ウサギのバイク リセット40
2ntブログ
04≪ 2024/05 ≫06
12345678910111213141516171819202122232425262728293031
-------- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
| スポンサー広告 |
2011-09-10 (Sat)
*拍手連載
静雄×臨也 

臨也が自分の願いを叶える為に静雄と一緒に暮らした後の話 切ない系 静雄視点

* * *
「…それは」
「死にたくなるほど酷い病気なんだろ?それ以外にお前が自分から死ぬなんて考えられないな」
「病気…確かに、ある意味これは病気だ」

四木さんは勘違いしている。酷い症状に耐えられなくて逃げたいわけではなくて、最初から俺はシズちゃんの為に死にたいだけだ。でもそれを言うつもりもなければ、誰かに聞いて貰いたいなんて思わない。だから誤解させたままの方がちょうどいい。
本当に病気だというのなら、俺は素直に自分の思ったことを告げられない病にかかっているなと思いながら息を吐いた。

「嫌だと拒否しても、逃がしてはくれないんですよね四木さん」
「当然だ、見逃すわけにはいかない」

厄介な相手に見つかってしまったと思いながら一応逃走経路を考えてみる。距離は三歩ほどで充分逃げれそうだ。けれども俺は手をふれられたら動けなくなってしまうので、きっとダメだ。
向こうもそこをついてくるだろうから。

「わかりました大人しくします。だから手荒な真似はしないで下さい」
「そりゃあいい心がけだが…そうもいかねえ」
「え?」

こっちが降参の意志を示すように両手をひらひらと翳したのだが、予想に反して低い声と同時に次の瞬間手首が壁に押しつけられる。一瞬の隙だったのだが、あまりに早すぎて対応できなかった。
そうしてさわられたと気づく前に、全身が先に反応しガクガクと震えだす。声をあげようにも息がうまくできなくて、苦痛の表情をしながら焦る。

「これは餞別代わりだ。嫌なことを少しの間だけ忘れられるようにしてやるよ」
「…な、に…?」

しゃべりかけられたことがわからなくて、必死に頭の中で考えようとした瞬間に首の辺りでチクリと痛みが走った。嫌な予感がして青ざめながらそこを見たけれど、なぜか四木さんの手に隠されて何が起こったのかわからない。
手のひらの中にあるもので、多分針のようなもので肌を刺したのだと思うのだけれど確かめられない。とりあえず口を開こうとして、でもその前に視界がぐらりと揺れた。

「…っ、あ…!?」
「発作を抑える薬なんてなくても、もっと別の発作を起こしてやれば最初の苦しみからは解放される。もう辛くねえだろ?」
「し、き…さ…っ、うぅ、く」

意味はすぐにわかった。つまり体の震えを止めるのではなくて、もっと酷い薬を打ってやれば最初の発作からは逃れられるということだ。別の苦しみに苛まれることにはなるだろうけれど。
こうやって四木さんが直接俺に手を下すことは珍しい。でもそれも今までの関係を考えたら当然なのだろう。始末は自分でつけると言うのがそれなりの地位の人間の責任の取り方でもあるのだから。
急に体の力が抜けてくったりとし、倒れそうになるのを腰に手が回されて支えられる。息も別の意味で荒いし、ピクピクと麻痺するような震えは普通の状態ではない。

「犯されたいって思ったぐらいなんだから、媚薬ぐらい平気だろ?」
「ふ、ぁ……」
「お前がしでかしたことはもうこっちで処理してやるから、後は全部忘れて気持ちよくなって…望み通り死ぬんだな」

いつの間にか部下らしきスーツの男達が数人俺の周りに集まって、腕や体を掴むと少し歩かせたところにある車の中に連れ込もうとしていた。でも一切の抵抗ができない。
少しだけ覚えのある媚薬の感触に、溺れてしまっていたから。呼吸をする度に全身を疼くような心地よさが駆け抜けて、まともな言葉どころか甘ったるい喘ぎ声が漏れる。
強制的に歩かされて一歩ずつ進む度に、頭の中がぐずぐずになって何も考えられなくなる。そうして車の扉が開いて、座席に無理矢理寝転がされたところで、不意に何か聞こえた気がした。

「…ざや、ッ!」
「ん…っ、ぅ」

でもすぐに聞き間違いだと思って、虚ろな瞳を宙に彷徨わせるすると男達が離れてドアに手が掛けられて。


「臨也…ッ!!」


締まる寸前にはっきりとシズちゃんの声が聞こえたけれど、すぐに車が動き出してそれ以上の動きはなかったので気のせいだと思い込む。
追いかけてくるわけがない。助けて欲しいと思う気持ちと強烈な媚薬の効果のせいで幻聴を聞いたのだと納得する。
車が揺れる度に熱い吐息が唇からこぼれて、腕を縛られてなんていないのに脱力しきった体では何もできずに観念して目を閉じた。すべてのことから、逃げるように。




「臨也ッ!待て、畜生…!!」

大声で名前を叫んだけれどそこに辿り着く前に黒い車が走り始めて、そのまま追いかけたけれどすぐに見失ってしまう。あまりの苛立ちにすぐ横のビルに拳を叩きつけて、手の形に穴が空いた。
今回のことは、全部俺が悪い。それはわかるのだが、気持ちが抑えられなくて暴れたい気分だ。でもそんなことをしている場合ではないので、息を整えながら必死に考える。

「あいつは、やっぱあそこに連れてかれたのか」

頭の中に真っ先に浮かんだのは、前に臨也の遺体を見つけたあの倉庫だ。もうあいつが死ぬとか死なないとか、そういうものは全部解消されたと思っていた。でも違うのだと知ったのは、ついさっきだ。
新羅に相談して臨也を騙そうと考えたのは、あいつに素直になって欲しかったからだ。ただ一言、好きだと言ってもらう為だけに協力をお願いした。
俺が死んだと知ったら、絶対に動揺して本音を曝け出すと思ったのだ。だって俺自身がそうだったから。
冷たくなり死んでしまっている臨也を見て、はっきりと自覚したのだ。好きだと、好きで好きでどうしようもなくて、でももう何もできないと。そういう気持ちを味わってもらいたかった。
あんなに面と向かって顔を会わせて説得し、体だって無理矢理に抱いて、でも最後まで頑なに言ってはくれなかった。俺の事がどうしようもないぐらい好きなんだってわかっているのに。
その言葉が無いと、こっちからは何も伝えられないのだ。すべてをリセットする代わりに課せられた呪いは、臨也に対しての好意の言葉は届かないというものだったから。
そんなものなくても絶対に手に入れると決意していたのに、あいつはなかなか心を開いてはくれなかった。全身で俺が好きだと言っている癖に、口には出さなかったのだ。だからなんとかそれを言わせるために考えたのに。

『ごめんね…シズちゃん、実は君の事が好きだったんだ』

きっとあいつなら、眠っている俺に向かってそう言ってくれると信じていた。だって俺は眠っているあいつに何度も好きだと呼びかけて、抱いて、伝えられない気持ちを告げていたから。同じように気持ちを口にしてくれれば目を覚まして、俺も好きだと返事をするだけでいいと考えていた。
そういう作戦だったのに、暗がりの部屋であいつは泣くことも、悔しがることも、さわることさえもせずに黙っていて。どうしてなんだと焦れながら、何度自分から言ってやろうかと考えた。でも騙していたこともあったし、なかなか言わないのが気に食わなかった。
俺はこんなにも臨也に気持ちを伝えることに必死なのに、あいつはそんな素振りどころか諦めて。その態度が許せなかった。
そうして結局全部バレてしまい、慌てた時にはいなくなっていたのだ。俺達に対して怒鳴りもせずに、怒りもせずに。そこでようやく、とんでもないことをしたのだと気づいた。

「なんで、怒らなかったんだ…くそっ」

臨也が何も言わずに出て行ったなんて、正直一番堪えた。俺はすっかり忘れていたのだ。
あいつが辛い経験をして心に大きな傷を負っていたことを。体を繋げることを許してくれたのなら、もうあとは告白を待つだけだと勘違いしていた。
なかなか俺に気持ちを言わなかったのは、体も心も弱っていて不安だったからだ。本当は一人にしてはいけなくて、騙すなんて一番してはいけないことだった。今なら少しだけわかる。

「どうして…うまくいかねえんだ」

俺なりに考えてうまくあいつに好きだと言わせられると信じていた。でも情報屋なんてやっているぐらいだから、他人の嘘や変化に敏感に気づくことぐらい簡単に想像できたのに。もっと身長に考えていれば気がついたかもしれないことなのに。
せっかくやり直したのに、目の前で連れ去られてショックだった。
助けられると思ったのに、またギリギリのところで逃したのだ。これだからシズちゃんは甘いんだ、と言う臨也の言葉が聞こえるような気がした。
その時ポケットの携帯から着信音が聞こえてきて我に返る。すぐに通話ボタンを押して耳に当てると、声が聞こえてきた。

『大変だ静雄!なんか臨也…変なことになっているみたいで。ネットに殺害予告が書かれていたんだ!』
「殺害予告?なんだそりゃあ」
『最初に誰かが報酬を払うから臨也のことを殺してくれって依頼をして、それから明日臨也のことを殺すっていう書き込みがものすごい量あったんだ。どうやら複数の相手が狙っているみたいで、だからさっき臨也が明日ならなんとかできると言ったのはそのことが絡んでいんじゃないかな』

突然のことに驚いたけれど、明日臨也のことを殺すという言葉には少しだけ納得できた。それは前に臨也が殺されていた日と同じだったから。
俺とセックスをしたことで、多分あいつは全部気がついた。夢が夢なんかじゃないことを。だからもしかしたら、まだ願いを叶える為には死ななければいけないと思い込んでいるのかもしれない。
それであれこれ自分で動いて何かを起こそうとしているのなら、殺されようとしているのなら止めなければいけない。さっきのスーツの男達に連れ去られたのも関係があるなら、俺が助けてやらなければいけない。

「死ぬ必要なんかねえって、伝えないとな」
『え?静雄なんか言った…』
「悪い、これからあいつ迎えに行ってくっから切るな」

向こうの返事を聞かずに切り、ポケットに仕舞うと息を吸い込んでそれからゆっくりと吐き出す。それからあの倉庫の居場所がどこだったか考えたのだが、思い出せなかった。
前に辿り着いた時は臨也の匂いを辿って行ったのだから、どこをどう走ったかなんて覚えていないのは当たり前だ。でもこれでも借金取りの仕事をしていて池袋はあちこち歩き回っているので、どのあたりに似たような倉庫があるかは予想できる。
そこを全部しらみつぶしに探していけば、ぶち当たるはずだ。まだ一晩は時間があるのだから、その間に全部回るつもりだった。

「もう今度こそ逃がさねえ、誰にも渡さねえ、もうあいつは俺のもんだ。俺のもんだったのに奪う奴らは、全員敵だ」

自分に言い聞かせるように告げると、強く拳を握りこんでそのまま走り出す。そろそろ日付が変わろうとしていた時間だったけれど、絶対に見つけられると信じていた。


※続きは拍手で連載しています PCからだと右側の拍手です
| 小説 |