2010-05-09 (Sun)
四木×臨也 ※18禁注意
高校生臨也が四木さんに捕まる話
(シティ発行の無配本の過去話ですが単体で読めます)
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「あんた、誰?」
「こんな生意気なガキが相手とは……粟楠会ってのは聞いたことねぇか?」
精一杯の虚勢を張って尋ねたが、さっきから全身がだるい上に手には手枷のようなものがはめられていて動くことすらままならなかった。
しかも相手は強面のヤクザの風貌をしていて、聞かなくても素性はなんとなく察することが出来たが、組の名前を聞いてわずかに肩がぴくりと震えた。
噂は聞いていたが、まさかこうして直接会ってくる――というか捕まえられるとは思ってもいなかった。そんなに派手なことをしたつもりはなかったのだが。
「度々お前の名前ぐらいはこれまであがってきたが、いつもギリギリのところで越えてねえし泳がせてきたんだが今回のは見逃せないな」
「今回のって……あぁもしかしてシズちゃんにけしかけたチンピラのこと?」
「詳しく言えばそいつ自体は俺らの組に関わっちゃいねえんだが、幹部の息子でな。まぁその幹部ってのもすぐにいなくなるような老いぼれなんだが、少し時期が早かったな」
目の前の男は遠慮も無くペラペラと事情を話してきたが、あまり嫌味な感じはしなかった。逆にそこが怖いと感じた。
相手が大人であれば大抵が俺のことをガキだと扱い、油断や隙が生まれやすくそれを利用して逃げることが出来たのだが、そういうのが一切無い。薄ら寒さに思わず身を固くした。
「確かにそこまで調べられなかった俺の落ち度かもしれない」
「まぁ正直子供の喧嘩に大人が出てくるってのはやりすぎだと俺も思うんだがな、今のうちに釘を指しておいてもいいのかもな」
随分な言われ様だなと内心毒づいたが口には出さなかった。代わりに想像できた、相手の名前を呼んだ。
「将来あなたが幹部になった時の為…ですか?四木さん」
「俺のことを知ってるとは、なかなかやるじゃねえか」
少し言葉を交わしただけで名前を言い当てたというのに、少しも動揺していなかった。噂通りの相手だな、と背中を冷や汗が流れ落ちていくのを感じた。
”粟楠会の四木”という名は池袋で最近話題になっていることの一つでもあった。
年齢はまだ若いというのに相当の手だれでどんどんとのし上がっていき、幹部に昇格するのは時間の問題だなどとまことしやかに囁かれているのだ。知らないわけがない。
元々粟楠会なんてそんなに名の知れた組織ではなかったのだが、彼のおかげで最近は随分と知名度があがっているのは事実なのだ。
「いずれは手を回してお近づきになっておきたいなと思っていたところなんですよ」
「調子のいいこと言うな」
わざとらしく敬語に言い換えて話しかければ、心底嫌そうな表情をされた。こっちは本心で言ったというのに失礼だった。
「まぁこっちもいろいろと調べさせて貰ったが……本当になんていうか、平和島静雄しか見えてねえんだなお前は」
「そう、ですね。毎日彼のことばかりで頭がいっぱいなんですよ」
今更改まってなにを言ってくるのかと思ったら、シズちゃんのことで拍子抜けした。あの怪力と暴力を知っていればヤクザに目をつけられるのは当然なのだが。
「若気の至り、だとしてもそりゃ危ないっていうか、勿体ないと思ってなあ」
「はぁ…?」
なにを言っているのか急に理解が及ばなくなってしまった。やけに大人ぶって話の本筋をぼかす話し方は、俺は好きではない。眉を顰めて睨んだが、意味は無かった。
「だからまぁ、他に気を逸らしてやるよ。これ以上まともにやりあう事もなくなるだろうし、その方がガキにはちょうどいいんだよ」
「俺ガキだからよくわからないんですよ、もっとわかるように…」
苛立ちを隠さずにそのままぶつけようとしたところで、急に両肩を掴まれてそのまま後ろの壁に押さえつけられた。
どこかの小汚い部屋の一室に閉じ込められているようだったが、机と椅子があるだけの殺風景な部屋で窓さえもなかったが、それがどうしてかなんとなくわかった気がした。
「ぐっ…ッ…!」
「お前には悪いが、こういうのは最初が肝心なんだ。いかに精神的ショックを与えるか、がな。もう少し大人になるまで面倒ぐらいなら見てやってもいいしな」
嫌な予感がして手を振り回して暴れようとした時には、鼻から口にかけて布のようなものがしっかりと押さえつけられていた。
あまりの素早い動きに抗うことなどできずに、しっかりとそこに染みこまされていた薬品の臭いを嗅いでいた。
数秒目を見開いたまま息を止めることも出来ずにいて、それを四木さんがしっかりと眺めていた。瞳には哀れみのようなものが浮かんでいて、余計に苛立たせた。
「ふっ、うぅ…ッ、クソッ!!」
やがて必死に振りほどいた頃には、すっかり目の焦点は合わなくなっていた。そのままずるずると後ろにもたれて、荒れてきた吐息を整えるのに精一杯だった。
すぐに予想通りに視界が霞み、全身が燃えるように熱くほてってきたので、ギリッと音を立てて唇を噛んだ。悔しくてしかたがなかった。
「恨んでも、妬んでも構わない。お前が自分の駒を手に入れようと奔走するのと俺も同じだ。それぐらいならわかるだろう?」
「最…悪だ」
ほとんど回らなかった頭で、腕を買われているのだと理解した。まだ俺はただの学生だというのに見抜かれるとは、四木も相当の実力の持ち主なんだと思った。
子供なんかに何ができるのかと笑う年寄り連中を尻目に、俺みたいなのを手に入れては自分の利益の為に使うのだ。
「でも、わからなくも…ないな」
しかし俺とこの人の違いがあるとしたら、それは非常になりきれないところなんだと確信した。張本人にすべてを話しているのだから、まだ甘い。本質は優しい人なのかもしれないとさえ思った。
(俺だったもっと徹底的に…自分に従わせるようにするんだけどなあ。使いこなせないのをわかっていて中途半端に手に入れるなんて、寝首をかけと言ってるようなものじゃないか)
内側から沸き起こってくる熱い衝動を必死に抑えようと、別のことを考え続けていた。
(あんたと俺は……違う)
向こうは一歩も動かずに、ただ静かに俺の方だけを眺めていた。
それに口を歪めて笑い声をあげて返すと、そこでやっと眉をぴくりと動かして反応を示した。
「ははっ、あー…ほんとうにこれから楽しくなりそうですね。ちゃんと俺のこと相手にしてくださいよ、四木さん?」
「これだから、ガキは嫌いなんだ…」
「奇遇ですね、俺も大人は大嫌いなんですよ。一生大人になんてなってやりません、から」
完全に負け惜しみだったが、言わずにはいられなかった。
変に麻痺をしはじめた手首を体の後ろに隠して、余裕の笑みを浮かべられていたのもそこまでだった。
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高校生臨也が四木さんに捕まる話
(シティ発行の無配本の過去話ですが単体で読めます)
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「あんた、誰?」
「こんな生意気なガキが相手とは……粟楠会ってのは聞いたことねぇか?」
精一杯の虚勢を張って尋ねたが、さっきから全身がだるい上に手には手枷のようなものがはめられていて動くことすらままならなかった。
しかも相手は強面のヤクザの風貌をしていて、聞かなくても素性はなんとなく察することが出来たが、組の名前を聞いてわずかに肩がぴくりと震えた。
噂は聞いていたが、まさかこうして直接会ってくる――というか捕まえられるとは思ってもいなかった。そんなに派手なことをしたつもりはなかったのだが。
「度々お前の名前ぐらいはこれまであがってきたが、いつもギリギリのところで越えてねえし泳がせてきたんだが今回のは見逃せないな」
「今回のって……あぁもしかしてシズちゃんにけしかけたチンピラのこと?」
「詳しく言えばそいつ自体は俺らの組に関わっちゃいねえんだが、幹部の息子でな。まぁその幹部ってのもすぐにいなくなるような老いぼれなんだが、少し時期が早かったな」
目の前の男は遠慮も無くペラペラと事情を話してきたが、あまり嫌味な感じはしなかった。逆にそこが怖いと感じた。
相手が大人であれば大抵が俺のことをガキだと扱い、油断や隙が生まれやすくそれを利用して逃げることが出来たのだが、そういうのが一切無い。薄ら寒さに思わず身を固くした。
「確かにそこまで調べられなかった俺の落ち度かもしれない」
「まぁ正直子供の喧嘩に大人が出てくるってのはやりすぎだと俺も思うんだがな、今のうちに釘を指しておいてもいいのかもな」
随分な言われ様だなと内心毒づいたが口には出さなかった。代わりに想像できた、相手の名前を呼んだ。
「将来あなたが幹部になった時の為…ですか?四木さん」
「俺のことを知ってるとは、なかなかやるじゃねえか」
少し言葉を交わしただけで名前を言い当てたというのに、少しも動揺していなかった。噂通りの相手だな、と背中を冷や汗が流れ落ちていくのを感じた。
”粟楠会の四木”という名は池袋で最近話題になっていることの一つでもあった。
年齢はまだ若いというのに相当の手だれでどんどんとのし上がっていき、幹部に昇格するのは時間の問題だなどとまことしやかに囁かれているのだ。知らないわけがない。
元々粟楠会なんてそんなに名の知れた組織ではなかったのだが、彼のおかげで最近は随分と知名度があがっているのは事実なのだ。
「いずれは手を回してお近づきになっておきたいなと思っていたところなんですよ」
「調子のいいこと言うな」
わざとらしく敬語に言い換えて話しかければ、心底嫌そうな表情をされた。こっちは本心で言ったというのに失礼だった。
「まぁこっちもいろいろと調べさせて貰ったが……本当になんていうか、平和島静雄しか見えてねえんだなお前は」
「そう、ですね。毎日彼のことばかりで頭がいっぱいなんですよ」
今更改まってなにを言ってくるのかと思ったら、シズちゃんのことで拍子抜けした。あの怪力と暴力を知っていればヤクザに目をつけられるのは当然なのだが。
「若気の至り、だとしてもそりゃ危ないっていうか、勿体ないと思ってなあ」
「はぁ…?」
なにを言っているのか急に理解が及ばなくなってしまった。やけに大人ぶって話の本筋をぼかす話し方は、俺は好きではない。眉を顰めて睨んだが、意味は無かった。
「だからまぁ、他に気を逸らしてやるよ。これ以上まともにやりあう事もなくなるだろうし、その方がガキにはちょうどいいんだよ」
「俺ガキだからよくわからないんですよ、もっとわかるように…」
苛立ちを隠さずにそのままぶつけようとしたところで、急に両肩を掴まれてそのまま後ろの壁に押さえつけられた。
どこかの小汚い部屋の一室に閉じ込められているようだったが、机と椅子があるだけの殺風景な部屋で窓さえもなかったが、それがどうしてかなんとなくわかった気がした。
「ぐっ…ッ…!」
「お前には悪いが、こういうのは最初が肝心なんだ。いかに精神的ショックを与えるか、がな。もう少し大人になるまで面倒ぐらいなら見てやってもいいしな」
嫌な予感がして手を振り回して暴れようとした時には、鼻から口にかけて布のようなものがしっかりと押さえつけられていた。
あまりの素早い動きに抗うことなどできずに、しっかりとそこに染みこまされていた薬品の臭いを嗅いでいた。
数秒目を見開いたまま息を止めることも出来ずにいて、それを四木さんがしっかりと眺めていた。瞳には哀れみのようなものが浮かんでいて、余計に苛立たせた。
「ふっ、うぅ…ッ、クソッ!!」
やがて必死に振りほどいた頃には、すっかり目の焦点は合わなくなっていた。そのままずるずると後ろにもたれて、荒れてきた吐息を整えるのに精一杯だった。
すぐに予想通りに視界が霞み、全身が燃えるように熱くほてってきたので、ギリッと音を立てて唇を噛んだ。悔しくてしかたがなかった。
「恨んでも、妬んでも構わない。お前が自分の駒を手に入れようと奔走するのと俺も同じだ。それぐらいならわかるだろう?」
「最…悪だ」
ほとんど回らなかった頭で、腕を買われているのだと理解した。まだ俺はただの学生だというのに見抜かれるとは、四木も相当の実力の持ち主なんだと思った。
子供なんかに何ができるのかと笑う年寄り連中を尻目に、俺みたいなのを手に入れては自分の利益の為に使うのだ。
「でも、わからなくも…ないな」
しかし俺とこの人の違いがあるとしたら、それは非常になりきれないところなんだと確信した。張本人にすべてを話しているのだから、まだ甘い。本質は優しい人なのかもしれないとさえ思った。
(俺だったもっと徹底的に…自分に従わせるようにするんだけどなあ。使いこなせないのをわかっていて中途半端に手に入れるなんて、寝首をかけと言ってるようなものじゃないか)
内側から沸き起こってくる熱い衝動を必死に抑えようと、別のことを考え続けていた。
(あんたと俺は……違う)
向こうは一歩も動かずに、ただ静かに俺の方だけを眺めていた。
それに口を歪めて笑い声をあげて返すと、そこでやっと眉をぴくりと動かして反応を示した。
「ははっ、あー…ほんとうにこれから楽しくなりそうですね。ちゃんと俺のこと相手にしてくださいよ、四木さん?」
「これだから、ガキは嫌いなんだ…」
「奇遇ですね、俺も大人は大嫌いなんですよ。一生大人になんてなってやりません、から」
完全に負け惜しみだったが、言わずにはいられなかった。
変に麻痺をしはじめた手首を体の後ろに隠して、余裕の笑みを浮かべられていたのもそこまでだった。
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