ウサギのバイク 消えゆく体を抱きしめて
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2011-12-18 (Sun)
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「消えゆく体を抱きしめて」
静雄×臨也/小説/18禁/A5/116P/1000円


ある日を境に人々の記憶から臨也の存在が忘れられ始めてそれを静雄に知られてしまう
心残りは恋人ができなかったことだと言うと代わりにつきあうことになり一線まで超える
遂に身近な人にも忘れられてしまい静雄にも忘れられたと思い込むが
臨也の前に静雄が現れて…

切ない系シリアスラブで臨也の存在が消え静雄と二人きりの世界で過ごす話

表紙イラスト ひのた 様
niyari

虎の穴様予約

続きからサンプルが読めます
* * *


「で、次はどこに行くんだ?」
「うーんどうしようかな。ちょっと食べすぎたし、どこかで休憩しながらドタチン待つよ。もうシズちゃんはここでいい」
「ああっ?急になに言ってんだ?」

露西亜寿司から出てトムとは別れ、二人きりになったところで下を向いて歩きつつ告げる。顔なんて見れるわけが無かった。
たった数時間しか過ごしていないけれど、もう既に俺は後悔していたのだ。これまでと違う雰囲気で話をしただけだったけれど、随分と嬉しかったし悲しいとも思った。もしこれが今まで通りに過ごせるのならよかったけれど、頭の中に描いていたことは違っていて。
それは予測できる未来だ。すべての人間が俺を忘れる近い未来で。
別に怖いとも思っていないけれど、今までいがみ合ってあってきた好きな相手とほんの少し馴れ合うことができて、でも忘れられるということ。すべての思い出をシズちゃんが忘れて、俺のことも忘れるのを知っていたから嫌だと思ったのだ。
さっきみたいに、知らなければよかったのに一度期待してしまったら忘れられない。向こうは忘れるのに、こっちだけがいつまでも未練がましく覚えているのだ。
そんなのは絶対に嫌だった。

「さっき君の上司から話を聞いたじゃないか。他に俺を知っているシズちゃんの知り合いなんている?いないだろ、だからもう用事は終わった」
「待てよ、一日つきあうって言っただろうが」
「俺はそんなこと了承してない。それにやっぱり、君と一緒になんていられない。これで理由は充分かな?」

なるべくいつも通りの表情を取り繕って顔をあげて、最後にシズちゃんを振り返った。すると思っていた以上に近づいていて、あからさまに動揺している顔が見える。俺は何度もこれまでにこういう風に混乱させて引っ掻き回してきた。
だからこれでいいんだ、と満足すると答えも待たずに反対側に歩き出そうとする。でも一歩早く手が伸びてきて阻止された。

「なにかな?」
「うるせえな黙ってろ。いいからついてこい」
「どうしてだよ、嫌だって言ってるだろ!大体シズちゃんになにができるの?なにをしてくれるっていうの?」

シズちゃんはいつだってこうやって俺のことを否定してきた。黙ってろ、うるせえ、そんな面倒なことはいいからとにかくやめろ。明確な理由も告げないまま、大雑把な言葉で流してきたのだ。だから今回こそはしっかり教えてやらなければいけなかった。
こっちが正しいと。どうせなにもできやしないんだと。
けれどもとんでもないことを告げられてしまう。

「じゃあ俺になにをして欲しいんだよ」
「……は?」
「だから、手前が俺にして欲しいことを叶えてやるよ。なんでも言いやがれ」
「なに、それ……?」

あまりにも唐突すぎて理解ができない。シズちゃんにはなにもできない、という言い分た相当頭にきたのだろうか。それにしてもおかしいことに気づいて欲しい。

「できねえことはしねえけどよ」
「はは、願いを叶える理由がわかんないよ。えっと、もしかしてこれが最後かもしれないから可哀そうだって思ってるのかな?同情してるのかな?」
「さっさと言わねえとぶん殴るぞ」
「はあ?横暴すぎないかな……ああ、待ってわかった、わかったから今すぐ考えるから」

完全に売り言葉に買い言葉というやつで、俺がなにもできないと罵倒したことに対して叶えてやると反論しただけだ。きっとそこにはっきりとした意味なんてない。だけどやけにムキになってつっかかってくるので、こっちも引くに引けなくなる。
可哀そうだから、最後だからと同情しているのかとも思ったけど違うようだ。だから必死に叶えて貰えるかもしれない願いを考えて、意地悪気に口の端を吊りあげながら告げた。

「じゃあそうだね、一つだけ心残りがあるとしたら、俺って実は誰か特定の相手とつきあったことがないんだよね。だからさあ、この際化け物でもいいからつきあってくれないかな?」

自分でも会心の言葉だったので、どんな返事があるか数秒の間だけわくわくした。もうすっかり最初の目的なんか忘れて、悔しがるシズちゃんの姿だけが見たかった。なのに。

「……わかった、つきあってやる」

「ん?あれ?ちょっとやだシズちゃん勘違いしてるよね?つきあうってあれだよ、ちょっと校舎裏につきあえとかそういうのじゃなくて男同士なのに恋人同士みたいに……」
「んなこと言われねえでもわかってんだよ!あれだろ、デートとかすんだろ!よしじゃあ今すぐデート行こうじゃねえかクソノミ蟲がよお!!」
「えっ、え、え……?」

動揺するのはこっちだった。どこをどう誤解したのかわからないけれど、なぜかさっきの俺の願いに首を縦に振ったなんて。予想外過ぎて開いた口が塞がらず、そのまま腕を引っ張られて勝手にどこかへ連れて行かれようとしている。
ようやく我に返った時には事の重大さに気づいて真っ青になってしまう。

「ま、待ってよ!ちょっとデートって、俺とシズちゃんが!?」
「手前が言ったんじゃねえか!いいかぜってえ逃げんじゃねえよ。男だったら自分の言ったことに責任は取れよ、いいな!!」
「違う違う!やっぱり待った!おかしいって気づいてるよね?嫌だなあ、なにかの冗談だって……」
「今更いいわけするなんて、見苦しいことすんな臨也くんよお」

慌てて訂正しようともう一度問いかけたつもりだったのだが、バッサリと言い切られてしまう。さっきの言葉が間違いではないと。どう考えてもおかしいのに。
もう半ばズルズルと引きずられるような形で池袋の街を歩く。抵抗もできなければ、あまりに呆然としてしまってすぐには立ち直れない。
だって俺とシズちゃんがデートするなんて。

「無理、無理だって!気づいてよねえ、おかしいだろ!?」
「おかしくねえ。俺が手前の願いを叶えてやるって約束してデートするだけだろうが。簡単じゃねえか」
「意味がわからないって、そんなこと頼んだ覚えないし!」
「いいからその煩せえ口を塞いでろ!周りの奴らが見てやがんだよ!!」

* * *

「俺は平等に人間という存在を愛していて、誰か特定の相手なんていない。だから怖いなんて思わないし、原因すら掴めないんじゃあどうしようもないとは思ってるよ」
「怖くねえってことか」
「怖いって思ったことすらあまりないね。怖いなんて臆病者の考える思考だからね」

嘘だ。唯一怖いと思った相手は目の前にいて、他のことは怯えたもしなかったのにそいつだけはどうしようもないぐらい怖い。
でもどうにかしようとも考えなかったし、自分の恋に関してだけは臆病者だ。それは認める。自分で口にしながら、言葉がぐさぐさと刺さっていく。

「なにがあっても、怖くねえってことか」
「怖くないよ」

その時急にシズちゃんが近寄ってきてやけに真剣な表情で問われた。なんだか目が据わっているように見えたので一歩下がったが、壁が傍にあったので追いつめられている気分になる。
なんとなくよくないことが起きそうな気がする、と直感で感じたけれど体だけは逃げれる体勢で待つ。一体なにが言いたいのだろうと。すると。

「じゃあ怖がるんじゃねえぞ」
「……えっ?」

意味がわからなくて目を瞬かせていると、突然肩を強く掴まれて壁に押し付けられる。面食らっているうちに失敗してしまったと気づいたので、上半身を横に捩って逃げようとしたが右手を掴まれ頭の上に引っ張りあげられて身動きが取れなくなった。
そして何事かと叫ぼうとした唇を、あたたかくて柔らかいものがふれてきて。

「んっ……うぅ……!?」

それが何かなんてすぐにわかったので、慌てて抵抗する。必死に頭を振ってもがき、シズちゃんの腕を本気で解こうとしているのにびくともしない。それどころか慌ててもぞもぞ動いて半開きになった唇を割り開き、口内にぬめる舌が入りこんできたのだ。
さすがに頭の中がパニック状態になってしまって、瞳をぎゅっと瞑ると全身が硬直して動けなくなる。するともっと動けないようにする為に体が寄りかかってきて壁とシズちゃんの間で挟まれる。

「あ、うぅ……は、んぅ、く……」

かなり濃厚なキスに戸惑っていると、自然に体の力が抜けていく。生あたたかい舌が口内の壁や舌をなぞる動きに耐えられなくて、時折肩がビクンと跳ねさせながら息があがる。
なんで、どうして、という疑問しか考えられなくてぴちゃぴちゃと湿った音が地下道の中でやけに響き渡って聞こえる。シズちゃんが飲んだ酒の香りが強く漂ってきて、煙草の匂いも混じっていた。
数分蹂躙されたところでようやく唇が離れる。でもその時には腰に力が入らなくて、目を開けると焦点の合わない瞳でぼんやりとため息をついた。

「っ、はぁ……っ」

シズちゃんは無言だった。俺も騒ぐことなくただ呆然としていて、そのまま時間が流れる。
好きな相手に、シズちゃんに、突然キスをされた。
どういう理由かなんて考えるまでもなくて、数分してからボソリと呟く。

「……酔っぱらったら、キスする癖でもあるの?」

一緒に飲んだことなんてなかったし、そんな噂は聞いたことがない。でも大体シズちゃんが酒を飲む相手は、上司や仕事関係の人と、新羅やドタチンセルティに、弟ぐらいだ。
だから口止めされていて黙っていたら、俺に情報が回ってくるわけがない。そう必死に決めつける。

「手前こそ、本気で抵抗してねえよな。キスの一つぐらい仕事相手によくされるんだろ?」
「なに、それ……」

まるで俺がこういう行為に慣れているかの口ぶりに少し苛立った。そんなわけがないのに。女性とだってしない。
だってシズちゃんが好きだから、その他の人間相手に特別な感情や行為を求める必要はなかった。童貞だろうがそんなの一生貫き通せばわからないし、どうだってよかったのだ。
これが正真正銘、初めてのキスなのに。
本気で抵抗しなかったのは、シズちゃんだからなのに。それを告げるかどうか数秒迷った。

「答えねえってことは、図星なんだろ?」
「そんなこと言ってない」

こっちの質問には答えない癖に、一方的に考えを押しつけてくることに顔を顰める。本当のことを言おうかどうか一瞬迷う。
だけど俺の頭の中には、数日経ったら全部シズちゃんも忘れてしまうという事実が浮かんで躊躇っていた気持ちを後押しされたみたいで。気づいた時には。

「どんな誤解してるのか知らないけど、仕事でこんなことしない。そんな安っぽい方法を使わなくても俺は成功してたから」
「嘘つくんじゃねえよ」
「こんなこと嘘ついてどうするのさ?特定の相手とつきあったことも、そういう関係になろうとも思わなかったって言っただろ。だから今シズちゃんと、こんなことしてるんじゃないか」
「……じゃあなんで俺には許してんだよ」
「それは、その」

シズちゃんの勝手な思い込みはうまく躱せたと思ったのに、余計に責められて言葉に詰まってしまう。まさか本当のことを言うわけにもいかない。いくら忘れられるとしても。
どんな風に言ったら納得するのだろうかと頭を振る回転させる。でもいつもはあれこれと浮かぶのに、肝心な時には機能しなかった。

「許したわけじゃなくて……びっくりした、だけだよ」
「いつもは容赦なくナイフ向けてくる癖にか?」
「うるさいなっ、酔っ払いのシズちゃんにこれ以上つきあってられないよ。俺はもう帰るんだよ!」

酒のせいで頭が働かないとしてもこれは酷い、と自分でも思う。恥ずかしくて悔しくて、今度こそ腕から逃れようと勢いよく体当たりするとあっさりと解放される。
もうこんなわけのわからないことつきあっていられない。今日は楽しかったけれど、それだけだ。明日からはまたいつも通りだと決めて踵を返して歩き出そうとしたところで、コートの裾を掴まれてしまう。

「ちょっと……離し……!」
「帰るなよ。もう遅いしそんだけ酔っぱらってりゃあ、危ねえだろ」
「俺は酔ってなんか……」

慌てて裾のファーを掴む腕に今度こそナイフを突き立ててやろうとポケットを探った時、衝撃的なことを告げられる。

「どっか泊まってこうぜ」
「はあ……?」
「行くぞ」

あまりのことに呆然としているうちにまた手を引かれ、どんどん地下道を歩いて行く。薄暗い上に人通りもないので、叫んだところで意味はない。それに明らかに行き先を知っているかのようなしっかりとした足取りをしていたので、酔っていないのではと思い始める。
もし本気だったとしたら。池袋駅の北口になにがあるかは、取り立てをしているぐらいなのだから知ってるだろう。多分借金回収でも結構な頻度で行っているだろうし、それに気づかないほどバカではないと思う。
地下道の左右の道に辿り着いた時、どっちに向かうかが鍵だった。左なら駅で、右なら逆方向だ。そして見守っていると、右側に曲がって息を飲んでしまう。
泊まろうと言われて、ラブホ街に向かうなんてやることは一つしかなかった。瞬間的に耳まで真っ赤になって、足を止める。

「ちょっと、待ってよ!な、なんかおかしくない?」
「なに止まってんだよ。抱えてくぞ」
「そうじゃなくて!あのさ、どうしてこんなことになってるの!?恋人同士みたいなことしていって言ったけど、絶対間違ってるよね?誰を相手にしてるのか、わかってるの?」
「またさっきみてえに口塞がれてえか?」
「……っ!?」

その言葉に全身がビクンと反応する。そんなのは反則だ、と焦っているうちにおもいっきり腕を引っ張られてまたズルズルと引きずられてしまう。
理由も言わずに歩くなんてズルイと言いたいのに唇は震えて声が出ない。どうせ酔っ払いだから、数日後には忘れてしまうから、最後に思い出ぐらいいいじゃないか。という邪な考えが頭をぐるぐると駆け抜けていて遮ることができないのだ。
いやでもやっぱり勘違いなだけかもしれない。シズちゃんが俺をラブホテルに誘おうとしてるなんて。まだ連れ込まれてるわけじゃないし、早とちりしないほうがいい。
必死にあれこれ理由をつけて否定しようとするのに、マイペースに歩いて行って人の少ない道から派手な灯りの多い道へと進もうとしたところでさすがに止める。

「ねえちょっと待ってよ。泊まるなら俺の知ってるところ行こう」
「ああ?面倒だからこっちでいいじゃねえか。すぐそこだろ」
「すぐそこ、ってどこに入ろうとしてんだよ」
「この間仕事で行った時に中見たけど、できたばっかりで綺麗だったぞ」

やっぱりこれは間違いないと思いながら、なんとか行かせないように考える。酔っぱらってる勢いなら、なんとか時間さえ過ぎれば我に返ってこれがおかしいと気づいてくれるだろう。
だから道の端に引っ張って、自販機の前でか細い声で告げた。

「あのさ、ちょっと気持ち悪いから歩くの待って。ちょっとここで水買っていい?シズちゃんだって必要だろ」
「そうだよな、部屋の飲み物とか高えよな。修学旅行で行った旅館の飲み物も二倍ぐらいだったよな、じゃあ俺も買って行くか」

そこで財布を取り出そうと手を離されたので、逃げるチャンスだった。だけどあからさまにすぐ逃げてはさっきの二の舞だったので俺も財布から札を取り出して差込口に入れる。
まず一本目の水を押して取り出し口に手を突っこんでペットボトルを掴み、連続でボタンを押してもう一本購入する。とりあえず二本抱えて振り返ろうとしたところで耳元で声がした。

「臨也……」
「え?っ、あ、え……んぅ!?」

やけに近いと思ったらまた唇にキスをされていて、持っていた二本の水を地面にボトボトと落としてしまう。もう完全に頭の中は真っ白だ。
またさっきみたいにされるのかと思っていたら、ちゅっちゅと音を立てて唇に吸いつかれただけで離されていく。そして何事もなかったかのように自販機のボタンを押して、背後でゴトンッと落下音が聞こえた。

「小銭なかったから、ついでに俺のも買うぞ。飲み過ぎたのか知らねえが、すげえ喉乾いてる気がしてきた」
「あ、あぁ、うん」

そう返事をしたものの、その場から動けなくて悔しげに唇を噛む。どんなつもりか知らないが、随分と自然と口づけをされて反応しているこっちがおかしいのかと思うぐらいだ。三回ほどボタンを押して小銭を取り出し自分のポケットに入れる。

* * *

「ま、待って、おれ……じゅんび、っ」
「部屋の中探したらローション売ってたから、買った。ちゃんとしてやるから安心しろ」
「ろ……っ!?あんしん、って、え、あ、その……」

部屋の中に置いてあるエッチな道具の売っている自動販売機で買ったのだろう。そんなものがあるということまで知っているなんて、驚きどころかちょっと詳しすぎるだろうと突っこみたいところだ。
でもパニックになりすぎて、まともなこともしゃべれない。舌っ足らずな子供みたいに、単語だけを並べ立てしどろもどろに尋ねるだけだ。これはちょっと情けないどころではない。

「ああ、でもするならうつぶせの方がいいらしいぜ」
「えっ、ひ……!?」

言った直後に再び俺の肩と腰を掴んで、勝手にうつぶせに寝転がされてしまう。ふかふかの枕に顔を埋めるように寝かされて、直後に腰を掴まれて両足を簡単に左右に広げられる。
どういう体勢なのかすぐにはわからなくて、でも気づいた瞬間一気に全身が熱くなった。四つん這いの状態で足を開かされその間にシズちゃんの体が割りこまれているなんて。もうこれで、言い逃れできないぐらいはっきりした。

「せ、せ、せ、せ、セックスするの!?」
「手前はどこまでわからねえ振りすんだ、バカだろ」
「ひ、あっ!?」

呆れるようにため息をつかれると同時に晒された尻を前ぶれもなく撫でられて甲高い悲鳴があがってしまう。こんな声が自分から出るだなんて思わなかった。
そんな嘘だろう、ちょっと待って、そんな準備とか気持ちの整理がついてない、っていうかそれ以前の問題だろ、という数々の言い訳が駆け巡る。でも何一つ訴えられない。
ここまでパニックになるなんて初めてだ。どんな危険なことや仕事をしても常に冷静でいられたし、自分が影響を受けないように保身に努めてきた成果もある。でも今回のことは自分自身に振りかかったことで、予測を超えすぎた。
こんなにも動転するだなんて、お粗末すぎるどころではない。もっとしっかりしろよと自分を奮い立たせたいのに、できない。

「……っ、な……は」

煩すぎる胸は痛いし、呼吸だってまともにできない。緊張と混乱で体はガチガチだし、全裸どころか尻をじっくりと見られているのだ。あまりのことに、本気で目尻に涙が浮かんできた。
さっきキスしたのも始めからこういうことを考えていたからで、あの時についていかなければこんなことにならなかった。後悔しても遅いけれどそれを口にしてしまって。

「キス……した、の」
「なんだキスして欲しいのか」
「え……っ、う!?」

キスしたのも全部セックスする為だったのか、と尋ねようとして明らかに誤解されてしまう。やばいと思った時には圧し掛かるように近づいてきて、顔だけを後ろに向かされて唇を奪われた。
もうこれで三度目だ。たった数時間のうちに、一気になにもかも変わってしまったという現実にまだ頭が追いつかない。

「ふぅ、ん、っ、く……」

さっきと同じように口内をまさぐられていると、全身が震え始めて倒れそうになる。だけどシズちゃんが腰を掴んで支えてくれたので、体を預けたまま必死に息だけを吸いこむ。
するともっと密着しようとしたのか肌がふれあうぐらい押しつけられ、狙っていたのかわからないけど尻に硬いものが当たった。一瞬なにか思いつかなくて過剰に全身が跳ねたが、熱くて少しぬるついているそれが何か思い当たる。

「んあっ、は、はぁ……っ、う」

唇がようやく離されて改めてそこを眺めると、風呂場で見たものと同じだった。先走りで少し濡れている性器だ。だけどそれを見ても恥ずかしさはあまりなく、驚きの方が大きかった。
俺のは当然反応すらしていないけれど、あんなに違うなんて想像できるわけがない。そして多分あれを入れるわけで、あんなの無理だという言葉が浮かんだ。

「そんな死にそうな顔してんじゃねえよ。ゆっくりしてやるから」
「ちが……っ、だから」
「いいから力抜いておけよ」

すっかり向こうはやる気になっているけれど、こっちはまだ理由すらも知らない。でもそんなの言わなくても明白だから口にしないだけなのだろう。
これで最後だから。諦めているから。無理だとわかっているから。数日後には全部忘れていると知っているから。
仇敵だろうがなんだろうが、可哀そうな奴だから。そういうただの同情だ。

「な、んで……」

だけどこんな体まで繋げたい、なんてことは一言も口にしていない。俺はそんなのいらないし、性行為だってしたことなければ自慰だってほぼその気にならないのだ。
必要ないから、今すぐ止めてと。そう言うだけだというのに、唇は小刻みに震えたまま動かない。
それは頭の隅で、最後だから遠慮せずにしておけと囁きかけてくるからだ。シズちゃんには俺のことは残せないけれど、俺にはシズちゃんのことが残る。本当にこの世のすべての人間から忘れられても、それだけで生きていけるのではないか。
そもそも一人になった時に、俺は本当に存在しているのだろうか。
初めての行為の恐怖心からか、考えないようにしていた感情まで溢れてくる。怖くないと言ったけれど、体を合わせてしまったらその後が辛いのではないかと。

「ローションと指でしっかりほぐしてやるから」
「シズ、ちゃ……っ、めた」

暗い思考を断ち切るように凛とした声が聞こえてきて我に返ると、いきなり冷たい感触がした。何をしていたのか見ていなかったけれど、ローションボトルから垂らした液体を手に取って後ろに塗りつけたらしい。
ぐちゅぐちゅという粘着質な水音がして、それと共に指がそこを撫でるように行き来する。気持ち悪いようなむず痒いようなくすぐったさを感じたが、目の前の枕に頬を押しつけて唇を噛む。

「……は、っ……ぅ」

ここまできたら逃げられない。もう覚悟を決めるしかないと思ったのだ。
煩わしいことは後で考える。こんなチャンスは二度とないだろうし、向こうだってその気になっていた。
好きな相手を喜ばせたい、満足とはいかなくてもいい気持ちにはしてあげたい。そういう純粋な想いからだった。
向こうには残らなくても、一時だけでもふれあってくれるのならちゃんと覚えていようと。俺が可哀そうだからいい思いをさせてやりたい、と本気で考えてくれた感情を無駄にはしたくない。

「すげえぬるぬるだな、これならもう入れてもいいよな?」
「っ、あ……う、ん」

数分後ろを擦られてだんだん変な気持ちが沸いていたところでタイミングよく尋ねられた。少し迷ったけれど、今度はちゃんと自分で返事をする。わかった、いいよと。
まだ困惑していたけれど、きっと完全に納得できるようなことではない。本来だったら絶対にこんなことにはならなかった。
シズちゃんはあの体が続く限り死ぬようなことはない。だけど俺は常にそういう危険と隣り合わせで、誰も知らない所で突然死んでしまってもおかしくはなかった。それに猶予がついて、こんなご褒美みたいなできごとが起こったと思えばいい。

「じゃあ一本ずつな」
「んっ、あ、う……っ、は……!?」

衝撃に備えていたけれど緊張は抑えられなくて、腰がビクビクと大げさに跳ねた。俺は目の前の枕に必死にしがみついて息を吸いこむ。だけど苦しいのからは逃れられなくて、見えない怖さもあって自然と瞳から涙がこぼれた。
死んでも、一人になっても泣かないと思っていた。でもシズちゃんにかかれば、あっさり泣かされるんだと気づいて口元が緩んだ。

「大丈夫か?一度抜いた方がいいか?」
「あ……くぅ、ん……は」

みっともない悲鳴をあげたくなくて耐えていると、気遣うような口調で尋ねられる。それに応えられる余裕はなかったし、これ以上涙を見られたくなくて顔を真正面から枕に埋める。息が苦しいけれど、これなら耐えられると思った。
しかしそこで指が引き抜かれて強引に肩を掴まれ後ろに振り向かされる。滲んだ瞳の中に、シズちゃんが映った。

「我慢すんな、痛いなら言え。泣くなよ」
「な……いて、ない」

自分ではキツイ口調で告げたつもりだったけれど、涙声で随分と弱々しいものが出た。でもそれがよかったのか、心配そうに覗きこんでいた表情がパッと変わり笑われる。

「そうだな、泣いてねえな」
「……っ」

心底おかしそうだったが優しげに笑われて、胸がドキンと一層高鳴った。こんな時なのに、嬉しいと純粋に感じてしまう。
笑顔なんて俺には向けられたことがなかったし、一生そんなことはないだろうと信じていた。だけど今は、ちゃんとこっちを見つめて笑っているのだ。
呆然としながら、ぶわっと目尻から涙が溢れ頬を次々と伝っていく。そして乾ききっていた心にじんわりとあたたかいものが流れ込んできたような感覚に陥る。
そして長年の憑き物が落ちたみたいに、唐突に理解した。最初に求めていたのは、出会ったあの時に欲しかったのはこれだったんだと。
きちんとこっちを見てくれて、わかったよろしくとしっかりと手を握って欲しかったのだ。それだけは叶わなかったけれど、憎悪以外で俺を見て笑ってくれれば、他に何もいらなかった。

「なんだよ、さっきよりすげえ涙でてんぞ」
「ごめ……っ、もう大丈夫、だから」

緊張して硬直していた体から完全に力を抜いて、手を伸ばして腕をしっかりと掴んで精一杯微笑みながら告げる。心から幸福を感じたことも、笑ったこともなかったけれど少しでも伝わればいいなと思った。
するとその手を振り払い、大きな手のひらで握り返される。少し驚いたけれど、言葉が出なかったことが嘘みたいに口にしていた。

「シズちゃ、んの……好きに、してよ」
「臨也……?」
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