ウサギのバイク リセット36
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2011-08-29 (Mon)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系 静雄視点

* * *


「あー…やられた、いややっちまったのは俺か」

気を失っている臨也を見ながら、一人で呟く。あまりに一気に何もかもが起きてしまって、俺は混乱していた。まあ一番大きいことは、勢いに任せて臨也と体を繋げてしまったことだ。
しかも今までの何もかもを埋めるかのように、何度も何度も気を失うまで淫らなことをしてしまった。今は綺麗に体も洗ってやって眠っているが、病人なのにと自己嫌悪に陥ってたところで。

「すげえよかった、っつうか、やっぱり手前が一番生きてるって実感できたな」

全裸のままベッドに寝かせていたが、包帯の拘束は外している。さすがにこんな状態で逃げるほど、こいつはバカではない。本当は戒めだってしたくないぐらいだ。
でもそうしたら逃げてしまうのは目に見えていて、最後の手段がこれだった。でもふとあることを考えて。

「そうか、今度から毎日俺がセックスしてやれば逃げれねえのか?腰痛くて起きれねえぐらいしたら、こいつだって…」

本人に言ったら激怒されそうなことを考えついて、なるほどと納得する。これはいい考えだと頷いていると、隣でもそもそと体が動いた。でもすぐに止まって、ほっとする。
煙草を灰皿に押しつけて、眠っている臨也の前髪を軽く撫でた。そのぬくもりでさえも、愛おしいと思う。

「でもまだこんなんじゃダメだな。全然ダメだ。あれを聞いてねえ」

あと一歩のところまで追いつめたとは思うのだが、俺は一番聞きたい言葉をまだ引き出せずにいた。セックスをすることは許容したけれど、それだけはあいつは許さなかった。

『俺はシズちゃんが好きだ!』
「なあ、手前と俺がこうなったのもあの言葉がきっかけだったじゃねえか。なんでそれを、どうしても言わねえんだよ」

やり直す前は一番初めにあいつが俺に言ったのだ。好きだから受け入れてくれ、その為ならなんでもしてくれると。でも未だにそれだけは、聞けていないのだ。

「手前はなんでもしてくれるんじゃなかったのか?」

問いかけても微かな寝息しか聞こえなくて、ため息をつく。こうやって寝ている臨也に話し掛けるのも何度目かわからない。
夢に酷く魘されて泣いているのを初めて見た後もこうやって話し掛けながら宥めた。抱きしめて涙を流しながらも、同じことをした。でも返事はない。
だって俺は肝心な一言を封じられて、別の言葉で遠まわしに伝えようとしているのに全部届かないのだ。全く伝わっていないことはないとは思うが、決定的なものがなくてまだ確信が持てないのかもしれない。
だってその為には、臨也は一度自分が死んでしまった事実をはっきり受け止めないといけないから。
多分それを無意識に拒絶しているのではないかと思う。そう思ったのは、俺が怖いのかと聞いた時に逆にこっちに死ぬのは怖くないのかと尋ねてきたからだ。
完全にはぐらかされたのだ。死ぬ時の嫌な感触というものは聞いた。でも肝心な気持ちを、どういうことを想っていたのかを聞いてはいない。

「辛いよな…」

夢にまで見るほどなのだ、辛くないわけがない。俺には体験がないからわからないけれど、それはもうすごいのだとは想像できる。
でもこいつにだって経験していないことがある。それが、好きな相手が死ぬということだ。

「手前だけが辛いんじゃねえんだ、それぐらいさっさと気づけよ」

言いながらぶわっと感情が昂ぶる。セックスをした時とは全然違う、涙が溢れそうな昂ぶりだ。
冷たい体を抱いた感触と、綺麗な肌が赤と白で汚れているコントラストを思い出すだけで怒りが沸く。間違いなく、今の臨也は一度は死んだ。生き返っただけで、その事実は消えないのだ。
それを本人に認めさせるなんて、それは相当受け入れ難いことだ。夢なんだと思っている方がよっぽど楽だろう。でもそれでは、ダメだ。
どうして死のうとしたのか、あいつの口から聞かないとこっちも納得できない。あの後どうなったとか、俺の気持ちだとかそういうのも伝えなければいけない。
すべてはあいつが、自分の事を受け入れてからなのだが。

「まあ一番難しいことだけどな」

俺は必死に臨也の事を断片的に伝えて、好きな奴が死んだとまで言った。でもそのことを綺麗に聞き逃されて、ダメなんだと悟ったのだ。そういう類の言葉を言えないように制限されている。
でもそれ以上にあいつに聞こうとする気持ちがないのだと。まだ受け入れる体勢があいつの中で整っていないのだ。それが魘されているということだろう。

「だいたい好きなことを止めるって、なんだ。諦めるって、それが間違ってんだよあいつは」

どうしてはっきり告白しないのかと俺は問い詰めた。すると何かそういう好きだと言う気持ちの確証がないと無理だと言ったのだ。わざわざ告白の練習までさせやがったのに。

『シズちゃん…っ、す、好きだ』
『よかったら俺と、つきあって…その、恋人同士になって……下さい』

「なんでそれが、告白じゃねえんだよ」

あいつは最後まで、言わないと頑なに拒んだ。ここまで言っておいて、もう全部じゃねえかとは思った。好きなのは俺なんだろ、とはっきり宣言して抱きしめてやりたかった。
目の前に、こんなに近くにいるのに傍に居るのに、言えないのがどんなに辛いかわかれよと叫びたい。そうだあいつは自分勝手すぎる。
こっちのことなんかお構いなしに惚れさせて、逃げて、死んで、こんなところまで追いかけさせておいて告白したくないだなんてわがままだ。
一方的なことをしたり言うだけ言ってこっちの言い分は聞かないなんて子供と同じだ。しかもそのうえ、臆病でさみしがりやで思い込みも激しく俺の気持ちを考えない。
考ないから、怖いと手紙に書きながら一人で死んだのだ。よく考えたら、わかることなのに。少しでも好意をもった相手がいなくなれば悲しい気持ちになることぐらい。

「手前も俺と同じ想いすりゃあ、わかんのか?」

わざと顔を近づけて、臨也の頬に軽くついばむようなキスを落としながらそう告げる。ふれるのがくすぐったいのか顔を背けて呻っていたのだが、唇を離すとまた規則正しい寝息が戻る。
エロい体をしているあいつを何度も抱いた時のことを思い出すと、それだけで胸が熱くなる。でも満足していないのは、気持ちをまだ手に入れてないからだ。
あまりにもエッチな反応を示す臨也にもやもやとした気持ちを抱えながら、でも自分の腕の中で素直に縋りついてくる姿はかわいらしかった。もっと嫉妬するかもしれないと思っていたがとにかくかわいかったのだ。
既に他の奴がこいつの体を見ているかと思うと、嫌な気分にだってなる。酷い行為を強いられて、追いつめられているのを想像するだけで涙が出そうになった。
でもそんなことより、セックスをすることができたことのほうが俺にとっては大きくて嬉しかった。だからこそあと一歩のところで気持ちを手に入れられていないことが悔しい。

「なあ早く気づけよ、そんで俺がどれだけ手前が好きで好きでたまんねんか気づけって」

言いながら、頬を人差し指の先でゆっくりとなぞる。今は閉じているこの瞳が、まっすぐに俺を見て全部に気づいた時の顔を早く見たいと思う。

「今の辛さ知ってるのは俺だけなんだよ。臨也のこと全部知ってんのは、俺だけだ」

柔らかい感触にわずかに笑みをこぼしながら、撫で続ける。
焦ってはいないけれど、一秒でも早く俺が臨也を好きなことに気づいて欲しい。簡単には落とせないとは思っていたけれど、意外に頑固なのが少し腹も立って。
だからその時閃いたことが、最低だとわかっていながらこれ以外に方法はないと気がついた。

「そうか…!あいつも同じことを体験すりゃあいいんだ。そしたら絶対に俺の気持ちがわかる。絶対に好きだって言ってくれる」

慌ててポケットを探り携帯を探しながら、臨也の顔を見続けて宣言した。

「諦めねえから、ぜってえに手前から俺のことが好きだって言わせてやるから待ってろよ」

ディスプレイからとある番号を呼び出して掛けながら、口元を歪ませた。さっきのセックスの時とは違う高揚感が、体中を駆け抜けていってぞくぞくと背筋が震える。
臨也の寝顔が名残惜しかったが、相手が電話を取るのを見計らって部屋を出た。



「ん…っ、う……?」

目を覚ました時に目元が濡れていないのが久しぶりだなあと暢気なことを思いながら体を起こして、ハッとした。自分の体が何も服を着ていなくて、久しぶりに体の奥がズキズキと痛んでいたからだ。
セックス後特有の気怠さは慣れていたけれど、これまでと違ったのは気持ちが沈んでいないことで。俺にしてはありえないことと気づいた瞬間に頬が赤く染まった。

「うわ、俺…っ、シズちゃん、と……!」

慌てて頭から布団を被り枕に顔を突っ伏してしまう。そのまま勢いで拳を叩きつけてなんとも言えない気持ちを発散した。頭の中はもうシズちゃんの顔でいっぱいになっていて、それが照れ臭い。
これまで見たことのない真剣な表情で、でもきちんと手加減して俺の事を抱く姿がかっこいいと何度ぼんやりしながら考えたかわからない。

「もうやだ恥ずかしい!」

強引に迫られて流されたことをこうして冷静に思い返すと、バカなことをしたと思う。告白の練習とかでシズちゃんに好きだって直接言ったりもしたし、卑猥な言葉を吐きながら縋りつくなんてあんまりだ。
あれでは、シズちゃんが何かを気づいてもおかしくないだろう。本当は嫌ってないんだな、ということぐらいは感づいたかもしれない。いくら鈍感でも。

「いやでも、大丈夫だって。あんなに鈍いんだ、好きだって告白したことがわかんないぐらい俺には興味ないんだって、そうだあれは」

一番はじめに一緒に暮らそうと言った時に振られている俺は、その鈍感さを思い出して胸の高まりを抑えようとした。すると考えなくていいことも、はっきり思い出してしまって。

「忘れてた、そうだ。シズちゃんの好きな人の身代わりだったっけ」

そう考えると一気に気持ちが醒めていく。俺の名前を何度も呼んでくれたけれど、それはきっとシズちゃんの心の中では別の人の名前だったに違いない。少しだけチクチクと心が痛んだ。
そうしてゆっくりと顔をあげたところで、少し前まで逃げられないようにと手に巻きつけられていた包帯がないことに気づいた。慌てて痛い体を起こしてベッドから降りて、そのまま部屋の扉を開ける。

「えっ?え…シズ、ちゃん?」

居ないのを確認するように顔だけ出したが、どこにも気配が感じられなかった。全裸なのも構わず二階から眼下を見下ろしてみれば、そこにも姿は無い。
必死に頭の中を整理しようとしたが、どうにもうまくいかない。完全にパニックになってしまっていたから。

「居ないって…まさか、帰った……?」

その時真っ先に思いついた言葉が、捨てられたというもので。付き合ってさえいないのに、とすぐに苦笑したけれど手すりによりかかって深くため息をついた。


※続きは拍手で連載しています PCからだと右側の拍手です
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