ウサギのバイク リセット 25
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2011-06-13 (Mon)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系

* * *

「好きでいるのを止めるって、そりゃあ本気か?」
「こんなこと軽々しく口にしたりしないよ。そりゃあ嘘つきだってシズちゃんは言うけど、俺だってやる時はやるんだ」
「いや、嘘つきでいい…嘘だって言えよ!」
「は……?」

急にさっきまでの怒っていたような態度が一変して、なぜかすごく焦って青ざめているような表情に変わる。こんなに慌てているところなんて見たことがなくて、一瞬ぽかんと口を開けて呆然とする。
勢い余って俺の肩をガシッと掴み、ガクガクと揺さぶってきて。なすすべもなく上半身をぐらぐらと前後に振られる。

「なんで諦めるんだよ!なあ、なんでだ…ッ!!」
「いや、だって…その、俺もう疲れたし。シ、シズちゃんにはわからないかもしれないけど…ずっと好きでいるのに振り向いてもらえないなんて苦しいんだ。辛くて、切なくて、もうどうでもよくなって」
「っ、う…そう、かもしれねえけど諦めるなって!お、俺が…っ、応援、応援してやるからよ!」

あまりに必死な形相に、ただぼんやりと見つめるしかなくて。まさかその好きな相手が目の前にいて、まさに本人から諦めるななんて言われているなんて笑ってしまうぐらいおかしかった。
実はね、君なんだよ。と気軽に言えればどれだけよかったか。でも言えないので、シズちゃんの提案を反芻する。

「応援、って…シズちゃんが?俺の恋を応援してくれるって?」
「あ、あぁそうだよ。ちゃんとそいつに告白できるように、練習とか…つきあってやるし」
「はっははっ、あ、ははは!やだそれ、練習とか、もう…っ、笑え過ぎてお腹痛いよ」

突然の言葉に思わず笑いが漏れた。だってあまりにも滑稽だったからだ。一番言いたい相手から、告白の練習につきあってやるからと言われているのだ。笑いたくもなる。
そんなの、俺にとっては練習にもならない。向こうはそのつもりではないかもしれないが、こっちの気持ちは本気で。しかも結果なんて、見えている。
夢の中でだって、一度告げているのだ。好きだからつきあってくれと。でもそれは、友達という意味で。
でも前とも少し状況は違うし、ほんの少しだけ好奇心が疼いた。嘘だとしても、練習だとしても、俺が好きだと言ったらどんな顔をしてくれるのかと。見てみたいと。

「こっちは本気で言ってんだよ!だから早く好きって言えよ!」
「ちょ、ちょっと…待ってよ。まだ俺気持ちの整理ついてないし、っていうか練習するって承諾してないけど?ほんと強引っていうか、そんなに恥ずかしい姿が見たいんだ」
「見たい。だから本気で、本番だと思って言えよ」

恥ずかしい姿だってわざわざ言ったのに、それがどうしてもみたいだなんて失礼だと頬を膨らませつつ、真剣な眼差しには逆らえなかった。押しにだって弱いし、詰め寄られたら断れない。
しかも相手はシズちゃんで。一瞬夢の中の姿が、ぶれて見えたような気がした。あの時は言えなかったことを、今ならはっきり告げられる。
そうしたら、少しぐらいは吹っ切れるかもしれない。心の中で、きちんと整理がついて魘されることも無くなるかもしれない。全部憶測だったけれど、精神的な問題が関係していることはわかっている。

「笑わないで、くれるなら……」
「笑わねえ。だから早く言ってくれ、頼む」

いつのまにか、肩を掴んでいる手は腕に伸びていてしっかりと俺を支えているように感じられた。まるで勇気づけるみたいに、いつもより優しい瞳で見つめている。むず痒い気持ちだったけれど悪くは無い。
むしろいつもこれぐらい普通に接してくれるといいのだけど、と思いながら深呼吸した。でも。

「やだ、やっぱり…は、恥ずかしい」
「なんでだよ!練習なんだろ、本番どうすんだよ!!」
「だから本番何てする気は全くないって。っていうか、練習なんだから躊躇したっていいじゃないか!」
「男らしくねえな、手前は!」
「だ、だったらシズちゃんが手本見せてよッ!!」

うっかり叫んでしまってから、しまったと口を噤んだ。余計なことを言ってしまったと、すぐに後悔する。別に俺は、シズちゃんが誰かに告白するところが見たいわけじゃない。むしろ見たくない。
だってそれは、もう相手が俺ではないとわかりきっているから。だから別の人を想いながら言われるなんて、傷つくに決まっている。だから、失言したと舌打ちした。だが。

「それは…それだけは無理だ。悪い」
「え…?」

いきなり眉間に皺を寄せて、謝ってきた。まさかそんなことになるなんて思わなくて、驚いたけれど。結果的には、胸がズキンと痛んで、息苦しくなる。
恥ずかしいからそんなこと言えるわけがない、と反論された方がまだマシだった。この謝り方では、つまり。
自分自身の言葉に嘘はつきたくないと言っているようなもので。
俺が好きだなんて、練習だとしても、嘘だとしても絶対に告げられないということだ。心の奥が軋んで、やけに冷めた気持ちになる。結局自分を傷つけたことには、変わりはなかった。

「そうだよね、シズちゃんは嘘が嫌いだよね。俺相手に、練習だとしても好きだなんて言えないよねえ?ごめんね」

一言発する度に、自分の言葉が針のようにグサグサと刺さっていく。夢のようにいくわけがないなんて思っていたけれど、また更にそれを突きつけられて、辛い。もう今日は何度傷ついただろうか。

「違う、っ…そうじゃねえ、んだ。どうしても言えねえ理由が、あるだけだ。嘘が嫌とか、そんなんじゃねえ。手前は気にすんな」

気にするなと言われて、まるで突き放されたような気分だった。確かに無遠慮に踏み込み過ぎたのかもしれない。一方的に俺の事だけ聞かれるのが納得いかなくて、それで聞き返しただけなのに。
これ以上は深く追求しない方が、傷を増やさないで済む。だから俺は、自嘲気味に笑って頷くだけに留めた。

「じゃあそうだね…シズちゃんだったら、どんな告白されたら嬉しい?」
「え……?」

話題を変えようという意図があったので、なんとなく聞いただけだった。でも心底驚いて動作を停止して、目を瞬かせている。きっとそんな質問をされるなんて、思っていなかったからだろう。
すぐに首を傾げながら、ちょっと待ってろと真面目な顔つきになる。こうやって俺の言葉をいちいち聞いてくれること自体奇跡みたいなものだったが、本当は心優しいのだからこれが普通なのだ。
はぐらかすことに成功して、少しだけ息をついていると、ほんの少しだけキツく睨みつけるようにしながら言った。

「好きな奴の言葉だったら、なんでも嬉しいに決まってるだろ」
「あ、あぁ…そうだね」
「でも手前は絶対に素直に言えねえだろうからな、ちゃんと恋人同士になりたいってはっきり言え。そこまで言えたら合格だ」

一体何が合格なのか知らないが、あまりに高いハードルに驚愕した。さすが俺とは全く合わない性格をしている。皆まで言わなくても、好きだと言う一言で全部わかるだろう。
でも確かに、夢の中で告白した時は通じなかった。好きです、つきあって下さいが通じない鈍感男だったのだ。

「言わないよ、そんなの…無理」
「やる前から無理とか決めつけんな。っつーかよくペラペラうざいことはしゃべる癖に、こんなのも言えないのか?」
「挑発しなくていいよ!いいんだって、そんなこっ恥ずかしいことできない。好きだけでも充分だし」
「俺が聞きてえっつってんだろうが、いいからつべこべ言わず、やれ」

あまりに横柄な態度にだんだんとムカついてくる。こっちはただ嫌がっているだけじゃないんだと、怒鳴れればどんなによかっただろうか。悔しくて唇を噛みながら、射抜くように見つめる。
でもそんな脅しが通じないぐらい、向こうもこっちを睨んでいた。いつものように睨み合っているのに、その内容は今までと全く異なる。不思議な気持ちだったけれど、腹を括るしかなかった。
だってシズちゃんが折れないことぐらい、俺はよく知っているのだから。

「くそっ、ほんと…最低」
「おい、告白の練習のどこが最低なんだ臨也くんよお?」
「だから君には一生わかんないって」

盛大にため息をつきながら、そわそわと体を捩らせる。言わないといけないのはわかっているが、踏ん切りがつかない。でも言わないとそのうちキレて、暴力に訴えられるかもしれないのだ。
なぜこんなことになってしまったのかと駄々をこねたいところだったが、そんな時間は無い。いつの間にか追いつめられていた。
喧嘩なんかではなく、口でだ。あのシズちゃんに。

「こっちの準備はできてるぞ、いつでも来い」

そう言うと手を離して、俺の目線に合わせるように体を屈めてきた。そんなことまでしてくれることに、瞬間的に顔がニヤついてしまいそうになる。やっぱり優しい、とてつもなく優しい。
いつも、これからいつまでも、こうだったらいいのにとほんの少しだけ願いながらゆっくりと口を開いた。

「シズちゃん…っ、す、好きだ」
「ああ」

優しく返事が返ってきて、その瞬間涙が出そうになる。あの夢の中ではまるっきり理解されていなかった言葉に、相槌があったのだ。もしこれが、今でなかったらと悔しくなる。
でも考えてもしょうがなかったので、ぐっと唇を引き結んで堪えながら、続けた。

「よかったら俺と、つきあって…その、恋人同士になって……下さい」
「ああ、わかった」

最後はあまりの緊張に敬語になってしまったけれど、胸の中のもやもやが晴れていくようだった。こうやって練習しただけなのに、随分と効果があるものなんだと驚いた。
多分それは、目の前のシズちゃんの表情が穏やかでずっと微笑んでいてくれたからだ。まるで本当に告白して、受け入れてもらえたみたいで。だから。

「聞いてくれて…ありがとう」

頬を真っ赤にしながら、お礼を言うのが精一杯だった。勘違いなんてしてはいけないと、必死に言い聞かせながら目を逸らして俯く。恥ずかしさで死んでしまいそうだったけれど、満足感はある。
やっと、言えなかったことがきちんと伝えられたと安堵して呼吸を吐き出していると、また信じられないことを提案される。

「ああよかった…少しすっきりした…」
「よし、じゃあ次は本番だな?」
「…へっ…?」

そこで全身が硬直して、時が止まったかのような錯覚を受けた。その間にシズちゃんは、なぜか俺の頭をゆっくりと撫でて幸せそうに笑い、かっこいいなと見惚れる。
でもそうやって現実逃避している場合ではなかった。


※続きの26話は拍手で連載しています PCからだと右側の拍手です
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