ウサギのバイク リセット 23
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2011-06-05 (Sun)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系

* * *
「うわっ…!?」

俺はシズちゃんの膝の上で寝ていた筈なのに、一瞬にして体を反転させられて何事かと声を出した時にはあたたかい腕が背中に回されていて。
お互いの顔がわからないぐらいしっかりと腕の中に抱かれていて、目をパチパチと瞬かせた。慌てて口を開いて抗議をしようとしたのだが、すかさず釘を刺すように告げられる。

「いいから、暫く黙ってろ」

一体それはどういう意味だと問いただそうとしたけれど、俺の目の端に滲んだ涙の量が自然と増えてそれはできなかった。
余計に泣いてしまったのは、まるで夢の続きを見ているようだったから。

あれは現実ではない、と頭ではわかっているのに錯覚してしまう。だってあまりにも、俺が最後の瞬間に望んだものと似ていたから。
薄暗い倉庫に連れ込まれて、何人もの男達に犯されて、そうして遂にナイフを差し出された時には手紙の最後に書いた気持ちなんてギリギリまで微塵もなかった。

こわいなんて。

あの手紙を書く寸前まで包まれていたぬくもりから抜け出して、バレないかドキドキしながらペンを走らせたから思わず書いたけれど、刺されても恐怖はあまりなかった。
それよりも胸の内を占めていたのは、シズちゃんへの後悔と、期待だ。
こんなことをしでかしてしまって、一方的に気持ちを弄んだことへの後悔。始めの時に抱いた、好きだつきあって欲しいという気持ちを伝えなかったことへの後悔。
そして絶対に起こらないだろう奇跡に近い期待ばかりを思い巡らせていた。


『なに、死にかかってんだ?バカじゃねえのか』


そう呆れながらも俺に近づいてくるシズちゃんの姿を、勝手に期待していて。叶わないとわかっていながら、最後に望んだのは、助けて欲しいという訴えだった。
手紙には残さなかった気持ちの真相が、これで。

だからこんな風に抱きしめられて、まるで夢の中で望んだ続きの再現のような気がしていた。
視界が霞んで目の前が真っ暗になっていって、そこでようやくこのまま死ぬのは怖いと思った。そうしして、なぜ運命を変えて、例えばシズちゃんの腕の中で死ぬ選択肢を取らなかったのかと笑った。
こんな一人で寂しくて辛くて悲しくて、汚れきったまま死んでしまうのを選んでしまったのだろうかと。

もう耳までも聞こえなくなってきて、自分の鼓動の音だけがやけにドクンドクンと聞こえていて。もう一度あのあたたかいぬくもりに、ふれたかったと願いながら死んだ。

「うっ…うぅ……は」

目が覚めたばかりで、鮮明にその時の記憶が蘇る。もうみっともなく震える手を隠す事ができなかった。
結果的には死んでなんかいない。あんなのは夢でしかないのに、俺の気持ちはあそこに置き去りにしてきたように感じた。だって、あの続きなのだと受け入れたらこんなにも嬉しいから。

俺の事が好きなシズちゃんが、助けにきてくれたのだと思うと、涙が止まらないぐらい嬉しくて。現実と錯覚してしまえと、頭の中で囁かれた気がした。

ここでのシズちゃんが抱いているのはきっと、新羅に何かふきこまれて唯一ふれられるのだから俺に優しくしろとか、そういう同情でしかない。
ただの夢なのに、精神的に弱ってしまっている俺の事をきっとかわいそうな奴だと思っているだけだ。でもそれでも、今の傷ついている俺には最高に幸せなことで。
利用してしまえ、と声が耳元で聞こえた。

「ふっ…ぁ……うぅ、く」

吐息と共に、声にならない声が頭の中で響き渡る。

(こわかった、こわい、ひとりはやだ、もっとだいて、すきって、おれのことみて、はなさないで、たすけて、おねがい、わすれないで、おれのこと…)

ぐちゃぐちゃの感情が渦巻いて朦朧としながら、全体重を預けた。すると背中に回された腕が、優しく撫でさするように動いて、慰めてくれる。

(すき、だいすき、シズちゃん、すき)

結局好きな想いを忘れることなんて、できなかった。だから気持ちを全部夢の中に閉じ込めることに決める。
俺は夢の中の、その続きのシズちゃんが好きだ。

だから、俺は現実世界のシズちゃんなんか、ちっとも好きじゃないと。
夢じゃないとわかっている上で、続きだと思い込んで同情の気持ちを利用する。もうそうするしか、自分を保つことができなかったから。
腕が自由だったら胸に縋りついたかもしれないけれど、それができなかったのでおもいっきり顔を押しつけて泣き続けた。それが止むまで向こうはつきあってくれたけれど。
俺の背中も少しだけ濡れていたことには、気がつかなかった。




やがて体が離されて、とりあえずソファの背もたれに体を押しつけられてこっちを見ずに水持ってきてやると台所に消えて行って後ろ姿を見ながらぼんやり考える。

(死ぬってわかってたのなら、好かれるってわかってたなら、もっと甘えてやればよかったのに)

今の全く報われる見込みのない状況を客観的に考えながら、夢の最後も後悔していたことをぼんやり思う。元々恋愛に対しては臆病だったけれど、それに拍車がかかっていた。
バカだなと自嘲気味に笑っていると、戻って来てコップに入った水を何気なく手渡そうとして何かに気付いたのかそれをテーブルに置く。
そして用意していたらしいストローを差し入れると、俺の前に突き出して来て言った。

「その…夢の話だけどな。そんなに泣くほど怖かったのか」
「言わないと飲ませない、ってことかな?」
「無理して聞きてえわけじゃねえけど、まあ…あれだ、言えばスッキリするだろ」

最初はまた脅されるのかと思ったが、わざわざストローの先っぽを俺の唇の前までもってきてくれたのですぐに口に入れた。ゆっくりと吸いこむと冷たい水が喉を潤して乾いた心まで満たされるようで。
一体新羅にどこまで優しく接しろと言いつけられたんだ、と眉を顰めた。確かに誰かに話して抑え込んでいるものを吐き出したほうが、症状も改善するかもしれない。
でも俺はもう前のように戻って普通に生活したいとかそんなことを思わなくなっていた。むしろもっと、淡い夢に浸りたいと。

「シズちゃんが、俺にすごく優しくしてくれるなら、話してあげようか?知りたいでしょ、俺の弱み」

ニコリとわざとらしく微笑みながらそう告げると、向こうはあからさまに顔を顰めた。大嫌いな相手に優しくしなければいけないところでも、想像したのかもしれない。
そんなわがままなことを言うならもういい、と今度こそ怒鳴り声が返ってくることを期待した。でも。

「優しくされたいのか?」

まっすぐな瞳でそう言われて、心臓が切なく痛んだ。そんな返事なんて、予想もしてなかったから、一瞬驚いたように目を見開いた。しかしまだ言葉は続いていた。

「素直じゃねえな」
「え…?」

そう発した瞬間に、意地悪そうに口の端を歪めて笑ったのだ。まるでこっちの気持ちが、実は夢の中のように優しくされたい、好かれたいとい気持ちが読まれたのかとびっくりして。
そんなわけがないのにと苦々しい気分になりながら目を逸らすと、コップを机の上に置く音が聞こえてきた。そうして、もう何度目かわからないけれど、またありえないことが起きたのだ。

「ほら言ってみろよ。ずっとこうやって撫でてやるから」
「……っ、ば、バカじゃないの!」

突然俺の頭に手を置いたかと思うと髪を梳きながら、何度か丁寧に撫でてきたのだ。さすがにそれには、荒い声があがった。一体何を考えてるのか、やっぱりわからないと。

でもすぐさま、夢の続きという言葉が頭の中に浮かんで、一瞬で頬が赤く染まった。あの優しいシズちゃんがこういうことをしてる、と想像するだけで背筋がぞくぞくした。
それは、いけないと、最低だとわかっていながらシズちゃんのことを考えて自慰行為をした時と感覚的に似ていた。心の奥がざわざわとして、むず痒くてしょうがなくて、でも心地がいい。
全身が、とろんと蕩けるように少しだけ熱くなった。

「シズちゃんは、何が聞きたいの?」

気がついた時にはそう口走っていて、さっきまでのわざとらしい笑みも消えていた。逸らしていた目線を合わせて、遠慮がちに尋ねると向こうが驚く。
今なら、何でも答えてしまうかもしれないと変な予感があった。決して、撫でられ続けているぬくもりのせいだけではない。

「いや…まあ、そうだな。刺されたら、痛いのか」
「そんなシズちゃんじゃないんだから、痛いに決まってるだろ。全然力は入らないし、どんどん指先から冷たくなっていくような感じで体は動かなくなるし」

まさかこんな風に淡々と言えるなんて自分でもびっくりしたけれど、ペラペラと唇は動いた。あんなに苦しんでいたことを、こうもあっさり話してしまうなんて。
すると向こうは少しだけ表情を曇らせながら、尋ねてきた。

「怖い、のか?」

そう言われたので、もしかしたら寝言でいやだ、とかこわいと口走ったのかもしれない。夢の中ではそれを口にできなかったから、余計に魘されてしゃべってしまうことになったのだろう。
シズちゃんに聞かれるなんて失敗したな、と思いながら尋ね返した。

「逆に聞くけど、シズちゃんは怖くないの?」

はぐらかすのは常套手段だったから、そうしたまでで。でもまた、想像には全く無いことを返された。

「俺は勝手に死なれるほうが、怖い」

「なにそれ?」

全然会話になってないのだけれど、と思いながらシズちゃんがそう考えた理由が知りたくなった。きっとなにかある、と少しだけわくわくした気分のまま問いかけた。

「ねえ、君の周りで誰か死んだ人間でも居たの?でもいつもあんなに暴れるのに、死人なんて出たことないよね。小さいころの話かなあ、聞きたいな」


「チッ…好きな奴が死んだんだよ」


耳に入った瞬間、息が詰まって苦しかった。ぬるい微睡から、急に冷たい氷水をぶっかけられて現実に引き戻された気がして、吐き気がする。


「す、き、な…やつ…?」


一言一言を丁寧に紡ぎながら心は完全に打ちのめされて、瞳の中には何も映らなくなった。
例え昔の話だとしても、そんな言葉は聞きたくはなかったと酷く後悔した。


※続きの24話は拍手で連載しています PCからだと右上にある拍手です
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