ウサギのバイク 狂気の檻⑪
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2011-05-14 (Sat)
*リクエスト企画 虹飛様
静雄×臨也

静臨(恋人)でケンカをした後臨也がモブに拉致監禁され静雄が助けに行く話

* * *

嬉しい、この状況は嬉しいけどやっぱりシズちゃんの重荷になんてなりたくない。そう頭の中では考えているのに、行動が一致しなかった。
シャワーを浴びた後は脱衣所でタオルを持って待っていて、そのまま大雑把だけど優しい手で拭いてくれた。おまけにドライヤーを取り出して、頭までかわかしてくれると。
あまりのことに呆然としていた俺は、ほとんどされるがままに従ってしまって。風音で聞こえないとは思いつつ、小声でありがとうと呟いて俯いた。とにかく照れ臭かったのだ。

でも結局その後もさっき風呂場まで運ばれたみたいに下の階まで連れて行かれて、ソファに座らされた後にあたたかいお茶まで入れてくれたのだ。
それを少しだけ飲んだ後に、真横に座っていたシズちゃんが腕を伸ばしてきてそのまままた抱かれてしまう。慌てつつもやっぱり抵抗ができなくて、この有様だった。
最終的には二人揃ってテレビを見ることにして、大人しく過ごしていたが恥ずかしいようなむず痒い気持ちでいっぱいだった。嬉しいけど手放しには喜べなくて、そして何もシズちゃんに聞けない。

話したいことも、尋ねたいことも山ほどあるのに、それを告げる勇気がなかった。そうしたら俺も余計なことを言ってしまいそうだったし、きっと向こうも同じ気持ちだろうかと。
わかってる、本当はこれはシズちゃんの本心じゃない。きっと俺が犯されているビデオを見せられて、罪悪感に囚われているから無意識にこうしているのだ。
自分のせいだから、俺の事を助けないといけないと考えているに違いない。だってそういう真面目で優しい性格なのは充分に知っているから。俺よりも多分、心を痛めてくれているのではないかと。
でもやっぱり、あの出来事と俺達の関係を結びつけてはいけないのだ。
こうなる前にシズちゃんはずっと俺を避けていて、きっとそれは嫌いになったからだ。恋人なんてやめてやると一度は思ったはずだ。
けれどもその気持ちを無理矢理に押し込めて、シズちゃんに抱きしめられて落ち着いた俺を見て、きっとこういう風に接しようと決めたのだろう。
わかっていて、俺は喜んでいる。これが向こうにとっていいことじゃないのを知っていて、それでも胸がしめつけられるぐらいにあたたかい気持ちになっていて。
嘘をつかれているのだけれど、わかっていながら拒めなくて流されてしまう。そういうズルイ自分が嫌だった。今すぐ手を振りほどきたいのにできなくて、情けなくて、でも拒む勇気もなくて。

頭の中がぐちゃぐちゃになって、自分でももうどうしたらいいかわからなくなっていると、タイミングを見計らったかのようにリモコンを手に取ってテレビの電源を落とした。
そして俺の方に向き直り、真剣な表情で告げてきた。

「考えるのは、その…苦手なんだ。だから悪いが俺の話を黙って聞いて欲しい」
「わ、かった…」

あまりの剣幕にそれ以上言葉を吐き出すことができなくて、頷きながらそう告げるのが精一杯だった。俺の返事を受け入れた後、ゆっくりとシズちゃんが話し始めた。

「なあ…俺とまたやり直してくれねえか?」
「は……?」
「嫌かもしれねえが、俺はまた臨也とやり直したい。チャンスがあるんなら、なんでもしてやるからまたつきあってくれ」

あまりにストレートな言葉に、一瞬何を言われているのか耳を疑ってしまった。それにやり直したい、だなんて言葉がシズちゃんから出てくることにも驚いてしまった。
その言葉の裏を必死に頭の中で考えようとして、しかし途中で抱きつかれてしまいすべてが吹っ飛んでしまう。

「謝っても遅いぐらい、手前に酷いことをした。逃げて、考えないようにして、何日も放置し続けて、ずっと酷い目に遭わせてしまった」

そこで、今まで俺が見たことが無いぐらい苦渋の表情を浮かべて言葉を切って、黙り込んだ。それだけでもう、俺はシズちゃんの気持ちが伝わってくるようだった。とても、後悔させているのだと。
あっさりと捕まってしまったのが本当は悪いだけなのに、関係ないと言えないのはあの男が恨んでいたのは俺ではなかったから。ビデオの中でもきっとそれに触れている。
何があったか思い出したくもなかったし、ところどころ抜け落ちているけれどそういうことを言っていた覚えはある。だから恋人同士じゃなくて関係ない、別れたと言ったのだ。

「手前に心の傷を負わせたのは……俺、なんだよ」
「シズちゃん…?」

今にも消え入りそうな様子で告げてきて、今までそんな声なんて聞いたことがなかった。だから俺は自分の耳を疑ったが、まぎれもない本人のもので、こんなことを言わせていることに胸が痛んだ。
いつも堂々としていて、俺に対してだけは自分勝手に強引にしてきたのに、まるでそれが無くなっていた。言い方を変えれば、シズちゃんらしくはなかった。

「身勝手なことを言ってるのはわかってる。それに今俺は、手前が一番弱ってるところにつけこんでる、最低な奴だ。罵ってくれたっていい、でもわかってて…」

その時、ぼんやりとしていた俺の手首を掴んで強引に引っ張って。


「全部わかっててもう誰にも渡したくねえ。もう一度俺のもんになれ、臨也」


「…ッ!?」

そのままシズちゃんの胸に頭から抱きこまれて、告げられた言葉はよく知るもので、強引さと力強さを感じて涙が溢れそうだった。心から望んだものを、やっと与えられたような気分だった。
これが嘘ではない心からの言葉なのは、わかる。だって俺達はもう既に一度想いを告げあっていて、その時のものと変わらなかったから。
ほんの少しだったけれど一緒に過ごして、これが偽って言っていることではないと判断することぐらいできた。だいたい嘘なんて、絶対に言えない男なのだ。

「うっ…ふ、くぅ…っ、あ」

「泣くなよ」

先に涙が瞳の奥から溢れてきて、そのままシズちゃんのシャツを濡らした。唇がわなわなと震えて、言いたいことがすぐには口に出せなかった。
それがもどかしくて、目元の雫を拭おうとしたがうまくいかなかった。だって手首はまだ握られたままだったから。そこから、気持ちまでもが伝わってきそうなぐらい、あたたかかった。

「シズ、ちゃ…っ、おれ…うぁ、おれも…」
「ゆっくりでいいから、ほら落ち着けよ」
「…うぅ、っ」

そこで両肩を掴まれて、上体を起こしたところで目元を指で優しく拭われた。そんなものでは足りなかったけれど、次第に呼吸も整ってきて、涙の量も減った。
だから、本当に伝えたいことを、息を吸い込んで吐き出した。

「また、っ…一緒に、いたい…シズちゃんと…」

「臨也…」

「ずっと、シズちゃんの、こと…考えてた、から…まだ好きだから…!」

絞り出すように喉の奥から言葉を紡いで、少しでも気持ちが伝わるように俺からも腰に手を添えて抱きついた。体が密着すると、懐かしいシズちゃんの匂いがして、それだけのことが嬉しかった。
なんでもないことも俺にとっては最高のもので、さっきだってただ寄り添ってテレビを見ているだけでも、幸せだった。

「シズちゃんだけで、いい…もうなにもいらない…」

そうして、あの時つまらない意地を張って出て行ってしまって、言えなかったことを告げた。


「また、卵焼き…作ってもいいかな?」


あの男に凌辱されながら、ずっとそればかりを後悔していた。しょうがないからシズちゃん好みの卵焼きを作ってあげるよ、とその一言を伝えられればこんなことにはならなかった。
何度も後ろ姿を必死に追い掛けていた時は、素直に謝る気はそこまでなかった。本当に何もかも失って、恋人である資格を失ってから気がついたのだ。
遅かったけれど、まだ間に合うなら、ちゃんとあの時のことを伝えたかった。それを最高の望んだ形で伝えられたことに、心の奥底から喜んだ。

「バカ野郎、っ…臨也の作るもんなら全部残さず食べてやるよ!」

そう言ってシズちゃんも、背中に手を回してしっかりと抱いてくれた。動作はとてもゆっくりだったけれど、確かめるようにしっかりと手のひらで背を擦られてまた雫がこぼれそうだった。
でも俺が泣かなかったのは、大きな体が震えて、シズちゃんが泣いていると知ったからだ。


「俺も、好きだ…っ」


半分涙混じりの声は、すごく胸に響いてきてぎゅうっと切なく痛んだ。でもそれは、もう悲しいものではなく嬉しいという感情からだった。
まだ不安なことだってあるけれど、二人で一緒なら乗り越えて行けるような、力強い気持ちになった。
一人で悶々と考えていた時はどうしたらいいかわからなかったのに、こうして少し言葉を交わしただけで考えが変わった。
それは出会ってから喧嘩ばかりして、いがみ合っていた末に結ばれたからだ。何年間もすれ違って過ごした間のことが、互いの不安の壁をあっさりと取り払ってくれたのだと思う。
だって、殺す、とか死ね、と言いながらも、陥れながらも、ずっと追いかけて逃げる関係は変わらなかったから。
今更何があったところで、変わらないのだと知った。

「魘されていても、俺がいつも傍に居てやるから…な」
「うん、慰めてよ」

まだ背中は大きく揺れて涙は止まっていないようだったが、何度も何度も背中を撫でてくれて、だから俺は全身の力を抜いた。
変わってしまった体のことが気になったけれど、きっともう互いの想いは揺らがないのだと信じることにした。だから、こんな時に言うことではないけれど、一番の不安を取り去る為に告げた。

「あの、さ…その、体も…慰めて欲しいんだけど」

羞恥心を全部押し込めて、腕にしがみつき喉を震わしながら小声で囁いた。

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