ウサギのバイク 男性も安心の大人の専門店「池袋最凶」 ⑭
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2011-06-10 (Fri)
*リクエスト企画 ぷぅ様
静雄×臨也

パラレル。アダルトグッズの実演販売を臨也の体を使ってモブの前でする静雄の話

* * *


そこからはあっという間だった。目の前でぐるぐると景色が変わっていって、久しぶりだというのに浸っている間もなくどこかに連れて行かれる。静止の怒鳴り声なんて、聞いてはいなかった。
やがてどこかのアパートに辿り着いて、二階の扉の前でようやく動きが止まった。すぐさまポケットを取り出して鍵を開けたので、そこがシズちゃんの自宅だということを知る。
呆然としていると扉が開かれてガチャリと閉まる音がしたと同時に、やっと床に下ろされる。ほっと息をついて顔をあげようとして。

「え…?っ、う…ん、ぅう…!?」

声を発する前に当然のように唇が塞がれてパニックになる。ただでさえ困惑していた頭が思考を停止して、そのままされるがままに口内を舌が蹂躙する。
挙句に舌を絡められて、吸われかけたところで慌てて肩を押す。当然のようにびくともしなかったけれど、さすがに離れていった。

「な…な、なにを…ッ!?」

「臨也、好きだ」

「……え?」

今度こそ驚愕して、声も出せなくなる。あまりのことに口をパクパクして、うろたえてしまう。聞き間違いなんかではないだろうか、と何度も確認するように反芻しながら最終的に首を傾げた。
なんでそんなことを言いだしたの、と問い詰めるように瞳だけで睨みつける。しかし全く通じていなくて、勝手に話しを始める。

「もう、待てねえ。いや充分待った。何年でも待つつもりだったが、もう無理だ耐えられねえ。今すぐ手前としねえと、俺はどうにかなっちまう」
「す、る……っ!?」

腰を引き寄せられて、真正面から体を密着させるように抱きこまれて。その時に、硬い何かが俺のお腹の辺りに当たっていた。それが何かなんて、説明されてもわかる。
だから一瞬で意味を理解して、頬がかあっと赤く染まる。さっきの好きという言葉もまだ残っていたので、嘘ではないだろうし体が目当てというようにも思えなかった。そこまで、鈍感ではない。
でもとりあえず、話がしたいと思ったので喉の奥から声を絞り出した。

「ま、待って……!」
「だから待てねえッ!!」

怒鳴りつけられて、肩がビクンと跳ねた。怒られるなんて、どのぐらい振りだろうかと感慨深く思うのも数秒だけだった。何を考えているのかいつもわからなかったけれど、今日はそれに輪をかけている。
たった数年の間に何があったのかとびっくりするぐらい、変わっていた。いや多分ついさっきまでは普通にしていたのだから、俺が現れてしまったことで変わったのだ。
シズちゃんの生活を壊してしまった。こうやってまた、俺は迷惑を掛けるのかと思うと息苦しくなる。でも前のように発作が起こることはなくなった。もう全部終わったから。

「話したい…っ、まだだって、なにも…」
「話をしてる時間も惜しいんだよ俺は。早く手前にふれて、中に…」
「シズちゃん…ッ!!」

大声で叫ぶとそこでぴたりと動きが止まった。それまで何かに憑りつかれたかのように必死な形相をしていたシズちゃんが、我に返ったようですぐに手の力を緩めた。離そうはしなかったけれど。
俺はとりあえず一息ついて、それからゆっくりと問いかけた。

「ねえ俺のこと好き…って、本当に?」
「本当だ」

「いつから?」
「昔からだ、出会った頃からずっとだ」
「出会った頃って…嘘だろ?」

短く問いかけるとそれにテンポよく言葉が返ってくる。しかもどれもが俺にとって嬉しいもので、じわじわと全身が熱くなってくる。恥ずかしいなんてものではなかったが、瞳が逸らせなかった。
あまりにも真剣で、切羽つまっていたから。あんなに何年も一緒に居たというのに、こんな表情は初めてだったから。

「嘘じゃねえ。だからあの時手前が俺の代わりにあんなことになっちまって、しかも告白されて嬉しくて、でも悲しくて、辛くて」
「…どうして、言ってくれなかったんだよあの時に!」

こんなことを言ってしまってはいけない、と思いながら少し強い口調で咎めた。だってもし、そう告げてさえくれれば、どんなことがあろうと俺は乗り越えられたのに。
男達に犯されようが、体を治す為に一人になろうが、寂しくなかったのに。気持ちを諦めることなんて、なかったのに。

「そんな状態じゃなかっただろうが。まあ全部俺が暴れちまったのが原因だし、手前に告白する資格なんてなかったんだよ」
「関係ないよ!言ってくれたら、俺がどんだけ救われ…」
「あんなヤクザの言いなりになるしかなくて、酷いこともして、それで情けない状態だったのに好きとか言えるわけがないだろ!しかも、俺はさわれなくなるしそれって明らかに体が拒否してるってことじゃねえか」

はっきりと言われて頭を鈍器で殴られたような気がした。シズちゃんにさわれなくなったのは、俺自身のせいだと。
実際に治療をしている時に、そう言われたことだってあった。要は心の問題でいくらでも治ると。あの時の俺は、自分の体が汚くてさわられたくないと無意識に思っていたから勝手に反応したのではないかと。
睡眠治療や、精神的にもいろいろな方法を試してそれは克服した。しょうがなかったのだと、過去の話として整理できるぐらいになったのだから、もうさわられても平気だ。
俺の心の原因を、本能的に察知していたことも驚きだったが、それ以上に一人の男として情けないと思っていたらしいことにびっくりした。そこまで本気で、考えていたのかと。

「でももう治ったんなら…いいだろ?なあ臨也」
「いや、だから全然よくないって…」

少しだけ感動していたのに、結局数秒も持たずに鼻の先まで唇が近づいてきてしまったので慌てて両手で制した。別に嫌なわけじゃないのだが、いきなりこれは違うんじゃないかと。
するとあからさまに不機嫌そうな表情をしながら、今度は口先を尖らせて拗ねるように言ってくる。

「いいじゃねえか、ずっと我慢してきたんだ。まあ正直に言うとすげえ後悔したんだよ。資格とかそんなの関係なくて、どうしてあの時二人で逃げようって掻っ攫わなかったかって。あんな施設なんかに頼まなくても、俺が絶対に治してやるって言えばよかったんじゃねえかって。そうしたら手前はずっと俺の傍に居てくれて、寂しいとか悲しいとかそんなことにならなかったんじゃないかって」
「シズちゃん…?」

まるでこれまで抑えてきた気持ちを一気に吐露するかのように、言葉を続ける。俺は今までここまでしゃべった姿なんて見たことがなかったので、本人かとびっくりするぐらいだ。
でもきっと、これは二年分の募った想いで。俺だってシズちゃんのことが好きだから、その気持ちは痛い程にわかる。わかるから嬉しくて、でもなんて言ったらいいかわからなくて。

「この二年手前のことしか考えてねえ。何もなかった、空っぽだった」
「…っ、あんなにまともに仕事してたじゃないか。すごく似合ってたよ、穏やかそうで色んな人にも好かれてて、その…」

数分前のシズちゃんを思い出して、鼻の奥が痛くなる。俺と一緒にあの店で働いていた時は、常に顔を顰めて無表情で、何かに耐えているかのような険しい感じで。あの時とは、まるっきり違った。
あれが本当の、平和島静雄だ。俺さえいなければ、あんなに普通に生活できるのだ。
それはつまり、俺がシズちゃんを不幸にしているということで。そんなのは、俺も許せないと。

「俺は、あっちのシズちゃんが本当の姿なんだと思う。だからもう、関わらないほうがいい…互いの、為に…」

目線を逸らしながら、そう告げるのが精一杯だった。本当は、俺も好きだからずっと傍に居て欲しい。昔のように過ごしたい、と言いたかったけれど俺は知ってしまったから。
自分が幸せになるだけでは、ダメだと。相手が幸せではないのに、どうして幸せと言えるのかと。だったら、自分自身の幸せなんていらないと。

「なあ手前はやっぱり、もう俺のことを好きじゃないんだな」

「え…?」
「まああん時の告白も、まともな状態じゃなかったしな。それからはずっと俺に怯えて、でもふれられなくなった代わりに元に戻れたかもしれないと思ったのに…」

悲しそうな表情をしながら、じっとこっちを見てくる視線が痛かった。俺は俯いたまま何も言い返せなくて、固まってしまう。

好き、ってなんだろうと。

この二年俺はシズちゃんのことなんかほとんど忘れて過ごして。だからもう好きだと言える資格もなければ、こんなに必死に好きだと言われているのに受け入れようとしなくて。
もしかして俺の好きという気持ちと、シズちゃんが好きだと言ってくれている気持ちは違うのではないかと。一瞬で青ざめた。

「臨也は、さっきまでの俺がいいんだよな?」
「な、に…?」
「誰にも暴力振るうことなく、穏やかに静かに過ごしてる俺がいいってことだよな。こんなみっともなく、好きだって迫る俺は嫌なんだよな」
「……っ!」

そう告げられて慌てて顔をあげると、傷ついたような表情があった。顔を顰めて、それこそ今にも泣きそうで、それを見ているだけで胸がじくじくと痛んで。
悲しませてしまった、失望させてしまったのだと。

「綺麗な俺がいいっつうんなら、それは無理な話だ。本当は酷い奴だからな。手前だけは、それを知ってて好きだって言ってくれたのかと思ってたけど」
「…ち、が…っ」

「やっぱり、無理な話だったんだよな。じゃあしょうがねえ」

何かに吹っ切れたかのようにそうはっきり言われて、俺は固まった。喉から声を出して、違うそうじゃない、待ってと叫びたいのにそれができなくて。
唯一できたのは、目の端に涙を浮かべながらしっかりと服の袖を握ることで。無力な自分自身に、どうしようもなくバカな自分自身に失望した。

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