ウサギのバイク リセット33
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2011-07-16 (Sat)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系 静雄視点

* * *

「まあまずは会うことだよな…」

そう決めた俺は新羅に礼を言って新宿を目指していた。当然臨也の自宅兼事務所に向かう為だったのだが、そろそろ新宿かという辺りで妙な気配がした。
まあそれはいつものごとくあいつのものだったのだが、久しぶりと言えば久しぶりだ。一緒に住み始めてからは外で会わなかったし、必死に匂いを辿り探したのはあの日だけで。
時間が戻ったというのならこの世界では数日ぶり、ということになるのだがそれも違う。俺にとっては、続いているのだ。臨也がいなくなった時から、会えないかともがいていて。

「あの野郎」

妙な昂揚感が胸を占めていた。それは泣きたい気持ちでもあったのかもしれないけれど、泣き顔なんて誰にも見せられない。もし見せるとしたら臨也の前だけで。
足は無意識に気配を追いかけていた。当然辿り着いた先には、居るのだろう。生きているのだ、あいつは。

「本当に手間かけさせやがって」

今日まであまり考えないようにして過ごしてきたけれど、こうして近くに居るのだとわかると自然に走り出していた。どうしてすぐに会いに行かなかったのか、と後悔さえしてしまいそうで。
でも俺にはこうやって生きていることを感じられることが嬉しくて、頭の中に最後に見た酷い姿が思い浮かぶ。想いを綴った手紙とか、いろんなことが蘇ってきて。
そうしているうちにどんどん近づいていて、この曲がり角を過ぎればあいつが居るだろう。そのまま飛び出して行こうとして。
足を止めた。
どうやら臨也以外にもう一人、居るようだったから。何度か池袋で見掛けたことはあったが、二人で会っているらしいところを見るのは初めてだった。
俺はまだ、正体を知らない。真実を知らない。あんな酷い目に合わせた奴らの事を、知らないのだ。
だからあいつに近寄るすべての奴らが全員悪者に見えた。敵が多くて苦労をしている、という話だって聞いたことあるのだ。なにより最後まで誰にも頼らなかったのだ。
好きだと言った俺にすら。

「なにやってんだ、あいつは…」

ビルの影から顔だけをそっと出して、とにかく二人の立ち位置を確認する。すると確かに臨也と白いスーツ姿の男が立ち話をしていた。周りには誰も居なくて、ひっそりと会っていることが窺える。
とりあえず警戒しながら眺めていると、何か封筒のようなものを男に手渡した。きっとそれが今日の目的なのだろう。これで終わりか、と気を抜かないように眺めていると、突然。

「暫くは仕事も休んで安静にしてろ」

それまでボソボソと話していた声は俺には全く届かなかった。でもその一言だけがはっきりと聞こえてきて、次の瞬間男がした行動に神経を逆撫でされる。
あろうことか、俺の臨也の頭の上にあのヤクザ野郎が手を置いたのだ。まるで気遣うように撫でているのを見て、もう我慢はできなかった。
あの役目は俺なのだ。俺が、あいつにしようと思っていたのだ。どうしてそれをこうもあっさり、横から出てきた奴に取られるのか。全身を怒りが駆け抜けていく。
そうして気がついた時には飛び出していたのだが、近づこうと踏み出した途端に異変が起きる。目の前で一部始終をはっきりと見た。

「…っ、あ……うあ゛っ……!?」

まず異常な叫び声があがって、同時に臨也がそいつの手を乱暴に振り払う。そのまま足をふらつかせながら後ろに下がり、その場にしゃがみこむ。そして呼吸を整えながら自分の肩を手で掴んでいた。
全身はガタガタと震えて、表情は見るからに怯えていて。一瞬のうちに起こった出来事に、俺も度肝を抜かされる。

「おい臨也!どうしたんだ!!」
「ひっ……あ、やだ、やっ…こわ、こわいっ…!」

スーツの男が同じようにしゃがんで臨也の方を掴み怒鳴りあげる。けれどもそれを何度か叩いて除けると、今度は首を左右に振り同じ言葉を繰り返す。

”こわい”と。

そのあまりにおかしい様子に、俺はすぐに悟る。

前の記憶が残っている臨也は、多分死んだ時のことも覚えているだろう。その時にどんな酷いことをされたかはわからないが、トラウマになるぐらい最悪だったことぐらい予想がつく。
誰の前でも絶対に弱みを見せなかったあいつが、狂ってしまうほど心に傷を負ったのかもしれないと。目の前で起きていることは、”こわい”という言葉はそういうことではないかと。
手紙に残っていた最後のメッセージも、”こわい”というものだったから。死んでしまうとわかっていても、それを受け入れることなんて普通はできないのだから。

「クソッ、臨也!!」

慌てて走って近寄ったが、その時には体がぐらりと傾いてそのまま男の腕の中に倒れこんでしまう。そこにようやく俺が辿り着いて、男を睨みつけながら低い声で告げた。

「おいあんた…こいつに何をした!」
「わからない、お前だって見ていただろうが」
「チッ、おい貸せよ。そいつは俺のもんだ気安くさわんじゃねえ」

今は揉めている場合なんかじゃないと自分に言い聞かせながら、目の前のヤクザから強引に臨也の体を奪う。向こうも引き止めはしなかったので、あっさりと手にぬくもりがふれる。
浅く呼吸はしているようなので、とりあえずはほっとするが鋭く睨みつける視線は外さない。事情を聞いて詰め寄りたい気分だったが、そこは必死に自分を押しとどめる。

「岸谷先生のところまで私が車で連れて行きます」
「岸谷……?って、新羅か」

意外にもそいつは冷静にそう言い、俺から臨也を奪い返そうと手を伸ばしてきたがその手を叩き落とす。そんな必要なんてなかったから。

「車より俺が走った方が早え。あんたは新羅を知ってるというなら、俺の代わりに連絡しておいてくれ。こいつ連れてすぐ行くってな」
「…なるほど、わかった」

すぐさま臨也の体を起こし腰と足を掴んで胸の前で抱きあげる。その感触に違和感を覚えながら、そいつに一言告げるとなるべく揺らさないように走り始める。
心臓はバクバクと早鐘を打っていた。あの時、最後の瞬間には間に合わなかったけれどこうして臨也を助けられたことに少しだけ安堵する。
多分こいつに何が起こっているのかわかるのは、この世界で俺だけだろうと思う。きっと新羅に正直に話したところで、頭がおかしいと勘違いされるだけだ。

だから、俺だけが臨也を救える。そう信じて疑わなかった。

「もしかして、毎日こうだったのか?」

何も無ければ、臨也はとっくに普通の生活をしていて池袋にだってもっと頻繁に来ている筈で。知り合いが誰一人見掛けていないのは、ずっと家に引き籠っていたからかもしれない。
その理由の一つに、さっきのような異常なことが体に起きていたと考えれば。時間は過去に戻っているけれど、俺とあいつの間にあったことは残っている。
しかも臨也には一切説明をしていない。あのできごとをどういう風に考えているのか、わからないのだ。現実に過ぎたこととして捉えているかどうかすら、妖しい。
だって誰しも、嫌なことがあったらそれを忘れようと努力する。その為の一つの手段として、全部夢だったと思い込むことだってあるかもしれない。
それが何らかの原因で急に蘇ってきて、あの男にふれられたことでパニックに陥ったのだとしたら。頭を撫でられるまでは普通にしていたのだから、あの行動が原因に違いないのだ。

「もし、あれが俺だったら…」

不意に浮かんできたのは、手を払いのけられて全てを拒絶するように叫び声をあげる臨也で。もしそんなことになれば、もっとショックを受けるだろう。
だってその原因を作ったのは、この世界を選んだのは俺だから。
あいつに会いたくて、それならなんでもするつもりでいたけれど急に弱気になる。本当にそんなことを望んでいたのだろうかと。
心から望んでいたことはきっと、助けて貰う事だっただろう。手紙を読む限りでは、俺に。
”こわい”という訴えはあいつの精一杯のサインだったのだ。俺に見つけて欲しいという。

「遅くなっちまって、悪かったな臨也」

そうボソリと呟いても、本人に声は届かない。池袋の街をひたすらに走りながら、胸が熱くなる。簡単に泣いたりはしない、とすぐ言い聞かせるのだが、目元が潤んでしまうのはしょうがない。
今日こうやって会うことができて、肝心な時に傍に居ることができて嬉しかったけれど。やっぱり本当は。

「なあ…なんで、俺の所に来なかったんだ?」

記憶があるのなら、どういうことか説明しろと乗り込んできてもおかしくはない。それができないぐらいに弱っていたというのなら、なんで電話でもかけてこなかったのかと。
あの時みたいに、嘘でもいいから助けてくれと言ってもよかったのに。こいつなら俺の番号を調べることぐらい簡単なのだから。どうして頼らなかったのかと悔しい気持ちになって。
そこでふと、肝心なことに気付く。

「そうか、こいつ俺が覚えてるってこと知らねえのか」

俺は臨也が前に起きたことを覚えているのを知っているけれど、向こうは何も知らない。だからきっとあいつにとって俺は、何も知らない奴と思っているに違いない。
だって一緒に暮らして過ごしたことは、ここでは無いことになっているのだから。ただのいがみ合うだけの関係の俺に頼るなんて、できるわけがないのだ。

「こんなに手前のこと、好きなのに…俺は」

蘇ってきたのは、あのおっさんの言葉で。

『折原臨也さんから夢ではなく、本当に起こったことだと打ち明けられるまで話してはいけない』
「そうだった、な」
『言葉は、届かない、聞こえない』

残酷な真実をつきつけられて、胸がズキリと痛んで堪えていた涙が一筋こぼれた。

※続きの33話は拍手で連載しています PCからだと右側の拍手です
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