ウサギのバイク CAPSULE PRINCESS⑰
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2010-03-18 (Thu)
静雄×臨也 ※18禁注意

続き 楽しくてしょうがない

* * *

「あれ?シズちゃんどうしたの?最近池袋で見かけないからってわざわざ来てくれたのかな?」

扉を開けて俺の顔を見たとたんに臨也は心なしか安堵したような表情をしてため息をついた。にやけそうになる頬を必死に作りぶっきらぼうに告げた。

「……手前をぶん殴りに来たんだけどよぉ、そんな腑抜けたような面してんならいいわ。帰る」
「え?あっ、ちょ、ちょっと待って!もういいからとにかく入ってよ!!」

背中を向けたひょうしに手を引かれて強引に玄関の中に引き入れられ扉が閉まった。もちろんこれもわざとだった。こういうふうに言えば絶対に中に入れるだろうと思ったからだ。

不意に目線を合わせようとしておもいっきりそっぽを向かれてしまった。明らかに避けられている感じだった。

「なんだよ?」
「いや、あの…どうしようかな。シズちゃん相手だと都合悪いんだけど、困ってるっていうか、どうしよう……」

不機嫌を隠さずにぶっきらぼうに言ったのだが全然耳に入っていないようで、俯きながら俺に聞こえるか聞こえないかの小声でぶつぶつとなにかを呟いていた。
その様子をしばらく静かに眺めていたが、埒があかなかったのでこっちから声を掛けた。

「なんか変だぞ手前。どうした?」
「そ、そう?いや…俺はシズちゃんが心配してくれることのほうがよっぽど変に見えるけどなぁ、はは…」

自虐的な乾いた笑いはすぐに小さくなっていって沈黙が訪れた。どうしたもんかと見守っていたが、ふとポケットの中に手を入れてそこに入っているリモコンのボタンを少しだけ上に動かした。


「ひ……ッ!く……っ」


すると呼応するかのように臨也が明らかに顔色を変えながら全身をビクリと震わしその場で硬直した。なにかに耐えているようなそんな感じだった。
すぐにボタンを元に戻すとす軽く息を吐いて体の緊張を解いた。

「体調でも悪いのか?顔赤くなってるぞ」
「…ぁ…いや、そのこれは…っ…っなんでも、ないから。ほんと…えっと、とりあえず立ち話もなんだからどうぞ?」

わずかに頬が赤く染まっていたので素直に教えたのだが、それには答えないうえに一切こっちを見ようとはせずにやけにもじもじしながら部屋の奥に勝手に歩いていった。
傍目から見て完全に様子がおかしいのことはわかっているのにも関わらず、それを隠そうとしている。
こちらに背を向けた瞬間に口の端がつりあがってしまうのはしょうがないと思った。

「ん?なんだ手前は座らないのか」
「あ、あぁ俺はこのままでいいよ。そんなに長居してもらうつもりも…ないし…」

勝手に俺は来客用のソファに踏ん反り返るようにして座ったが、むこうはなぜか立ったままだったので不審に思い尋ねたがまた煮えきらないことを言う。
普段の俺だったらすでに怒鳴り散らしてソファをぶん投げているところだ。
だが今日はあえて怒らなかった。怒りを抑えているというわけではなく、その感情よりも楽しいという感情のほうが強かったからだ。

さっきから楽しくてしょうがないのだ。

「俺に言いたいことがあんなら遠慮なんてしてねぇで、はっきり言えよ。さっきから背筋が寒くてしょうがねぇ」
しゃべりながら胸のポケットから煙草を取り出して火をつけ、煙を吸いこんだ。
「ははっ、鈍感なシズちゃんに気づかれるなんて相当だねぇ。うん、まぁちょっと困っていることがあるんだけどさ簡単には人に言えなくて…その」
「……風邪引いてんだろ?薬ぐらい買ってきてやってもいいけど」

おもいっきり煙を吐き出した後に携帯灰皿に煙草を捨て、立ちあがっておもむろに臨也に近づいて強引に髪をかきあげて額に手を当てた。


「あれ、あんま熱くねぇな」

「な…ッ、なにしてんの!やめてよッ!!」


すぐに手をはたき落とされてしまい、バシッという音が静かな部屋の中に響いた。だが顔色を変えずに向こうがなにかを言うのを待った。

「勝手なことしないでよ!っていうか近づかないでよ、半径5メートル以内に寄らないで絶対。それ越えたらナイフで刺すから」

怒りの形相で俺のことを睨んでいるつもりなのだろうが、実際はいつもより怖さが半減していた。怒りと苦しさが入り混じったような微妙な表情だった。

「風邪がうつったら大変だからとか気でも使ってるつもりなのか?手前が?熱に浮かされててもそんなこと言わねぇだろ。笑っちまう」
そこで喉から低い笑い声を漏らして唇を歪めながら、言った。
「なに隠してんだ?怒らねぇから言えよ。さっきからそっちのほうが気になって腹も立たねぇんだ」
わざと含ませるようにしてゆっくりと紡ぎながら、一歩一歩と近づいていった。
「や、だよ…言えないってシズちゃんに。シズちゃんにだけは言えないんだから」

向こうも一歩ずつ後ろに下がっていったが、やがて背中に机が当たったところでやっと止まった。だが俺は止まらない。
どんどん追い詰めるように近づいていって遂に手がふれる距離までになった。

「…っ…お、ねがいだから…ほんと今見たことは忘れて帰ってよ。それでもうこれ以上俺に構わないでくれるかな」

口調は厳し目だったが未だ視線は合わせようとしない。唇を噛み締めて苦しさに耐えているような顔をしていた。
困っていることがあって俺ならそれを解決できるというのに、あくまで頼る気は無いらしい。それならそれで、俺も相応の報いを与えようとそっとポケットに手を忍ばせた。

「おい、こっち見ろって臨也」

「や、だ……っ!?…く、うぅ……ッ!!」

反対側の手で強引に顎に手を掛けてこっちを向かせた瞬間に、再びスイッチを最大まで引きあげて振動を加えた。
すると急にガクッと全身を揺らして俺の両腕にしがみつき、これまでに見たことがないぐらい焦った表情で俺をじっと見つめた後、その顔が一変した。



「……ぁ……あ、はぁ……っ……」




欲望の篭った瞳で俺を見つめながら、艶っぽい微笑と甘い声を口から漏らしたのだ。

それをしっかりと見届けてからスイッチを戻した。


「……あ……ッ、お、おれ……?」


一瞬だけ呆けたようにしていたがすぐに下を向いて俯き、自分のしてしまったことに心底後悔しているようだった。髪が顔を隠しているので表情は窺えないが、悔しさを堪えているのだろう。
どうするのだろうかと胸躍る気持ちで待っていたら、やがてゆっくりと顔をあげて感情のない目で俺に告げた。



「……おねがい……助けて?」




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