ウサギのバイク リセット 24
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2011-06-09 (Thu)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系

* * *

「シズちゃんって、好きな相手とかいたんだ…?」

さっきまで動揺していたこととか、何もかもを忘れて冷静に尋ねていた。取り繕った笑みを口元に浮かべてじっと見つめると、明らかに照れているような仕草で一瞬目線を逸らした。
暫く口を開こうかどうか迷っていたが、結局こっちを向いてそれはもう嬉しそうな表情で告げてきた。

「あぁ、まあ…な。すげえ大事な奴だったんだよ。でも勝手に死にやがって、俺はずっと腹が立っててしょうがねえ」

そう言うシズちゃんは、確かに怒っていた。けれど俺の知っている怒り方などではなく、静かに拳を握りしめながら心底悔しそうな表情をしていて胸が痛む。
これはダメだと思いながら、スラスラと口は勝手に動く。余計なことを聞いて傷ついてしまうのがわかっていて、それでも続けてしまう。いつもそうだ。

「ねえどんな相手だったのかな?やっぱり年上で、美人で包容力のある女性じゃない?そういうタイプが好きだよね」
「全然違えよ。生意気で、気分屋で、考えてることがさっぱりわかんねえぐらいややこしいのにたまにすげえ鈍感で、バカだ。寂しい癖に口には出さなくて強がってるし、でも全部顔に書いてあるからわかんだよ」
「なんかいいところが全く無いみたいだけど、シズちゃんってそんな変な相手好きになる?もっと単純なタイプだと思ってたけど」
「まあある意味単純だけどな…」

他人の事を惚気るところを見たら卒倒すると思い込んでいたけれど、意外にそうでもなかった。グサグサと言葉は突き刺さっていたけれど予想と少し違ったので驚いてもいるからだ。
もっと好きな相手のことを褒めまくると想像していたけれど、逆に貶すような発言をしていて少しだけそれが俺を安堵させた。でも心が乾いていくのには、変わりは無いけれど。

「そうかシズちゃんでも、恋なんてするんだ…」

下を向いてボソボソとそう言った。聞こえても聞こえなくてもいい声で、純粋な気持ちを口にすると現実として重く圧し掛かってくる。
こんな話が聞きたくなかったから夢の中では願いを叶えようと必死に動いていたのに、こんなにもあっさり崩される。やっぱり現実は怖いと肩を震わせた。

「手前だよ」

「…なに、なんか言った?」
「なんでもねえ…っ、くそ」

唐突に何かを言われたのだが、ぼんやりしていて聞き逃した。だから尋ね返したのに舌打ちをしながら顔を逸らしてしまい、まあいいかと思った。
別にこれ以上シズちゃんの好きな相手とやらに興味は無いし。そいつが既に死んでしまっている、というのがまだ救いだったから。生きていたら、きっと立ち直れないぐらい落ち込んでいる。
でも死んだ相手をいつまでも想い続けている状態なら、それこそ今更好きだと言えない。負ける確率が高いのに、更に厳しい条件がうわのせされただけだ。

「なあ手前もいんだろ、大事な相手って言ってた奴のこと…好きなんだろ?」
「え…?」

一瞬驚いたが、今度は聞き逃さなかった。そしてまさかこっちが聞かれると思わなかったので、かあっと頬が熱くなる。どうしようかと迷って口を噤んでしまう。
本人に尋ねられるとは予想もしていなくて、こんな話をシズちゃんとしているというのが今更ながらびっくりする。でもどうせ向こうはこっちに興味はないだろうし、言ってしまっても構わない。
だったら苦しくて切ない胸の内を、少しだけ吐露してしまってもいいだろうかと。どうせ伝わらないのなら、何を言っても。

「好きだったよ…すごくね。好きだった」

さすがに真正面からはっきり言うのは照れ臭かったので下を向いたままだった。でもそう声に出して言ってみると、そうか好きだったのかと自分の中でも納得する。
もう、シズちゃんへの想いを過去のものにしようとしているのだと。

「じゃあそいつのせいで、今も魘されてるってことか」
「それは違うよ多分自業自得だ。そうだねもうここまで言ったのだから夢の話をしてあげるけど、それはもう都合のいいものだった。俺の願いを叶えてくれるという変な奴が現れて、そいつに頼んだんだよ。好きな相手が、俺の事を好きになってくれって。その代償として、数日後に殺されるっていうそういう内容だった」

冷静になって考えると、夢なのにとんでもなく融通が効かないものだった。何一つ思い通りにいってなかったような気さえする。所轄夢なのだからもっと楽しませてくれればよかったのに。

「なんだそれは…っ、死ぬって手前はわかってたってことか」
「自分がどうやって死ぬかも全部知ってたよ。それに俺がそこで逃げるとその好きな相手が死んでしまうって言われてさ。必ずどっちかが死ぬっていう、夢にしては酷いものだったよ」

自嘲気味に笑いながらゆっくりと顔をあげると、シズちゃんと目が合った。どんな反応をしているのか、急に知りたくなったからそうしたのだが想像とは違っていた。
なぜか今にも泣きだしそうな表情をしていて、これはもしかして、俺の話とそのシズちゃんの好きな相手た死んだことを重ねているのではないかと。
しつこく話を聞いてきたのはその相手のことを悔やんでいて、せめて俺を慰めて代用しようと。少しでも罪悪感から逃れようとしているのではないかと気がついた。
俺に興味があるわけではない、のだ。

「なんで黙ってたんだ」

「……え?」
「ああ、いや、手前のことだから黙ってたんだろ。誰にも相談せずに、一人で…その」
「へえよくわかったね。まあ話す時間が惜しいというか、最初から俺の選択肢には願いを叶えて死ぬことしかなかったし。シズちゃんだって、好きな相手が死ぬぐらいなら自分が、とは思わない?」

まさか俺が死ぬのを黙っていたことを指摘してくるとは思わなかったので、少しだけびっくりした。意外と俺の事を見ているのだなと感心しながら同意を求めた。
同じように好きな相手の事を想うなら、自分が死ぬのは当然だと。夢の中の出来事が間違っていなかったと、聞くようなものだった。でも。

「俺は自分も助かって、相手も助ける方法を探す」
「ははっ、なるほどね」

その答えを聞いて、そんな方法があったのかと驚嘆した。けれどもとてもシズちゃんらしい考えで、こういうところが好きで、でもいろいろ引っ掻き回してくれたなと思い返す。
最後の最後に、俺に優しくしてくれて未練を残すような真似をしてくれて。

「そうだねもし好き合っていると初めからわかっていれば、その選択肢もあったかもしれない。でも俺の場合は、相手の気持ちがわかったのは最後の最後でもう引き返せなかったからしょうがないんだ。まさか本当に願いが叶うなんて思ってなくてさ、途中で諦めてたから少し複雑な気分だったよね」

「諦めてた…?」

「そう、俺は別にもう好きとかそういうのはどうでもよくなってて、嫌われてさえいなければそれで幸せだった。一緒に過ごせるのだって奇跡みたいなものだったから、気持ちとかそんなのもう関係なくなってた。最後に素敵なプレゼントを贈って、それで終われれば充分だったから。まあ絶対に君には理解できないことだろうけどね」

弱気な俺は、シズちゃんみたいにストレートに表現できないんだと心の中で呟いた。夢の中で最後の日にしてくれたことは今思うとあまりに直球で、気持ちを聞かなくても好かれているとわかる。
好かれていたのだと、そう考えるだけで傷ついていた胸の内が少しだけ和らぐような気がして。

「もしかして…今も諦めてんのか?」
「ん…?何の話?」

急に話題を変えられて、俺は眉を顰めた。夢の中の話をしていたのに、突然今の事を尋ねられて困惑した。

「そうだ、もし好きな奴がいるならそいつに…こんなことになってるのを相談するだろ」
「するわけないだろ」

何かを勘違いしているらしい物言いに、ため息をついた。説明するのが面倒だなと思いながら、仕方なくわかりやすく言ってやった。

「だって夢の中じゃないんだから、その相手が俺のことを好きになってくれる保証が何も無いだろ?むしろまあすごく嫌われてるから、相談どころの話じゃない。振られるってわかってて、そこに飛び込むほどバカじゃないよ。傷つきたくは、ないから」

自分で言っていてだんだん惨めな気持ちになってくる。ただでさえ現実のシズちゃんは別に想っている相手がいるわけで、そこに俺がつけ入る隙なんてない。こんなに近くに居るというのに、心はとても遠い。
夢の中のように優しく慰めてはくれているけれど、意味合いが全く違う。決して、俺の事だけは好きにはなってはくれないのだ。

「話せば、いいだろ。実は向こうだって、同じっていうことも…」
「だからさあ、もうこっちは散々傷つけられてるんだって。そこに止めを自分で刺すなんて、そこまでバカにはなれないよ」

大袈裟に肩を竦めてそう言ってやると、不快感を顕わにされてしまう。まあこんな俺の考えが、シズちゃんに通用するわけがないのだ。それは一番よくわかっている。ずっと傍で見てきたから。
そういえば夢の中でだって、こういう話をしたことがあった。ドラマを見て、重い病気にかかっていることを打ち明けるかどうかを聞かれて。その時俺達は全く逆の考えだった。
だから多分現実でも、一緒なのだと。わかりあうことなんて、できないのだと。

「まあ、こんなことどうでもいいんだよ。俺がこんな変なことになっているのと、そいつのことは関係ない」
「なんで関係ねえんだよ」

なんだかいろいろと惑わされたけど、目が覚めてすぐに決めたことを実行しなければいけないとやっと気がついた。少しだけ夢の続きに浸れたけれど、そんなものはもう脆く消えた。
同情と、好きな相手の身代わりとして俺の事を見ているのだから、これ以上一方的に想っていても意味がないのだ。

このシズちゃんが、俺を好きになってくれる確率はゼロだから。

「もう、止めようと思って」

わざとらしくニッコリと笑いながら、はっきりと告げる。


「もう俺は、その相手の事を好きでいるのは止めようと思うんだ」


※続きの25話は拍手で連載しています PCからだと右上にある拍手です
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