ウサギのバイク リセット22
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2011-06-01 (Wed)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系

* * *

「なにこれ…?」
「見てわかんねえのか?粥に決まってんだろ!」
「いやなんか俺の知ってるのとちょっと違うっていうか焦げ入ってないかな」

飯作ってやるから待ってろと言われてソファに座らされてから、当然なにもできない俺がぼんやり待っていると台所から不穏な音や焦げ付いた匂いがしてきた。
ビクビクしながら待っていると、出てきたのは器に入った白と黄色と茶色の何かが混ざったもので。なんとなくは予想できたけれど、それはもう酷かった。

「それぐらい食べれるだろうが!ちょっと歯ごたえあってうめえぐらいだろ」
「いや焦げとか普通に体に悪いんだけどさあ、まあせっかく作ってくれたんだから食べるけど」

普通に考えてシズちゃんが俺に料理を作ってくれる、なんてありえないことが起きているのだからそれを無下にする気はなかった。味ぐらいはまともだといいのだが、と思っていてふと気がついた。

「ねえこれ外してくれる?これじゃ食べれないんだけど」
「外さねえよ」
「なに?顔突っこんで食えって言うの、やだなあ…」

頑なに外そうとしないシズちゃんに対して悪態をついていると、突然目の前の器が持ちあげられてスプーンに中身を掬ってそれが俺の口の前に突き出された。
当然それをしているのは、俺ではなくて。

「さっさと口開けろよ」
「え…?まさか、っ…食べさせてくれるっていうの…はは」
「無理矢理口開けて、皿ごと中身突っこんでやろうか?」
「ああ、うん…わかったよ」

食べさせてくれる気なのかと問い返そうとして、途中で止めた。そんなことを尋ねてもしょうがない。きっと向こうだって、自分が何をしているのかよくわかっていないままなのだろう。
頭の中を覗いてやりたかったが、それはそれで怖かった。うっかり俺の弱みを知ってしまって、唯一まともにふれられるのがシズちゃんだけだと知ってしまって。
それできっと、死にそうな姿に同情してこんなことをしているのだ。あの暴力さえなければ基本的に優しくて人がいいのだから、ちょっと怒りを我慢さえすれば献身的にできる。
その行為がどれほど俺を傷つけているのか知らず。

「…じゃりじゃり音がする」
「いいから黙って口動かせ」

好きな相手から子供の用にご飯を食べさせて貰っている、という状況は普通だったら嬉しいのにちっとも喜べなかった。俺に対して同情しか抱いていないシズちゃんなんて、いらなかった。
でももう随分と魘されて、一人だった部屋にこうして誰かが居るのは悪くは無い。夢に傷ついてボロボロになった心に、苦い同情が染み込んできて涙が出そうだった。
馬鹿だなと自嘲気味に口の端を歪めながら、次々と差し出されるスプーンからふやけたご飯と卵と焦げを受け入れて全部を食べきった。



「今度はなにをするの?」
「あ…?別に何もしねえ、テレビ見るだけだ」

そう言いながらまるで手馴れた操作でテレビのリモコンを押し、俺が録画していた中身を画面に勝手に映し出した。夢の中のシズちゃんも何度かそうしていたが、最初は随分ともたついていた筈だ。
使い方がよくわからない、なんて言っていたのに、現実はまるで違った。きっと全く同じ会社のテレビか録画機か、持っているのだろう。こんな些細な違いに、胸がチクリと痛んだ。
しかし全く俺のことが気にならないのか、随分と前に残していた幽くん主演のドラマを再生し始めた。なんの断りも入れずに、自分の家のように既に振る舞っているところが、腹立たしい。
その時、突然肩を掴まれて体が勢いよくソファに倒れ込んだ。そして。

「眠てえなら、ここで勝手に寝ろ」
「な…っ…!?」

さすがにそれには、動揺した。両手が使えない不安定な体勢で頭が置かれた場所は、シズちゃんの膝の上だったからだ。膝枕、というやつだ。あまりのことに、頬がかあっと赤く染まった。
なんでこんなことを、と叫びたい唇はわなわなと震えるばかりで言葉を発することができない。しかも向こうは至って普通の態度をしていて、既に目線は画面に向かっていた。
自然とこの俺に対して膝枕をしてくるなんて、一体何を考えているのかますますわからなくなる。そうしてようやく口を開いて問いかけたのは。

「ねえ、弟が熱を出したらいつもこんなことをしてあげてたの?」
「ああっ?幽がなんだって?」
「いや…いいよもう」

あからさまに邪魔をするなと睨みつけながら俺の顔がある下を向いてきたので、それ以上を聞き出すのは諦めた。もう少しこの状況を味わっていたかったから。
夢の中では肩に凭れてねてしまったことがあったが、それよりも格段に扱いがよくなっていて、一瞬これは現実かと驚いたぐらいだ。でもいくらこんなことがあっても、前のようにはいかない。

シズちゃんが俺の事を好きになってくれる、という確約はもうない。

全部ただの気まぐれに過ぎず、意味などないのだ。だから踊らされるな、と必死に頭の中で考えるのに思うように働かない。
仕方なく目線をおもしろくもないテレビの方に向けて、一緒にそれを見た。あまりにもいろんなことがありすぎて、そっちには集中していなかったので見落としていた。
そのドラマ内容が、夢の続きの刑事モノで二週に渡って続いていた話の後編だったことを。どうして前編からではなく、後編からだったのかなんて少し考えればわかったかもしれないのに。



「…ッ!?」

肩がビクンと跳ねて我に返ると、どうやらつまらない内容に飽きてしまい本当に眠っていたようだった。これまでもほとんど寝て過ごしていたのだから、変わりない生活だったのだが迂闊すぎた。
シズちゃんに膝枕されていることを忘れていて、気がついた時には涙でズボンが濡れていたのだ。慌てて体を起こそうとすると、それを手で遮られた。

「あー…おい、大丈夫か?」

やけに心配そうな表情で俺の事を眺めていて、その姿がついさっきまで見ていた夢の中の彼と一致した。既視感を覚えるのは、体調を崩して倒れた時に同じような顔を向けられたからだ。
現実世界でもそれは変わらないのかと思うと、胸がズキズキと痛む。頼むからこれ以上俺の心を惑わさないでくれ、と願いながら涙を拭こうとしてできなかった。
大粒の雫がぽたりと頬を垂れていき、またズボンを濡らすのが心苦しかったがどうにもできずに仕方なく目線を外した。するとそれをどう受け取ったのか、唐突に告げられた。

「やっぱりさっきの嘘だったんじゃねえか」
「…なんのこと?」
「嬉しい夢見てる奴が、やだ、とか寝言言うわけねえだろ」

しまったと思った時には遅くて、一瞬だけ動揺が顔に出てしまう。さすがに俺でも寝言まではコントロールはできない。大方あの殺される瞬間の映像を見ていた時に、口走ってしまっていたのだろう。
しかし今度は咄嗟に言葉がすらすらといつもの調子で出てきていた。

「ああ今回のはちょっと酷い夢だったからじゃないかな。絶対に同じ夢を見るわけがないだろ」
「酷い夢だと?」

もっともらしく言いながら、毎回同じ夢ばかりを繰り返し見てしまう俺はおかしいと。異常だと感じていた。それぐらいずっと、あれが心に残って離れないという証拠なのかもしれない。
自分にはどうすることもできなくて、一生このままかもしれないと。改めて事の深刻さに顔を顰めていると、目の前のシズちゃんの気配が一瞬で変わった。

「おいその酷い夢の内容を言ってみろよ」
「…やだ」

一応は口答えをしてみたが、昨日と同じように視線だけで睨みつけられて脅されていることを感じた。仕方ない、と肩を竦めてどっちを言おうかと頭の中で考えを巡らせた。
そうして、やっぱり常軌を逸している内容は伝えられないと、もう一つの方を選んだ。これなら新羅にも話したし、大丈夫だと思ったから。


「俺が、殺される夢だ」


「殺される…だと?」
「そうだよ。ナイフで腹を刺されて、痛くてしょうがなくてみっともなく泣いて。だから刺されるのが嫌だ、とか言ったんじゃないかな」

実際には嫌だと言ったのは、刺された時ではない。俺の上で跨る男達に向けて吐いた言葉で、刺された時は別の声をあげていた。到底口にはできないので、それは変えたけれど。
思い出しただけでぞっとするぐらい、異常な光景だった。だから包帯で覆われて見えないだろう手首を、ぶるりと震わして嫌悪を顔に浮かべた。
どんな反応をされるのだろうか、と内心期待していると、信じられないことが起こった。


※続きの23話は拍手で連載しています PCからだと右上にある拍手です
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