ウサギのバイク リセット35
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2011-08-23 (Tue)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系 静雄視点

* * *


臨也のマンションまで抱いて行き、ようやく部屋の中まで入って下ろしてやったところで早速言った。合鍵を出せ、と。前の時は一緒に暮らすという前提があったのですぐに渡して貰えた。
でも今はこいつの連絡先が携帯に入ってはいないし、合鍵だって持っていない。だから何より先にこれが必要だと思ったのだ。
しかし当然の事ながら臨也は意味が解らないと驚きながらなかなか渡す素振りは見せない。そのことに、俺は苛立ちを隠せなかった。
前はあっさり告白だってしてきやがったのに、どうして今度はしないのかと。一度は死んであんな手紙まで残したのに、そんなに簡単なものだったのかと。
そう思ったら、もう臨也を壁に押しつけて迫っていた。
目の前で喚く声さえ遠くに聞こえて、まるで実感が無い。こいつは本当に、あの臨也なのか、死にたくないと俺に言った奴なのかと妙な悔しさがこみあげてきた。

「どうしたのさ?なんかおかしくない、シズちゃん。変な物でも食べた、それとも…不甲斐ない俺に同情でも、してるの?
「同情って、なんだよ」
「なにって……そんなこともわからないの?」

普段のように振る舞おうとしていた臨也が、急に顔を伏せて視線を外した。そのまま俺には理解できないことを言うが、こっちを見ていないから説得力もない。
ここまで動揺しながら弱いところを見せてくることに、正直驚いた。一度沸きあがった怒りがスッとおさまって、変な気分になる。それを振り払うようにはっきりと言い切ってやった。

「難しいことは考えてねえ。とにかく手前が元に戻るまで、俺はここに住む。だからさっさと鍵を寄越せ」

その瞬間臨也の表情が驚きで唇を半開きにした、今までに見たことないような可愛らしい表情になって俺の心臓は一気に跳ねあがる。これは、この顔はない。
それでも必死にすぐ取り繕って、喉の奥から声を絞り出したがそれが無理しているだろうことは目に見えてわかる。これまでにないぐらい動揺していた。

「元にって、どのぐらいの間だよ」
「その薄っぺらい皮に肉がつくぐらいか?」
「なっ…!?さ、さわるなよ…!!」

苦し紛れの臨也の言葉に、チャンスとばかりに腕や腹の辺りをつついてやる。やっぱり生きてるっていいな、という感慨深さもあったけれど柔らかくてあたたかいことに感動した。
俺が最後にあいつにふれた体温を思い出して少しだけ安堵もする。あんなにも冷たい体を、もう二度と抱きたいとは思わない。

「やめろよ、っ…離せって……!!」
「うるせえな、病人がこれ以上暴れるんじゃねえ!」
「……っ!」

しかし当たり前のように暴れて抵抗しようとする臨也に、こっちも遂に怒りが沸いてしまう。だいたいこいつはまだその例の変な病気とやらは治ってはいないし、病人なのだ。
ただでさえ体のどこもかしこも細いのに、むやみに動いて体力を減らしまた倒れるのも困る。あんなことがあったから余計にこいつのことに敏感になってしまっているのはわかっていたが、無理だ。
傍に居て見ておかないと、俺が納得しない。
平気で裏切ることがわかったのだから、余計に臨也のそういうところが信じられない。逃げようとするところが許せないから、だからごたごた言ってねえで鍵出せと言っているのだ。
すると俺の睨みに観念したのか、どけてよという小さな声がしたので力を緩める。こっちを見ずに立ちあがると早足で机の前まで歩いて行って、引き出しから鍵を取り出して戻って来た。

「これ、欲しいんでしょ。わかったよあげるから、もう好き勝手していいから一人にさせて」

吐き捨てるようにそう言うと鍵を目の前でぷらぷらと手に引っ掛けて弄ぶ。さっさとしろよ、とは思わなかったがどうせこうなんだから変な意地はってんじゃねえよとは心の中で呟く。
でもこうやって臨也から直接渡されることには少しだけ感動するものがあった。なんだかんだで、傍に居ることを許されたみたいで。
けれども一人にして欲しいという言葉には納得できなかった。

「バカ言え。監視するって言ってるのに、どうして一人にすんだよ。絶対に逃げるだろうが手前は。信用ならねえ」
「逃げないよ。監視したいなら扉の前に居ればいいだろ、だから俺の部屋には一歩も入るな。これなら、問題ないだろ?」
「しょうがねえな…」

こいつが俺に何かを隠したがっていることがなんとなくわかったので、あっさり引くことにした。当然のことながら別の考えがあったのでそうしたのだが。
臨也に近づいて乱暴に鍵を奪い取って丁寧にポケットに仕舞う。嬉しかったからだ。でもその隙に勝手に臨也が離れたので、やられたと思う。こうやってあっさり渡したのは逃げる為なんだと。
慌てて駆け寄り臨也の腕を強引に掴んで引っ張る。簡単に逃げようだなんて思わねえようにしてやらないと、と思いながら。

「もう、今度は何だよ!」
「まともに歩けねえのに先に行こうとすんな、待てよ」
「えっ、ちょっと…!もう、いいからやめ…・…っ!!」

あまりに嫌そうな顔をしてこっちを振り向いてきたので、そこで完全に俺の怒りの沸点は限界を超えた。臨也がどんな格好かも忘れてこっちに抱いてやろうとしたのだが、その瞬間足が滑るのを見た。

「あっ!?」

やべえと気づいた時には俺の前で床に倒れていた。いや、手を出そうとすればできたのに咄嗟に動かなかったのだ。どうしてか知らないが、俺は躊躇してしまった。抱きとめることに。
足元には完全に気を失ってしまったらしい臨也がいたが、頭の中では死んでしまった時の姿が思い出されて心がざわめく。
死んでいるわけがないのに、全身を鳥肌が駆け抜けて青ざめる。
他の奴に殺されなくても、俺が少しでも間違ったらこいつは死んでしまうわけでそれが唐突に怖くなったのだ。

「クソッ、なにやってんだ…臨也!」

でもすぐに、ただでさえ臨也がこんな状態なのに俺が怖がってどうすんだと我に返る。
慌てて頭を左右に振って冷静さを取り戻すと、すぐに体を抱きあげて口元に顔を近づけて呼吸をしているのを確認した。微かにあたたかい息が頬にかかり、安堵する。
けれども唐突に、こいつは本当に大丈夫なのかと衝動的な気持ちが沸く。そうしてほとんど無意識に、眠っている臨也の唇に自分の唇を押し当てた。
するとやけに弾力のある紅い唇と重なって、これなんだと確信する。そのまま気を失っている臨也にキスをした。さすがに口内には入れなかったが、わざとちゅっちゅと音を立てて吸う。

「ん……っ」
「やべえ」

いっそこのまましちまうと一瞬頭によぎったところで、短い臨也の声で正気を取り戻す。あまりにも欲したものが目の前に無防備に晒されてしまったので、自分が見えなくなったと気づく。
こんなことがしたいわけじゃねえとすぐに思い出して深呼吸をして自分を落ち着けた。こいつが前のことを思い出さないからと焦ってしまったのかもしれない。

「まあ正直に腹立ったけどな…」

なんで俺だけがこんなに必死に迫っていて、臨也は何も気づかないのかと。
元々あいつは勘がいい方だし、こんなのがわからなくてどうやって情報屋なんて仕事をしていたのか不思議にも思う。でも自分の事には鈍感なのかもしれないと思い出した。
あの手紙の内容だ。

『どうして好きになったの?今頃になってどうして?だって最初に俺の事を拒絶したじゃないか。持っていたナイフを全部壊して、それってどこで死のうがどんな目に遭おうが関係ないってことじゃなかったの?だから諦めたのに、なんで?』
「俺は拒絶なんてしてねえ。死のうが関係ねえなんて、一言も…」

ボソボソと呟きながらため息をつく。鈍感というよりは、臨也はややこしいのだと。俺はただ物騒だからナイフを壊しただけなのに、全く違う方向に受け取ったのだ。
そしてそれが徹底的にあいつを傷つけたらしい。そんなの知らないし、じゃあどうしてその場で聞かなかったのかと思う。勝手に解釈して死んだ、だなんてこっちは怒りしか沸かない。

「あーマジで面倒だ。ごちゃごちゃうぜえのわかってたけど、こいつは大馬鹿者だ」

ただでさえややこしいのに、直接的な言葉を使わずにどうやって死ぬ前のことを気づかせてやればいいのだろうか。直接口では言わずにさりげなくアピールするなんて俺には向いていない。
手前は一度死んでて、時が戻っただけだと直接言えれば簡単なのに。
でもこれは、逃げずに考えなければいけないことなのだ。そうでないと、臨也を信じさせて本当の意味で手に入れることなんて一生できない。また同じ過ちだって繰り返すかもしれない。

「逃げようとすんだから、逃げれねえようにするのはしょうがねえよな。他にどうしようもねえよな」

臨也を片手に抱えたまま歩きおもむろに近くの机の引き出しを開けると何かないかと探す。顔を顰めながら一通り探して最後の引き出しを開けると、偶然にも考えていたものがあった。
白いロープのような紐だ。これを手首に巻いてさえいれば逃げられないだろうと、すぐに両手首を前で構えさせぐるぐると巻いていく。俺にしては力を弱めて縛ると、少しほっとした。
これでもうあっさり逃げられることはないと。縄抜けぐらい軽いかもしれないが、ここまでキツければ大丈夫だろう。

「とりあえず寝かせてやるか」

二階に続く階段を臨也を両手に抱いてあがり、部屋の扉を開けると見慣れたベッドが目に入ってすぐに下ろす。不意にここであいつと一晩過ごしたことを思い出し、頬が熱くなる。
あんな風に一緒に寝るようになるまで、どのぐらいかかるのだろうかと少しだけ胸が痛む。俺は今すぐにでも、寄り添って寝てやりてえのに。

「好き…か」

ふと心の中にまだこいつは俺のことが好きなのだろうかと疑問が浮かんだが、すかさず打ち消した。全部を知ってるのに、諦めてどうするんだと。諦めるなというのが新羅の助言だったことを。
眠っている臨也の頬にゆっくりと手を伸ばし、愛しむように軽く撫でてやった後にまたキスをしてやる。
俺が今できるのは、こうやってこっそりと寝ている間に堪えきれない気持ちを発散することだけだ。精神的に弱っているのを支えてやれるかは正直自信は無い。

「でも俺は…やっぱ手前と早く普通にキスしてえ。もっといろんなこと、してえ。待てねえんだよ、だってまたいなくなっちまいそうで」

『こわい』

その時手紙に書かれていた臨也の言葉が胸の憶測に響き、あいつもずっとこういう気持ちだったのだろうかと眉を顰めながら思った。


※続きは拍手で連載しています PCからだと右側の拍手です
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