を受けている同じ大学の友人に連絡した。
春休み中はバイトに精を出していたので、俺よりもかなり遅れて入校したドタチンがたまたまいて良かったと安堵のため息を漏らした。

すぐに店を出てさっき一度出た自動車学校の校舎内に小走り戻っていたところで、雨音に混じって誰かの声がした。事務所の裏の普通は人通りが無い場所に、二つの傘があった。
二人の姿は見えなかったが、声に聞き覚えがあったので足音を立てないように近づいて、近くの木の影に隠れて聞き耳を立てる。すると。


「平和島先生、その…私先生のことが好きなんです。もう学校も卒業したし、よかったらつきあえてもらえませんか」


その言葉に胸が締め付けられるぐらい痛んだ。それはまさに、俺がしようとしていた、言おうとしていたことで。目の前で繰り広げられていることに、動揺した。
やめてくれ、俺が、俺がそれを。なんでお前なんかが先に。
醜い嫉妬の心を剥き出しにしながら、その場に飛び込んでやろうとも思った。でもその前に、衝撃的な一言が耳に届いた。



「悪い…俺好きな奴がいるんだ」



それを聞いた瞬間、何もかもを忘れて雨の中を駆け出した。全身ずぶ濡れになるのも構わずに、無我夢中で走った。雨の粒は冷たく全身や肌に突き刺さり、頬も濡らした。
でも頬が濡れていたのは、雨のせいではなかった。
掠れたような声で絞り出した言葉がいつまでも耳に残って、自宅に帰ってもそのままシャワーも浴びずにベッドに倒れこんで。泣いた。

初めて、本気で誰かを好きになったのに告白する前に終わるだなんて悲しかった。


そうして一晩泣きはらして、次の日もサボればよかったのだがそれだけはしなかった。
濡れた体のまま寝てしまったので少しだけ熱だってあったのだが、試験をどうしても受けたかったので学校へ向かった。
月に数回しか行われない試験を受けにくる生徒は多く、待合室にはいつもの倍以上の人数が居た。試験の日は通常授業もお休みで、担当以外の先生と外部から来た試験官で行われる。
だから当然シズちゃんも、俺以外の生徒の試験に参加するわけで。でも会う事なんかもうないと思っていた。でも偶然とは恐ろしくて、トイレでばったりと出くわしてしまったのだ。

「あっ」
「あ?なんだ手前か。これから試験だろ、早く戻れ」
「はいはい」

ちょうど外に出ようとしていたところで扉が開いたので、真正面から顔を会わせることになってしまった。あんなのを聞いてしまった後で、どう接すればいいのかわからなかったが、普通に返した。
だって別に俺が好きと言って振られたわけでもないし、勝手に自分の心の中でだけで完結させたことなんだと。そう言い聞かせて、横をすり抜けようとした。しかし。

「って、おい待てよ!」
「えっ、うわっ!?」

すれ違いざまに突然手首を掴まれて、そのままトイレの壁に背中を押しつけられた。その力は強くて、少しだけ痛みに顔を歪めながら何が起こったのかわからず呆然としていた。
するとやけに冷たい手が俺の前髪をかきあげて、額にふれてきた。

「なんだこりゃ、熱があるじゃねえか…?おいまさかこんな状態で試験受けるつもりだったんじゃねえだろうな?」
「ちょっと、急になんだよ!少し体調悪くても別に俺だったらこれぐらいハンデあっても無事卒業できる。シズちゃんもうまいって褒めてくれたじゃないか」
「んなこと言ってるんじゃねえ!危ねえだろうが!出直して来い、こんなんで受けて合格しても俺は認めねえぞッ!!」

その言葉に、カッと頭に血がのぼった。

認めない。

それがまるで俺の気持ちまでを否定しているかのように聞こえて、ムキになってしまう。唇を噛みしめて鋭く睨みつけながら、勢いよく腕を振りほどいた。
そしてそのまま何も答えずに、逃げるようにその場から立ち去った。
どうせ君は好きな相手が居るのに、俺の事なんて、俺の気持ちなんて知らないのに。認めてくれるわけないのに。もういい。


熱のせいで思考もうまくまとまらずぐちゃぐちゃになったまま控室に戻ると、ちょうど試験の始まりを告げる教官が入ってきたので、何事もなくそれに続いた。
正直に体は辛かった。でもどうしても、俺は今日のこの試験に受かりたいという気持ちが強かったので、自分なりに全力で頑張った。
そうして全員の試験が終わった後に告げられた結果は、合格だった。些細なミスぐらいはあったが、大きなことは何もしなかったので受かることができたらしい。
その場で明日の筆記試験の場所と時間を聞いて、すぐさま解散した。受かった者は喜びの声をあげながら、担当の教官に告げに行く者もいた。でも俺はすぐにその場を後にした。
体もだるいし、まだ筆記試験に合格しないと免許を取ったことにはならないので、勉強しなければと。普段では絶対に考えないことをいいわけにして、帰った。

校舎を出る寸前に、誰かに呼び止められたような気がしたが、頭も朦朧としていたので聞き間違いだと思った。
だってシズちゃんが、俺の事を”臨也”なんて呼ぶことは一度もなかったから。




「あーよかった熱が下がって。危うく免許証の写真に変な顔で載るところだった」

手の中にある真新しい免許証を手にしながら、俺はニヤニヤと歩いていた。次の日の筆記試験は見事合格して、すぐさま写真を撮り発行されたそれをじっくりと見つめる。

免許取得日は4月20日で、シズオと読める。

馬鹿みたいな話だが、俺はこの為に熱があるにも関わらず本免を受け無事免許を取得したのだ。どうしても、初恋の相手の名前の入った日に取りたかったのだ。
誕生日なんて知らないし、結局は想いを告げることもしなかったので恋は実らなかったが満足はしていた。こんな数字の為に最後は酷い別れ方をしたのが残念だったが。
きっと俺は誕生日も近い毎年4月20日に免許を更新しに行って、懐かしむのだろう。歩きながらチラリと校舎の方を眺めたが、すぐに出口に向かった。

せめて免許を取得したら会いに来いとか、そういうことを言ってくれていれば報告にも行けたがそんな言葉も無かった。俺だったら堂々と行って自慢してやってもよかったが、そんな気にもならない。
認めない、と言われたしそれこそ拒絶の言葉を聞いたら、俺らしくなく傷ついた顔をしてしまう自信があった。
これでもう、街中でばったりと会わない限り二度と会うこともないなと思いながら学校の外に出たところで。
突然誰かに横から手を引っ張られたので、慌てて顔をあげた。

「えっ……?」

「おい手前ちょっとこっち来い」
「え、ええっ!?なんでシズちゃんがここに、っていうかそれ私服?学校はどうしたのさ!」
「うるせえな、今日は休みだ」

予想もしていなかった相手に出くわして、俺は心底驚いていた。なんで、と戸惑いながら掴まれている手首を離せないのは、やっぱり数日で忘れられるほど単純な気持ちじゃなかったからだ。
そうして脇の小道に入って、周りに誰も居ない事を確認すると手を離してくれた。

「合格したんだろ?」
「あ、あぁうん。っていうか、もしかして今日ずっとあそこで待ち伏せしてたの?やだなあ、どんな嫌がらせ…」
「よかったな、免許取れて」

あまりにもはっきりとした言葉に、俺はぽかんと口を開けて息を飲んだ。しかもぎこちなく微笑んでいて、本当に喜んでくれているような様子だった。

「認めないって言った癖に」
「ありゃあなんとか手前を止めさせる為に言っただけだ。あんなにふらふらだったのに受かりやがって、マジで腹立ったぜ」

腹が立つと言いながらも、怒っているようには全く見えなかった。だから俺は、その場でぷっと吹きだして笑った。
なんだかんだで、ただ心配してくれていただけなのだと、すぐにわかった。本当にシズちゃんは誰にでも優しい。それはあんなにもいがみ合ってた俺に対しても平等で、それが少し痛かった。
でもこうして、最後に俺の為に待ってくれていたことだけは嬉しくて、ありがとうとお礼を言った。しかしその後なぜか向こうが押し黙ったので、急にどうしたのかと訝しんだ。

「なに、もしかして俺が素直に言ったのが気持ち悪いとか…」

「なあこれで、手前も晴れて卒業したってことだろ?もう教官と生徒でも、なんでもねえ」

「は?」

一瞬何を言われているのかわからずに、首を傾げた。しかし次の瞬間、信じられない事を告げられた。


「これ俺の携帯番号だ。もし手前が嫌じゃなけりゃ、つきあってくれねえか」


「えっ、え……?ちょっと、何言って…」
「あ、いや別に友達って意味だからな!勘違いすんじゃねえ!!」

目を瞬かせながら差し出された紙切れを受け取ったが、それでもまだ受け入れられなかった。友達と言われたが、まさか向こうからそんなことを告げられるなんて思ってもいなかったからだ。
とりあえず驚きのあまりによく回る口も黙り込んでしまっていたので、こくこくと頷きながらポケットにそれを入れた。

「じゃ、じゃあな…」

すると頬を染めて照れ臭そうにしていたシズちゃんが背を向けて去ろうとしていたので、慌てて手を伸ばして今度は俺が手首を掴んだ。


「ま、待ってよ!今日は休みなんでしょ?俺お腹減ったから、合格祝いに昼飯奢ってよ」


とっさに言ったことにすぐさま、そんな金はねえなんて言われたが、嫌そうな顔はしていなかった。
結局その日をきっかけに友達として過ごすようになったが、それが友達としてではなくつきあうことになるのにそう時間は掛からなかった。



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