ウサギのバイク 流れる涙も 凍てついた胸も ⑫
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2010-05-17 (Mon)
静雄×臨也前提 モブ×臨也

続き シズちゃんのことが好きで、諦めきれないのだから

* * *
すべてが終わって解放されてたのは、すっかり朝日がのぼりはじめる頃だった。シズちゃんに会ったのは夜もまだ早い時間だったはずなのに。
汚れきった体は何人もの男達の手によって洗われて、その前の日に忘れていったというクリーニングされたコートを手渡され挙句ご丁寧にズボンまで用意してくれたのだ。
ただしシャツはボロボロにされていたので着ることができなくて、素肌に直接コートを羽織っている。とんでもない格好だがどうせ着込んでしまえばわからないか、と納得した。
そしてもう最後の方はすっかり言葉も発しなくなって素直になった俺に、子供のように頭を撫でたり褒めたりしながらいろいろなことをしゃべってきた。
随分口の軽い奴だと思いながら聞いていたが、内容は酷いものだった。

昼間は帰って寝て、また夜に自分から男達の部屋まで来いと言われたのだ。当然脅す材料はたっぷりあるし、誰かにしゃべろうものなら…ということだった。
鈍った頭ではすぐに対策など考えつくはずもなく、とぼとぼと重い足取りで早朝の池袋の街を歩いていた。
こんな状態では情報屋の仕事ができないのはわかっていたので、しばらくはキャンセルしようかと頭の中で巡らせていた。
それでまず今回の件がどこまで広がっているかを確かめて、動くのならそれからだと思った。いつもだったら何人もの使い捨てのような奴らにさせればいいのだが、今度ばかりはできなかった。
あくまで一人で動かなければいけないのだ。
味方なんて誰もいない状態なのに、うっかり頼んでバレたら逆にまた脅される目に合うのは当然だ。そういうものはいくら金を積んだって、無理だ。俺はただでさえ恨まれることが多いのだから。
面倒なことに何者にも知られることなく、やり遂げなければいけないことなのだ。
だから必然的に時間も掛かり、長期戦になるだろうなと考えていた。すぐに体を押してでも調べたい気分だったが、二晩連続の行為に心も体もボロボロだった。
どうせ何日か続くというのなら今日ぐらいは帰って休みたいと思ったのだ。
十人以上の男を相手にして、しかもこれから人数も増えていくというのに休息なしでというのは辛かった。これから先のことなんて考えたくもない、と思いながらぼんやりと歩いていた。
ここがまだ池袋だというのも忘れて。


「うわっ!痛ッ…」


いきなり誰かの体にぶつかってしまったようで、反動で足がよろけて後ろにみっともなく倒れて尻餅さえついてしまった。
こんな朝に大通りを歩く者などほとんどいなかったので、周りを全く警戒すらしていなかった。前すらも見れないぐらい考え事に没頭していたのかと、ふと顔をあげてそこで体が固まった。

「あ、あれ……うそっ、シズちゃん?」

そこには今一番会いたくない相手が無言で立ち尽くしていて、動揺を隠しきれなかった。
驚いたのはそれだけではなくて、いくら俺が注意散漫であったからといってもこんなに近づくまでシズちゃんの気配に気がつけなかったののだ。
いつもは出会い頭に追いかけてくるような奴だったのに、どうしてか静かに怒りを燃やしているようでありえないことだった。そういえば昨日の別れ際もありえない別れ方をしたのだが。


「こんな朝っぱらから池袋に出向いてご苦労なこったなあ?それとも昨晩は泊まったのか?」
「別、に関係ないじゃん」

とにかく今すぐにでも走って逃げたいところだったのだが、ダメージを負っている体ではできないだろうし後ろに突いた手が微かに震えていてできそうもなかった。
さっきまではまるで気にならなかったのに、コートの下に何も身につけていないのを後悔した。全身には赤い跡がいくつも残っているし、手首にだって拘束されて圧迫された傷がある。
それと、これは男達にも告げなかったことなのだが――まだじんわりと全身が熱いのだ。
些細な変化なのでシズちゃんですらわからないと思うが、とにかくなにかに感ずかれたら言い逃れできないようなことがありすぎていた。
あんなに脅されて言わないでくれと懇願したというのに、自分からバレてしまうのだけは避けたかった。
俺はまだシズちゃんのことが好きで、諦めきれないのだから。

「そりゃ詳しく聞きたくなんかねえが…なんか随分と色っぽい顔してんなあ。風邪でも引いたか?」

「な…ッ!?」

気づくはずがないと思い込んでいただけに、その問いかけにはめまいを覚えた。あまりにも的確すぎて口もうまく回らないぐらいだ。しかしなにか反論しなければいけなかった。
これ以上深入りされない為にも。

「俺が体調悪いのに気を遣ってくれてるとでも言うの?だからさっきから攻撃を仕掛けてこないとか、なんの冗談?」
「病人相手に喧嘩なんてできるわけねえだろ。いくら殺したいぐらいの手前でも、卑怯な真似使って勝ちたくねえんだよ、そっちと違って」
「いつも人が卑怯な手ばっかり使ってるみたいな言い草だね」

しかし内心ほっとしたのは事実で、どういう風の吹き回しかはわからなかったがこれ以上尋ねないでおこうと思った。気が変わられても困るし。
ほっと安堵のため息をついていると、急に近寄ってきて胸倉を掴まれて起き上がらせられた。

「ちょ、っと!」

位置的に一瞬素肌が見えそうだと思ったので、慌てて手をパシッと叩き落として払った。暫く動機も止まらなくて、苦痛の表情を浮かべてしまった。
もうここまできたら逆に怒っているのを露わにしてさっさと追い払おうと思ったのだ。
だがそんな何気ない俺の行動に、なぜか向こうは口をあんぐりと開けてバツが悪そうにおずおずと聞いてきた。


「な…ッ、なに…泣きそうな顔してんだよ…?」


「はっ?はあぁ!?だ、誰が…!っていうか俺の泣き顔なんか見たことがない癖になに言ってんのかな?勝手に頭の中で変な妄想なんてしないでくれるかなあ!?」

捲くし立てる言葉を紡ぎだして歯軋りをしながらキツく睨みつけたのだが、揺さぶることさえできなかった。全く馬鹿にするにも程があると思った。
そこで軋む体を奮い立たせてポケットからナイフを取り出そうとして、男達に奪われていたことに気がついて青ざめてしまった。

「あーもうわかったから熱があがる前にさっさと帰れ。それとも…送っていってやろうか?」
「へえ、シズちゃんもそんな嫌味が言えたんだ?大きなお世話だよ」

これ以上こんなところで話をしていても無駄だ、という素振りでシズちゃんの脇をすっと通り抜けた。その瞬間に呟かれた言葉の意味は、わかるはずもなかった。



「……ったく、なんだよ。好きだって言ったり、忘れたなんて言ってみたり、切なそうな顔してみたり、よお」



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