ウサギのバイク 夏コミ新刊「繰り返し君に恋をする」
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2012-07-21 (Sat)
inf55

「繰り返し君に恋をする」
静雄×臨也/小説/18禁/A5/124P/1000円


ある日静雄は臨也が死んでいるのを見て動揺するが実は生きていて
ずっと黙っていた気持ちを打ち明けつきあってくれと告白する
二人はつきあうことになったが臨也は銃で何者かに撃たれてしまう
その時静雄は何度も同じ光景を見ていたことを思い出して…

静雄が記憶喪失になり何度も臨也のことを好きになる切ない系シリアス ハッピーエンド 

表紙イラスト ひのた 様
niyari 

虎の穴様予約

続きからサンプルが読めます

* * *

「ん?なんだ、血の匂いがする……」

その時不意に独特な香りが鼻についたので、眉を顰めながら周りに気を配り警戒する。どうやらビルとビルの間の細い路地から匂う。これでは臨也の匂いがわからなくなるじゃないか、と苛立ったが引き寄せられるように匂いの元まで近づく。
いつもだったら絶対にやり過ごしていた。だけどどうしてか、その時は気になったのだ。
血の匂いに混じって、あいつの匂いがしたから。罠かもしれないし、いきなりナイフを向けられてこっちがやられる可能性もあったので足音を立てずに体だけ乗り出し路地を覗いた。
そして心臓が止まるかと思うぐらい、びっくりする。

「……ッ!?」

言葉にならない声が喉から漏れて、足が勝手に駆け出してその場を離れた。たった今見た衝撃的な何かを振り切るように、池袋の街を走る。頭の中は空っぽだった。
飯を買うのも忘れて自宅まで辿り着くと、扉に鍵をかける。指先が震えていて、少しだけ時間がかかってしまった。
そしてようやく息を吐き出し、玄関先で膝を突くように座る。全身から力が抜けていて、汗が噴き出していた。ようやく一人になったところで、呟く。

「なんで、どうして、あいつ……」

まだ混乱していて、自分が見たあれは夢だったのではないかと思いたかった。だけどはっきりと見た映像は頭にこびりついている。

「臨也、が……死んで」

言葉に出した途端にポタポタと何かが滴り床を汚す。それが涙だということに、数分気づくことができなかった。
あの路地裏で見たのは、臨也が腹から血を流し死んでいる姿だった。どうして死んでいると瞬時に判断できたのかというと、体がぴくりとも動いていなかったし不自然な体勢で倒れていたからだ。近くにあったゴミ箱にぶつかり、後ろに倒れたようで周囲にはいろんなゴミが散乱していた。
でもそれをどけようとした形跡もないし、本当に倒れた直後のまま目を閉じて寝転がっているようだったのだ。けれども血溜りができている。凶器も落ちてはいなかった。
だから多分死因は拳銃か何かで撃たれたのではないかと思う。俺自身も一度受けていて、何もできないまま倒れてしまった記憶はまだ新しい。俺が普通の人間でなかったら死んでいたと新羅に何度も言われていた。
俺が臨也を見掛けて追いかけはじめてから、多分一時間以上は過ぎていただろう。血の量は多かったし、知らない道で少し迷っていた俺と池袋の道は熟知しているあいつとは違うのだ。だから間違いなく、打たれてから数十分以上は経っていた。
それで息をしているような動作もなければ、死んでいるとしか思えない。たった一瞬見ただけでそれを判断して、逃げてしまった。
俺ははじめて、臨也から逃げた。

「あいつが、いなくなった……なんて、俺は」

助からなかった。しょうがない。そう思うのに逃げたことを後悔していた。まだ新羅に連絡すれば、生き返ったかもしれない。
だけど体が勝手に動いて逃げてしまったのだ。どうにもできなかった。悔しいけれど、俺には何もできない。
まだ臨也が死んだという実感がわかなくて、呆然と床を見つめながら頬を濡らす。どうして泣いているのか、を考えてみた。
殺すとか、死ね、とか互いに言い合ってきたわけでそれがようやく叶ったのだ。もっと喜んでもいいはずなのに、ちっとも気分はよくならない。それどころか、どうしてあんなに酷いことを言い合っていたのか、それがわからないぐらいだ。
本当に死んで欲しくて言っていたわけじゃない。そうはっきりと自覚する。

「死ぬわけ、ないだろ」

虚しいとわかっていても、言葉は止まらない。俺がいくら殴っても、怪我をさせても鬱陶しく目の前に現れてきたのだ。あれぐらいのことで死ぬわけがない、と信じたかった。決定的な姿を見ていたけれど、すべて無視していたかったのだ。
明日になればまたいつもみたいに現れて、俺を苛立たせる。そうなんだと。
あっけなさすぎて事実を受け入れたくない。銃で撃たれたぐらいで、あいつがくたばるわけがないのだ。しぶとく生きている。だから俺が落ちこむ必要はない。

「クソッ、だから……なんで、まだ涙が、っ」

* * *

「なんでも知ってるよ。シズちゃんのことなら」
「嘘つけ。じゃあ俺が手前に話したいことが何か、わかるって言うのか?」
「ははっ、わかるよ。なーんでも知ってるからねえ、聞きたい?」

こいつ俺が黙ってるからって調子に乗りやがって、と少しだけ苛ついたのでおもいっきり睨みつけてやる。本当に何もかも全部わかるっていうなら、当ててみろと。そんなことできるわけがないと。
けれども、口を開いた臨也はとんでもないことを言った。

「シズちゃんさあ……今日俺に会ったら、告白する気だったでしょ?学生の頃から好きだった、って」
「…………あ?」
「はい、当たり!俺の勝ちだね」

さすがにその言葉は流すことができなくて、その場に立ち止まる。まだ人通りの少ない池袋駅前の道で、周りの音が聞こえなくなり寒気がかけあがってくる。ショックだったけれど、それ以上に恐怖を覚えた。
どうしてわかったんだ、と尋ねていいか迷っていると肩をポンと叩かれたので大袈裟に跳ねた。

「うおっ!?」
「やだなあ、シズちゃんビビりすぎじゃない?ちょっと怖がらせすぎたかな」
「な、んだと?」
「冗談だって、冗談。こんなところで俺に愛の告白なんて、するわけないだろ?ねえ?」

ヘラヘラと笑いながらバカにするように言ったので、今度こそ本当に苛立ちが止められなかった。まるで俺に、告白する勇気がないと言っているように感じられて。
肩に置かれていた手を勢いよく振り払って、胸倉を掴み体を引き寄せて、公衆の面前でいきなりキスをしてやった。ざまあみろ、と心の中で思いながら。

「んっ!?」
「クソッ、これでいいか!ああッ!?」
「ちょっと、なんで、こんなこと……!!」
「おい、さっさと飯食い行くぞ」
「い、嫌だよ!!」

唇がふれていたのは一瞬だった。でもたったそれだけのことで、生意気だった臨也の表情が崩れたので気分がいい。極力暴力は振るいたくないし、こんなことで驚かせることができるなら安いものだ。
というか、嬉しい。だって俺は、本当にこいつのことを好きだったから。出会った頃から気になっていたというさっきの臨也の言葉はすべて正しい。

「待てって、なあ」
「離せ、って……!」
「なんでキスする時、手前抵抗しなかったんだ?」
「……な」

慌てて逃げようとしたので、黒いフードを掴んで引き寄せる。今頃になって周りの視線を感じたが、どうでもよかった。俺には臨也しか、見えていなかったから。
頬を染めて涙目になっているのが、近寄るとわかる。素朴な疑問をぶつけてこんな反応を返してくるなんて、可愛らしい奴だと思った。らしくないけど、これはこれでいいもんだと。

「なあ本当は、手前も好きなんじゃねえのか?俺のこと」
「違う!根拠のないことを言うのはやめ……」
「じゃあなんで俺の好みとか、知ってんだよ。そんなの普通はすぐ忘れちまうだろ」

理由のはっきりしないことは言うなと睨まれたので、さっきラーメンの煮卵が好きだというかなりどうでもいいことを知っていた事実を指摘する。これで追いつめた、と思ったのだが。
どうしてか、臨也の顔色が変わった。何か嫌なことでも思い出したかのように、表情を曇らせる。

「そうだね、シズちゃんは……すぐに忘れるから」
「俺が記憶力ないみてえに言うな。好きな奴のことは、ちゃんと覚えてる。あー……あれだろ?なんだ、その、えっと……」

悲しそうに俯いて小声で言い始めたので、動揺した。さっきまでの勢いはなくなって、やけに落ち込んでいるように見える。だから俺は焦って、何かを言おうとした。頭の中をフル回転させて、なんでもいいから思い出せと探る。
そして口をついて出てきたのは。

「あれだ、手前は俺にキスされんのが好きなんだろ?……って、え?」
「え?」

二人同時に声をあげる。俺自身も口走ったことの意味がわからなくて、唖然とした。だけど臨也がキスに弱いということだけは本当のことだ、と勘が何かを告げていたのだ。
こっちを見つめる表情が変わって、縋る様な弱々しい瞳で見つめてくる。これは多分、俺の言うことに期待している目だと思った。

「それって、どういう意味?シズちゃんとキスなんて、さっきしたのがはじめてなのに」
「いや、はじめてじゃねえだろ。わかんねえけど、前にもどっかでしたよな?」
「どこで?」
「どこだろうな……クソッ、なんだもやもやする!」

自分で言っておきながら、思い出せない。だけど間違いなく、俺と臨也はキスしたことがあった。必死に思い出そうと顔を顰めるが、どこでしたのかまではわからない。
なんで忘れてしまったのかとか、いつ頃だとかさっぱりだ。でも感触だけはやけに残っている気がする。

「そうだ!もう一回キスすりゃあ、思い出したりしないか?」
「な、なにそれ!っ、やっぱり不埒なことが目当てじゃないか!シズちゃんなんか、知らない!!」
「って、おい待て!返事聞いてねえぞ手前!」

* * *

「ふあ……?シズちゃん?」
「あ、悪い起こしたか?」
「っ、あぅ……ど、したのっ、まだしてたの?」
「え?」

何度も性行為をして、中も外もドロドロになっていたのでタオルを濡らし互いの体を拭いていた。途中で気絶してしまった臨也を起こさず、そのまま寝かしておくつもりだったのだ。
だけど柔らかい肌にふれているうちに、またそこが大きくなってしまって焦った。散々出したのに、まだしたいのかと呆れてしまう。仕方がないので、中には入れずに臨也の太股に性器を擦りつけて刺激し出してしまおうと腰を動かし始めたところだった。
そこで本人目を覚ましたので、動揺するのは当たり前だ。だけど、何かが違うとすぐに思った。

「入れないの?」
「……あ?」
「俺まだちょっと眠いから、寝かせてよ。勝手にここ使っていいから、ね?」
「えっ、おい!?」
「はっ、んぁあ……っ、あ、ふぅ、ん」

気怠そうに上半身を起こして俺の性器をおもいっきり握ると、自分から腰をくねらせて先端を入れた。まだ精液が垂れていたのでとろとろに湿っていて、すんなりと挿入されていく。
あまりのことに動けなかった。まるで俺が臨也の中に入れたがっているのを知っているような素振りで迎え入れたのだ。
気持ちがいいけれど、どこかおかしい。普通は自分が眠っている間に悪戯をされているとわかったら、怒るところなのに。怒るどころかふわふわとした意識の無い可愛らしい笑みを浮かべていた。
あれは絶対に寝呆けているに違いない。でもそんな状態なのに、執拗にセックスに拘るなんておかしい。まるでいつも、そうしているみたいな仕草だった。

「あ、んっ……は、き、もちい」
「なんで」
「ふぁ、く、シズちゃ……ちょっと、だけ動いて?眠い、からぁ」

言っていることは支離滅裂でおかしい。まるでセックスをしている最中に眠ることが心地いいと言っているようなものだ。ねだられたらしないわけにはいかず、少しだけ腰を動かす。
すると甘い声を漏らして目を瞑り、中をぎゅうぎゅう締めつけながら浸っていた。さっきまでとは違う色気を感じて、不覚にも俺は大きくなる。そのまま前後に動かしていると、瞼が閉じていってそのうち微かに寝息が聞こえ始めた。

「んっ……ぅ」
「クソッ!」

俺はもやもやした気持ちと、おさまりのつかない欲望を臨也にぶつける。起こさないように一定の速度で突いて揺する。眠っている相手を蹂躙する、という最低な行為なのに酷く興奮した。
起きている時とはまた異なった表情を浮かべ、眠りながら好きにされている臨也にドキドキする。まるで本当に心を許してくれているみたいに感じられ嬉しい反面、どうしてという気持ちも強い。

「勝手に使っていいって……手前は、誰に」
「は……っ、ん」

* * *

「落ち着けって、臨也!!」
「……あ」

大声で怒鳴られてようやく我に返る。醜態を晒してしまったことに、ようやく気づいて恥ずかしくなった。
息がかかるくらい近い距離に居たのに、まだ何も起きてはいないのに、パニックになっていたのだ。深く息を吐くと同時に、ぼろっと生あたたかい雫が滴った。

「守られるのが嫌なのか?それとも、俺が死ぬって思ってるのか?」
「そ、れは」

守られるのが嫌なわけでも、シズちゃんが死ぬとも考えてはいない。
離れたくないのに、大事な相手を失ってしまうのが嫌なだけだ。その気持ちを口にしたとしても、伝わりはしなくて。

「なあ俺は……どうしたら、臨也を安心させられるんだ?」

いつまでも忘れないでいてくれたら、恋人でずっと傍に居てくれたら安心する。だけどそんなことはできない。
首の力で死なない体になったのだから、例外なくすべての人間は俺の本当の姿を知ったら忘れてしまう。首の持ち主であるセルティだって、この事実は知らないのだ。だから長い間秘密は守られてきたし、今更どうやって願いを破棄するか方法を聞く術も無い。
あの事件の後に首は消えた。また探し出すなんて、何年かかるかわからない。そんな時間は無いし、願いを無効にすると言ったところで叶いはしないだろう。
俺は心の底から安心することなんて、今後一切無い。誰かに恋をする資格もないのでは、と思った。
きっと一時的にしか、許されないだろう。

「お願いが、あるんだけど……」
「え?」
「今すぐ抱いて欲しい」
「お、おい」
「抱いてくれたら、安心するから」

ゆっくりと手を背に回す。こんなところで、と思うのに気持ちは止められなかった。
いつ失うかわからないから、今すぐ欲しい。早く。なくなる前に。
これが最後かもしれない。そう気づくと、求めずにはいられなかった。

「本気か?」
「うん」
「らしくねえ、よな。手前はよお、もっと余裕な顔して……」
「変わったんだよ」

シズちゃんは明らかに困っていた。だっていつ誰が来るともわからない場所で、男同士で性行為をするのだから。きっと頭がおかしくなったんじゃないかと不振がっているだろう。
なんとか俺に冷静さを取り戻させて、と思っているに違いない。事情も話さずに受け入れて欲しいなんて甘いことは考えていなかったけど、流されて欲しかった。

「シズちゃんのせいで、君が俺を好きだって言うから全部変わったんだ。こんなつもりじゃなかったのに」
「俺が変えた?」
「そうだよ……もっと」

もっと早くこんな関係になっていれば、無茶して願いなんて叶えなかったのに。とは言えない。
自分だって好きだと言えなかった。告白する気なんてこれっぽっちもなかった。
一生気持ちはひた隠しにして、見守れればいいというささやかなものだったのだ。それが失うのが怖いと思える程に、欲張りになったなんて。

「いや、なんでもない。もういいよ」

シズちゃんのせいばかりにしている嫌な自分に気づいて、高揚していた感情がおさまっていく。すぐに冷静になって、バカなことをしたんだと自覚した。だから小声でもういい、と告げ一歩後ろに下がる。
伝える勇気がなかったから、こじらせてしまった。責めたところでどうにもならない。都合のいい部分だけを受け入れて貰おうなんて虫が良すぎるのだ。

「待てよ」
「混乱して、変なこと言った。ごめん」
「聞けよ俺の話ッ!!」

シズちゃんが足を踏み出して、せっかく距離を取ったのにそれを縮めてきた。これ以上この話はしたくないという意味もこめて、自分から謝る。
だけど耳元で怒鳴られた。なんとなく、言おうとしていることが俺には読めて。

「慰めなんて、いらない。余計なこと言わなくていいよ」
「おいさっきから勝手に一人でしゃべんじゃねえ!聞けって言ってるだろうが!!」
「聞きたくない」
「だからよお、俺は嫌だって一言も言ってねえんだよ!でもせっかくするんなら、ここじゃなくて……」

すべてを言い切る前に、口を挟んだ。

「さっきの奴らから逃げ切れたら、しよう。って言いたいんでしょ?シズちゃんの考えることなんてお見通しだ」
「なんで先に言うんだ手前!」
「俺は、そうじゃなくて」

逃げ切れたら、じゃなくて今すぐして欲しかったのにという気持ちは飲みこんだ。
逃げ切るより先に、きっと俺が追いつめられる。追いつめられた方がいいんじゃないかと、次第に考え始めていた。
シズちゃんの為に。さっき現れた奴らは、俺とシズちゃんが一緒に居るところを見ている。そのままにしていると、ターゲットが二人になってしまう。
俺は何をされても、一度は死んで後で元に戻る。だけどただの人間で、ちょっと力が強いだけのシズちゃんは違う。銃弾一発受けても死ななかったけど、何発も受けて死なない保証はない。
二人で逃げ切ってしまえば、平和島静雄もこの間の池袋の事件に関わっていると広められ取り返しがつかなくなる。それこそ、こんな体になった意味そのものが失われてしまうのだ。
さっきまで慌てて逃げていたから考えつかなかったけど、やけに冷静になった頭は冴えていた。危険をいち早く察知して、回避できる方法を思いついたのだから。迷っている時間は無かった。

「ここから出よう。きっともう外は大丈夫だ」
「あ?そう、なのか?」
「シズちゃんすごくエッチだから、俺と早くしたいでしょ?行こう?」
「チッ、余計なこと言ってんじゃねえ……」

わざと性行為を匂わせるようなことを告げて、気を逸らさせる。すると一瞬だけ頬を赤く染めて、照れくさそうに笑った。
一度心が決まると早かった。外に続く扉に素早く近づいて、振り返る。

「ありがとう」
「あ……?何のことだ?」

最後までシズちゃんの言葉を聞かずに、勢いよく扉を開けた。周りを警戒することなんて、全くしなかった。それが狙いだったから。
池袋事件の時に、俺は問答無用で殺されてもしょうがないことをした。裏切り、嘘の情報で惑わし、首の力について疑問を持っていた人達すべては記憶を失った。でもその場に居た人間がすべてではない。
首の奇跡は万能ではない。だから俺みたいな人間が、辿り着けた。
俺の悪事を知っている人達は、いくらでもいる。そいつらが事件で複数の人間が記憶を失ったことについて、元凶を情報屋の折原臨也だと決めつけるのは簡単だ。そして容赦なく始末する。
口止めする為に手っ取り早く使うのは拳銃だ。日本では普通のルートでは手に入れることができないが、相手にしているのは規格外の奴らだったから間違いなかった。
一歩建物の外に出れば、撃たれるとほとんど確信していた。

「……ッ!?」

銃声が連続して耳に届いた時には、もう血が噴き出していた。確実に殺す為には数発続くことまで、読んでいたのですぐには倒れることなく全身がビクビク跳ねる。
撃たれながらしっかりと相手を確認すると、複数の人間が見えた。俺達の事を追いかけていた奴らすべてではないと思うが、ビルの中に逃げ込んで数分はしゃべっていたのでそのうちに集まったんじゃないかと思う。
後ろに倒れていきながら、そいつらから目を離さなかった。すると途中で撃った相手も動きがおかしくなり、ぐらつくのが見えた所で地面に倒れこみ背中に衝撃を受ける。
もうわざわざ確認しなくても、俺を殺した奴ら全員が気を失い記憶を失ったことだけは確実だった。一度死んで確認しているのだから、間違いない。

「臨也ッ!!」

すぐ傍で名前を呼ばれてハッと気づく。いつの間にかシズちゃんが倒れた俺を悲痛な表情で見ていたことに。
殺した者達はその場で気を失うけど、横から見ていた通行人達は俺が死ぬまで記憶を失ってはいなかった。だから多分ただ目の前で撃たれるのを眺めていたシズちゃんも。

「手前、な、んで……!」
「はは、よかった」

口をついて出てきたのは安堵だった。普通であれば即死している程の銃弾を受けたのに、まだしゃべれる。これも首の力のおかげなのだろう。最後に与えられた特別な時間、なのかもしれない。
次は一人きりで死にたくない、という密かな願いは叶った。結果的に、今日こうして死ぬことができてよかったんだと言い聞かせる。心の中で。

「待ってろ、今救急車を」
「ねえシズちゃん、っ……わかるだろ?助からないことぐらい」

抑揚のない声で告げると、何かが落ちる音が聞こえた。動揺したシズちゃんの手から、携帯が消え地面に転がっている。これまで見たことがないぐらい、目を見開いて真っ青な顔をしていた。
俺はまるで何もかもから解放されたみたいに、すっきりとしている。痛みはあったけれど、気づかない振りをしてしゃべりかけた。

「約束守れなくて、ごめん」

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