ウサギのバイク もっと もっと ねぇもっと そばにいてよ 5
2ntブログ
04≪ 2024/05 ≫06
12345678910111213141516171819202122232425262728293031
-------- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
| スポンサー広告 |
2012-11-06 (Tue)
*リクエスト企画 june 様
静雄×臨也

臨也の身体機能の一部が不自由になる話 切ない系 静雄視点

* * *


「クソッ、なんで俺が…」
「新羅も随分と酷いことを言ったよね、ほんと」

すぐ隣から声が聞こえてきて思わず苛立ちが沸いたが、ぐっと堪える。池袋からタクシーに乗り新宿まで来たのが台無しになってしまう。覚えのあるマンションが見えてタクシーも止まったので、目的地に着いたのだ。
するとわき腹を軽く突かれて、横を見ると臨也が財布を俺に差し出していた。払ってくれということらしい。

「しょうがねえな」

受け取りメーターに表示されている金額を出すと、釣りはいらないと言ってやった。隣で臨也が笑っているのが見えたが、無視して降りる。続いて臨也も降りるが、地面に足が着く直前に腕を引いて肩に担ぎあげる。

「うわっ!?ちょっと突然は困るってさっきも言っただろ!」
「うるせえ、黙って担がれてろ。俺は荷物を持ってるんだ。荷物だ、荷物…」

臨也が喚いたが怒鳴りつけて黙らせる。ただでさえ苛々しているのに、これ以上あれこれしゃべられてキレたくないと思ったのだ。
本当は、こんなことをしたくはない。相手が臨也でなければ申し訳ない気持ちで素直に手伝ってやれるが、今回は怪我をしたのが仇敵の折原臨也なのだ。複雑な気分なのもしょうがない。
ただの怪我であれば自分でなんとかしろ、と強く言えるがどうやら頭を打って目が見えなくなったらしい。さすがに俺でも、放っておくわけにはいかなくなった。
いや、新羅に頼まれることがなければ無視したはずだ。セルティが他の仕事をしていて送ることができないし、お願いだからと言われた。やけに真剣な表情をしていたので、断れなかった。
新羅は止めていた。臨也がどうしても早く自宅に帰りたいと喚くのを。だけど本人は頑なに聞かなかった。
そのせいで俺が送ることになってしまったので、機嫌は最悪だ。頭打ったぐらいで見えなくなるなんて、ふざけんなと思う。こっちが悪いとわかっていても、謝るなんてできなかった。

「ほら着いたぞ」
「うん、ありがとう」
「……チッ」

だが臨也は簡単に、感謝の言葉を口にする。タクシーに乗せてやった時も驚いたが、家の鍵を開けて中に入ったところで下ろしてやると、それだけでありがとうと言った。
これまでのことを考えると、胸がもやもやする。俺にありがとう、だなんて絶対に言わなかったというのに。舌打ちをしたくなるのは当然だ。

「シズちゃん、もうここでいいよ。充分役に立ってくれたから」
「そうか」
「君が気に病む必要はないよ。避けられなかった俺が悪いんだし、本当は殴りたいんだろ?無理してるのわかってるから、俺達もうこれっきりで会うのはよそう」
「…あ?」

話を聞いていて、驚きと同時に鳥肌が立った。気持ち悪い。明らかに臨也は俺に対して気を遣っていた。
見えないというのに、焦点の合わない瞳を開いて笑っている。見たことがないぐらい、穏やかに。きっと自分がどんな風に微笑んでいるのか、わからないのだろう。
いつも感じる悪意は全く無くて、本音を話しているようにしか感じられなかった。その居心地の悪さに、睨む力を強める。

「シズちゃんは俺を見ると、罪悪感でどうしたらいいかわからなくなるだろ?そんな調子でいられるとこっちも困るし、元々いがみ合っていたじゃないか。嫌いな相手に対して無理することはない。長年君に対していろいろしたけれど、その報いを受けたと思ってくれればいい。シズちゃんの勝ちだ」
「勝ち、って…なんだそれ」

すべてが臨也の言う通りだった。学生の頃から嫌がらせを受けて心の底から殺したいほど憎かったし、見えなくなったと聞いてもざまあみろとしか思わなかった。
だけど、どうしてそれを臨也自身が何でもないみたいに言うのだろうか。おかしい、と感じた。

「なんで手前はそんなに冷静なんだ。俺のせいで失明したんだろ!むかつくだろうが!」
「俺は君のせいで怪我したなんて本当に思ってないよ。腹も立ってない。それにまだ回復するかもしれないし、落ちこんでられないからね」
「…っ、嘘つくんじゃねえ。言いたいことあるなら言えよ!!」

臨也が嘘をついているようには見えなかったが、背筋を駆けあがる寒気がとまらなくて怒鳴る。どう聞いても嫌味としか考えられなかったからだ。
憎んでいない、腹も立たない、自分が悪いなんてあの臨也が思っているわけがない。捻くれた最低野郎なんだと。

「じゃさあ、それあげるから帰ってくれない?」
「…財布のことか」
「そうだけど」
「……ッ、ふざけんじゃねえッ!!」

その瞬間とうとう堪忍袋の緒が切れて、持っていた黒い財布を床に叩きつけてやる。胸糞悪すぎて、殴らないと気が済まなかったので、傍の壁に拳を叩きつけた。
すると当然簡単に手が壁にめりこんで、大きな穴が開く。臨也は黙って見ていたが、変わらず焦点は合っていない。

「ふざけてないよ。それでもう、二度と来ないでくれ」
「ああそうかよ。今までのことも全部、こんなはした金で許してくれっつうのか?そういう奴だよなあ、手前は」
「お金が足りないなら振り込んであげるよ」
「そういう問題じゃねえことぐらいわかってんだろうが!今更謝られたり、金払われても、許すわけねえんだよ!俺の人生を滅茶苦茶にしたのを、償えるわけねえッ!!」
「…そう、だね」

俺が引っかかったのは、二度と来ないでくれという言葉だ。本気だというのなら、殴っていいと思う。
散々振り回して俺の人生を壊しやがったというのに、金で解決させようとしたのだ。最低だ。こんな奴の為に送ってやったことを、後悔する。

「俺を怒らせて楽しいか?心の中では笑ってんだろ」
「楽しくないよ。君は本当に、何もわからないんだね」
「手前のことなんか考えたくもねえ」
「だからさっきから言っているじゃないか。一刻も早く出て行ってくれって」

臨也の表情は変わっていなかった。怒ってもいないし、不気味なぐらい静かに微笑んでいる。これまでだったらしっかりと目を合わせていたので多少感情がわかったが、今はわからない。
何を考えているのか。だけど俺を嫌っていて、これ以上話もしたくないことだけは確かだろう。こっちもそうだったから。

「いいか、手前に命令されたから来ないんじゃねえ。俺がもう二度と会いたくないから、ここには来ない。わかったか!」
「そうしてくれ」

最後まで聞かないうちに、乱暴に扉を開け外に出ると早足で廊下を歩いた。俺はそれっきり会わないつもりだったというのに。


「なんで俺が…クソッ」

池袋からやってくる間に、一体何回呟いただろうか。ポケットに入っている鍵を何度握り潰したい衝動に刈られたかわからない。
臨也と最後に顔を合わせてから、もう一週間は経っていた。すっかり頭の中からあいつのことを忘れて平穏に過ごしていたというのに、休みだった俺に電話が掛かってきたのだ。
またしても新羅からだ。あいつと連絡が取れないから、様子を見てきてくれないかと言った。セルティが臨也の自宅の鍵を届けるからと頼まれたが、断った。
だって俺は、あいつの家の鍵をポケットに入れたままだったからだ。そのまま洗濯してしまったことを、思い出した。
きっとスペアがいくつもあるのだろう。臨也から返してくれと連絡は無かった。だがこれなら、理由があると思った。
会いに行く正当な理由だ。鍵を返すのを忘れていたから届ける。ついでに臨也の様子も見て、新羅に報告する。面倒だったが、あいつの家の鍵を持っているのは嫌だった。
エレベーターに乗りこみ最上階までやってきて、廊下に足を踏み入れた瞬間違和感に気づく。あまりのことに、数秒その場に立ち尽くした。

「え…?」

扉が開いているのが見えた。臨也の事務所の玄関だ。頭の中が真っ白になる。
過去に俺は誰か知らないが死体だって見たことがあった。だから多少の事では動揺しないが、さすがに知っている相手だったらびっくりするに決まっている。
臨也は情報屋という裏の仕事をしていた。いつも危険なことばかりをしていたようだが、詳しくは知らない。恨みを買っていて狙われていたらしい、という話は聞いたことがあるが。

「ふ、ざけんじゃねえッ!!」

ハッと我に返り叫びながら廊下を走り室内に入る。心臓がバクバクと高鳴っていて、嫌な汗を掻いていた。覚悟をして事務所内に入ると、辺りを見回す。
そしてソファに臨也が転がっているのを見つける。慌てて近寄って、顔を覗きこんで絶句した。
どうやらまだ死んではいないらしい。だが数日前よりもやつれているようだったし、顔色も良くない。確かめるように口元に手のひらを伸ばすと、微かに息をしているのがわかり少しだけ安堵する。
だがどうして扉が開いているのに、生きているのか不思議だった。誰かがやってきて、そのまま逃げたとして放置するのはおかしい。
室内を見渡しても、荒らされた形跡はない。この間出て行ってから、一切何も変わっていなかった。しかしそこで、気づく。

「いや…おかしいだろ」

改めてもう一度臨也のことを眺めて、確信する。間違いないと。ソファの上に横たわっている臨也は、明らかに衰弱していた。
一週間前に俺が出て行ってからずっと、ここで寝ていたのだろう。室内に生活感がまるで無かったからだ。
よく考えればすぐにわかる。目が見えないというのに、どうやって歩けばいいのだろう。方向もわからず闇雲に歩けば、きっと机にぶつかり上にあるものが落ちたりするはずだ。
落ちている物を拾うのも苦労するだろうし、もっと荒れていてもおかしくない。だけどこの間と変わらないのは、臨也が室内を歩き回っていない証拠だ。さすがにトイレぐらいは行っているだろうが、水を飲まなければ動くこともないだろう。
玄関の扉だって、開いたままなのは閉めなかったからだ。誰かが来たわけではなく、俺が出て行ったままだったとしたら。
俺は新羅から電話で聞いていた。あいつにはお金を出しても、頼れるような相手は居ない。だから連絡がつかないということは、危険なのではないかと。
電話に出ないならまだいいけれど、繋がらなかったらしい。それは、携帯の充電をしなかったか、自ら誰とも連絡するつもりがなく電源を切っていたかだ。とにかく見て来てくれ、と頼まれた。

「まさか」

とても目の前の光景が信じられなくて、その場で呆然と立ち尽くす。これではまるで、餓死しようとしているみたいだと思ったのだ。
そんなわけがないのに。目が見えなくなったぐらいで、臨也が生きるのを諦める様な奴ではないと、俺は充分すぎるぐらい知っているというのに。
暫くどうしたらいいかわからなくて、黙っていた。わけのわからない俺の予想は外れてくれ、と心の底から願った。
| 小説 |