ウサギのバイク 流れる涙も 凍てついた胸も ⑲
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2010-05-24 (Mon)
静雄×臨也前提 四木×臨也

続き すぐに忘れさせてあげますよ

* * *


ものの数秒で纏わりついていた男達が全員どこかに連れて行かれて、部屋の中心にそのまま取り残された。助けられたんだとは思ったが、俺は苛立っていた。
このまま流されて溺れていいと、観念したばかりだったから。


「なんで、俺のこと助けたんですか?四木さん」


仰向けに床の上に転がった状態で、こっちを眺めてくる相手を鋭く睨んだ。

「助けられたくなかったっていう顔をしてますね。まぁ確かにあなたの望んだ平和島静雄が助けにきたのなら、納得したかもしれませんが。それは、残念でしたね」

わかっていた。
いつかはこうして粟楠会が動いてくれるだろうと読んでいたが、心のどこかでシズちゃんが気づいてくれないかとも思っていた。奇跡に近い淡い期待を願っていた。
けれどもやはり現実は、こうしていつも俺の思い通りになるのだ。
願いなんてあやふやなものは、叶うはずがないとわかっていた。

「逆に聞きたいのですが、どうして私達にすぐ助けを求めてこなかったのですか?あなたならこうなる前にいくらでも方法はあった筈ですよね。どんな脅しに遭ってたのですか?」

そんなことわかりきっている癖に、と内心呟きながら黙っていた。体もまだ熱いしだるくてしょうがなかったから、息を整える振りをして無視を決めこんだ。
いくら仕事で付き合いがあるからといって、答える義理なんかないのだから。それにどうやって調べたか知らないが、脅されて撮った映像か実況を見ているだろうことぐらいは予想できる。
だからさっきシズちゃんの名前を出してきたのだから。


「解毒剤、持ってますよ?」
「な…ッ?」


だが向こうの方が一枚上手だった。今のところ症状は一旦落ち着いているようだったが、快楽が強くなると幻聴が聞こえるそういう類のものなんだとは理解していた。
錠剤のようなものを目の前にチラつかせてくる所が、本当にいやらしい。昔から四木さんはこういう人だった。その度に遊ばれているのではないかと思うことも度々あったぐらいだ。

「それぐらいわかってるのに、なんでわざわざ聞いてくるんですか?俺に何を言わせたいんですか?」
「いや私は確かめたかっただけですよ。新宿の悪名高い情報屋が本当に池袋の喧嘩人形に惚れてるのか、を。個人的な興味です」

真剣な表情で、冷静に言うあたりがムカツクが唇を噛み締めただけに留めた。助けられたはいいが、一番知られてはいけない厄介な相手に知られてしまったようだ。
きっとこの人なら今回の広まった件を素早くおさめてくれるだろうし、二度と俺に手出しはしないように守ってもくれる。だが見返りにどんなことをされるかは、読めないのだ。

「あぁもう、わかりました。俺が平和島静雄に告白してるところをあいつらに見られて、それで襲われたんですよ。抵抗したら本人に強姦映像を送りつけるって言って。最低ですよね?」
「折原さんがそんなことを言うとは、おもしろい話ですね。本当に誰にも知られたくなかったみたいですが、結局はこんなことになってしまいまして」
「お気遣いなんて結構です、いいから早く解毒剤くれませんか?正直辛いんですよ」

言いながら目線を逸らした。静まりかけていた熱が、またじくじくと疼いてきたみたいだったからだ。そうなったらまたあの声が聞こえてきてしまう。それだけはもう勘弁だった。

「解毒剤をあげるのはいいですが、いくつか条件を提示してもいいですか?」
「好きにしていいですよ。俺に出来ることならなんでもしますから」

今更なにを言っているのだろうと思いながら、投げやりに言ってため息をついた。今回ばっかりは全部俺の責任だから、しょうがないかと諦めた。
散々酷い目に遭ったのだから、あれ以上のことは無いと思い込んでいたのだ。

「実は今回の件の主犯の男が金と脅した証拠の映像を持って逃げたんですよ。だから捕まえるのに協力して下さい、当然報酬はなしで」

「いいですよ…って、あいつ逃げたんですか!?あ、あの状況で?」

逃げられたにしては不自然だった。何十人も男達が居てうまく姿を眩ましたことは理解できるが、周到にここまで追い詰めていて逃がすなんて粟楠会にしてはお粗末だなと感じた。
リーダー格の男なんてまず始めに捕まえるべきところだろうに、もしかしたら意図があってわざと逃がしたかと勘ぐりたくなるぐらいだった。
だが次の一言ですべてを察することができた。



「それとあとは……そいつが捕まるまで、あなた私の愛人になってくれませんか?」



「……はぁっ!?」

それにはさすがの俺でも動揺した。聞き間違いだろうと思いたかったが、四木さんは全く顔色を変えずに淡々と述べてきた。

「要は粟楠会の為に少しの間だけ働いてくれませんか、ということですよ。実は今少々厄介な事が組みの中で起こってまして、あなたが中に入ってそれを調べて貰いたいんですよ。上の許可は取っていますから」
「そ、それならそうと言って下さいよ。愛人、だなんて…」

一瞬いやらしい妄想が浮かんだのが恥ずかしかった。言葉は悪いが完全に組の者にはならずに一時的に働いて欲しいなら、そう言えばいいのにと思った。
男の愛人だなんて冗談じゃないのだ。しかも俺がシズちゃんのことがまだ好きだと知られている相手と、だなんて。


「実はあなたが服用した薬の催淫効果はは数日しないとなかなか抜けないものなのですよ。だからこのまま野放しにしてそこら中の男を手当たり次第に誘われては困りますし、そういう意味もあるのですが……本人におしおきをしろと私も命令されてまして」

「…お、おしおき?」

その時胸がドキッと跳ねあがった。体中でくすぶっていた熱に、火がついたようにも思えた。自分でもほんのり頬が赤くなっているのが感じられるぐらいだ。
これ以上は危険だと判断し、ぐっと唇を噛んでわきあがってくる欲望を抑えようとした。


「当然のことながら私にはそんな趣味はありません。断ろうと思ったのですが、あの実況映像を見まして気が変わったんですよ。あんなに想ってるのに報われない、可哀想なあなたに興味が沸いたと言いますか」
「それは悪趣味ですね。慰めてくれるっていうことですか?」

「弱ってるところにつけこめば、飼い慣らすことぐらいできるかなという希望ですよ。正直淫らになりきった体も、味わってみたいですしね」

そこでやっと、無表情だった四木さんの口元に嫌な笑みが浮かんだ。さっきまで群がっていた男達とは違った色の、劣情が瞳に灯っていてぞっとした。
相手はたった一人なのに、百人の雑魚を相手にするよりも恐怖と、興味と、期待が心の中で揺らいだ。
ここで頷けばとんでもないことになるのは目に見えていたが、まるでここまでのすべてが用意周到にお膳立てされていたかのように、逃げ道は無かった。
いつもは自分が得意とする手だったが、他人にされるのは最悪だった。しかも駒に利用されることをわかりきっていて、従うしかないなんて俺には屈辱的だ。

「あははっ、四木さんがそこまで言うならいいですよ。おしおきでもなんでも、俺の体好きに使っていいですよ。心まではあげませんけどね」

不敵な笑みを浮かべて、強気に言い返したが正直そんなに自信はなかった。シズちゃんに振られた傷は、深く深く刺さっているのだから。
これで四木さんがテクニックもすごくて、あの手この手で責められたら陥落してしまいそうなぐらいに、一度折れかけた心は脆くなっている。さっきから心臓が早鐘を鳴っているのが証拠だ。


『平和島静雄なんて、すぐに忘れさせてあげますよ』


昂ぶった熱のせいで、また幻聴と四木さんの声が被って聞こえてきてこっそりと息をついた。



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