ウサギのバイク 流れる涙も 凍てついた胸も 29
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2010-06-03 (Thu)
静雄×臨也前提話

続き 俺はどうしようもねえぐらい、馬鹿だ

* * *

しかし抱きかかえたのはいいのだが、あまりにも恥ずかしすぎる格好だということに心底後悔した。心の中で恨み言を唱えながら、とにかく全速力で走った。
臨也からは批判の声はあがらなかったし、当然顔なんか見れるはずもなくて、なるべく何も考えないようにして新宿まで向かった。
やっとマンションまで辿り着いて部屋の前まで送ってやったところで、新羅の家にすればよかったかもしれないと思った。既に遅いのだが。
あれから変な行動や震えも体からは感じられなかったので、とりあえず大丈夫なんだと考えることにした。

「ほ…んとシズちゃんて容赦ないね」
「送ってやったのにその態度はねえだろ臨也?」

扉の前でゆっくりと降ろしてやると、開口一番に文句を言われた。しかし言葉に覇気がなかったので、やっぱりまだキツイのだろうなと察してそれ以上は突っこまなかった。

「この仮はいつか返すよ」
「じゃあ風邪が治ったら死んでくれ」
「あははっ、それ矛盾してない?人の事助けておいて死ねってそれはないよねえ。まぁ覚えてたら返すよ、じゃあね」

振り返りながらわざとらしい笑いを浮かべてそれだけ言うと、カードキーを取り出して扉を開けようとした。しかし手が途中で止まり、怪訝な表情で睨んできた。

「なに?帰らないの?」

「いや…」

俺はただぼうっと臨也の行動を眺めてただけなのだが、どうやら変だったらしい。確かにいつもだったらとっくに帰っているところだろう。
でもまだ少し煮え切らないもやもやとした気持ちが胸を占めていて、立ち尽くしてしまっていた。特に理由もなかったから曖昧に返事をしたが、最後まで立ち去るつもりはなかった。
実はさっきなんとなくよぎった嫌な予感が気になっていて、声を掛けるか掛けないべきか悩んでいたのだ。
あまり見ていても不審がられるので、そっと視線だけを外した。


「ねえ、そんなに俺の前で隙見せてたら奪っちゃうよ?」


「あぁ?…って!?」

しかし目を離した隙にタイミングよく近づいて来て、首に纏わりつかれたかと思った次の瞬間には、あたたかくて柔らかい感触が唇を襲った。
続いて口の中に舌が入り込んできて、微かに音を立てながら吸い付いて、すぐに離れていった。我に返った時にはなにもかもが終わった後だった。

(な、んだ…!?今の…今のってまさか、まさかまさか…ッ!!)

キスをされたのだと頭で理解した瞬間、湯が沸騰したかのように頬が熱くなり、恥ずかしさと同時に怒りでいっぱいになった。


「な…な、なにしやがった今、手前ッ!!」
慌てて怒鳴りながら鋭く睨みつけたが、向こうは悪戯が成功した子供のようにニヤニヤと微笑んでいた。狙ってやったのだ。しかも俺が臨也のことを殴れないと、わかっていて。
明らかにいつもの、俺のよく知る折原臨也だった。

「じゃあ、まったねー」
「待てッ、いざやああああああああぁぁぁッ!」

避けられるのはわかっていて飛び掛ったのだが、予想通り軽くかわして家の中に逃げていった。結局まんまとあいつに踊らされたのだ。
扉を閉める音がはっきりとした拒絶のようで、ひどく耳に残った。


「なんだよ本当に…ッ!絶対に明日こそは、脅してでも聞き出してやるからな!覚悟しておけ!!」


どうせ聞こえないだろうことはわかっていたが、宣言するように大声で言い放った。もう本人は目の前に居ないというのに、まだ熱が引かなくて、心臓の音が煩く鳴っていた。

この戸惑いの意味をもっと早く考えていればよかったのに、悔やんだのは数日経ってからだった。






「臨也が、なんだって?」
「あ、あのさ…落ち着いて聞いてよ静雄」
異変に気がついたのは、臨也を家まで送り届けてやった二日後だった。しかも新羅から俺の携帯に連絡があって、呼び出されたのだ。
もったいぶられるのが嫌で、玄関にあがりこんですぐに掴みかかるような勢いで問い詰めた。

「実は二日前に粟楠会の四木さんから気になる連絡があったんだ。臨也の居所を知らないかってちょっと慌てた様子で。だから気になって調べてみたんだよ、そしたら…」

そこでいったん言葉を区切って、言うか言わないか迷っているような素振りを見せてきた。おもわず殴りたい衝動に駆られたが、思いとどまった。
こいつだってどう切り出してよいか迷っているのは、苦痛の表情から窺えたのだから。


「変な噂が出回っていて、臨也が男だったら見境無く誘って食い尽くすような淫乱だっていうのと、四木さんに目を付けられて今愛人になってるっていう噂」


「……は?」


意味がすぐには察することが出来なくて、尋ね返してしまった。
あまりにも現実味の無い言葉がポンポンと出てきていて、正直どう反応していいやらわからなかったのだ。

「なんか証拠の写真とか動画とか持っている人が居たらしいんだけど、全部粟楠会に没収されたみたいで信憑性は薄いんだけど…臨也が今行方不明なのと一致してるからさ」

行方不明という単語に、頭をガツンと殴られたような気分に陥った。確かにここ二日程仕事が終わってあいつの家に通っていたのだが、会えなかった。
ご丁寧に外から丸見えの位置に部屋があったので、自宅に帰っていないことは簡単にわかっていた。でもまさか行方不明なんて。


(本当にそうだとしたら、俺は――)


ギリギリと胃が締め付けられているのではないかと思うぐらい、痛みが襲ってきた。


「ねえ静雄は臨也がなんか変なことに気がついていたかい?」
「んなこと、知ってたよ!クソッ!」


(俺はどうしようもねえぐらい、馬鹿だ)


自分自身の不甲斐なさに拳を握り締め、歯を食いしばった。頭の中には告白をされてから数日の、不審な動きをしてた姿が思い出されていた。
風邪ではなくて、あれがヤバイ薬とやらで、なんだか妙に色っぽく見えた原因は。
背筋をぞくぞくとした寒気がかけあがっていって、脂汗が浮いていた。


「あいつは俺のことが好きだって言ってきたんだぞ!男が好きなわけねえんだよ!愛人だとか、淫乱だとか全部嘘に決まってんだよ!!」


心の不安を精一杯かき消すように叫んでいた。
目の前で見たわけじゃねえのに、噂だけで認めたくないと綺麗ごとを考えながら、原因を作ったのはもしかしたら俺ではないかとも気がついていた。
気がついていて、やっぱり最後まで信じられなかった。
間違いであって欲しいと。


結局自分の気持ちの変化からも、助けられたかもしれない真実からも、まだ逃げ続けていた。



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