ウサギのバイク リセット Another ⑫
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2011-08-27 (Sat)
*拍手連載「リセット」の別EDの話 16話からの分岐です
静雄×臨也 ※18禁注意

臨也に何があったのかをすべて知り静雄が助けに行く話
※今までの雰囲気と違い18禁要素強めです
※グロくはないですが残酷描写がありますので苦手な方はご注意ください

* * *

「おい休んでんじゃねえぞ、そんなに早く殺されてえのか!」
「っ、あ、うぅ、は…はぁ、あ、うくっ、ふぁ、あんあ、ぅ」

そう言われても体はもうまともに動けないぐらい消耗していた。必死に腰を振って相手に快感を与えようとするが、うまく力が入らなくて中途半端に震えるだけだ。
首筋にはナイフが押し当てられていて、いつでも殺せると示している。すべてを放棄して殺されてもよかったけれど、それは違うと思った。
切られた箇所は首ではない、腹だ。腹から血を流して精液まみれで死んでいた。だからなんとかこの行為に耐えなければいけないと必死で。
見せられた最後の姿と同じでないと、死なないかもしれない。代わりにシズちゃんが死んでしまうかもしれないと。

「ちょっと待て、あんたに電話が掛かってるぜ」
「ん、ぅ…え……?」

その時一瞬だけ期待した。胸が高鳴って、まるでそれを待ち望んでいたかのようにうっとりと微笑みながら男に背後から覆いかぶさられたままで携帯を手に取る。そうして聞こえてきたのは。

『臨也』

「っ、おまえ、九十九屋だろ!!」
『なに言ってんだ?なあ俺、手前に聞きてえことがあったんだ』

すぐにわかった。声は完全にシズちゃんのものを真似ているけれど、微妙な言い方が違うから。それはあまりに些細で、他人が真似しようともできるものではない。
よく考えたら、こんな時に掛かってくるわけがないのだ。完璧に眠らせているのだから。
わざと声を使って、どんなことを最後に俺に聞いてくるのかと身構えた。そうして、言い放たれた言葉は。

『どんな方法で、殺されてえんだ臨也』

「……ッ!?」

『愛してるぜ臨也、だから殺してやるよ』

頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けて、今までで一番胸が痛んだ。これは違う、本人ではないと数秒前にわかったというのに声の威力はすごいのだと改めて気づく。
まるで本人に言われたみたいに、ズタズタに心が引き裂かれた。実際にさっきからコートをナイフでわざと切り裂かれたり、刃物を向けられたりしたけれどそんな生ぬるいものとは違う。
苦しくて、辛くて、だから正直に告げていた。

「ねえシズちゃん…腹を刺してよ。それで全部、苦しいのとか何もかも、忘れさせて、っ、く」

こっちは真剣に話をしているというのに、後ろの男が肉棒を激しく叩きつけてきて喘ぎ声が漏れそうになる。でもそれで通話は終わりだと言いたげに、携帯が取り上げられた。
するとすかさず律動が強くなってきて、甲高い喘ぎ声が倉庫内に響き渡る。それを聞きながら、こいつが最後だと思った。

「ひっ、あ、ぁあ、うぅ…ふぁ、あ、きもちいい、っ、あんぁ、あ、そこ、イイっ、もっと、まだ!」
「残念だったな、もう終わりだ。もう少し楽しみたかったが、上から言われたらしょうがねえ」
「うっ、ふひゃ、ぁ、うぅ、く…まら、ほしいっ、なか、だして、いっぱいおかして、いいからっ、もうすこし」

気づいた時にはさっきまで思っていたことと全く違うことを口走っていた。惨めったらしく縋りながら、まだ入れて欲しいセックスがしたいと叫ぶ。でもそれはただの時間稼ぎに過ぎない。
あと少し、もう少しだけ待てば、もしかしたらシズちゃんが来てくれるかもしれないという希望で。
どうしてそんなことを考えてしまったのか自分でもわからない。死ぬ寸前になって何を言っているのかと動揺しながら、本当に死んでしまうと悟った時に望んだのは。


「…す、けて…おね、が…っ」


堪えていた涙がぼろりとこぼれ、そうして誰にも聞こえない声で本心を告げた。でもそれと同時に勢いよく白濁液を吐き出されて、全身が震える。

「んああぁ、あ、やだ、いやぁ、あ、ふぁ、あ、うぅ…や、め…っ!?」

滅茶苦茶に叫んだところで、聞いてくれる者なんていなかった。そのまま体が足から崩れて、全身が仰向けに転がる。肩で息をしながら薄目を開けると、黒い影が目の前に落ちていて。

『愛してるぜ臨也、だから殺してやるよ』

その瞬間、さっきの偽者の言葉が頭をよぎって息が止まる。
どうせ手に入らないのなら、平凡な人生を送るぐらいなら願いを叶えて死んだ方がいいと決断したことをようやく後悔した。でも手に入らないものを傍から見続けるのも辛いのは知っていて。
もう、よくわからなくなった。

「っ、あ、あああああ!!」

振りあげられたナイフが刺さる所を目の前で見て、叫ばないわけがない。いやもしくは、この期に及んでまだシズちゃんに見つけて欲しいと訴えているのだろうか。
あまりの痛みに顔を顰めながらそこに手を伸ばすと、手のひらに真っ赤な血がべっとりとついた。同時にぽっかり空いた穴からは、どくどくと白濁液が広がり赤と混じっていく。

「今まで楽しかったぜ、折原臨也」
「あ、っ…く…」

誰かの声が聞こえたが、涙で滲んでいて姿が見えなかった。さっきまでとは違う荒い呼吸を繰り返していると、周りの気配が消えていく。そうして完全に一人になった時には、全身から力が抜けていた。
これでやっと、終わるという達成感なんてどこにもなかった。きっと最後は絶対にそう思うだろうと予想していたのに。

「シズ…ちゃ、ご、ほっ、が…!」

真っ先に考えたのは、当然シズちゃんのことだ。いやもうずっと、シズちゃんのことしか考えていない。バカみたいにずっと昔から、頭の中はいっぱいだった。
でも多分もうシズちゃんが死ぬことはないんだと、もし死んだとしてもそれを見ることはないんだと。
二人で一緒に過ごしたあの部屋で、ソファで、誰か違う人間と過ごしたとしても。

「…は、っ…は…」

なんで、と口にしたつもりだったけれど声はもう出なかった。さっきから目も霞んでいるのか、涙が邪魔なのか、わからなかったので潔く瞼を閉じる。すると鮮明にシズちゃんの姿が浮かんだ。
それはよく目にした喧嘩の最中の激怒している表情ではなく、寄り添ってテレビを見た時の穏やかなものだった。何気ないことだったけれど、俺はそれで充分だったのかもしれないと思う。
好きだなんて言葉はいらなかった。ずっと傍に居て毎日を過ごすことができてそれで満足で。でもじゃあ本当に幸せだったのかと考えるとそれも違う。

「ふぅ…っ、く…」

だけど一番初めに告白した時に想像したことが何だったのか、もう思い出せなくなっていた。もし最初から恋人同士になれていたら、どうしたかったのだろう。
でもこんな中途半端なことを望んだのでは決してなかった。手を伸ばせば握り返してくれるギリギリの距離まで迫っていたのに、自分からその手を突き放して一人になって。
あの手を取ったとしても何もならなかったのに、だったら尚更掴んでいればよかったのだろうか。数時間の幸せでも、掴めばよかったのだろうか。

「…は…」

わからない、どうせ最初からなにもわからないのだ。まともな恋もしたことがなければ、友達だっていなかったから。
頼って話を聞いて貰うとか、助けて欲しいと訴えるとかそんな考えは昔からない。シズちゃんに会ってからは、彼が見れるならそれだけでいいと思って諦めてきたのだ。
本当は、いつだって努力すれば手に入れることができたかもしれないのに。死ななければ、叶わないと思い続けてしまって、バカだなとようやく気づいた。

(シズちゃん、シズちゃん、好き、好き、大好き…助けて、怖い、辛い、死にたくない、忘れないで)

意識が沈んでいき眠くなってきたので、もう終わりかと悟る。だから必死に頭の中にシズちゃんの姿を思い浮かべるのに、最後の最後で少しだけそれまでと変わった。
俺の知らない相手と、楽しそうにあのソファで談笑する姿で、ドキンと胸が高鳴る。一番恐れていたことを、こんな時に考えてしまったのだ。

(いやだ、いやだ、いやだいやだ、それはおれのだとらないで、おれのしずちゃん、しずちゃんなんで、まって)

無意識に手を伸ばそうとするのに届かないどころか、ぴくりとも反応しない。声も出なくて、ひゅーひゅーと掠れた息のようなただの音しか出すことができない。心の中では懸命に叫んでいるのに。
急激に全身が寒くなってきて、どうしてこんな暗いところで一人で居るのかわからなくなる。すべての記憶が抜け落ちていって、ただポロポロと熱い雫だけがこぼれていく。
なんでシズちゃんがこっちを振り向いてくれないのかも、忘れて。

(しずちゃん、すき、すきだから、こっちみて、そばにきて、だきしめて、はやく、はやく、もうだめだから、ねえ)

訴えても金髪の男はこっちを見ようともしない。それどころか目の前の黒い影に手を伸ばして抱きしめて、俺の欲しいものをそいつがすべて奪っていくように見えた。
そんなの許さないと怒る気持ちよりも、取り残されて動けなくなっている自分が惨めに思えて刺された傷口の痛みよりも胸が痛む。

シズちゃんが好きすぎて、殺されてしまうと思った。

(なんで、おれはしぬの?)

その時、唯一五感の中で生きていたらしい耳が何かの音を拾った気がしたが瞳も開けないし声も出ないのでそれが何かわからなかった。混濁した記憶が、バラバラに感情を伝えてくる。

(おれのこと、わすれる?どうして、わすれないでよこんなにすきなのに)
(すき…すき…しずちゃ…)
(もどり、たい)
(おれ…わすれ、ないで)

誰にも聞かれることのなかった言葉は、闇に消えていった。

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