ウサギのバイク リセット38
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2011-09-04 (Sun)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系 静雄視点

* * *


意識不明とは言っていたけれど、多分数日したら目を覚ますだろうという気持ちはあった。だって見たところ大きな怪我をしている様子でもないし、間違いなく大丈夫なはずだ。
体が頑丈なのはもう昔からよく知っている。嫌がらせは今までにたくさんしてきて、そのどれもが失敗に終わっているのだから当然で。
入口から一歩入ったところからは近寄らず、遠目に確認する。だって目の前で見てしまったら、何か堪えきれない気持ちを呟いてしまいそうな気がしてならなかった。

「あれ?ちょっと臨也こんなところで何してるの?」
「うわあっ!?新羅早いね…?」
「なにもしかして近くで静雄のこと見てないの?ほら早く見てあげなよって」

その時突然背後から現れた新羅が、決して俺にはさわらないようにコートの裾を引っ張ってシズちゃんが寝ているベッドに寄せようとしてくる。それはいいと口では言っているのに、全く聞いてくれなくて結局ズルズル引きずられた。
不機嫌な表情を崩さないまま目線だけを外してブツブツと文句を言う。でもそれらをまるっきり無視して新羅が話し始めた。

「ねえ臨也はさあ…もしこのまま静雄が目覚めなかったらどうする?」
「は?なに言ってるんだよ、シズちゃんが起きないわけないだろ」

唐突に告げられた質問に、呆れながら返す。新羅が言いたいこともなんとなく理解できるけれど、その心配は必要ない。俺がもう一度死ねば、必ずシズちゃんは死なないのだ。
少なくとも生きていられる間は、そんな辛いところは見なくて済む。まあ普通に考えて、どうすれば確実に死んでしまうのかこっちが知りたいぐらいだけど。

「そうかな?臨也は安心しきってるみたいだけど、保証はないんだよ。気にならない?さっきはあんなに動揺してたじゃないか」
「まあ意識不明って聞いたらびっくりはするよ。だってどうやって意識不明にさせたかも俺としてはすごく気になるし…」
「本当に君は素直じゃないよねえ。病気よりそういうところを治した方がいいんじゃないかな」
「なんのことかな」

シズちゃんに近づいてあれこれ見ているようだったが、こっちを振り向いてわざわざ直接俺に素直じゃないなんて言ってきた。そんなの自分でも充分わかってるから今更指摘されたところで動じない。
もし素直に言葉を伝えられていたら、こんなことにだってなっていない。
死ななくても、なんとかする方法を考えることだってできたかもしれないのだ。本当にそれは残念だけれど、俺の性分は変えられない。

「ここまで言うのはお節介かもしれないけど…気づいてるよね君?静雄が好意を向けてること」
「新羅、それは語弊がある。シズちゃんは俺のことなんて見ていないよ。昔好きだった相手がいてその代わりを俺に求めてるんだ。まあ似てるらしくてさあ、好きな子と」
「えっ?静雄に好きな相手?そんなの初めて聞いたけど、相当昔の話じゃないかな今は…」
「好きな子が死んじゃって、忘れられないんだよ。いつまでも心の中に残っていて、その面影をなぜか仇敵の俺にある日突然感じたから世話を焼いてくれたんだよ」

何を話すのかと思えば、俺とシズちゃんのことについて新羅がしゃべり始めたので薄く笑った。傍から見ていてわかるような簡単な関係じゃないんだと。
好きな相手のいない寂しさから、長い付き合いの俺に好意に近いものを感じて性をぶつけてきただけだと思っている。きっと自分じゃあよくわかっていないかもしれないけど。
態度が変わったのは、俺が病気を患っていると知った時からだ。もしかしたら、死とか病気とかそういうものに敏感なのかもしれない。弱っていたら、大嫌いな相手でも完全に嫌いではいられなくなるのだ。

「俺だって、忘れられない相手がいるんだ。だから…似た者同士なのかもしれない。でもそんな関係なんてうまくいかないに決まってるだろ」
「臨也が静雄以外のことを考えていたなんて、そっちの方が驚きだけど。静雄だけかと思ってた」
「うんまあ、ある意味シズちゃん以外の相手ではないんだけど。そうだねえ、こんな病気の原因になっている夢に出てくる相手で…」
「夢…?そうかわかったよ!君の夢の中に静雄が出てきて、その静雄のことがすごく好きということかな?」
「えっ…?いや、その…」

シズちゃんの好きな相手の話をしていたと思ったら、なぜか俺の話にすり替わっていて新羅は的確に答えを告げてきた。事情なんて知らない癖にそれはすべて本当のことで、こういう時は鋭いなと内心舌打ちする。
でもこうして他人からはっきり言われて、それは違うと思った。
あの出来事は夢ではなかったのだ。俺は一度シズちゃんと一緒に暮らして、好きだと言われかけて、死んでしまった。だから夢の相手に恋しているわけではなくて、現実に好きだ。
今目の前に居るシズちゃんと比べるとしたら、断然夢の中の彼の方だ。だって俺だけを見てくれたから。本当に最後には好きになってくれたから。
夢の彼も昔誰かに恋をして、それが忘れられなかったのかもしれない。その話は聞かなかったからわからないけど、でも面影を俺に見ていたわけではないと思う。
純粋に二人で過ごして、それで興味を持ってくれたはずだ。だからもし、俺と同じようにあの数日間を覚えてくれているシズちゃんなら素直に好きだと言えていただろう。

(あれ…?何か引っかかるな)

その時不意に違和感を覚えた。けれどもその正体がわからなくて、頭の中で必死に考えようとしたのだけれど新羅の声で引き戻された。

「……しちゃえば?」
「え?ごめんちょっと今ぼうっとして聞いてなかったよ」
「だから、静雄のことが好きなら今のうちにキスでもしちゃえば?眠り姫みたいに目覚めるかもしれないよ?」
「お前が首無しにそういうことをしているのはよくわかった」

あまりに突拍子の無い内容に思わず額を押さえた。あからさまに人前でいちゃつくことを嫌う首無しに、新羅が夜這いをしているのが容易に想像できてため息をつく。どうしてそれを俺にまで押しつけてくるのか。

「いいのかなあ、このままいなくなってしまうかもしれないよ」
「人をからかうのもいい加減にしろ。俺がなにやっても死ななかったんだから、そんなことにはならない」
「そうやって過信しているところがあるから、君はダメなんじゃないかな」
「うるさいな、いいんだよ。シズちゃんのことに関してはそれでも」

やけに突っかかってくる新羅にあからさまに嫌悪を現しながら、診察をするんだろと話し掛け話題を変えた。やけにいつもより俺とシズちゃんのことをあれこれ聞いてくるのが鬱陶しかったから。
この間無理矢理連れて行かれたことを勘違いしているなら、厄介だなと思った。もう首無しに話しているならそれなりに広まっているのだろうか、と別のことばかりを考えていたから突然のことにどうしたらいいかわからなくて。



再び携帯に連絡があったのは、一度新羅の家を出てついでに暫く外に出ていなかったので必要な物を買おうと店に寄っていた時だ。まだ場所は池袋だったので、タクシーを拾う手間も惜しくて最近体調を崩していたことも忘れて走って向かった。
頭の中は空っぽで、自分でも何を考えているのかよくわからなくて。現実感が全くなかった。
エレベーターを待っている時間もイライラしながら唇を噛んで、ようやくまた部屋に辿り着いた時にはすっかり日は暮れて夜になっていた。

「新羅…!どういうことだッ!!」
「臨也」

扉が開いた瞬間に相手を怒鳴りつけて鋭く睨みつける。しかし向こうは動じることなく真剣な表情をしていて、さっき電話で聞いたことが本当だったのかと胸がバクバクと変に鳴った。
それ以上は口を開かず無言でさっき通された部屋にもう一度歩いて行って、自分から扉を開いて確かめた。
そこにはさっきまでと変わらない姿で、シズちゃんがベッドに寝ている。俺にはそう見えた。

「ほらさわってみなよ」

しかし後から部屋に入ってきてシズちゃんの傍に歩いて行った新羅が手首を取り、俺に手招きをした。嫌な予感はあったけれど、確かめたくてふらふらとした足取りで寄って。
差し出された手を受け取って自分でも脈を計ってみたけれど、音がしなかった。手も酷く冷たい。

「…嘘だろッ!?」

次に心臓部分にも手を当てて、着ている服の上から確認したけれど同じように何も聞こえない。首筋もさわってみたけれど、予想通りで。
その場に崩れ落ちていた。

「なんで…?死んで、るの……?」
「そうだ。見た通りで、まだ死因もよくわかっていない」
「お前がついていながら、なんでこんなことになっているんだよッ!!」
「それは、返す言葉もない」

悔しそうに視線を逸らす新羅に怒りが沸いたけれど拳を握りしめて耐えた。こんなの、俺は信じられない。
だってまだ期限には一日あるはずだ。明日俺が死ねば、シズちゃんは死なないとあの未来を指し示すコインをくれた男は言った。これでは話が違う。
これで同じ時間を過ごすのは二度目だから、前の時と一日違うというのだろうか。だったら教えてくれればいいのに、だいたい死んだ俺がもう一度繰り返していることもおかしい。

「ねえ新羅…まだ、まだシズちゃんをこのままにしておいてくれないかな。誰にも言わないで、明日の夜まで待ってくれ。そうしたらもしかしたら…」
「どういうことだい臨也?」
「明日の夜話すから、お願いだ」

話してもきっと信じて貰えないと思った。
もし明日俺が死んだら、シズちゃんが蘇るかもしれないなんて。


※続きは拍手で連載しています PCからだと右側の拍手です

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